最低で最高の   作:優しい傭兵

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『サヨナラ I Love You feat.jyA-Me』

彼らの時間が動き出す


銀色の世界(前編)

「…………」

多分これは夢の中だろう。よく小説、アニメとかで聞いたり見たりした何も世界だ。右も左も上も下もどこもかしこも、俺が一切見たことのない世界だ。早く目が覚めろよ現実の俺。

とうとう俺は異世界転生でもするのか?何に生まれ変わるんだよ。スライムか?ゴブリンハンターか?それとも喋る無機物か?無機物とか死にたくなってくるな。心臓とかなさそうだけど。

『どうだ?ここにきた気分は?』

「いきなりなんだ」

『夢の中だからな』

「なんでもありか」

『勿論だ』

「なんだ?俺は死ぬのかよ夢の中で」

『そうだな。私はお前の中にいるお前なのだが、私はお前の事を殺したいくらい嫌いだ』

「ほう。確かに俺は自分の事は嫌いだが、ここまで思われてるとはな」

『そうだろう?お前をずっと見てきたが、まさか自分がここまで愚かだとは思わなかった』

「愚かだと?」

『そうだろう?お前も気が付いてるはずだろう。絵里の事を』

「絵里だと」

『お前は絵里から離れたつもりだろうし、絵里もお前と離れたつもりだろうが、そんなことは全くない。お前の心は今も絵里を想い続けているだろうし忘れようと思っても何もできてないじゃないか』

「なんだと…」

『絵里は絵里でこの前の接し方でお前を見る目が変わってきている。いや、変わってきているじゃない。変わっていたのを元に戻そうとしているようだ』

「それは究極的には変わるんじゃないのか?」

『かもな。まあいい』

(……図星か)

『殺すぞ』

「こっわこいつこっわ」

『お前だぞ、私は』

確かに、絵里の心に変化があるような気はする。あの俺への対応を見れば、だ。俺をはたいた時と、たまたま出会ったあの時と、比べたら誰だ?と思うな。

恐らく、いや、確実にだが、絵里はなんで俺がこうなったか気づいているはずだ。東條、矢澤、後は…俺のオヤジ(・・・)に事情は聴いているはずだ。恐らくだが。

けど、それがそうだとしても、あいつが変わっても俺は変わらない。

『今までしたことが無駄になる…か?』

「っ」

『今まで通り、悲劇のヒロインのように、傷ついたヒーローのように、演じ続けてきた今までの自分をすべて綺麗に無駄にすることになる。それが怖い。それが恐ろしい。だろう?』

「たとえお前が俺でも、知ったような口聞くな」

『知っているんだよ。だから言えるんだ。今まで楽しかったか?演じ続けた自分を称賛するのを』

「うるせえぶん殴るぞ」

『カッコいいと思ったか?褒めて欲しかったか?絵里の為に何かをできたと自己犠牲できたのが最高に素晴らしいと思ったか?』

「黙れよ」

『自己満足に過ぎなくても、満悦したのなら良いだろう?』

「黙れ……」

『これが元に戻ったら最悪だろうな?お前の望んでいたものが……水の泡に…』

「黙れェ!!」

今まで封印していたんじゃないのかって程の大きな声が口から飛び出した。我慢の限界だった。例え相手が俺だとしてもこれ以上言われたらおかしくなりそうだ。お前が俺だとしても…今まで何も言わなかった『俺』が、俺の今までを否定しようとしないでくれ。

