『君の神様になりたい カンザキイオリ feat. 初音ミク』
寒い。
ここはどこ?
外が暗い。
雪がやまない。
足が痛い。
震えが止まらない。
目がかすむ。
誰か。
助けて。
誰か―――タスケテ。
***
俺はどこまで大馬鹿野郎になれば気が済むんだ。
今回はなんだ?俺があそこで全てを受け入れて、全てを丸くしてしまえばこうならずにすんだのに。
勇気を出して言いだしてくれた絵里の想いを踏みにじり、自分の願望や本能を突き通して、あまつさえ最後の最後に彼女を深く傷つけてしまった。
歪む前の俺がコレ見たらすぐさま俺の事をぶん殴りそうだ。
矢澤にロビーに来てほしいと言われたので寒くない様に上着を着込む。
今は緊急自体のお陰で廊下には生徒も誰も居ない。その変わりに先生がちゃんと部屋に居るかの確認をして廻ってるからロビーには誰もいないはずだ。
俺の部屋は鞄や服で俺がちゃんと寝ているかのようにカモフラージュしてあるから大丈夫だ。
エレベーターを降りて、ロビーのスタッフにバレない様にこそこそと動き、入口にたどり着くとそこで誰かがもめていた。
「落ち着きなさいよ希!」
「離してにこっち!私は行かなきゃいけないの!!」
「こんな吹雪の中どうするのよ!私たちじゃ流石に何もできないわよ!」
矢澤とスキーウェアを身にまとっている東條がもめていた。見るからに東條がいなくなった絵里を探しに行こうとしているんだろう。流石にお前じゃあぶねえぞ。
「おいっ」
「九条…」
「っ…九条君」
「ここでもめるな。こっちにこい」
二人の手を引いて物陰に隠れた。
ロビーに誰もいない事を確認し二人に振り返ろうとしたとき、東條に胸倉を掴まれた。
「なんで!なんでエリチの事を放っておいたんよ!」
「んだよいきなり…」
「君が目を離さなかったらこんな事にはならなかったのに!」
「希落ち着きなさい!」
「君のせいや!君がしっかりしていれば…」
ドンドンと俺の胸を拳で殴りつけてくる。その拳はとても重くとても痛い。
二人に話した。お前らがいなくなった後に絵里と話した内容すべてを。東條は涙がボロボロと零れ落ち、矢澤はうっすらと瞳に涙を貯めていた。
「私…どうしたらええんよぉ……エリチが…待ってるのに」
「希…」
「………」
こんな時どんな言葉をかけてあげればよいのだろうか。大丈夫だよと励ましたらいいのか、すまないと謝罪の言葉を掛けたらいいのか。
どれが正しいのかどれが間違っているのだろうか。俺があそこで話をしたのが間違いだったのか、あそこで俺が認めればよかったのか、いやそれよりも絵里に接触しなければよかったのか。
俺はどうしたらいいんだ。
いいや、分かっているはずだ。俺がすべきことぐらい。
けど、一歩が踏み出せない。
「九条君…」
「……」
「なんで君は人を守ったりできるのに、こんな時に何もできないの!?」
「っ…」
「ちょっと希っ!?」
「エリチを救った!自分を犠牲にした!そこまでできるのになんで今はなにもできないの!?」
「それは…」
「力があるんでしょ!?男なんでしょ!!」
「やめなさい希!そんな事言ったって何にも!」
「やめてにこっち!ここは言わないと気が済まない!」
「…のぞ・・・み」
そうだ。俺は絵里の為にどんなことでもしてきた。のちに何かが絡まろうとお構いなしに。
けど、こんな時に限って俺は動くことができない。目の前で泣く女の子の涙すら止めれない。
情けない。
