遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
この一年が、皆さまにとって素晴らしい一年になりますように。
「……………」
「……………」
どうにかなってしまいたいと心の底で思ったのはこれが初めてかもしれない。ありのまま今起こったことを話すぜと言わんばかりにどうにかなってしまってる気がする。
考えてもみろ。予想できるか?こんな店で絵里と遭遇するなんて。更に同じ商品を買おうとしてるんだぜ?偶然通り越して奇跡だ。
このまま固まってても埒が明かない。さっさと買ってトンズラしよう。
「よっと」
「ちょっと、それ私が買おうとしていたのだけれど」
「知るかよ。俺が先だ」
「私が先に触れていたわね」
「俺の方が先に見つけてたな」
「私の方が先にこの店に来ていたわ」
「俺の方が先にここにいたな」
「レディーファーストって知っているかしら?」
「早い者勝ちって知ってるか?」
「「……………」」
(この女…どこまで頑固なんだよ)
(この男…どこまで強情なのよ)
「「俺(私)が先だ(よ)!」」
「ぐ……」
「くっ……」
「「お前(貴方)が後だ(よ)!!」
「ぬぐぐぐ…」
「うぅぅぅ…」
「あ、あのお客様…こちらの手袋在庫がございますが……」
「「ありがとうございます!!」」
「な、仲がよろしいカップルですね…」
「「カップルじゃない!!」」
「も、申し訳ありませんっ!」
店員に迷惑を掛けてしまった。
***
「なんなんだ全く…」
あぁイライラする。いくらなんでも大人げないかもしれないが俺にだって譲れない部分はある。けどあいつの頑固さも全然変わってない。ちょっとは譲るってことを知らないのか…。
「はぁ…気晴らしに漫画でも買うか」
エスカレーターで上の階の向かって本屋に足を踏み入れると。
「あっ…」
「は?」
漫画コーナーにて絵里と遭遇。
・
・
・
「くそっ…どうなってんだ」
抹茶ラテを購入しようとス〇バに行くと。
「はぁ!?」
「はっ!?」
入口でばったり絵里と遭遇。
・
・
・
「くそがっ!!」
トイレを済ませて出ようとすると。
「………」
「………」
出口でばったり☆
・
・
・
「なんなんだよお前はさっきから!俺への嫌がらせか知らねえが鬱陶しいんだよ!!」
「それはこっちのセリフよ!まだ私へのちょっかいなのか知らないけどいい加減にしなさいよ!!」
「いい加減にするのはてめえだ!行く先々で先回りしやがって!」
「貴方こそ私の後をつけてるんじゃないの!?行きたいところ好きなように回れなかったのよ!!」
「はっ!ガキみたいな思考だな!もうちょっと賢く動くことはできなかったのかよ!」
「貴方こそ子供みたいに付いてきて!しかも抹茶ラテだの漫画だの、まだまだ少年の心ってやつが抜けてないんじゃないの!?」
「お前こそキャラメルかチョコレートか知らねえが甘いものばっかりでよ!もうちょっとマシなものを飲む気はなかったのかよ!」
「疲れには甘いものがいいのよ!貴方みたいな脳みそ筋肉にはわからないわよ!」
「変なプライド持ってるパツ金女と一緒にしてほしくないな!」
「文句あるかしら!?」
「それはてめえだろうが!!」
ガルルルとお互い唸りながら睨みつけるその姿はどう見ても子供の喧嘩にしか見えない。
お互いどこに行こうが遭遇してしまいそうなので、遭遇する前に自分の言いたいことをぶちまける為、ショッピングモールの外で言葉のキャッチボール(建前)を繰り返す。
周りからすればバカップルの喧嘩にしか見えたり見えなかったり。
「はぁ…せっかくの買い物が台無しだ」
「それはこっちのセリフよ。ゆっくり見たいと思っていたのに…」
「俺の大事な時間がこんな奴によって消えたのか」
「私の大切な時間がこんな男のせいで消えたなんて」
「あ?」
「はぁ?」
(ったく……本当にこいつは………あん?)
