「ったく・・・マジかよ…」
なんだって俺がこんなもの・・・しかも生徒会室までもっていかなければならないんだ。それに東條も東條だ。なぜ行き先が生徒会室だといわなかったんだ。どうせあいつのことだ。俺と絵里との寄りを戻すきっかけにでもなってほしいと思ってしてくれたのだろう。ひどい事を言ってしまうが余計なお世話だ。余計な気を使わせてしまった俺の落ち度だ。
「ちっ…くそったれが」
つくづく嫌になる。こんな自分が。
「どうすんだよこれ・・・今から運ぶ気にもなれねえぞ」
だけどここでやーめたって言うのも希の頼みを断る形になるから無下にもできない。結局俺は絵里のいる生徒会室に持っていかなければならないのだろう。
「そうだ。すぐに置いて消えればいいだけじゃねえか。サルでもわかる」
行くとしますか。生徒会室へ。
***
「はぁ…」
生徒会室の扉の前に到着すると自然とため息が出てしまう。今までの中でダントツに緊張してるんですけど。何?俺は今から面接でもするの?会社への面接タイムか?嫌だよそんなの。今から顔を合わせてしまう面接官の顔なんて5秒も見つめられねえわ。
落ち着け・・・落ち着け。別に緊張する必要はない。すぐにトンズラしてしまえば万事OK。
いざ、闘いの場へ!1人で何やってんだろ恥ずかしい。
コンコンッ
「………」
コンコンッ
「………」
コンコンッ
「………」
コンコンッ
「居ないのかな………」
それはそれで好都合だ。さっさと終わらせてしまおう。
「失礼しま~す」
片手で資料を持ち、もう片方の手で生徒会室へのドアノブをひねり中に入る。
先に顔を覗かせると予想以上の光景が目に入った。
「・・・んんぅ・・・・・・すぅ……」
机の上で両腕を交差させ、そこを枕にして寝ている音ノ木坂の生徒会長、絢瀬絵里がいた。寝ているその近くには大量の書類。内容を見る限り今度の学園祭での提示案。後は各部活動での書類と学校存続のための書類。なるほど…こいつもこいつで大変なんだろうな。考えつくのは、μ'sとのガチンコ勝負と、理事長にダメ出し喰らってるんだろうな…これを見る限り。
「大変だね~…どうも」
「んん……にゅぅ・・・・・・」
久々にこいつの寝顔を見た気がする。綺麗な金髪に、長い睫毛。整った顔に抜群のスタイル。変わっていない。あの頃から何も・・・。いや、変わっているところはまた一段と大人の女性に近づいた。今でも思う、やっぱりこの人は俺の近くにいるよりもっと素晴らしい男性の近くにいるべきだ。
「ったく・・・・・・一人で無理するなって昔にも言ったけどな…。悪者の話は聞かねえのは当たり前か」」
今だけはこれくらいは許していただこう。
右手を伸ばし、絵里の頭を優しく撫でた。変わらない金髪の触り心地・・・。俺は絵里の髪が大好きだった。長く・・・光輝くこの金髪がとても大好きだ。
「んん……ふふっ・・・・・・」
「にやにやしやがって・・・頼むから起きるんじゃねぇぞ…」
懐かしいな…。昔はこれが普通だったな。もうあの頃には戻れないのはわかってるはずなのに。
それならこれが最後だよ神様・・・。せめてこれだけするのを許してください・・・。
どうせもう俺達が分かり合う事は…一生ないのだから。
「っ!・・・何を考えてんだ俺は…。さっさとここから消えるとしよう」
資料を机の上にそっと置き、絵里に背を向ける。
「じゃあな絵里」
ドアノブに手を掛け俺はその部屋を後にした。
「んんぅ・・・・・・今のは……誰?」
・
・
・
「エリチ~ただいま~」
「あら、希お帰り」
「ごめんなこんな遅くなってしもうて。山田先生と話してたんよ」
「いいわよそれくらい。あと、希に聞きたいことがあるのだけれど」
「なぁん?」
「さっきの事なのだけれど、誰か生徒会室に入ってきていなかったかしら?」
「え?どうして?」
「いや、可笑しい話なのかもしれないのだけれど、ちょっとさっきまで寝ちゃってて、寝ぼけている状態で起きたときに生徒会室の扉が閉まった音が鳴ったのよ」
「ふむふむ」
「それがついさっきの事なのだけれど、希知らないかしら?」
「ん~、気のせいとちゃう?ウチもついさっき来たばかりやし・・・」
「そ…そうよね…。ごめんなさい、忘れて頂戴」
