最低で最高の   作:優しい傭兵

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これを作っているとき、岡本真夜さんのTOMORROWを聞きながら書いてました。
凄く好きな曲です。多分知っている思いますが、聞いたことない人は聞いてみてください。


雨の中で輝いて

『ありがとうございました!!』

 

 

 

μ's9人…初めて全員揃って歌い、踊りきった『僕らのLIVE君とのLIFE』

これは女神たちが初めて奏でた始まりの歌。ここからが、彼女たちの物語の始まりであった。

 

文化祭で行ったライブは大成功。リーダーの高坂穂乃果を筆頭に、南ことり、園田海未、星空凛、小泉花陽、西木野真姫、矢澤にこ、東條希、絢瀬絵里。各々はライブを見に来たファンの人達を魅了した。

初めのころと比べれば、誰もが見間違える程のインパクトがあった。

 

3人から6人、7人、そして9人。

 

 

最初は大した力は持っていなかった。だが女神の力は日に日にその力を強めた。

このライブは、その片鱗に過ぎない。

 

 

 

のちに彼女たちは、スクールアイドルのトップに立つ存在となるのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

アイドル研究部の部室で、私と希は外に映る夕焼けを見上げていた。

 

 

「エリチ!ライブ楽しかったな!」

「そうね。あんなに楽しく歌って踊れたのは久しぶりだわ」

「あんなに忌み嫌ってたのにな~」

「そ、それは言わないでよ!」

「ま、終わりよければすべてよし?やな」

「えぇ…そうね」

「お?泣いちゃう?」

「泣かないわよ!!」

「にひひ~」

 

確かに私は忌み嫌っていた。けど、彼女たちはそんな私に手を差し伸べてくれた。これは私なりのケジメだ。彼女たちと共にどんな壁すら乗り越えよう。

 

そして私は強くなるんだ。『あの人』なんかに負けないために。

 

 

 

 

 

「九条…和平…」

「ん?エリチどないしたん?」

「あ、いえ、なんでもないわ」

「そろそろ帰る?さすがに疲れたしな」

「そうね。帰りましょうか」

 

 

そう言った瞬間、扉がすごい勢いで開かれた。

 

 

「アイドル研究部さん!!」

 

 

 

 

「うぇ!?」

「どないしたん?」

 

扉を勢いよく開いた彼女…たしか文化祭の実行員の子だっような…。

 

 

 

 

「ほかの皆さんは?!」

「もう帰ったわ。後は私と希だけよ」

「あぁ~…おそかったかぁ…」

「どないしたん?そんな急いで…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ…はぁっ…ごめんなさい!!」

 

 

 

 

 

 

今度は勢いよく頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に皆さんに怪我がなくてよかった~。本当にごめんなさい!」

「もういいのよ。終わった後だし」

「それにしてもそんな事あってんな」

 

彼女に連れてこられた場所は文化祭実行委員会全員が集まる多目的室。そこでも文化祭実行委員の皆に頭を下げられた。勿論私と希は呆然でポカーン状態。

なんとか頭を上げてもらって事情を聴くことにした。

 

頭を下げた理由。それは私たちμ'sがライブをした足場、ステージの事だった。

ステージの主軸になるフレームの建付けに手を抜いていた事だった。そこが緩んでしまえば全部のフレームが外れてしまうかもしれない可能性があったのだ。

 

 

そこで私は聞いた。

 

 

「それはいつ気づいたの?」

 

 

 

私は見た。あの、九条和平がステージの近くにいた事を。ご丁寧に工具とツナギをそろえて。そして彼の頬をはたいた。

私は彼のした事を許せなかった。あの時からずっと、今もこれからも。

まさかそのフレームをいじったのはもしかしたら彼なのかもしれない。もしそうなら黙って見過ごせるほど私は優しくない。私はまだしも、あの頃の戒めか知らないが私の仲間を巻き込むような事をしていたのなら退学覚悟で突撃するつもりだ。

 

 

 

 

「今日のライブが始まった直後です。フレームの繋ぎ合わせを行った係の子が気づいたんです。けどライブも始まったので崩れないか心配で心配で…」

「それは…ちゃんと付けたの?」

「はい…つけたはずだったんです…けど忘れていて…」

「それってもしかしたら……」

 

 