「エリチの事…もっと考えてよ!人のために何かを捨てることができるのにどうしてエリチの想いを受け取ることができないの!?もう二人ともお互いを傷つけて追い詰めたのにまだ足りないの!?君はエリチを助けたら全てが終わると思ってる!エリチは君を認めたら今までの罪悪感から解放してあげられると思った!どん底に突き落としたのにも関わらずいまだに君の事を想ってくれているのに!」
「っ……」
「君の行動の意味を!考えを!彼女はずっと悩んでた!君は意味がなくあんなことしないって分かってた!だから君に話を持ち掛けた!なのに…なのに」
俺の胸倉をまた強く握りしめる。
絵里が俺の事をそう思っていたのは考えもしなかった。だって、ずっともう終わったと思ってた。これからずっと嫌われ続けると思ってた。なのにどうして俺の為にそこまでする必要がある。意味が分からない。
「また…エリチを助けてあげてよ!!ここで何もなかったら二度と戻れない!人の為に何かをできるって分かっているのに!なんでたった一人の女の子を救うことができないの!」
「っ!」
心が痛い。熱い。
「助けてあげてよ…ウチのお願い…聞いてよ。私の願いを叶えてよ!」
「お願い九条。私からもお願い。……絵里を助けて。私の望みを叶えてっ!」
「東條…矢澤…」
そうだよ。いつものことだ。今まで何百回もあった。涙を流す子を見たくない。誰かの為に今までしたきたんだ。今回も一緒だ。
俺ができるのなんか、自分を犠牲にして、誰かを救う事しかできないことじゃねえのか。
「……………あぁ」
部屋に戻り。脱ぎ捨ててあったスキーウェアを身にまとい、ニット帽、ゴーグル、手袋を身に着けホテルのロビーに駆け出した。
最低で最悪の悪者は立ち上がる。
***
「はぁ……」
ここはどこだろう。木が多すぎて建物すら見えない。
迂闊だった。いくら心へのダメージが大きいからって注意力が散漫過ぎた。その結果がこれだ。足首を挫いてしまってどこかに転がり落ちてしまった。
幸いにまだ視界は大丈夫だ。気が遠くなったりは何もない。
「どうして…なんだろうなぁ」
和平を助けてあげたいと思ったのが悪いのか。神様はなんで彼の事を許してくれないのだろう。今までの彼を見てきた。酷く独善的で独裁的で、昔の面影すら皆無だった。
確かに最初、いや今までは彼が大嫌いで顔すら見たくなかった。
和平が嫌いなのに、彼の事を考えずにはいられなかった。大好きだった彼がどうしてああなったのかを知りたいと思った。今の彼の正体を知りたかった。けどそれは叶わない夢だった。やっぱり彼はもうあの時の彼じゃなかった。壊れていたのだ。
私のせいだ。私のせいであんな醜い姿になってしまったと、今更ながら後悔してしまった。遅かった。遅すぎた。どうにかしたいと遮二無二だった。だから彼と面と向かって話をした。その考えが傲慢だったのかもね…。
「和平…かずひら…」
彼はカッコいい。誰にでも優しく、誰よりも男らしく、誰よりも心が強く、そしてとても紳士的で。女性からしたら優良物件である。
そんな彼だからこそ、私を救うときあんなやり方しかできなかったのかもね。
全てを丸く収めて、誰も傷つけることなく、綺麗な状況を作るには、アレしかできなかったのだ。自分が傷つけば、自分が苦しめば、『自分』さえと想い続けてる。
自分を犠牲にするのはもう筋金入りの偽善者だ。実に馬鹿馬鹿しい。けどそんなところが憎めない。
「あ」
そうだ。あの時、中学生の時もこれと似たことがあった。
あの時は和平と私が喧嘩して私が意地を張ってしまって足を踏み外してしまって、迷子になったんだっけ。今と何も変わらない。
「ぅぅ……」
吹雪が強くなってきた。いくらスキーウェアを着ていたとしても流石に堪える。できる限り物陰に隠れたいが足を挫いているから動きたくても動けない。