「ま、エリチも疲れてるってことやね。今日はこれくらいにしたら?」
「そうね…お言葉に甘えるわ」
「じゃっ!久々にクレープ食べに行こ!甘さ大切!」
「いい案ね。そうしましょう」
「全は急げぇ!」
気のせい・・・なのかしら。なんだか、変な心残りがある。確信はない。証拠もない。
けど、どうしてだろうか。ほんの少しの間しか寝てないけど
例えるなら…両親に頭を撫でられたような…そんな気がしてならない。
まさか…?いや、そんな訳がない。今更過ぎる。もうなんの関係もない。私は許さない。あの人を、今も、これからも…。
「エリチ、顔怖いよ…?」
「あ・・・ごめんなさい。ちょっと考え事していたわ」
「もう、このおバカちゃんめ」
「きゃうっ」
希のチョップが私の頭にヒット。
「今は学校関係のことは考えたらあかんよ。禁止!」
「わ、わかってるわよ」
「そういうことやからクレープはエリチのおごりで!」
「えー!?なんでなのよぉ!」
「えへへっ!」
もう、そうね。今は学校の事もあの人の事も考えるのはやめましょう。
「行きましょうか」
「いこいこ!」
九条和平のことなんか・・・・・・。
***
絵里のいる生徒会室を出た後に理事長室に向かった。
「・・・・・・・・・」
何時ぶりだ。絵里に触れたのは。まあ勝手に俺が触っただけなんだが。
後一年、後一年だけ堪えればいいんだ。そうしたら俺はここから、東京から消えればそれですべて楽になる。俺さえ消えればあいつもこんなクズ野郎を覚えなくて済む。
最後に、絵里に触れれてよかったのかもな…。
コンコンッ
「はい」
「邪魔するぜ理事長」
「あら、和平君」
「例の件の事なんだが」
理事長室に入ると目の前にいたのはこの音ノ木坂学院の理事長こと、南理事長。風の噂で聞いたが現2年生の南ことり?だったかな。その母親らしい。そして、俺のおふくろの親友。あの悲劇からここに入学できたのはこの人のおかげでもある。感謝しても足りないかもな。
「進学のことかしら?」
「ああ。この音ノ木坂からでも遠くの大学には行けるのか?」
「いけるわよ。関西でも四国でも」
「その場合、願書とかも取り寄せてもらえるか?」
「大丈夫よ。そこは私がなんとかしてあげるから」
「悪い。迷惑ばかりかけてる。この学校の廃校の件も大半は俺が原因なのに」
そうだ。音ノ木坂は廃校の危機に迫ってきている。だから絵里は生徒会として生徒を増やす算段をつけようとしており、μ'sもそれを機に生まれ、生徒を集めるべく努力し続け、今絶大な人気を誇り始めている。そして文化祭が決まると同時に1週間前に生徒会との戦いが勃発。生徒会、絵里はμ'sを認めなかった。ダンスにキレがない。素人、遊びに見える、生徒が集まる可能性がないと。そして絵里たち生徒会でも文化祭を十分に使った生徒を集めようとする案を理事長に提出しているがそれも認めてもらえずとなんとも難儀なこととなっている。
μ'sは認めて私は認めてもらえないと、絵里からしたら筋の通っていない事となっている。だったらこちらも勝手にやらせていただきますとなっている現状。
これはどちらもこの学校が好きだから起こったことだろう。絵里は祖母の代から続いているこの学校を生徒会長として守る義務があると考えている。μ'sもμ'sで自分たちにできることをするために今戦っているのだろう。
だがそれは違う。
別これは学校自体の問題だ。育っていく生徒になんの罪もない。深く考えすぎているのかもな絵里は。
「そんなことは無いわ」
「は?」
「年々生徒数は減ってきていたのよ。今年去年の話じゃないのよ。貴方が入学する前から・・・そんな話なのよ」
「…………」
「大丈夫よ。貴方が責任を持たなくても」
「だが、雰囲気は悪くしているはずだ。少なくとも・・・」
俺が存在するだけで・・・この学校は。
「和平君」
「あ?」
「君のせいじゃない。それだけは言えるわ」
「……けっ」
「ふふっ、母親そっくりね。そういうひねくれてるところとか」
「ほっとけ。娘の事が大好きな親バカがよ。知ってるんだからな。娘のスクールアイドル活動をひっそり見てるの」
「あら?娘を応援しない親なんているのかしら?これが普通よ」
