最低で最高の   作:優しい傭兵

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寒い…おしるこ飲みたい…。


雪の女神と偽善の悪者

 

「……さっむ」

 

ショベルを雪に突き刺して大きく息を吐いた。

 

 

 

俺は雪がそこまで好きではない。てか嫌いだ。別に雪が俺に何かしてきたとかそうではないが、俺は雪が嫌いだ。理由は、俺の両親が死んだのも冬の時期で更に雪の降っている季節だった。白の世界、両親の横たわる体、赤くリビングを染める鮮血、歪んでいた自分の顔。赤色に白色がマッチしすぎていて頭に深く刻み込まれている。今の精神状態だとどうってことは無いが、現在に至るまでの3年間、冬の時期になると情緒が不安定になったりする。急に涙が流れてきたり、あの時から溜まっていた何かが爆発して物に当たったりする。正しく奇行だな。

成長するにつれて俺は体も心も強くなっていると勘違いをしていたのかもしれない。人の心なんてとても脆いものだ。きっかけやスイッチが違えどすぐにぶっ壊れてガラガラと崩れ去る。無様な程にな。心を強くとかポジティブにとか、俺にしちゃ気休めに過ぎない。自分だってどうしたらいいのかわからなくなる。この胸の痛みはどうやったら消えるのか。この自分の中で蠢いているものはどうしたら潰せるのか。言葉にしたいがそれすらできなくなるくらいのナニか(・・・)。あの時の俺はどうしたらいいのか考える余地もなかった。

だけど、この時期になってどうもなってないのは俺の心がある意味で成長したのか、将又修復できない所まで壊れているかのどちらかだ。後者に一票。

両親の死は勿論だが、ほかにも理由がある。

 

あれはいつ頃だったけな…。

確か中学1年生でのスキー実習だったかな。よく覚えてないけど、絵里がスキー実習中に行方不明になっちまったんだよな。俺とくだらない喧嘩しちまって。

探すのも一苦労したぜ。猛吹雪の中体力の限界が来るまで走り回って、見つけたと思ったら怪我してるし。そんでもって喧嘩したことでグダグダと文句は言うし。

けど、絵里が大変な目に遭ってなくて本当に良かった。骨とか折れてたら罪悪感半端じゃなかっただろうし。喧嘩したのも後々考えたら馬鹿馬鹿しかったし。

 

 

冬の季節は碌な事がねえんだよ。

 

 

 

 

スキー実習ねぇ…。まーたあんな雪国行くのかよ。

あ、でもスキーは嫌いじゃねえ。自分の体で物凄いスピード出しながら滑れるから。滑ってる間は嫌なこと全部忘れられるし楽しいし。

 

 

 

 

雪が目に入らなければいいってことだが流石にそれは虫が良すぎるか。

 

 

 

 

 

「ううっ…」

 

風がキツくなってきた。手足は寒さで震えて身震いが止まらない。少しでも体を動かして温めないと凍えて死んじまいそうだ。

ショベルを再び手に持ち雪掻きを始める。掻き込んでも掻き込んでも雪で覆いつくされた道路はその姿を見せてはくれない。

 

恥ずかしがり屋か?恥ずかしがり屋なのか?

気持ち悪いなごめんなさい。

 

 

いや、こういう時こそ無心だ。いつ終わるかなとかそういう事考えるからだ。無心無心…。

絵里風邪ひいてねえかな…(無心終了)

クソが。俺のパワー見くびるんじゃねえ。

 

 

 

 

「がんばってー!!」

「そのまま真っ直ぐだよー!」

「穂乃果ー!ことりー!海未ー!」

 

 

 

あん?

 

 

 

視線の先、音ノ木坂学院に入っていくためにある階段付近。そこから声援が聞こえる。吹雪のせいで視程には中々はいらないが、少しずつ時間が経つにつれて目が慣れてきた。その際にいたのは、分厚いコートを身にまとい、女性には少し向かないほど大きな長靴を装着して、音ノ木坂の学生たちの声援を聞きながら全力で走ってくる女の子たちが居た。

右から南ことり、高坂穂乃果、園田海未。傘を差しながら、肩で大きく呼吸をしながら、そしてとても輝くほどの笑顔で。

ここにいたら俺は邪魔だ。道路の端っこにより3人の進む道の邪魔をしないように。悪いな。そこまで雪の整理できなかった。

バレないように背を向けてちょっとずつ雪掻きを再開する。

 

 

 

「あ、ありがとうございます!」

「そこの人!ありがとうございます!」

 

