稀代の暗殺者は、大いなる凡人を目指す 作:てるる@結構亀更新
ついでにサイコパスイルミも発動中。ギャグ要素、今回はなし。なぜだ…………
「オーラを感じるんだよ。」
「あえ?」
「五感をすべて断ち切った状態で、オーラを感じる。それでわかるでしょ、カルトなら。」
二日後、家に帰ってきたイルミ兄さんの部屋に押しかけ、オーラの操作のコツを聞くと、そんな答えが返ってきた。
オーラを五感を断ち切って感じる?どゆこと?
兄さんの言葉に首をかしげると、兄さんに小さくため息をつかれる。
「カルトはオーラを目視してる。それがそもそもの間違いなんだよ。オーラはあくまで一種の生命力。カルトが見えてると思ってるものはオーラの本質ではない。その本質を理解しない限りオーラの操作はうまくいかない。」
疲れてるんだけど、とぼやく兄さんの言葉は聞き流して、得た情報を審議する。
……うん、よくわかんない。
オーラの本質?なんじゃそりゃ?
いつも見ている白いモヤモヤは、オーラそのものではないってことかな。
あ、でもそうか。オーラは生命力。目視できるような物理的な存在ではない。それが見えるはずはないか。
じゃあ私がいつも見ているあれはなんなんだろう。
というか五感を断ち切った状態で感じるって矛盾してない?
じゃあ何で感じるの?第六感?
うーん、こればっかりは考えてもよくわかんない。
試しに目を瞑って、兄さんのオーラを感じるように集中する。
うーん、結構難しい。自分のオーラならわかりやすいんだけど、やっぱり他の人のオーラって感知しにくいなあ。
深く呼吸を繰り返す。吸って、吐いて、吸って、吐いて。
それを何度も繰り返してオーラを探す。
まずは目を閉じる。これで視界はなし。
音も、匂いも、感触も、味も、全部ゼロ。
感じようとするな。断ち切れ。そう何度も体に言い聞かせる。
次第に、世界がフェードアウトしていく。
見えているいろいろが、この世から失せるような。ううん、違う。いつも見えてる形から遠く離れた、ねじれ切った形になるような。
たしかに存在しているのに、その存在はいつもとは違う。激しい違和感。
その違和感をねじ伏せて、ねじれて行く世界を第三者の目線から見つめる。
って、うわ。これ、結構キツイ。頭いたい。無理。
車酔いを5倍に濃縮したような感覚。世界がぐるぐると回っているような気がする。
無理。これ以上この集中は維持できない。
そう思って目を開くと、相変わらず無表情の兄さんの表情が目に入る。
よかったー。なんだろ、あのままやってたらもう二度と目見えなくなるんじゃって、一瞬ちらっと思ったんだよね。そのぐらい怖かった。
うーん、もしこれがオーラを感じるということならば、それはすごくリスキーなのではないだろうか。
だってもしあの感覚のまま一生を過ごしたら、多分気狂うよ。無理無理。
世界の見え方そのものを捻じ曲げるというのは、私の想像を超えすぎている。
てか、兄さんはいつもあの状態で生活してるわけ?それって……頭おかしいやん。無理やん。死ぬやん。
「それは単にカルトが慣れてないから。そもそもさっきの感覚は、ある程度念を取得すれば自然と身につくものに過ぎない。カルトの場合は、それを体が追いつく前に習得させようとしているからズレが出ているだけだよ。」
針をくるくると弄りながらそう言う兄さん。
あー、でも確かにそうだったら納得。ていうかそうじゃないとヤダ。一生あれ味わえとか、死刑宣告に等しいから。
ていうか、その話からして念ってこんな急ピッチで覚えるものではないんじゃないですか?もっとゆっくり慣らしてく感じじゃないんですか?
いくら暗殺一家といえども限度があると思うのよ。限度が。
あー、なんでこの家に生まれ変わっちゃったかな。不運じゃ。
私は早いとこキルアに当主になってもらって、この家ほっぽってどっか行きたいよ。
はあ、平凡な人間ルートはどこへと行った。結構マジで、この家からさっさと抜けないと私の凡人ルートが閉ざされてしまう。
そう思って頬を膨らませると、兄さんに不思議そうな顔をされる。
それから、私を哀れんだような目で見て、それから……
「一分一秒でも早く習得する必要があるのは当然だろ?カルトは、キルアを育てるための道具に過ぎないんだから。カルトには最初から選択権なんてないんだよ。………やっぱり邪魔だな、その自我。」
そう発する兄さんの声には、一切の色がなかった。
底冷えするような、真っ暗な音。それは、憎悪とかの感情よりも、数倍恐ろしい。
何?なに急に?
自我が邪魔?どういうこと?