「ペンライト馬鹿みたいに振り回してるのが普通とは思えねえ」
「親ってものわね。子供がどんな姿だろうとずっと愛してるものなのよ」
「生徒に普通言うかよそんな事・・・」
「貴方・・・だからね」
「やれやれ・・・。んじゃ、要件はすんだから帰るわ」
「そう、気を付けてね」
背を向け、理事長室の扉のドアノブを掴んだその時だった。
「あ、和平君」
「あん?」
「貴方・・・・・・工具は扱える?」
「はい?」
・
・
・
数日たっての夜、俺は音ノ木坂の人工芝校庭に来ていた。
ツナギと工具を揃えて。
「やれやれだぜ…あのおばさんめ」
まあ簡単に言うと。
絵里がμ'sに参加。それと同時に東條も参加。なんでそうなったかは知ったこっちゃないから聞くな。
μ'sの名前の由来のごとく、9人が揃い、完全なるグループに昇華した。そして文化祭の時にμ'sのライブを開催。人工芝でできた音ノ木坂の校庭にてステージを設置。
とは言っても生徒が作った即席のステージだからちょっと心配。一応工事現場での経験を持っている俺が明日のライブの前の最終チェックをしてほしいのが今回のおばさんからの依頼。
この時間帯の理由は、俺が堂々とステージの近くにいると生徒を不安にさせるし、またまた余計な噂が流れるので誰も居ない夜を選んだ。校門を閉める事務の先生には話を通してもらっているからでいる限り早めに済ませよう。
「……ったく、ほんとバカやってるよな」
矛盾過ぎる。自ら絵里から離れたくせに、また自ら近づく。否定しているはずなのにまだ心のどこかで求めている。遠くにいてほしいはずなのに、この前のように近くで触れたいと思ってしまう。関係を持ちたくないのに、このような形でも関係を持っていたい。
ぐちゃぐちゃだ。これも狂っている証拠なのかもしれない。情緒不安定にもほどがある。
離れなきゃいけないのに…どうして俺はこうも簡単にも絵里に向かって歩を進めようとしている。俺はいったい何がしたいんだ?結局あの時の決意はどこにいったんだ。決めたのに・・・決めたのによ…。
「一人で居たいと思っても……寂しいと感じているのか俺は……」
なんだよそれ・・・。
「ふざけんじゃ・・・ねえよっ!」
みっともねえ格好さらすんじゃねえよ俺。決めたことくらいしっかりしやがれ。
右の拳を握り自分の顔面を殴る。
「はぁ……あほらしい…」
とっとと済ませて帰ろう。どうせ明日の文化祭はクラスの屋台や委員会とかそういうのにも参加しねえから、すぐに帰って朝までゲームしてやる。
腰にひっかけている工具腰袋からレンチ類を取り出し、ステージのフレーム部分を確認した。
「やっぱり・・・全然しまってねえじゃねえか。もっと力入れろってんだよ。うわっ。ここなんかネジ入ってねえじゃねえか」
人が乗るんだぞここに。しかも9人。重いとかそういうのじゃねえぞ?こんな事考えるだけで罪に問われるぞ。あ?それは無い?やかましい。
「えっと・・・これは10ミリのアダプターか」
足場のフレームにある六角ネジを固く締め直し、次のネジを発見して締め直しを繰り返す。更に入っていないネジ部分を付けなおした。なーんでこういうところを疎かにするかねアホどもめ。地面を固めねえとこけるだろそれと一緒だぞ。
「ふっ・・・!ふっ・・・っしゃできた。これでちょっとやそっとじゃとれねえぞ」
後はステージのフロア部分の確認かな。
「ん~……ここらへんは無いかな?後は明日の奴らに任せよう」
レンチ類を工具袋に入れ、軽く深呼吸をする。
「さて……帰るか」
こんな形じゃないと力になれないのは色々と面倒だが仕方がない。俺は俺なりのやり方でこの先を進んでいくしかない。こんなところ他のやつに見られたりしたら元も子もない。
アホしてないでさっさと済ませて退散しましょうかね。
この時点で遅かったのだろうな。
「九条和平」
俺の後ろから声が飛んできた。とても低く・・・ドスの聞いた声だった。
そこには、制服姿に身を包んだ生徒会長・・・絢瀬絵里が立っていた。手には、学校に忘れ物をしたのだろうか、手提げ袋を持っていた。
(だからよぉ・・・神様・・・・・・どうしてこういう事してくれるのかなぁ…っ!)