忘れていたのではなくて…九条和平のせいなのでは…。と言おうとした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けど、ライブが終わった後、確認したら不思議な事があったんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不思議?」

「それってどういうことなん?」

「実は、先ほども言った通りネジ類を付けたはずだったんですが、係の子は付けるのをすっかり忘れていたんです。だからライブが終わった後に確認したら、ネジがしっかりと繋ぎ合わさっていたんです」

「え…?」

「それって…付けていた事を忘れていたとかじゃなかったん?」

「私たちもそれを考えたんです。けど明らかに違うことが分かりました」

「違うところ?」

「六角ネジのソケットの形が明らかに違っていたんです。別の色をしていました」

「それって、誰かが付けた可能性があるってことなん?」

「そういう事です。μ'sの皆さんに心当たりは無いですか?」

 

 

ある訳が無い。まず私たちはそっちの方の知識を持ち合わせていない。それにそのステージに欠陥があることも知らない。

一体…誰が…。

 

 

 

 

「まさか……」

「絢瀬さん?」

「エリチ…?」

「あ、いえ…なんでもないわ…」

「と、ということで…私たちのミスで、危ないところだったのを深くお詫びします…」

「大丈夫。誰も怪我なんてしていないから」

「ありがとうな。ウチらの心配してくれて」

 

 

 

 

付けていなかったはずの場所にネジが付いていた?しかも昨日の今日の話だ。そんな都合のいい話があるわけ……。

 

 

 

 

 

「まさかね……そんな事絶対あり得ない。あっても…信じない」

 

 

 

 

 

 

私の心の中で、彼への認識を再確認した。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど…そういうことか」

 

 

 

 

希のポツリと呟いた言葉を耳にせぬまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとうね』

「別に……、誰も怪我をしていないならそれで良い」

『素直じゃないんやね』

「元々理事長に言われた依頼だったんだ。お前に礼を言われる筋合いはない」

『これはエリチ関係やから手伝ったことなん?』

「………どうだろうな。俺も判らねえ」

『けど、エリチは逆に捉えたかもしれへんよ。余計なお世話だって』

「どうでもいい。もうあの時から俺達はお互いを見限ってんだ。今更考えを改めるタマじゃねえよ」

『素直じゃないof意地っ張りやね』

「あん?」

『なんでもありまへんよ~』

「…………こいつ」

 

 

 

でも、心のどこかではよかったと思う自分がいた。代償はそれなりにでかかったが…。

あのビンタがいい証拠だ。絵里はそうそう人に手をあげたりしない。逆に言うと、手を挙げる人物は自分にとってどうでもいいと思っている人間か、はたまた自分が思う最も大嫌いな人間かのどちらかだろう。あいつの中ではまた俺の認知度はワーストにて君臨し続けるだろうよ。

 

その俺という大嫌いな人間でも、やれば怪我をせずに彼女たちを救えたなら御の字だ。

 

 

 

 

 

 

「東條」

『ん~?』

「次のライブはいつだ?」

『今のうちに決まってるのはオープンキャンパスの時かな。リーダー曰く生徒がいるところでもっとライブをしよう!って話になってるから』

「了解。また前日に失礼させてもらうぞ」

『ご自由に。次は色々とぬかりないように』

「おう、あ、あと…」

『ん?』

 

 

 

 

 

 

 

「………絵里を頼む」

 

 

 

 

 

 

 

『ふふっ…。任された!』

「………それだけだ。じゃあな」

『はいはい。またね』

 

 

それだけを言い残し俺は携帯の電話を切り、学校の屋上で横になった。

 

 

 

絵里がスクールアイドルを初めて行ったライブは成功。恐らくこれは学校の廃校が撤回されるまで続くはずだ。その頃までにμ'sが存在しているかはわからない。だからせめてそれまでだ。良い区切りのところまでは手助けをしよう。

 

 

 

「どうせ俺とあいつが一緒に…一緒ではないな。近くに居れるのも今年だけ。その間に大学の内定をもらってしまえすれば良いんだ。内定をもらっちまえばもう自由登校だからな」

 

スマホのカレンダーでオープンキャンパスの日付を確認する。

なるほど、約2週間ぐらいか。

 

 

 

 

 

「そろそろ季節の変わり目だから何もないといいけどな…」

 

