あれは嘘だ。
夏休みに入る最後の授業日。
「今日のペナルティは中庭の掃き掃除な」
「日々日々やる仕事キツく無いですか?」
「遅れてくるお前が悪いんだろうが」
「それなりにテストで点数取ってるから素行が悪いって訳ではないんですけどね」
「だからちゃんと悪くない成績与えてるだろうが。口答えする前にとっとと動け」
「へいへい…」
教師共は俺の顔面の怪我や痣なんて見てもなんとも思っていない。こいつらの中では俺に関わると碌な事が無い、それか単に喋りたくないか、又は単に嫌いか。ほぼ前者だろうな。
今回の喧嘩、いやリンチだな。リンチの原因は前の文化祭でのステージの件だ。フレームを付けなおしたっていう話が、俺がフレーム自体に余計な事をしたっていう訳も分からない話に変わっていた。文化祭実行委員の奴らか、それともそいつらに頼まれたクソどもか。
流石にぶちキレそうだったよこれは。俺は実行委員の尻ぬぐいをしたようなモンなのに無かった事にしてるんだぜ?怒りで頭が飛びそうだわ。
内心こう思っていても意味はなく、やり返すこともできず人間サンドバック状態。それで怪我や痣で済む俺の体ってどうなってるの?前の雨の中での作業だってどう考えても風邪ひく案件だぞ?バカは風邪を引かないって言うけど、バカ云々の話じゃねえだろ。チートだわチート。
こんな事頭の中で考えてる時点でバカだわ。
冷静になろう。
「はぁ……」
掃除用具入れから熊手を出してそこ等に落ちてる落ち葉をかき集める。この学校無駄に広いんだよな中庭。どうせ使ってるの事務室のおばちゃんだろうが。いらねえなら作るんじゃねえ。
「ボランティアかよクソが」
そろそろ俺に運が回ってきてもいいと思うんだけどな~。頼むよ仏様よ。
「あーーーーーー!!見つけたーーーーー!!」
「は?」
後ろからでかい声が聞こえてきたので振り返るとそこには…。
「見つけましたよ作業着の人!!」
「いや名前ひでえな」
高坂穂乃果だった。
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・
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中庭にあるベンチに座る俺達。ってかこの子近くないか?近いぞお嬢さん。
「本当にあの時はありがとうございました!貴方のお陰で大事に至りませんでした」
「いや、別にいいんだけどよ」
ってかよくあれが俺だってわかったな。
「お父さんが教えてくれたんです」
「親父さんが?」
「ちゃんとお礼を言いなさいって!」
「ほう…」
ってかちょっと待て。
「いや、それはいいんだけれど…いいのかよ」
「何がですか?」
「俺と一緒にいてよ」
「だめなんですか?」
「ダメ…てわけでは無いが……いやダメだな」
「えぇ!?」
「知らねえ訳じゃねえよな。俺の事」
「九条和平さんですよね?」
「いやそういう事じゃなくて」
ただのお馬鹿さんだった……。
「俺がどういう人間なのかがってことだ」
「そ…それは……知っています」
「ならここから今すぐ消えろ。碌な事にはならねえぞ」
キツく感じるのは許してくれ。こうでもしないとまた学校内で余計な噂が生まれるからな。
「九条先輩」
「あ?」
「私には、貴方が悪い人には見えません」
「は?」
「学校の噂とか評判だとか、周りの言葉で埋まっているようなもの、私は信じません」
「それはお前の傲慢だ。所詮はお前のそれも外見を見ての判断だ。お前がそう思っていてもいきなりお前を襲う男かも知れねえんだぞ」
「それでもです。先輩の目を見れば分かります。先輩はそんな人間じゃない」
「だからそれは…」
「絶対に違います!!」
「っ!」
「先輩がもしそういう人間だったとしても、騙せるものも騙せれません!」
