「和平。心配しないで、私は大丈夫だから」
「私はずっと和平の味方だから」
「和平の事信じてるから」
絵里が俺の為に言ってくれた言葉。今でも心の中で生きている。
それを裏切る行為がどれだけ愚かでどれだけくそったれの事だろうか。人でなし?違うな。俺こそ完全なクズ野郎だ。
まあやるからにはとことんクズ野郎を貫き通してやろうじゃねえか。
やべ自分でそう言うとクソだせぇ…。
さて、前に言った通り絵里を助けるには全員の標的を俺に向けさせる必要がある。中学生の話題なんか新しい物になるたびにそっちの方に移動するもんだ。話題として「最近のドラマでさぁ~」となっていたとしても学校に新しい先生が来たら一時的だがそっちに話が移っていく。簡単だ。
一時的なら意味がなくないかと思うが違う。
テレビやアニメとかそういった『今のブーム』っていうものってどれぐらい尺を保つ?まあ本当に言葉通り一時的だ。次へ次へとかわっていくはずだ。
これはインパクトの問題だと俺は思う。
例えば『学校に隕石が落ちてきた』とかだったらどうだ?インパクト通り越して歴史になるぞ。うんこれはダメだ。
とまあ、こんな感じに周りのやつらの頭の中に印象付けるぐらいのインパクトが必要な訳だ。
けど種類による。
俺の目的は『俺に目を向けさせるために、彼女を裏切り、彼女から遠い人間になればいいんだ』だ。
そうなると彼女を苦しめるほどの裏切りにはどうしたらいいか。
全員がいる目の前で絵里の目の前で裏切ってやればいいわけだ。
さて、下準備にかかるか。
***
翌日。
この日は新しい噂が学校中に流れていた。
『九条和平は絢瀬絵里を巻き添えにするつもり』
『自分の罪悪感から逃れるために絢瀬絵里を犠牲にしている』
『絢瀬絵里は九条和平に脅されて味方をしている』
といった絵里が可哀想な状況となっている情報が流れている。勿論これを流したのは俺だ。手段は簡単。前にシメてやった奴を再度呼び出して練った作戦。あいつ俺に呼び出し喰らった時の顔最高レベルに死んでいたな。大丈夫だってとって喰いやしないんだからさ。
流石にその日だけで状況が変わることは無い。周りのやつらが絵里への対応は少しだけ変化した程度。だがこれでいい。この噂によって絵里の印象がほんの少しだけ変わればいい。
「もう少しだ…もう少し」
まだだ。まだ。タイミングが大事だ。今のままでは大したインパクトになりはしない。
少しだけ怖い。この作戦が上手くこのまま進んだとしよう。その時は俺の精神は…心は無事なのだろうか。いや、こんな事をしている時点で正気なんか保っていないだろう。正気じゃない。狂っている。すでに狂っているからこんなバカげたことができるんだ。こうしようとしたのは誰だ?お前が自分で決めた事だろ。
「こんなところで怖気づいてんじゃねえよ馬鹿野郎が」
狂っているなら狂っているなりにやりとげて見せろよ。
・
・
・
それから2週間ほど。
俺が自ら流した噂にも変化があった。
『絢瀬絵里は九条和平に無理やり付き合っている少女』
『九条和平は絢瀬絵里にしがみ付いて助けを乞うている』
『自分だけいじめられる対象になるなら彼女である絢瀬絵里も道連れにしてやると考えている』
色々と勘違いや己の考えが絡み合った捏造が噂となって這いずり回っている。ここまでは予想はしていなかったがまあ良い。そろそろ頃合いだ。
さあこれを読んでいる貴方。この俺の最低で最悪な悪者になるところを見ていてくれ。
・
・
・
「和平!」
「ん?」
ある日の放課後。まだクラスのほとんどがいる中で絵里は俺に大声で問いかけてきた。
「あの噂についてなんにも思わないわけ!?この人たちにいじめられるのが目に見えてわかっているのに!!」
「……」
いじめている本人がいる中で吠える絵里。全員が俺たちの方へ視線を向ける。
「そうだな…俺は両親を殺したりなんかしてない事がきっかけでこんな事になっちまったな」
「だったら!」
こんな事になっているのになんでそんな平気なツラをしていられるんだと言いたそうだな絵里。そんな悲しい顔するなよ。
「けどさ、絵里を巻き添えにしようとしてたのは本当だぞ?」
「……え?」
俺の言葉はどうやら核爆弾より効果があるみたいだな。立った一文言葉として発するだけで全員静かになるんだぜ?こりゃひでぇ。
「ここにいる奴らにも聞いてやるよ。確かに誰も俺が両親を殺してないって言葉を信じる奴は一人もいない。それはなぜか?真実を知っていないからそういう事ができるんだ。それをお前らは『自分のやっていることが正しい』と言わんばかりに俺を潰そうとしている。だけどさ?もしお前らが俺と一緒の状況になったら耐えていられるか?誰かに助けを乞うとは思わないか?」
俺の言葉を聞いたクラスの連中はヒソヒソと喋りだす。
『え?どういうこと…?』
「何言ってるんだこいつ…』
といった感じだろどうせ。
「絵里は良い奴だよな?俺がもういいって言っても俺の事助けてくれるんだ。こんな女の子いないぞ?」
落ち着け俺。感情的になるな。昨日夜に静かに予行演習したはずだろ?冷静に…クールにだ。
「だからだ。俺を助けてくれるならとことんそうしてもらおうってな。親が死んだんだ。正気を保っていられるかお前ら。助けてほしいよな?同情してほしいよな?共感してほしいよなぁ?」