幻聴だとは思うが、暗い夜の中吹雪く風の音が誰かの笑い声に聞こえる。暗いところはいつまでたっても慣れないし、とても怖い。
「怖いょ……」
心細い。
怖い。
帰りたい。
「誰か……助けて……助けてよぉ…」
寒い。
暗い。
雪がやまない。
足が痛い。
震えが止まらない。
目がかすむ。
誰か。
助けて。
穂乃果…。
ことり…。
海未…。
真姫…。
凛…。
花陽…。
希…。
にこ…。
亜里沙…。
和平…。
「助けて…和平」
「なにやってんだお前は」
あの時もだ。
ボロボロになって、息を切らして、必死になって私を探してくれた男の子がいた。
『ったく!心配させやがって!』
『勝手にどっかに行くなよな!』
『心配したじゃねえか!』
『だ…だってぇ…』
『よかったよ。大きな怪我がなくて』
愚痴を漏らしながらだが、決してめんどぐさがらず、決して私を見捨てたりしなかった。
その人は最低だ。
その人は最悪だ。
その人は傲慢だ。
その人は怠惰だ。
その人は馬鹿だ。
そしてその人は。
かつて私の大好きな人だった。
「和……平」
***
本当に疲れた。まさかホテルからあんなに離れてるとは思わなかった。リフトは止まってるから自分の足で歩かなきゃいけないし、雪が激しいから前は見え無しい。どうしてこう見つかったか不思議なくらいだ。
いや、確かに直観だったよ。けど、昔にこれと似たことがあったから、その時と一緒で森に居るんじゃないかと思ったらビンゴだった。
見た感じ大きな怪我はなさそうだが、足を抑えてるってことはひねったようだな。
「な、なんで貴方がここにいるのよ…」
「あ?いちゃ悪いかよ」
「悪いわよ!他の人が探しに来てくれてるはずなのにどうしてあなたがここにいるのよ!」
「……てめえには関係ねえ」
「嘘つかないで!」
こんな時でもうるさいようでなによりだ。
「足見せろ」
「えっ…」
「ひねってるだろ。症状を確認する」
「ちょ、ちょっと!?」
絵里の足を掴んで無理矢理素足を曝け出す。そこには足首が少し青く腫れあがっていた。骨は折れていなくても捻挫は確実だ。恐らくコースからはみ出して足を踏み外したんだろう。
「捻挫は確実だ。歩けるか?」
「そっ!そんなのできる……いっつ!?」
「何時まで経ってもてめえは意地っ張りだな」
「貴方だけには言われたくないわよ!」
でもこのままでは結局はダメだ。こいつにはラブライブが控えてあるんだ。早く医者に診せて治療をしてもらった方が良い。
(雪は弱まらず、風が強い。視界は最悪。絶対絶命ってやつか)
このままおろおろしても埒が明かない。こうなったら……。
「よっと」
「あ、貴方なによ…」
「あ?見てわかるだろ。おんぶだよ」
「誰もそんなの頼んでないわよ!」
「じゃあこのままここにいるか?こんな天気じゃ電波も届かねえからホテルにも通じない。これより風が強くなったらもうどうにもならない。今のうちにここから帰るんだよ」
「そんな無茶な!足だって今もズキズキして痛いし…少し揺らしただけでも…」
「だが、時間の問題だ。このままお前が此処にいたら…」
「何よ!!」
絵里が涙を流しながら俺に向かって叫んだ。
「貴方に助けてほしくない!あなたに頼りたくない!そんな浅はかな考えがあったから貴方は私を見捨てたんじゃない!!」
「は…?」
「あの時も!今も!私は助けて欲しいって頼んでいない!なのに貴方は自分で突っ走って!自分だけ傷ついて!誰にも頼ろうとしなかった!」
「っ………」