「たかが会って一日二日のお前が俺の何を知ってるってんだよ」
「何も知りません。けど…その人柄はわかります」
「自分の事は自分がよく知っている。噂の通り俺は害虫みたいな男だ。どんな理想像を描こうが現実は非常だ」
「そんな…」
「あん?」
「そんな悪い人が……
高坂穂乃果の言葉が心に突き刺さった。
「確かにこれは私の勝手な思い込みかもしれません。けど、これだけは言えます。先輩は、人を苦しめたり、人を傷つけたり、人を貶めるような人間じゃないことぐらい、その目を見ればわかります」
「…………」
この子は…何を言っているのだろうか。所詮はこの言葉も戯言だ。私は怪しくありませんよって証明したいが為に褒めちぎっているようにしか見えない。
見えないのだが…。
どうしてこんなにも心に突き刺さるのだろうか。
「これを機に…教えてくれませんか?なぜ先輩がこうなったのか」
「お前に言う筋合いはないと思うが?」
「言わないと絵里ちゃんに言っちゃいますよ?九条先輩にあんなことやこんな事されたって」
「ぐっ…」
こいつ…ぬかりねえ。
「条件がある」
「はい?」
「俺は人を信じない。お前が言わないという保証もない。だからお前のSNSのアカウント情報や個人情報を貰う。汚いって思うかもしれないがこれぐらいしないと逃げれないと思ってな。俺は自分の汚点を話すんだ。こんな生き方になった根底を話すには対等だと思うが?」
そんな無茶苦茶な話ある訳がない。俺の黒歴史を話す代わりに個人情報等をくれって話だぞ?人間を信じなくなったらここまで性根が腐るもんなんだな。
だけどこういえば流石にどんな大物でもビビって退くだろう。
「ふふっ」
「はぁ?何笑ってんだよ」
「優しいですね。九条先輩」
「いやどこがだよ」
「そういう事いって私を噂の種にならない様に、自分に関わらせないようにしてるところがですよ」
「そんなつもりはないが……」
「それに」
「ん?」
「そんな流出させるような人じゃないのは、私を救ってくれた
かなりの大物だ彼女は。
無邪気な笑顔を浮かばせた彼女は、俺にとってまぶしすぎた。
***
俺は話をした。親の事は伏せ、「最低で最悪」な人間になった顛末を。絵里との関係を。俺がクソ野郎だっていう話を。
こんな詳しく話をしたのは何時ぶりだろうか。ところどころは女子高生には辛くなるシーン(場面)もあるから伏せて話したが、高坂穂乃果は真摯に話を聞いてくれた。
「………というわけだ」
「……そうですか」
「くだらねえだろ?好きな女の子を守る為に自分を犠牲にしたっていう益体もない話だ」
「思っていた事よりも、予想以上です」
「偽善だって言いたいんだろ?全くともってその通りだ。守るだの助けるだの言葉にしてしまえば簡単だ。けどよ、それで自分が苦しんでしまえば世話ねえよ。笑っちまうだろ?」
「…………」
「所詮は、こんな人間だったていう事だ。絵里を助けてこれで終わったと思ったよ。俺が傷ついてあいつが傷つかなくなってくれれば御の字だって考えてた。けど…そんな虫が良すぎる話は無いってもんだ。何かを壊した奴は、何かを壊される覚悟がある奴だけだ。綺麗に丸く収まるのなんかどだい無理なことなんだよ」
「けど、それで絵里ちゃんが助かったなら…」
「良い…。俺もそう思ってる。けど深く深く考えると気持ち悪いったらありゃしねえ。よく考えて言ってみると、ヒロイン救って俺頑張ったよ感出してるヒーローだぜ?かまってちゃんかってんだよ。物好き通り越して筋金入りのトンチかよ」
言っていると訳が分からなくなる。結局俺は何がしたかったんだ?絵里を助けたかった?守りたかった?傷つけたくなかった?その動機すら覚えてすらいない。
人助けって言うなら話は別だ。褒め称えてやりたいぐらいだ。けどよ、俺のやったことは人助けと言えるか?