「はぁっ…はぁっ…」

『はっ。お前も愉快で哀れな男だ。こんな事してもなんにもならないというのに』

「何かならない事ならやっちゃいけないのかよ」

『絵里はそれを望んでいなかった。絵里はそうなってほしくなかった。絵里はあのままを望んでいた。絵里は……お前がこうなるのを、嬉しく思ったことは一度もない」

そうだろう。確かに絵里はそんな事を願っていなかった。だが、それと俺の行動は別だ。あいつがそれを想っても俺はそうしたいと思ったんだ。

そうしなければいけない気がしたんだ。

『絵里の為に偽るのをやめたらどうなんだ?』

「そんなことしたら、あの時の俺に顔向けできねえだろうが」

『そんなもの関係ない。過去は過去だ。今思っている絵里への気持ちを曝け出したらどうなんだ?』

「断る。もしそんな事をしても、絵里が変わるわけがない。軽蔑されるにきまってる」

『それはどうだろうな。ふふっ』

「何が可笑しい」

『いいや。やっぱりお前をこうやって見守るのも飽きないなと思ってな』

「はぁ?」

『最後に言っておこう』

 

 

 

 

 

『人に対する好きという気持ちは……どんな感情や覚悟をも勝るものだという事をな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい待て!どういうことだ!!」

 

意味深なことを最後に告げた中身の俺は、そのまま俺の意識の中から消えていき、俺の足元からその世界は崩壊していった。

 

 

 

 

 

「………条…九条っ!」

「ん……おあ?」

「何寝てるのよ。もう北海道に着くわよ」

「北海道…?」

「とうとう頭も使いものにならなくなったのかしら?そのままだと腐って死ぬわよ」

「んだとコラ」

「はいはいっ。二人とも喧嘩したあかんよ。エリチはそれ以上喧嘩売るようなことしたら揉みしだくで」

「何を!?」

「ナニやね」

 

 

夢の中から意識が戻った俺は右へ左へと視線を泳がした。そこは飛行機の中で、外を見ると雲の上を飛んでいた。

窓側から俺、絵里、東條という順番で座っている。

よくこんな鉄の塊が空を浮いているもんだ。人間ってやろうと思えばマグマの中でも飛び込めるんじゃね?バカですねはい。

 

 

 

 

「スキーか…」

「なに?嫌なの?」

「いいや」

「じゃあ何で呟いたのよ」

「そうだなぁ…」

 

 

 

 

窓から再び空を眺める。

 

 

 

 

 

「ただただ好きなだけだよ」

 

 

 

中身の俺の言葉が蠢いていた。

 

***

 

 

 

 

 

高く、そして長く連なっている銀色の世界を見つめると自分の存在が小さく感じられる。

寒く、だが空で煌めく太陽の光と身に着けているスキーウェアのお陰で凍傷などになることは無いだろう。

 

そして、雪は嫌いなのにも関わらず、俺はこの銀色の世界がとても好きだ。雪が嫌いとか言って矛盾があるのではないかと首を傾げるかもしれないがそこは目を伏せてくれ。アレだ。雪は嫌いだがこの雪の世界は好きだ。自分で言ってて意味が分からなくなってきた。

 

その銀色の世界の道をスノーボードを足に装着して滑り降りる。

 

姿勢は低く、腰を下ろして膝を曲げてスノーボードと同じ向きに体をひねる。道路のようなターンがターンの内側に体の正面を向けスノーボードを傾けて滑り下りる。右へ左へと足と腰を動かし、できる限りスノーボードを垂直に傾けると、より一層スピードが増していく。

 

 

「ははっ」

 

 

無意識に笑みがこぼれる。自分の足で走って出るスピードなんてたかが過ぎてる。車やバイクに搭載されているエンジンを使用すれば人間の生身では出せないスピードなんて軽く出せる。

だが、スキーやスノーボードはその類のものを使わずにかなりのスピードを出せる。それがとても楽しい。

 

心から楽しく思ったのはいつ以来だろう。胸が躍る。

 

 

 

 

「なんだよあいつ…調子のりやがって」

「どうせマグレだマグレ」

「腹立つな」

 

 

クラスの連中の小言が聞こえるが気にしない。今は心底機嫌がいいんだ。そんなくだらない言葉なんて右から左へ聞き流す。

 

 

 