俺の問いに顔を暗くする奴らが増えてきた。絵里なんて顔面蒼白だ。
「絵里は俺の彼女だ。彼女が彼氏に味方するのは当然だろ?いじめられてるときはそりゃ辛いわ。心がぐちゃぐちゃになって可笑しくなりそうだ。笑えるくらいになぁ!」
よぉーしよぉーしいいぞ。このままだこのまま。
「和平…どういう…」
「ん?そのまんまだ。絵里には俺と一緒に道連れになってほしいんだ。俺の彼女だろ?俺に味方は普通だろ?」
「そ…そうかもしれないけど…さっきの言い方だと…」
「利用するっていいたいのか?その通りだ。絵里を俺は利用したんだよ」
「っ!?」
「道連れ?だっけ?噂では。まああってるな。どうせここで俺がいじめないでって言っても信じる奴はいないだろ?むしろ勢いが増すだけだ。いったところで意味がない。なら考えを変えたんだ。一人だと辛すぎるからなぁ…絵里にも一緒に落ちるところまで落ちてもらおうと思ってな」
「なっ!?」
『え?じゃあ噂って…』
『まじかよ九条グロすぎるだろ』
『最低…クズだ』
あー…心痛いな。ははっ…もうすぐ心も壊れそうだ。
「絵里と付き合ってたのも点数みたいなもんだ。小学校からの付き合いで絵里はどんどん綺麗になるだろ?狙わない男なんかいないって。だったら俺のものにすれば完ぺきだろ?」
違う。と俺の心は否定している。絵里をそんな目で見たことは一度もない。
「しかも絵里は優しいから、すぐに俺の味方になってくれると思ったよ」
違う。絵里は誰にでも優しいやつだ。
「絵里は扱いやすいから最高だ」
違う。絵里にはこんな目にあってほしくないんだ。絵里が傷ついていいことではないんだ。
「絵里が一緒にいてくれるから俺はまだ正気でいられる。絵里は俺の仲間だ」
違う。絵里を巻き添えにしたくない。傷つくのは俺一人でいいはずなのに…。
「絵里なら俺についてきてくれるよな?」
違う!絵里は俺から離れるべきなんだ。じゃないと俺のような最悪な存在になってしまう。お前はここにいちゃいけない。俺から離れるべきなんだ。
絵里の瞳から涙がこぼれた。
「じゃあ…私と仲良くしたのも…」
「お前が一番都合がいいと思ってな」
「私と付き合ったのも…」
「点数稼ぎみたいなもんだ」
「私に大丈夫だと言ってくれたのも…」
「そうしないと絵里は俺に付いてきてくれないだろ?」
違う…違う違う違う!!俺は…こんな事は一切!!!
「私を好きだと言ってくれたのも……」
「最初は好きだったけど今は全然。都合のいいただの女だ」
この時に歯車はイカれちまったんだろうな。
「今までのは……嘘だったっていうの!?」
「嘘も何もねえよ。お前が信じたんだろ?」
「私は…貴方を信じていたのに!!」
「お前が勝手に俺を信じただけだ」
ここで「はい冗談でしたー!」って言えばどれだけ楽だろうか。自ら悪者になるってここまで苦しくて辛いものなんだたっとはな。
自らした事を肯定し彼女の言葉を否定し、自分の周りにあったものをすべてを叩き潰した。
彼女の信頼、想い、愛情。そして自分の今までの思い出、これからの彼女と居られる未来を消し去った。悲しいとか辛いとか言っていられない。これからはこの『最低で最悪な悪者』を演じ続けるのだ。誰も助けてくれない、誰も頼れない、誰も信じることを許されない存在に。
そして絵里はその重くなっている口をゆっくりと開いた。
「もういいわ…お願い…」
涙でボロボロになっている顔で俺を睨みつける。しかもその目は今までの俺を見る目じゃない。憎み、軽蔑し、敵視し、拒絶する目だ。
「私の前から消えて!!今すぐに!!」
彼女の言葉が俺の心に突き刺さる。魂からの言葉だったからかその棘は心に深く深く突き刺さる。
どこで道を間違えたんだろうな。俺はただ彼女を守りたかっただけだったんだけど、まさか結末がこんなことになるとは思わなかった。
パァンッ!
そして次の瞬間、彼女の平手打ちが俺の左頬に炸裂した。
痛い…。いままで男同士の喧嘩なんて沢山してきたから殴られたりの痛みなんて慣れているものだと思っていた。
だが、この一撃は今までの攻撃の中でダントツトップの痛さだった。
物理的な痛みもあるけど、心の方がすごく痛かった。ズキズキして苦しくなって…訳が分からなくなるほどだ。
・
・
・
ここで俺は色んなものを失い、ある役目を担うことになった。
これからは『最低で最悪な悪者』としての役目を全うしよう。
これはケジメでもあるんだ。何かを守るためなら何かを失う覚悟はできていたんだ。
絵里を守るために今までの『俺』という存在を自ら消し去った。
これからは全員の嫌われ者の『九条和平』として歩んでいこう。これは自分で行った愚行の償いだ。誰にも助けを求めてはいけない。誰にも頼ってはいけない。お前がしたことを全て背負わなければならないんだ。己のした事をなくすことはできない。ずっとそれを胸に秘めてこの新しい道を突き進むんだ。
「泣かないって…決めたのにな」
ベットの上で横になり、目元に手を当てながらボソリと呟く。
目から涙がこぼれシーツにしたたり落ちる。
泣くんじゃねえ。てめえが決めた道だろ。決めたなら突き進め…。
そして、俺は今までにないくらい涙を流した。新しい自分になるために…。
これが事の顛末だ。
これで『最低で最悪な悪者』の完成だ。
書いていてすごい胸が痛いのはなぜだろう…。