人助けは人を助けて何ぼのワードだ。俺がしたのは傷つけて絵里の居るべき居場所を守っただけの破落戸だ。これは人助けと言えない。自己満足すればそれでいいと思っている思い違いをしてるクソッタレだ。
「俺は…自分を殺したいくらい自分の事が大嫌いだ」
人は信じない。けど中でも素晴らしい人は沢山居る。けど俺は自分という人間が嫌いだ。中途半端。なり損ない。欠陥人間。クズ過ぎる人間に要素の三要素を占めている。
最低で最悪で中途半端。列記とした『悪』にもなれねえ。
あの『悪党』が言えるように俺の悪はチープすぎるのかもしれない。
「……………」
「ということだ。聞く話でもなかっただろ?」
「……………んで…」
「あん?」
「なんで……貴方は助けを求めなかったんですか!?」
「……は?」
ベンチから立ち上がって、潤んだ瞳で俺を見つめる高坂穂乃果。
「そんな目にあって、そんな辛くなって、どうして誰にも助けを求めなかったんですか!?絵里ちゃんを助けた方法は確かに最低です!けど!だからこそ今の絵里ちゃんが居るんです!先輩が助けてくれなかったら今頃絵里ちゃんは壊れていたはずです!そこまでした貴方は救ってもらう義務はあるはずです!」
「高坂穂乃果…」
「どうして、そんな事を普通に淡々とできるんですか…。どうしてそこまで…」
ここにもいたか。ただ助けただけなのに。ここまで俺の事に関して感情移入してくれる人が。
これだから俺は、人を嫌いになれない。
「愛ゆえに…だ」
「…へ?」
「絵里が好きだからだ。あいつは俺にとって光であり、太陽でもある。あいつと一緒に過ごしていく度にその感情は大きくなっていった。あぁ、俺はこいつが好きで仕方がないんだな、こいつがいないと俺はダメなんだなって、一人で腐るほど考えてた。そんな彼女が、俺が原因で苦しんでいるところなんか、俺は見たくない。人間誰だって自分が可愛い。けど俺は自分を嫌いになってもいい。苦しめたっていい。絵里のためならどんな受難だろうと堪えてやる。心の中でずっと思ってた。こいつは俺と一緒にいてはいけない女性なんだって」
「一緒に…」
「俺なんかの為に傷つく必要はねえ。俺が居たらいけねえなら、俺から消えてやる。そう決めたんだ」
「………辛すぎ…ないですか?」
「辛いなんて言えない。俺は今までの自分を消したんだ。もう俺はあの頃の俺じゃ…ないんだよ」
彼女の為なら俺は何者にだってなってやる。そこで望むのはただ一つ。俺がここから消えるまで彼女が幸せになってほしい事だけだ。
読者は思っただろう。中二病みたいとか偽善者だとかクソみたいだとか。
これが俺の悪道なんだよ。文句あるか。
流石にこんな話は高坂穂乃果にはキツすぎたと思った。予想通り彼女は青い顔して何も言わない。俺に気を使っているのか、それとも言葉が出ないのか。どちらだっていい。これを機に彼女も俺との関わりを消すべきだ。
「……人でなしです」
「そうだ」
「…最低です」
「おう」
「…偽善者です…」
「ああ」
「……もっと、自分を大事にしてください。もし私が絵里ちゃんの立場だと、嬉しくなんかありません」
「だからいいんだ。そのおかげで絵里は俺とのありとあらゆる関係を切ってくれたんだ。願ったり叶ったりだ」
「嘘で偽善で最低で…。人の考えることとは思えません」
「幻滅したか?俺はもっと清い人間だと思ったか?残念、俺はワルモノだ」
最後に、というところか。彼女は俺をキッと睨みつけてくる。
「貴方が救われないと…絵里ちゃんも救われません。貴方を動かしているのは、有り余る優しさです…どうか大事にしてください。絵里ちゃんを救うことが、貴方が傷ついていい理由にはなりません」
「壊れてる人間には、その要望は届かねえ。後、もうアカウント情報もいらねえ、個人情報もいらねえ。君が言いふらすような人間ではない事はよく分かったからな」
「先輩…」
「高坂穂乃果。もう君は俺と関わるな。絶対に。俺に近づく奴は不幸になるのはもう実験済みなんだ」
「救われ…ないですね」
「救われたいと思ってない。俺は一生泥の中で生きるんだ」
そうだ。これが俺に合っている生き方なんだ。
「………では、失礼します。話してくれてありがとうございます」
「あぁ。さよならだ」
高坂穂乃果が校舎に戻るのを見送った俺は、ベンチにまた深く腰を下ろした。
「はぁ…」
ガラにもない事をした。これも俺の汚点なのかもしれない。信じていないとか言いながら彼女を信じ切っている。
どこまで行っても俺は中途半端だ。どうやったら完璧な悪になれるのだろう。
「俺のやり方は…合っているのだろうか」
今更疑問に思ってしまった。俺のこの汚い愚行は、間違っていないと言えるのだろうか。
「教えてくれ……絵里」
太陽に向かって俺は手を伸ばした。
恐らくここがこの物語の中盤になると思われます。
そろそろ最終局面に入りたいと思います。
これから、最低で最悪な彼は『自分を消しにかかる』であろう。
このままシリアスを突き通すんだぁああああ!!!←作者はこれを書いている時、俺は人間をやめるぞ!JOJOォォォオ!状態で書いてます。
作者=吸血鬼
です。
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