最低で最高の   作:優しい傭兵

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1人

現在時刻、午前7時。

 

 

 

 

「んん……」

 

 

窓から差し込んでくる光によって目が覚めた俺。目覚ましを掛けた意味がなかったな。

 

 

「そうか……俺も3年生になったんだったな…」

 

寝ぼけた状態で目覚まし時計に書かれてある日付と、壁に掛けられてある制服を見て再認識した。こう考えると早めに起きたのは正解かもしれないな。

 

 

「飯食って準備するか」

 

 

 

布団から体を出し、上に向かって体を伸ばす。すると体の節々からゴキゴキッといい音が鳴る。確かこれってなっちゃいけない音なんだっけ?知らないけど。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様」

 

 

一人でリビングにて取る朝食。まあ長いことやっていると慣れたもんだな。どれくらい?3年くらいたってるんじゃねえかな。

 

「3年か…」

 

 

そうか。3年というと『あの頃』からも3年たっているのか。いやはや時間がたつのは早いな。けどそれを考えると心がいつも苦しくなる。いくら時が過ぎて行ってもあの頃の罪は消えることは無い。

鮮明に思い出してくる。手についた血、醜い自分、悲しむ彼女、戻ることのない時間。

 

 

「はぁ……」

 

 

ダメだ。こうなると気が滅入ってしまう。これからが最後の高校生活だろ。こんなスタートでどうする。

 

 

 

「学校行くか」

 

 

シンクに皿を置き、地べたに置いてあった鞄を肩にかけ玄関を開ける。

 

「行ってきます」

 

 

 

誰も居るはずのない場所(・・・・・・・・・・・)に言葉を飛ばし俺は玄関をゆっくり閉めた。

 

 

 

 

***

 

 

 

俺が通っている学校は元々女子高だった『音ノ木坂学院』という国立の高校。元々女子高って言うのは俺が1年生の時に共学になったからである。生徒数をどうにか稼ぐためにとった手段ってことだろうな。

ちなみに俺は部活にも入っていない。別にスポーツが嫌いって訳でもないが、特にやりたいスポーツがないってだけだ。いや、『やれない』の間違いかもな。

 

 

ピロンッ

 

 

「ん?」

 

ポケットに入れてある携帯が震えたので手にもって画面を覗いてみる。

 

 

 

『今日から3年生か。何かあったら連絡しろよ。今晩飯でもおごってやる』

 

 

 

「………親かっての」

 

『ありがとう』

と、返信をしてポケットに携帯を入れた。あの人はいつもこうだよな。どこまでも俺のことを心配してくれて、どこまでも大切にしてくれる。こんな人中々いないぜ?

こんな『悪者』心配してなんになるってんだよおっさん…。

 

おっと、こんなこと考えてたらぶん殴られそうだ。

 

 

 

 

 

少し歩いて階段を昇ればそこには立派な校舎があった。そう、ここが俺の学び舎。俺の数少ない俺でも入れる場所みたいな感じだな。

 

 

 

 

――おい、あいつ来たぞ――

――やっぱり来るよな。気持ち悪い――

――なんであんな人がこの学校にいるのよ――

――先生たちも何考えてるの?――

 

 

 

「あ?」

 

いつも通りだ。軽く威嚇すれば陰口を叩いていた奴らはその場から退散する。ったく、逃げるなら言わなければいいのによ。

ま、こんなことになったのも俺が悪いんだけどさ。自覚ないけど。

 

 

 

「よくあるよな。友達はたくさん作りなさいって。意外と一人でも生きていけるぜ?小学校の頃の校長先生さんよ」

 

 

見てわかる通り、俺には友達がいない。別に居て欲しいわけでもないし、居なくちゃいけない理由もない。1人の方が色々と気が楽だからな。あ、友達らしき奴らはいるけどな。2人ほどだけど。

 

 

 

「さてさて、俺のクラスはどこかな~」

 

学校の昇降口にある掲示板には今年のクラスの一覧が張られてある。人が一杯…ごみのようだ。

だが、そんなところ俺にとっちゃどうってことない。俺が歩を進めると掲示板の前にいた連中は俺に道を譲るかのように離れていく。おう、苦しゅうないぜ。できるならその睨んでくる目をどうにかしてくれ。