 

 

 

 

あそこにもいかないといけないしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【オープンキャンパス前日】

 

 

 

『今回もステージの確認よろしく。アルバイト代はちゃんと出すから』

 

と、送られてきたメール。いやこれアルバイトだったのかよ。時給900もいかねえぞコレ…。

またまたやってまいりました。ステージの事前確認作業(係の尻拭いともいう)。しかもめんどくさい事に雨降ってる状況。時刻は10時。かなりの土砂降り。

 

 

「あのおばさん無茶させるよな…。まあやるって言ったの俺だけどさ」

 

 

 

オープンキャンパスでのμ'sのステージはいつも練習しているらしい屋上。足を運んでみてみたらそこには立派にできているステージ。今はブルーシートがかぶさっているがそこには巨大なスクリーンを設置。なるほど、あそこに何か写すわけな。かなり手の込んだ事していらっしゃる。

 

「まぁ、現に生徒が着々と集まってきてるから学校側もそっちに助力してくれてるんだろうな」

 

 

俺にとっちゃ都合のいい話だ。いつも俺の事をリンチしてくる奴らも今じゃ歴としたファンになってる。俺の相手よりこっちの方が面白いと踏んだのだろう。いい判断だ。

どうせやり返そうとしても俺の責任になるんだから溜まったもんじゃない。

 

 

 

「このイライラごと雨が流してくれれば手っ取り早いんだけどな」

 

 

ぶつぶつ言うのもこれくらいにして俺は作業に取り掛かった。

特に前と変わらない。固く閉まっていないネジ部分を締め直し、足りない部分が無いかを確認。それの繰り返しだ。

だが、今回はそこまで手の込んだ事はしなかった。どこも確認してもしっかりと締められているから手を加えるところもない。ネジの刺し忘れもなし。なんだよ、俺がいる意味ねえじゃねえか。

 

雨で濡れる髪を掻き上げる。あー寒ぃ…家帰ってコンポタでも飲むか。

後はステージのフロアにかけられてあるブルーシートを掛けなおして終了。また風で飛んでいかない様にしっかりと。

 

 

「…っよし」

 

 

今回の任務は終了。流石にあの時みたいに絵里がいない事が不幸中の幸い。こんな時まで見られたらひとたまりもない。それはストーカーだぞストーカー。ん?それはお前?それは口にしたらダメなんだよ。

校門を潜って帰路に付く。どうせ今さら傘を差しても変わらないからこのまま濡れて帰る。

 

 

「はぁ……っべぇっくしょん!!うぅぅ…急いで帰るか、まじで病気になる」

 

 

軽く走り出す。滑らないようにしないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

 

 

 

 

 

 

進んでいると、俺の前にフードを被った女の子が走ってた。なんだ?この子は傘でも忘れたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな呑気な事を言っていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……うっ…!」

 

 

 

その女の子はその場で膝をついた。

 

 

「っ!?おい!!」

 

すぐに女の子の近くに走った。

 

 

「おいあんた!大丈夫か!?」

「へ…?わ、私……」

「ぃっ!?」

 

フードを被っている女の子の顔を覗き込む。その顔を見た瞬間、俺の口から今まで発したことのない声が出た。

彼女を知っている。確か名前は高坂穂乃果。2年生にしてμ'sのリーダーの子だ。いや、だがなんでこんなところに?

 

「はぁっ……はぁっ……」

「おいおい……」

 

紅潮している頬。肩で大きく息をしている体。微かに震えている膝。察するにランニングのオーバーワークと思われる。そしてこの雨の中、流石にこのままずっといるのは危なすぎる。

俺が九条和平だとバレない様に少しだけ声色を変えて問いかける。

 

 

「あんた、動けるか?!」

「す、すみません……ちょっと疲れちゃって…」

「家どこだ…?おく…」

 

送っていくと言いかけた瞬間に口を閉じた。さすがにこれは余計なお世話か?

