最低で最高の   作:優しい傭兵

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3年前の因縁

「待っていたぞ」

「よう刑事さん。久しぶり」

「元気…だったか?」

「分かりきってること聞くなよ。予想通りだよ」

「そうか…すまない、お前の力になれなくて」

「いいんだよ。たまに俺に飯ご馳走してくれてるだろ。感謝はしている」

「優しすぎるって言われないかお前」

「無いね」

「即答かよ」

 

でも、この人には本当に感謝している。俺が精神的に病んでいる時ずっと声をかけてくれたんだ。一人の警察としてではなく、一人の大人として。この人に作ってもらった料理は涙が出てくるほど美味かった。もう一人の親父と言っても過言ではない。

 

 

「こっちだ」

 

刑事さんに案内されたのは、よくドラマや映画でみる面会用の部屋。椅子がガラス越しに向かい合っている部屋だ。

俺は椅子に座り腕を組んで大きく息を吸って吐いた。

 

恐らく刑事さんは気づいている。俺がいまどれだけの怒りを抑えているのか。その証拠に刑事さんは俺のすぐそばで立ってくれている。俺が怒りで暴れない様に。

 

この3年間、怒りは抑えることはできたが、あいつへの恨みが消えたことは無かった。俺がこの状況になった根源でもあり、元凶だ。周りの人に恨まれるは別としてだが。

 

馬鹿野郎、落ち着け。別に喧嘩を売りに来たわけじゃないだろ。ただの面会だ。ただの…な。

 

 

 

「落ち着け九条」

「落ち着いてるさ…この通り」

「…それは自分の腕を見てから言え」

「ちっ」

 

組んでいる腕に手が食い込むほどに握っている。無意識にでも力が出ているのだろう。

 

 

 

 

「来たぞ」

「っ」

 

 

向かい側の扉が開かれ、警官数名が部屋に入り刑事さんに敬礼する。その後、白い服を着た痩せこけた男が入ってきた。

 

そうだこの男だ。俺からすべてを奪った男だ。背丈は今の俺より小さい。頬がこけていて、体はあの時よりも細くなっている。

だが、それだけだった。目にはまだ精気がみなぎっており、俺と目が合うと不敵な笑みを浮かべた。

 

 

背筋に嫌な汗が流れた。鳥肌が立った。こいつはこんな時でも気味が悪い。

椅子に腰を落としたらすぐに口を開いた。

 

 

 

「よぉ」

「っ!」

「久しぶりだな坊主。お前のお陰でこのざまだ」

「そう…かよ。そりゃめでたいな」

「いやしかし、これでもよく持った方だぜ。なんてたって3年間も逃げたんだからな」

「その3年間俺がどんな状況に落ちたかもしらずにな」

「当たり前だろ?いちいち殺した奴のガキなんか知ったこっちゃねえ」

 

腕を掴んでいる手に更に力がこもった。

 

 

「よう刑事さん。これから俺はどうなるんだろうな」

「知らねえな。俺の上司に聞け」

「おうコワ。俺を捕まえたときもあんた同じ顔してるぜ」

「………」

 

刑事さん…。

 

 

「一つ聞かせろ」

「あん?」

「なぜ俺の親を殺した」

 

これは俺も悩んだ。こんな事聞いたって現状は何も変わらない。両親は帰ってこない。けど、真実が知りたかった。どうして両親が死ななければいけなかったのか。

 

 

 

 

 

 

だが、次に待っていた言葉は俺の予想を遥に上回った。

 

 

 

 

 

 

「ん~…忘れた」

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

「だから忘れたって。そんな殺した人間のことなんて覚えてねんだからよ」

「なん…だと」

「あ、一つだけ覚えてる。たしか…えっとぉ…」

 

 

 

忘れただと…?こいつは殺した人間のことなんて何も考えずに?忘れるくらいどうでもいい理由で殺したのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーそうだそうだ思い出した。お前の両親殺した時は、最高にスカっとしたのは覚えてるぜ」

 

 

 

 

 

バッキィィンッ!!