園田海未、南ことりの言葉を背中で受け止めて見送る。

そして…。

 

 

「あ……」

 

 

高坂穂乃果だけ、進めていた歩を一瞬だけ止めて、言葉を放つ。

 

 

「ありがとうございます……。九条先輩(・・・・)

 

 

背しか向けていないのにどうして俺だと分かったかは今は問うまい。

女の勘ってやつだろうな。

 

 

 

 

 

「………すべきことを、果たしてこい」

「……っはい!」

 

 

 

 

「穂乃果!止まってはいけませんよ!」

「穂乃果ちゃん!早く!」

「うん!今行くよ!」

 

 

 

 

再び彼女たちは走り出した。

その背中を眺める俺の目には、雪すら解かすほどの暖かい光が彼女たちから出ているのが目に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「……………さてと」

 

 

ショベルを元にあった場所に突き刺した。

 

 

 

お掃除完了。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

雪が徐々に納まってき、暗くなった町には幾百ものライトで町中を照らしていた。空から降り落ちてくる白い雪をライトが照らしつけると輝く光の粒に見える。

そんな町中を照らしつけるライトが一際強く照らしつける場所があった。

白色に染まっているステージを照らしつけるスポットライト。数多の色で光り続けるイルミネーション。

そして、そのステージに佇む9人の女神たち。その身にはまた雪に似合う各々違う装飾が施されている白い衣装。この一夜、たった一夜しか存在しない存在かもしれない。敢えて言えばその佇む姿は『雪の女神たち』だ。

 

 

ステージの前には大量の人で溢れかえっているファンの人たち。その中には彼女たちの親御さん達らしき姿も見える。自分の愛娘を見るのは南母だけではなかったか。

 

 

俺はそんな人混みの中には入れない。なるべく遠く、誰もそんなところでは見ないだろうといえるくらい離れた距離から俺はステージを見つめた。

 

ここでいい…。俺はここから見るので満足している。

 

 

 

『μ's;Snow halation』

 

 

 

 

雪の降り落ちてくると感じさせるイントロ。彼女たちは雪の中で踊り続ける女神たち。彼女たちの前では降り落ちてくる雪すら支配していた。

あの場所は彼女たちの世界。そこから目を離すことなんてあるはずがない。ファンの全員手に持つペンライトを大きく振る。

 

 

 

「綺麗だな」

 

 

一人一人の動きを見る中、俺の目に入ったのは絢瀬絵里の姿。

綺麗な金髪をポニーテールに纏め、彼女のチャームポイントと言える蒼い瞳はダイヤモンドのように輝いている。μ'sを否定し続けてきた本人は、その一員となり、目の前にいるステージで華麗に踊り続けている。舞っているかのように、飛び続け、廻り続け、観客を魅了するその姿はとても眩しい。

 

 

 

 

なんなんだろうなこの歌詞は。別にどう思って聞いてるわけではないが、俺の穢れた心に突き刺さる。

 

 

悔しい。と思うのはおかしいのか?絵里が好きだというこの感情を伝えきれないのは。

いや、悔しい以前に、そうさせたのは俺自身だ。

 

俺を救おうとしてきた彼女の勇気を俺は拒絶した。

 

影からでも、彼女の力になれればいいと思っていた。

 

だけど、困った時、俺は彼女の困ったときに力になれなかった。むしろ、余計な壁になったかもしれない。

 

彼女の優しい目を、もっと近くで見たかったと後悔すらしている。

 

 

 

 

 

俺が傷ついたことで、絵里は救われた。それが正しいと思った。いや、正しいと思い込んでいた(・・・・・・・・・・・)のかもしれない。自分が傷ついて助けたと思い込んだヒーローを気取っていたのだ。都合のいい解釈をして、俺は頑張ったんだって、自分で自分を褒めていた。

 

 

薄々と勘づいてはいた。こんな事で誰が感謝をしたのだろうと。

絵里は俺を助けてくれようとした。手を差し伸べてきた。けどその手を俺は掴むことなく、払いのけたのだ。

 

 

1人1人…1人1人1人1人1人1人1人1人…。

 

 

 

どんなことも、何をするときも、俺は1人だった。

罪の代償?違う、俺が俺に課した罰だ。

 

 

 

 

 

「………はっ。今更あの頃に戻りたいって思うとはな」

 

 

割り切っていた。無視していた。その感情に。

あの頃に戻って謝りたい。あの頃に戻って絵里に抱きしめて欲しい。あの頃に戻って俺の言葉を聞いてほしい。

後悔後に立たず…。

 