「私は貴方のなに!?お荷物なの!?私は貴方に頼ってほしかった!私も貴方を助けてあげたかった!なのに…なのに!!貴方は自分が傷つけばそれですむと勘違いしている!誰も貴方に傷ついてほしいとか貴方に苦しんでほしいとか思っていない!。矛盾の塊じゃない!」
「絵里…」
「どうしたら……いいのよ…。貴方を救うにはどうしたらいいのよぉ……。貴方に分かる!?好きだった気持ちを踏みにじりられて、裏切られたこの気持ちが!!」
「………」
「貴方はなに!?貴方はなんなの!?」
そんなの決まってる。
あの頃から一杯悩んだ。一杯考えた。なんでこんな事しているのか。なんで絵里に対してここまで非情になれるのか。
そんなのハナから決まってる。
「絵里。俺はお前が好きだ」
「えっ…」
「お前は俺にとって太陽だ。光だ。お前が大切で仕方ないんだ。あの時も、俺の事でお前が傷つくところを見たくなかったんだ。なら、絵里が傷つかない様に、誰にも嫌われないようにするには、俺が嫌われればいいって思ったんだ」
「………えぐっ……ぐすっ…」
絵里の腕を掴んで此方に引き寄せた。
「俺は最低で最悪だ。だからこそ今の俺がある。俺はお前の為ならなんだってできる。俺が苦しむことで助けることができることがあるならば俺はいくらでも苦しんでやる」
絵里を背中に背負い、ホテルに向かって歩を進めた。
「悪かった。あんなやり方でしかお前を救う事ができなかったんだ。親父やおふくろが死んだことで、俺の中で何かが事切れたんだ。精神的にも不安定だったんだ。」
絵里は俺の首に腕を回してギュッと抱き着いてくる。
「悪かったで済むとは思わない。だから、これからも俺を嫌い続けてくれ。俺を憎み続けてくれ。俺はお前を捨てたことに対しての償いが済んでないんだ。俺には、お前を好きになる資格なんて無い」
「かず……ひらっ…」
「だからさ、
絵里が俺の耳元に顔を近づけて呟いた。
「何よ…。全部私の為って…そんなの貴方の自己満足じゃない」
「……あぁ」
「私は…貴方の苦しむ姿を見たくなかった」
「……あぁ」
「あの頃…枯れるくらい泣いた…。貴方に裏切られたって…」
「あぁ」
「なのに貴方は涼しい顔で日常を過ごしていた…」
「あぁ」
「狂ってるって思った……。おかしいんじゃないかって思った…」
「あぁ」
「それなのに…今更になって私のためだなんて……虫が良すぎるのよ…」
「あぁ」
絵里の涙が止まらなかった。
「えっぐ……わだじは…ざみじがっだ……」
「あぁ」
「3ねんがん……あなだをにぐみづづげだ……」
「あぁ」
「げど……ごごろのそこ…ぐすっ…から憎むことなんて…でぎながっだ…」
「あぁ…」
「あなだがやざじいがら…」
「あぁ…」
「あなだが……つよいがら……」
「あぁ…」
「どうじだらいいのが……わがらなかっだ…」
「あぁ……」
「いっばい悩んだ……いっばい泣いだ…。げど……どれだげ考えても…わがらなかっだ…」
「あぁ…」
「あなだを……だずげだがった…」
「あぁ…」
「あなだを……救いだがっだ…」
「あぁ…」
「あなだの事……冷たい人間だって…思っていたのに……」
「あぁ……」
抱きつく力が強くなった。
「なんで…なんで……こんなに暖かいのよぉぉお!」
絵里は泣き続けた。辺りで吹雪く風なんかよりも強く、悲しく。俺の耳に届いた。
その絵里の涙は俺にとっては、ありがたく且つとても辛いものだった。どこまでいっても俺は結局は彼女を泣かすことしかできない。こんな愚かで見にくい俺が彼女を大事にする資格なんて無い。
彼女の涙は、俺の中で止まっていた
そして時は動き出す