 

 

 

 

瞬間、俺は椅子から荒々しく立ち上がり、目の前にあるガラスを思いっきりぶん殴った。

相当固いガラスなのだろうけど、俺の拳を入れた場所から大きなひび割れが現れた。

 

 

「九条!!」

「てめえ!ざっけんじゃねえよぉ!!」

「落ち着け九条!落ち着くんだ!」

 

刑事さんは俺を羽交い絞めにし、力いっぱい押さえつけてきた。

 

 

「こわいこわい、今のガキは」

「おいもう面会は終わりだ!連れてけ!」

「は、はいっ!」

「離せよおっさん!あいつぶっ潰してやる!!」

「馬鹿野郎!そんな事しても何にもならねえだろ!」

 

 

俺が押さえつけられている間に、あいつは複数の警官に肩を掴まれて連れていかれた。

 

 

 

「おいお前!待てゴラァッ!」

「じゃあな坊主。またな(・・・)

 

 

 

それにて、面会はお開きになった。

 

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

「ふーっ…ふーっ…」

「よう、落ち着いたか」

「あぁ……少しだけな」

「ったく、暴れやがって」

「暴れるなってのが無理な話だ」

「まあな」

 

あの後俺は、警察署の近くにある大公園に連れていかれベンチに座らされた。俺が荒く呼吸を続けている間に刑事さんがコーヒーを買ってくれたのでそれを一口飲む。

 

 

「刑事さん、あの後あいつはどうなる?」

「あいつはこれから本庁に連行される。その後は裁判なりなんなりだな」

「死刑…か」

「恐らくな。殺した人間の数が数だ。むごい死にざまになるだろう」

「そうか。万々歳だ」

「……なぁ和平」

「あ?」

 

初めて刑事さんに名前で呼ばれた。

 

 

「怒りはあるだろう。恨みもあるだろう。憎しみも悲しみも…。お前は今までに色々なものを貯めこんできた。もう楽になっていいんだよ」

「なんだよいきなり」

「好きな子の為に必死になっているのも知っている」

「…はぁっ!?」

「わざと自己満足の悪者を演じる必要もない。もうお前は解放されていいと思う」

「お、おいおっさん」

 

刑事さんはその場に立ち、数歩前に歩いた。

 

 

 

「お前はまだ高校生だ。人生これからの人間だ、それをこんなことで棒に振るんじゃねえ。青春を恋愛を、学校生活をこれからでいい。桜花してもいいんじゃないのか?お前はもう十分傷ついた。もういいだろ」

「だ、だけどそれをしたら…」

「今までの事が無駄だって?そんな事はない。今までしたことの結果が今のお前を造っているんだ。経験って言ったら可笑しいが、無駄ではない…はずだ」

「…………」

「泣いたっていい。甘えたっていい。これからを大事にするんだ」

「俺は……」

「ゆっくりでいい。元気になってさえくれれば。俺の夢は元気になったお前と一緒に笑いながら酒を飲むことなんだからよ」

「ふはっ…なんだそれ…」

「じゃあな…。俺はもう行く。帰り気をつけてな」

 

 

 

手に持っているコーヒーを一気飲みし、刑事さんはその場を後にした。

 

 

 

 

 

「いいたいことばっかり言いやがって」

 

 

確かに楽になりたいと思っていないと言ったら嘘になる。俺だって元の生活に戻りたいと思ってはいるが無理かなと思っているのが本音だ。自己満足に自惚れて、自分に酔っていた男だ。

 

1人で居ることにも慣れた。苦しいけど悲しくなんてない。

 

 

「人生を…ね」

 

 

けど俺は絵里と約束した。俺が俺を許せるまで、見定めてもらえるまで。じゃないと俺も納得がいかない。

 

 

大学も決まっているんだ。それから俺は自分の罪を償う為に努力するしかないんだ。

 

 

 

 

 

「………もし願いが叶うなら」

 

 

 

全てをチャラにして、絵里の横に立ちたい。

 

 

 

「あの時みたいに」

 

昔の事を思い出すと、目尻が熱くなる。腕で目をこすりベンチから立ち上がる。

 

 

「おいおい、色々納まったからって日和すぎだろ。涙なんか流そうとしやがって」

 