情けねえ…。自分でした事にケジメをつけずに、自分がしたことを無視して、罪の意識から遠ざけるようと甘えを施していたのだ。

 

 

 

 

何が男だ。何が悲劇のヒーローだ。何が絵里の味方だ。何が影からの協力者だ。

 

 

 

 

 

ただ俺が都合がいいと考えていた幻想だ。

 

 

俺の正体はクソったれの悪だ。しかも悪を貫けられないクズの悪だ。1人でできない。何もできていないじゃねえか。

 

 

 

「………クソ野郎が」

 

 

 

 

辺りがオレンジ色に染めあがった。彼女たちの心の中に秘められている【大好き】だと想う気持ちがダイレクトに心に直撃した。

 

 

 

 

 

 

そうだ。おれは絵里が大好きだ。絵里の笑顔が好きだ。絵里の仕草が大好きだ。絵里の輝く姿が大好きだ。

 

 

 

何度も思うが、この気持ちを伝えられることは一生ない。

絵里と俺とのつながりには何十層にも聳え立った壁があるんだ。これを壊すことは俺にはできない。これを壊すときは、俺が俺の中にある弱さを絵里に見られた時だ。

見せるわけにはいかない。見せたら、今までしたことが無駄になる。

 

 

 

「………親父…おふくろ」

 

 

 

俺がしたことは正しいのかなんて、分かりっこない。けど、誰かに、誰かに言われたいと思った。

 

 

 

 

 

俺のした事は無駄じゃない(・・・・・・・・・・・・)と。

 

 

 

 

「誰か、教えてくれ」

 

 

口かでた言葉は誰にも聞かれることなく、虚無の空間に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「九条君」

「?」

 

 

声のした方を見ると、高坂穂乃果の父親が経っていた。

 

 

 

「なんでこちらに?」

「君がいたからだ」

「そうですか」

「近くで見なくて…いいのか?」

「いいんです。俺はここで」

「ならば、俺も少しだけここにいよう」

「はい」

 

隣に並んで、一緒に俺とステージを見つめる高坂穂乃果の父親。

 

そして、口を開いた。

 

 

 

「和人」

「っ!」

「君の父親は、俺の親友だった。競い合い、信頼しあい、ぶつかり合い、一緒に成長した男だった」

「……親父は…もういません」

「あぁ。だが、あいつの心は俺の中で生き続けている。決して忘れることはない」

「………」

 

 

 

「あいつはいつも君の事をほめていた。自慢の息子だ。男らしい息子だ。大事な息子だと言っていた」

 

 

 

 

 

「……は?」

「君は決して弱い人間じゃない。そして強い人間でもない。出来ることは少ないが、我武者羅になって走る君の姿は、あいつにそっくりだ」

「親父…と」

「君は和人によく似ている。顔つきとかも似ているが、なにより、その炎のように燃える心は、和人によく似ている。決して、それを無駄にしてはいけない」

「っ!?」

 

高坂穂乃果の父親と目を合わせると、父親の力強い目に圧倒された。

 

 

 

 

「和人からもらったその体は、その心は、あいつと一緒だ。あいつも、誰かの為に一生懸命になれる強い人間だ。今の君も、誰かの為に自分を犠牲にしているのだろう。それは自分が信じた道だとしても。誰からも認められない道だとしても、決して無駄ではない。今の君がいるから、今華々しく輝いている人がいるんだ。違うか?」

 

 

この人は…。

 

 

 

「それが分かるのには時間も、心の余裕もないと思う。君もまだ成長している最中だ。その意味もおのずと分かるときが来るだろう」

 

 

親父に似ている……。

 

 

 

 

 

「それを受け止めるのは君自身だ。大丈夫だ、あの馬鹿野郎(強い男)の息子なのだからな」

 

 

 

 

高坂穂乃果の父親は俺の頭にポンッと手を置いた後、その場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のしたことは……間違いじゃない…のだろうか」

 

 

 

あの人に言われても、そうだと思うのは無理だ。何が正しいのかも、何が間違っているのかも、俺には結局よく分からないのだから。

 

 

ステージを見つめると、演技はすでに終わり、観客の方へと笑顔を向ける彼女の姿があった。

 

 

だけど俺は、再確認することができたかもしれない。

 

 

 

「絵里……」

 

 

 

 

 

そのまま輝く君で居て欲しい。

 

 

それを守るためなら俺は、どんなに醜くても、どんなに汚くても。

 

 

 

 

 

 

【最低で最悪】の悪者を演じ続けよう。

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