 

いや、流石にここで黙るのも悪い…。

 

 

 

「送っていく。家はどこだ…?」

「あ…大丈夫……です…動けま……す」

「そんな体調のやつが動けるかよ」

「ご、ご迷惑を……おかけいたしまし…た…」

 

どっちかと言うと俺の方が迷惑をかけているんだけどな。音ノ木坂の害虫みたいなのに…。

 

「失礼……」

「んっ……」

「やっぱり…」

 

額に触れると熱い。かなり無理をさせて動いたようだな。約、37…いや38度あるか無いかか。

 

 

「もうあんたは休め。動くなよ」

「は……はい…」

「それと」

 

作業着の上着を脱ぎ彼女の体にかぶせる。雨で濡れているが多少は暖かいはずだ。

かぶせた後に彼女をお姫様抱っこし、その場から走り出す。軽い、そして柔らかい…てぇ!やめろ俺!犯罪者になるぞ!

 

 

急いでこの子の家に行かないと!!

 

 

「家はどこだ?」

「家は……穂むらっていうお饅頭屋さんです……」

「がってん」

 

できる限り彼女に衝撃を与えない様に走る。ったく、無理するんじゃねえよ。

 

 

 

「私……負けたくないんです…」

「あ?」

「みんなで…μ'sの皆で…学校を救うって……だから…こんなところで負けたくないんです…」

「………」

 

 

 

 

 

 

「学校を………失い……たくないんです…」

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……もう喋るな」

 

 

 

 

これが彼女の……いや、彼女たちの覚悟の姿か。決して負けず、屈せず、落ち込まず、廃校という名の暴挙と戦っている。生半可のものじゃない。これは絵里に言った言葉を撤回しなければならないな。

 

 

 

「お前らだったら……学校を救える光になれる」

 

 

 

俺は人を信じることはしない。だが、彼女たちの覚悟は信じれる。それくらい、俺みたいなクズでも分かる。今は小さな光だが、いつか、太陽のように輝く光になる。そんな気がする…。

 

 

「太陽のように輝き続け、歌う女神たち…。SUNNY DAY SONGなのかもな」

 

 

 

 

 

だからだ。

 

 

 

 

 

俺は、早くここから消えるべきなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラッ

 

 

「あら、もうお店は閉まって……穂乃果!?」

「はぁっ……はぁっ……」

「貴方は…九条和平君?」

「…そうです。娘さんが膝をついていたので……」

「そう……」

 

店の番台で経っていた女性。母親か。そして今の反応だと俺の事は知ってるみたいだな。

 

 

「娘さんに酷い事をしていないと言っても信じてもらえないでしょうけど、俺は彼女に何もしていません……、決して」

「分かったわ……ちょっと雪穂!!来て!」

「なにお母さん……ってお姉ちゃん?!」

「今すぐお風呂入れてあげて。体が冷えてるから」

「わ、分かった……そこの人って…」

「いいから早く!」

「っ…うん」

 

二階の部屋から来た妹らしき子が高坂穂乃果を連れて奥の部屋に消えていった。

 

「………九条…君」

「……では、自分はこれにて…」

「ま…まって!」

 

高坂穂乃果を運ぶときに落ちた作業着を広い俺は店を出ようとするが呼び止められる。

 

 

 

「…………」

「………そ、その…」

「…学校に報告するなら好きにしてください。信じるか信じないかは貴方次第です。知ってるでしょう、俺の事を」

「えぇ…」

「このまま言わないのも吉、言っても吉です。俺だけが凶になるだけです。お母さん、あなたに任せます」

「………あの噂通りの子には見えないわね」

「さぁ……どうでしょうかね……では」

 

 

 

今度こそ出ようとした瞬間。

 

 

 

 

「和平君」

「っ…?」

 

肩を掴まれて振り向くと、そこには俺より背が高い男性が立っていた。恐らく高坂穂乃果の親父さんだろう。俺の肩を掴むその手は大きく、力強く、家族を守る大黒柱としての力を体現しているかのようだ。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。娘を助けてくれて」

「礼を言われることはしていません。では」

 

 

 

俺はゆっくりと穂むらから出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の言う通り、優しく強い子だな……和人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親父の名前を呟く声が聞こえた気がした。




本編なら穂乃果は雨の日のトレーニングの翌日に風邪をひくはずですが、今回はここで倒れかけてもらいました。ちょっとは…主人公のかっこいいところを書きたくて…。


涙の数だけ強くなれるよ アスファルトに咲く花のように 見るものすべてにおびえないで 明日は来るよ 君の為に


まるでこの物語の主人公を言っているようだ……。
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