悪運が良いのか俺は?不運を通り越してミラクルだぞこれはよ。こんな運あったらジャックポッド狙えるぞ。
「何をしているのかしら?」
「………少なくとも、悪い事ではない…と思うぜ?」
「信用できないわ」
「だろうな」
「あの頃から貴方を信じたことは無い。今もこれからも」
「知っている」
「またここでも…私を苦しめたいのね。貴方は」
「あぁ…そうかもな。そりゃお前には悪いことしたな」
落ち着け俺。皮肉に接するんだ。取るに足らない相手だと思わせるんだ。
「変わらないのね貴方は。本当に…つくづく…気持ちが悪いわ」
「おぉ、良い事言ってくれるじゃねえか。俺にとっちゃ誉め言葉だ。もっと言ってくれて構わねえぜ」
パァンッ!
ビンタが左頬に炸裂。乾いた音が響き渡った。
「私はあなたを軽蔑する!あの頃から変わらない!私を苦しめてそんなに楽しい!?自分のポイント稼ぎの為に私を利用し、良いように捨てて!私の事を一切信じてくれなかった!やっと私も楽になれた…ハズのなのに…。なんで…今度は私の居場所まで奪う気なの!?もう私を苦しめないでよ!!」
心の叫び…なのだろう。涙を流し俺の胸倉を掴んで言葉を飛ばしてきた。胸が痛い。心がズキズキする。今まで耐えることができたのに俺の体はこんな時に限って弱くなってくる。
ここで謝ったら…一体どうなるのだろうか。元の関係に戻るのか?許してくれるのか?
はっ、何を甘い事を言っていやがる。
んな訳ねえだろ。
「はぁっ……はぁっ…」
「・・・・・・・・・」
「もう二度と…私たちの夢の邪魔をしないで……」
「はっ…夢なんてくだらねえ。そんな事で学校が救えたら苦労はしないんだ。ちっとは考えろ」
「なっ!?」
「スクールアイドルが廃校を救う?廃校を救うって夢がある?バカバカしい…。そんな事で救えるなら今の大人たちは苦労してねえんだよ!!」
「っ…」
「碌に学校経営すらわかってねえお前がそんな事できるわけねえだろ。そう単純じゃねえくらいその頭を使ってもっとよく考えてみろ」
はぁ…と心の中でため息をついた。これが俺の求めていた絵里を大切にしていたものの本性なのだろうか。また俺は彼女を傷つけてしまった。これこそあの頃から変わらない。彼女から離れるためには彼女を傷つけるしかないのだ。
「っ……私は貴方を許さない。絶対に……」
絵里は俺にその言葉を吐き捨てそのまま夜の闇の中に消えていった。
「はぁ……本当に嫌な役だぜ。傷つけることでしか助ける事を知らないなんてよ」
あのまま過ごしていたら今頃どうなっていたのだろうか。誰にも分らない…。
「もう俺は仲の良かったあの頃には戻れない。この薄汚い心と安心できる居場所がない限り…」
これでいいんだ。これで…。これが俺への償いなんだ。
流れ出そうな涙をこらえ、俺は逃げるように学校から走り去った。
凄い滅茶苦茶な気がしますが…気のせいだろうな(・ω・)?
ということでお待たせいたしました。これからも彼の雄姿を見てあげてください。
彼の救われる未来はあるのだろうか…。