俺に涙なんて似合わないし流してはいけない

もうこれ以上絵里とは関われない。もう少しで卒業だ。我慢しろ。

 

 

「絵里にはまた嘘つきとか言われそうだな」

 

見定めてもらうなんて言ったが、そんなつもりは無い。俺の目標は絵里の前から消えることだから。

変わらないし変えない。絵里が俺を好きだったままでいてくれていても。

 

 

 

「……帰るか」

 

 

コーヒーの缶をゴミ箱に放り投げ俺は家に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何気ない日々は過ぎていき…。

 

 

 

 

面会から3週間ほどが経過した。

 

音ノ木坂の3年生の卒業試験なども終了し、後は自由登校の時期に入った。まだ部活動をしている者、大学に向けて学校にて勉強する者、家で娯楽を楽しむ者などと、己の時間を謳歌していた。

絵里達はラブライブ最終ステージに進み、後は仕上げの段階に入っているらしい。矢澤が披露するステージの順番にて大トリを確保したとかでμ'sの面々の士気はうなぎのぼり。調整を重ねて本番に臨む。

かくいう俺は特に何も。刑事さんから特に連絡もなく、理事長からも依頼の連絡もない。そうなるとやることは大学に向けての準備くらい。

絵里達を見ないのかって?見たくても行かねえよストーカーじゃあるまいし。けど東條から追々近況報告がくるから早く見に来いと言わんばかりに催促してくるんだよ。巫女殿は等々俺に絵里を見せようとしてくる催眠術師にジョブチェンジしようとしているんだよ怖えよ。くわばらくわばら…。

 

 

 

 

 

 

 

ラブライブ最終ステージの前日の夜、東條から電話が来た。

 

 

『来るんやろ?ラブライブ最終決戦』

「いやなんだよそのアニメで出てきそうな最後の戦いみたいな」

『まあ、ウチらからしたら似たようなもんやろ。最後って部分は』

「ま、まあな」

『それで?さすがに来るよね?』

「行くよ。最後だしな」

『優勝、優勝しないを別としてなんやけど、それを最後に君はどうするん?』

「…どうとは?」

『エリチとは、会わないん・・・だっけ?』

「あぁ」

『仲直りしたのに?』

「絵里にも言ったが俺の我儘なんだ。今の俺は絵里の横に立つのは相応しくないんだよ」

『プライド?それとも自己満足?』

「二つだよ。それにもう会うことはない…と思う」

『二度と?』

「かもな」

『ふぅーん…』

「あれ?意外とあっさりと受け入れたな」

『君だったらそう言うと思ったから』

「えっこわ」

『せっかくエリチの気持ちが楽になったのにまた悲しますんだなって思うのもある』

「……まあ…うん」

『まあ気持ちが揺らぐことがこの先あるかもね』

「へ?」

『現に、今までの君はエリチと接触することすら拒んでたのに現にこうなってるんやもん』

「確かに」

『人生何があるかわからないよ?』

「それは俺も思う」

 

 

 

3年になっての4月なんか心のそこから絵里の事を毛嫌いするかのように離れてたのに、今じゃ昔みたいに戻ろうとしてるんだもんな。何が起こるかわからねえよ。

 

 

「けど、今はそう思ってるだけだ」

『世話が焼けるなほんまに』

「うっせ」

『さて、ウチも寝よかな。……あ、せや』

「ん?」

『確かエリチの連絡先無かったやんね?』

「うん」

『いる?』

「いらねえ」

『そっか。じゃあ、エリチが君に言った言伝を伝えるね』

「はい?」

 

 

 

 

 

 

『明日……待ってるから』

 

 

 

 

 

「…………」

『やって』

「ふぅん…」

『じゃ、寝るね。これからの君も見させてもらうね』

「見るんじゃねえ」

『ふふっ。じゃあ、おやすみ』

「おやすみ…」

 

 

通話を切り、ソファに深く座り込んだ。

 

 

否が応でも、これが最後だ。これで俺にとっての終止符を打つ。

 

 

後悔はある。昔に戻って何度やり直そうと思ったかなんて覚えてない。

 

 

 

 

 

 

 