「上手やね」

「ほぼ感覚なんだが」

「それがすごいんやけどね」

「こう…なんて言うんだ?体をグイッとする感じ」

「語彙力…」

「やかましい」

「まあ言いたいことはわかるんやけどな。不器用なりに」

「ちっ」

「あと、君より凄いのが…」

「言うな聞きたくねえ」

 

 

 

 

遠くから滑り降りてくるのはロシア生まれのクォーターである絢瀬絵里が、スキー板を足に装着し俺以上のスピードを出しながら、俺と東條の目の前に向かって駆け下りてきた。近くまで来ると両足を合わせてスキー板の横側でブレーキを掛ける。更に言うとブレーキを掛けたと同時に俺に向かって雪原の雪を被せてくる。

 

 

 

「お待たせ希」

「お帰りエリチ。さすがやね」

「まだ本調子じゃないのが難点ね。もう少し体を動かしたいわ」

「ならもう少し上にいこっか。結構際どいコースもあるやろうし」

「そうね」

 

 

 

 

 

 

 

(人に雪かけておいて何も言わないとはいい度胸だなこの女…)

 

 

 

 

 

 

因みに言うと矢澤にこは数分後雪だるまとなって発見された。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

スキー場のリフトに乗って雪原の頂上を目指す際に、私は思った。

 

懐かしいと、悲しい記憶。

中学生時代に私はこれと同じようなシチュエーションにて、彼、九条和平とまだ恋仲だった時に喧嘩をしてしまい、吹雪の強かった夜の雪原で迷子になったことがあった。

思い出したらとても怖い。私は夜、又は暗闇が嫌いだ。あの空間に居ると私という存在が黒という空間に解けてしまいそうで。何か怖いものが近くに来ていそうで。暗闇は私に想像してはいけない物を無理矢理創想像させようとしてくる気がする。それがとても怖い。

この雪原を見ると、あの頃の映像が頭に浮かび上がってくる。

喧嘩なんて些細なことだった。ただただ彼にちょっとした注意発言、まあお小言程度の言葉が原因だった。それが原因で大ゲンカ。今更思うと馬鹿馬鹿しい。中学生だから当たり前だと言えば当たり前だが、子供過ぎたのかもしれない。そんな彼との思い出も、今の関係だとしても懐かしく思えてくる。またもう一度、あの時の彼と楽しくスキーをしたいと考えながら。私は…この時を利用し、彼に真実を問おうを思っている。

今まで彼を見てきた。裏でこそこそと何かをしてきたこと。影で傷ついていること、私たちの活動に影ながら手伝ってくれていることを。理事長の口から直々にきいた言葉だ。嘘も偽りはないはずだ。本当に彼は、最後に決別したあの時、私が嫌いだとか、利用したとか、そういった理由で本当に私と絶縁したのか。今の彼を見ると、今更ながら信じられなくなってきている。なぜ今思いついたのか、遅すぎるのではないかとか色々と遅すぎたのだと思う。これは私の心の弱さが原因だ。笑ってほしい。悩んだ。悔やんだ。模索した。試行錯誤したといった四面楚歌状態だった。この時こそ、今しかないと思った。あの頃の記憶も彼の中では蘇っているはずだ。そんな今だからこそ聞くべきなのではないかと思った。この話をすると、希もにこも了承してくれた。私の好きにしたらいいと。悔いの残らない様にと言われた。

大丈夫だ。あの二人からの言葉が私に力を与えてくれる。迷うな。突き進むんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、先にいくで」

「後から来なさいよ」

「にこっちが一番遅れてそうやね」

「ぬぁんでよぉ!」

 

 

そんな相槌を打ちながら二人は雪原の坂を下って行った。

ここに居るのは私と彼だけ。絶好のシチュエーション。ここなら誰にも邪魔されない。

 

 

 

 

 

 

 

進むんだ。この一歩を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………和平っ」

 

 

 

 

 

以前愛していた彼の名前を呼ぶと、目の前に立っていた和平は、ゆっくりこちらを振り向いた。

 

 

 

 

 

「……………話が、したい…」

 

 

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