泣き声…?
耳に入ってきた情報を頼りにきょろきょろしていると。
「あ…」
いた。
「大体、貴方は学校でもそうよ。いつも授業はサボるし問題しか起こさないし、先生からよく怒られるし、もう少し節度ある生活を心がけようとする気はないのかしら。まあ、もう手遅れでしょうけど。けど、その生活で私や他の人に迷惑をかけるなんてもってのほかよ。もう卒業するんだから気をしっかり……ってあれ?」
顔を上げると、そこに当の本人は居なかった。
「え、どこ……あっ…」
ショッピングモールの近くにあるベンチの近くでしゃがみこんでいた。
「人の話を無視してるんじゃないわよ!!」
これは文句を言っても良いだろう。そう意気込み彼に近づく。
「ちょっと人の話を……って、え?」
「どうだ?もう大丈夫だろ?」
「う…うん…ありがとう…おにいちゃん」
「おう。気にすんな」
(あ……)
彼のすぐ傍に、幼稚園生ほどの女の子が膝を擦りむいており、その傷口に彼はポケットティッシュで綺麗に拭き取って絆創膏を張ってくれている。私との討論の間に彼はこちらを優先したのか。
(和平……)
「あ?なんだお前。ついてくんなよ」
「別に貴方には関係ないでしょ」
「へいへい…」
「おにいちゃんとおねえちゃんはなかよしだね」
「「全然?」」
「こえぴったり」
「「はぁ……」」
「所で嬢ちゃん。お母さんかお父さんは?」
「一緒じゃないの?」
「うっ……うぅぅぅ………」
「あー…わ、悪い。一人だって状態で気づけばよかったな。ごめんな。」
「見たらわかるでしょ馬鹿ね」
「ちょっと黙っとけ」
「ふんっ」
「じゃあ、どこで逸れたかわかるか?」
「ううん……わからない」
「そっか。よく一人で頑張ったな」
頭を優しくなでると少し落ち着いたのか少女の顔に笑顔が戻る。
「じゃあにいちゃんと一緒に探すか」
「え?」
「お母さんおれと探そうぜ。手伝ってやるよこの金髪ねえちゃんと」
「え?」
「い、いいの…?」
「おう。任せろ」
「ちょっと待ちなさいよ。私は別に……」
「いいじゃねえかここまで来たなら付き合え」
「は、はぁ……」
「ありがとう。おにいちゃん、おねえちゃん…。わたし…はるっていうの」
「俺は和平だ」
「私は絵里よ」
***
迷子の子供の親を探すのはそうそう難しい話じゃない。見覚えのある店を回って、無い店は後回し、見覚えのある店の中で捜索した後、いなかったら別の店に行く。この流れを一通りしたら流石に見つかるだろう。最悪無理だったら迷子センターにいけばいいんじゃないかな。すぐにそこに行けば早いだろうが何しろこのショッピングモールでかいのなんの。迷子センターに行くより多分探した方が早い。幼稚園児の歩ける距離なんてたかが知れてる。迷子になった場所はそう遠くないはず。多分…。
因みに幼稚園児は俺に肩車状態。なんだかこれが好きなんだと。
「居ないわね」
「すぐ見つかれば苦労はしねえからな」
「はるちゃん。どう?」
「んーん…いない」
「ま、千里の道も一歩よりって言うしな。気長に行くか」
「気長だと日が暮れそうね」
「そうだな」
この店で三件目。もしかしたら行き違いなのかもしれないな。
「音ノ木坂一不良の男が迷子のお世話」
「なんだよ文句あるのか」
「さあ、どうかしらね」
「言いふらしたいなら好きにしろ。どうせ誰も気にしない」
「デマになるから?」
「誰も信じないから」
「よっぽど人間が大嫌いなようね」
「嫌われてるからな」
「人間が嫌いなのに、迷子は助けるの?」
「いけないことか?」
「いけなくはないけど、貴方にメリットはあるのかしら」
「メリットどうこうで人を助けちゃいけないのか?」
「っ…」