もう、終わりにするんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラブライブ最終ステージ初日。

 

 

 

 

「がんばってねお姉ちゃん!私も夜に会場に行くから!」

「ありがとう亜里沙。お弁当も朝早くに作ってくれて」

「いいのいいの!カツ一杯食べて頑張ってほしいから!」

「中身はカツなのね。なるほど」

「行くまでで怪我しちゃだめだよ。気を付けて!」

「えぇ。ありがとう。行ってきます!」

「行ってらっしゃい!」

 

 

 

 

最愛の妹が作ってくれた弁当を鞄に入れてゆっくりと歩を進める。

今日はラブライブ最終ステージ。全国の猛者たちが集まる戦の場。私はこのステージで今までのものをすべてぶつける。楽しかったこと、辛い事、苦しかったこと、すべてをぶつけて私は、私たちは頂点に行く。

 

そして、和平と…やり直したい。きっと彼はステージを見に来てくれる。これを終わらして…私はあの時からの彼との時間を取り戻す。

 

 

 

 

「ふぅ…んっ!」

 

パァンッと頬を両手で叩き気合を入れる。

 

 

 

 

「よし!行きましょうかね」

 

 

 

会場に向けて歩を速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろから誰かの腕が伸びてきて、口元にハンカチらしきものを当てられた。

 

 

 

 

 

 

「んっ!?んーーー!んーーー!!」

「へっへっ…落ち着けよお嬢ちゃん。あのガキを呼び込む餌にするだけだからよぉ…」

「んんんっ!!?んんんんっ!!!………んんっ……」

「ヒヒッ…」

 

 

 

 

私はそのままそこで意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピリリリリッ

 

 

 

「んんっ……ぁあ?」

 

 

スマホから流れる音楽によって目が覚めた俺は、寝ぼけた目を擦りながら画面を見た。

 

 

「誰だ……刑事さん?」

『和平!今どこだ!!』

「はぁ?家だけど……」

『よし!お前は絶対にそこから動くなよ!何がなんでもだ!』

「いきなり電話をかけてきてうるせんだよなんだよおい…」

『ついさっき俺の部下から連絡があった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連続殺人犯の…垣田幸三が刑務所に輸送中に脱走した!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

『いいか!?何かあったらすぐに連絡しろ!』

 

 

それだけ言い残して刑事さんとの電話が切れた。

 

 

 

 

 

 

 

は?嘘だろ…なんであいつが?いや今はそんな事考えてる場合じゃない。とりあえず戸締りをして…。

 

 

 

 

 

 

ピリリリリッ

 

 

と、また電話が鳴った。今度の電話は東條からだった。

 

 

 

 

 

「と、東條か。どうした?」

『九条君エリチ知らない?集合時間になっても来なくて…』

「絵里が?電話したのか?」

『ううん。電話にも出てくれへんの』

「あいつも遅刻することくらいあるだろ…」

『今からエリチの家に迎えに行こうかって考えてるんやけど…』

「まあ、もう一度電話してから……で………」

 

 

 

 

 

待てよ。あいつの脱走、絵里の遅刻…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『九条くん…』

「東條絶対そこから動くな!他の奴らも動かすな!!」

『え!?急になんで!?』

「俺が絵里をそっちに届けるから!絶対に!」

『そ、それはええんやけど急になんで…』

「切るからな!」

『ちょっと九条く…』

 

 

 

希の返答を聞きもせず俺は通話を切った。

 

 

 

 

「くそが!!なんで今日に限って!!」

 

今は冬だ。集めの服を着込んで俺は家を飛び出した。

 

 

 

 

 

ピリリリリッ

 

 

 

 

「ちっ!またかよ今度はだ…れだ…」

 

 

 

画面には非通知と表示されている。

 

 

 

 

「……」

 

考えもせず通話ボタンを押した。

 

 

「もしもし…」

 

 

 

 

 

 

 

『よう元気か坊主?ちょっとお話したくてなぁ…』

 

 

 

耳から聞こえてくるのはあの聞きたくもないクソ野郎の声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奇遇だな。俺もだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歯車にヒビが入る音がした。




急展開。お許しを。

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