 

 

 

ピロンッ

 

また連絡。画面を除くとそこには2つのメッセージが。

 

 

『一緒のクラスやね!よろしく!(^^)!』

『一緒のクラスよ。感謝しなさい(/・ω・)/』

 

うぜぇ…。特にこの(/・ω・)/が腹立つ。

 

『おう』

と軽く返す。

 

 

「あいつらと同じクラスかぁ…いいような悪いような」

 

一応自分でも確認。出来ることなら『あいつ』とは一緒にならないでほしいかな。

 

 

 

 

 

 

だが、その願いは叶わず…。どうやら神様は相当俺のことを気に入っているみたいだ。いやがらせかってぐらい俺の都合通りに事は進んでくれない。くそったれが・・。

 

 

 

 

3年Ⅲ組。

 

絢瀬絵里

九条和平

 

 

 

やれやれ…。先生も最低だな。なぜあいつと俺の間に他の名前のやつをいれなかったんだ。『あ』行と『か』行だぞ。『い』だの『お』だのそこから始まる名前のやつはもっといるだろうに。いじめか?いじめだな。うん、決定。

 

 

 

 

今年は最低で最悪な一年になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

書かれてあるクラスに足を踏み入れると、全員俺の方に目を向けすぐに逸らしだす。あからさまだなお前ら。見るならもっとわかりにくくしろよな。

 

黒板に書かれてある通りの座席に腰を下ろす。おっ。嬉しいことに窓際の一番後ろだ。この席好きなんだよな~。

 

今の時間は8時50分。3年生になって初のSHRは9時から。少しだけ時間あるからネット小説でも見ておくか。ラノベも好きだけどこういった創作物語は大好きだ。今日は何読もうかな。

 

 

 

『絢瀬さんおはよう!』

『絢瀬さんおはようございます!』

「えぇ、おはよう」

 

ん?

 

 

目だけ視線を動かすと、教室の扉の前でちょっとした塊ができていた。その中心に立っていたのは…。

 

 

『絢瀬絵里』

この学校の生徒会会長にして、スタイル抜群容姿端麗運動神経抜群最強無敵。この学院の人気者。

 

 

 

そして…俺が裏切って捨てた少女。

何時からだろう、あいつが俺と顔を合わせなくなったのは。何時からだろう、あいつが喋らなくなったのは。何時からだろう、あいつが俺に笑顔を見せなくなったのは(・・・・・・・・・・・・・・)

当然って言えば当然だよな。俺はこの少女に一体何をした?傷つけた?苦しめた?泣かせた?そんなチャチなもんじゃない。彼女からしたら俺は苦しめたいほど憎んでいる人間。最悪のどん底に陥れた最低な男。そんな奴に笑顔どころか顔を合わせることすら無い。

『愛する人間からされた屈辱は消えることは無い。』

悪いな絢瀬絵里。俺はあの時、『あのやり方しか知らなかったんだ』

 

 

 

名前順番で言うと俺の前の出席番号になるから必然的に俺の前の席に座ることになる。こちら側に歩を進めてくると自然に俺と顔が合う。

 

 

「よっ。よろしくな」

「…………」

 

予想通り、彼女は俺に声をかけることなく席に座る。悪いな後ろが俺で。俺も出来ることなら離れて座っていたいんだがそう上手くいかなくてな。

 

 

 

 

ピロリンッ

 

 

 

『予想通りやね』

『当たり前だ。早く席替えにならねえかな』

『無いね』

『だよな』

 

 

 

 

なんだか小説読む気も失せてきたからクラスの担任が来るまでボーッとしておくか。

 

 

『これ以上あの時のことや彼女の事を考えると吐きそうだからな』

 

 

 

 

***

 

 

 

 

新学期なんか単純だ。クラスの担任が挨拶して来て軽くクラス全員の自己紹介。そして最後に長々とくだらない校長の話を聞く朝会に参加しなければならない。楽しさの欠片もないから退屈になる。