「別に恩義や見返りが欲しいわけでもない。ボランティアでもない。もしかしたら余計なお世話だって言ってくる奴もいるかもしれない。いらぬ心配だって逆ギレする人間もいるかもしれない。けどさ、しないよりやった方が良いって俺は思う」
「それはどうして?」
「助けられる人間が目の前にいるのに、それを見て見ぬふりして見過ごすほど、俺は冷たい人間にはなりたくねえ」
(それって……)
「さっき言った通り、余計なお世話だっていう人間もいる。けど、それを聞いて次に似たような人間を見つけたとき、その人が本当に助けを求めている人だったらどうする?」
「あ……」
「間違っていても、しないより百倍マシだ」
「……考えているのね」
「人一倍、人間に詳しい自信はある」
(だから………かしらね)
「なんだよ。聞いてきたくせにだんまりかよ」
「なんでもないわよ」
「なんだそりゃ…」
「あ!おかあさん!」
「はる!!」
視線を声のした方に移すと、そこには額に汗を浮かばせている女性がこっちに向かって走ってきていた。
「ほら、いきな」
「こけちゃだめよ」
「うん!ありがとう!」
幼稚園児を肩から降ろして母親の方へ催促する。
幼稚園児が傍に来ると母親は優しく娘を抱きしめた。
「もう、心配したじゃない……よかった」
「うん…やさしいおにいちゃんとおねえちゃんがいっしょにいてくれたから」
「そう、それはお礼を……っ!」
母親が俺の顔を見た瞬間、表情が激変した。
「そう……」
娘の手を握ってこちらに近づいて一言。
「娘をありがとうございます。
「………」
「え?」
「娘を連れてきてくれた上に、膝の絆創膏まで」
「あ、いやそれは……」
「ありがとうございました。これにて失礼いたします」
「ち、違いますこれは…」
そう言い残すと、母親は【絵里】だけに頭を下げてその場を後にした。
「ばいばーい!かずひらおにいちゃん!えりおねえちゃん!」
「こらっ!おねえさんだけでいいのよ!」
「え…だって…」
「早くいくわよ」
「あっ…おかあさんいたいよぉ!」
「…………」
(……和平…)
***
「さて、俺も帰るとしますか。買うものは買ったし」
身支度を整えて帰ろうとする。
その時。
「待ちなさい」
「んだよ」
「何にも思わないわけ?」
「はぁ?」
「さっきの、どう見てもワザと貴方を避けていたのよ!どうとも思わないわけ!?」
「思った方がいいのか?」
「当り前よ!!あんなの……信じられないわよ!!」
別に今となって始まったことじゃない。あの母親は俺が九条和平だってことを知ってしたことだろう。【人殺し】である俺の手が自分の愛娘の手を握って、挙句の果てには肩車してるんだ。気持ち悪いと思うのは普通だ。
今更どうとも思わない。現にあれが初めてではないのだから。指でなんて足りない。
「
「っ……」
「けど一つ思ったのはあの母親,自分の娘に当たるなよとは思ったわ。どっちかと言うと娘をちゃんと見てない監督不行き届きが原因だろうが」
「それが…貴方なのね」
「何言ってんだよ今更」
「何も……変わってない…」ボソッ
「あ?なんつった?」
「知らないわよ。じゃあさよなら」
「言いたいことだけ言って帰んのかよ。はぁ……あばよ」
・
・
・
「…………」
私があの立場だったらどう思っているのだろうか。虚しくなったり悲しくなったりするのだろうか。
彼は…今の和平はそんな事どうも思っていない。いや、思う感情すらないのかもしれない。
嫌われ蔑まれ、挙句の果てにはお礼すら言ってもらえない。
悲しくないわけ…ない…。
自分の存在をここまで否定されて、和平は何も思わないのか……。
「変わってない…」
人を助ける事も、昔から変わらない。和平は誰でも助ける優しい男の子だ。
「和平……」
私に対する接し方をするのが、優しく人を助けるのが…。
どちらが本当の彼なのだろうか。
「貴方は……どっちなの」
絵里にその答えはわからなかった。