俺が自己紹介の順番になると誰も俺の話を聞こうとしない。聞きたくもないんだろうな。だから『九条和平です。よろしく』とさわやか男子を演じて軽く自己紹介したよ。全くともって意味なんか無いんだな。

クラス全員+クラスの担任ですら耳傾けないんだぜ?おい、いいのかよ先生。生徒の味方をするのが先生の仕事だろ?俺にも助け船出してくれませんかね?無いな。うん…。

 

俺は全校朝会は出たりしない。出たら周りから俺の悪口陰口の罵詈雑言を聞く羽目になるからな。だから出なくていい行事やそういったものはサボるに限る。さすがの教師もこんな大勢の人間の中から俺だけピンポイントに探し出すのは無理だろうからな。

 

 

俺のサボり場所は音ノ木坂の屋上。広々とした空間で気持ちい風を体いっぱいに感じられるから俺は好きだな。

 

 

「はぁ…しんど」

「お疲れのようやね?」

「あ?」

 

声を掛けられた方に体を向ければ、そこには長い髪を二つに纏め、紫色の髪を靡かせて近づいてくる人間がいた。彼女は音ノ木坂学院の副会長にして俺の理解者の1人でもある『東條希』。特徴はこの学院随一のメロンを装備しているのが特徴だ。どこがとはいわん。察してくれ。

 

 

「おい良いのかよ副会長がここにいて」

「ちょっとお手洗いに行くってエリチに言ってるから大丈夫やで」

「嘘がお上手で」

「君には負けるよ」

「いってろ」

 

柵に寄りかかっている俺の横に並んで腰を下ろす彼女。彼女もここが気持ちいのか全身を伸ばしてストレッチをする。

 

「ん~~!」

「お疲れのようだな」

「生徒会副会長とはいえ、書類整理とかいろいろしとるんよ?」

「ご苦労さんなことで」

「誰かさんの機嫌も直したらなあかんしな」

「……ノーコメントで」

 

このタヌキめ…。

 

 

 

 

 

 

 

「それで?」

「ん?」

「これからどうするん?」

「どうするもこうするもねえよ。いつも通り、俺は1人だ」

「仲直りはしないん?」

「それ本気で言ってるのか?できるならしたいがもう手遅れなんだよ。あの3年前からずっとな」

「救われへんね…九条君」

「どっちにしろ覚悟はしていたんだ。愛する者のためなら俺はどんな悪にだってなってやる」

「偽善者って思われるよ?」

「勝手にしろ。それでもかまわない」

「ほかの人らは知らないのに、事実を、真実を、過去を。何にも知らないくせにどうして九条君がこんな目に「東條」っ…」

「それ以上言うな。過ぎたことを嘆いてもどうにもならない。あるのはこの現実だけだ。あの時だってどうすることもできなかったんだ。俺も、絵里も、そして『俺の両親』でさえもな。烏合の衆になって陰口しか言えない奴らに知ってほしいとも思わない」

「でもっ…それでも…」

 

 

お前は優しいな。高校からお前と友達になって2年ほどの付き合いなのにずっと俺の事考えてくれてさ。

 

 

そうだ。俺がどうしてこんな目になっているのかを知っているのは片手で数えるほどしかいない。学校の奴らも、教師も、そして…絵里も知らない。3年前にあったあの事件(・・)がすべての始まりだった。どこで選択肢を間違えたか、どこで道を間違えたのかも分からない。あの過去を思い出すと蘇るのは苦いってものじゃない。心がぐちゃぐちゃになりそうで、頭がガンガンして、気持ち悪い。恐らく普通の人間なら耐えられない重みだろう。こうやって正気を保っている俺の方がおかしいぐらいだ。正気の沙汰じゃないほど狂っている。

 

 

 

 

 

 

 

そうだな。ここいらで俺の物語を読んでいる貴方に語ろうか。こうやって何度も出している3年前での出来事とは何なのか。悪者とは、狂っているとは、絵里と一体どんな事があったのか。

 

 

 

そして。

 

 

 

 

俺がどうしてこんな人間になったのか(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

物語を少しだけ遡ろうかな。

 

 

 

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