本能的に自分のさっきの思考が兄さんのトリガーを引いてしまったことを察する。
家を出たい。
確かにさっき私はそう考えた。
ていうか、私はそのために念を覚えている。いつかこの家から出た時に、無事生き延びられるように。
だって私は腐ってもこの家の住人だ。何かの間違いで外に出た時それがバレたら、私の命の保証はない。
内部を知る貴重な情報源。そう思われたら、ありとあらゆる人たちから狙われるのは目に見えてる。
だからもしそうなっても対抗できる力を持とうとして、修練してきた。
でも、多分その目的はこの家の意思とは食い違ってる。
私は父さんや、ゼノさんや、兄さんや、執事たちにとっては、カルトである前にゾルディック家の子女なのだ。
私が家を出るなんて、許される行為ではないのだ。
キルアが当主になったら家を出てもいい。ゼノさんはあのときそういった。
でも今となったらわかる。あれは、額面通りの意味じゃない。
この家の人間は、例えキルアが無事当主になったとしても私を素直に逃がしてくれなんかしない。
だって私は、『使える駒』だから。
キルアが当主になったら、今は父さんにある私の生殺与奪権が、キルアに移るだけなんだ。
私は逃げたい。周りは逃したくない。
見事なまでの意見の不一致。
そんな中で私が家を出たいなんてどストレートな意見を出しちゃたから、兄さんが実力行使に出ようとしている。これが今の状況。
うん、完全に私の自業自得じゃん。
周りの状況をロクに考えもせず、家を出たいなんて思考に乗らせてしまったから。だから今私はこんな状況に陥っている。
かんっぜんに舐めてた。油断してた。ぐうの音も出ない。
ていうか、兄さんがここまでがっつり反応してくるなんて思ってなかったなあ。
うー、やっちゃった。
「あ、やっとわかったんだ、自分の状況。もうちょっと早く気付いてればよかったね。俺にとってはどうでもいいけど。」
そこまで考えると、兄さんの声が背後からそっと聞こえる。
「カルトのその考え、うちの家にとっては邪魔でしかないんだよね。もう少しおとなしくしてくれそうだったら、直接手を出すつもりはなかったけど。残念だったね、もうゲームオーバー。」
わずかに兄さんの口角が上がる。
手を出すつもりはなかった。過去形。ということは今は………
ずさっと思わずあとずさる。でもそれにも限界はあって、しばらくすると壁にぶち当たる。
「その程度の念が使えるならもういいよね。配慮しなくて。死にはしないだろうし。」
いつもの兄さんじゃなかった。
それは何かスイッチが切り替わったような。そんな感覚。兄さんの中での私が、カルトからただそこにいるだけの存在に変わったのを感じる。
思わず兄さんの目をみると、やっぱりそこには何も映っていない。
空洞。その言葉が一番似合うのは、多分兄さん。
何より恐ろしいのは、兄さんは多分それを自覚していることだ。
自分が中身のない、感情を抱くことのない、異質なものだと自覚している。それが何よりも、怖い。
「あーあ、本当はこれあんまりやりたくないんだけど。でもまあ……仕方ないか。カルトが家に歯向かうんだったら。」
兄さんがそう呟くと同時に、部屋のオーラ密度が増す。具体的には、部屋がミシミシいったりとか、ものが吹き飛んだりとか。
反射的にオーラが自分の身を守るように展開される、
ヤバイ。これ、結構ヤバイ。
兄さんの体から濃いオーラが出ている。あれは練。つまり、攻撃準備態勢。そして兄さんの手には針。
しかも兄さんのオーラ、完全に私をターゲットとしている。
この時点で私の中では一つの仮説が提唱される。
道具にすぎない。おそらく兄さんのその言葉からして、私がこの家から求められているのは、純粋な力のみ。
もし私が普通の赤ん坊だったら。前世の記憶なんてなかったら。多分私は道具としているのが当然だというような教育を施されて、この家のために使われてたんだ。
でも、運良くか悪くかはわかんないけど、私には過去の記憶があって、正常な道徳観念を持っていた。
それは、この家にとっては邪魔でしかない。ならどうする?
決まってる。
操ればいい。
兄さんの能力が具体的にどういうものかはわかんないけど、対象を操作するということが、強制的な肉体操作っていうだけじゃなくて、精神操作のような意味合いも含んでいるのだとしたら、もう私はほぼ死にかけてる。
私の力で兄さんには抗えない。
「自我を奪うのは操作が面倒だから、思考誘導だけにしてあげる。大丈夫だよ、これがカルトにとっての最善だから。」
兄さんがじわじわと近づいてくる。なに思考誘導って。マインドコントロールかい。
どうしよう。どうやって逃げる。ていうかどうやったら逃げられる。
「カルトがおとなしく従ってくれてるうちは操作する予定はなかったんだけどね。」
教育に抗うんだったら、こうするしかないから。
何の罪悪感も、葛藤も抱いてない。
もう兄さんが、この行動を止めることはない。
詰んだ。本当に詰んだ。
兄さんが一本の針を出す。
いつものやつみたいな飾りはついてない、ただの無機質な銀色の針。
あれが刺さったら、私は自力で抜くことは可能だろうか。ううん、不可能。
兄さんほどの能力者に抗えるほどの実力をつけるまでに何年かかるか。そうこうしてる間に、マインドコントロールは完全に成功して、思考そのものが捻じ曲げられてしまう可能性が高い。
嫌だ。そう強く、心の中で叫ぶ。
何もせずにこのまま死ぬなんてやだ。抵抗したい。
今私ができる最大を。今この瞬間に。
妙に冷静な心で、静かに練を練る。
オーラがいつもとは比べものにならない速度で、比べものにならない強さで、静かに流れる。
私を守る、盾のように。
すうっと、兄さんが遠くなっていく。違う、兄さんを感じられなくなる。
今私が『見ている』のは、兄さんじゃない。
兄さんのオーラだ。
禍々しいオーラ。邪気を孕んだ、触れるだけで恐怖を感じさせるもの。
父さんのとも、ゼノさんのとも、全く違う。
逃げたい、そう本能が叫ぶ。でもそれは、状況が許さない。
そうだ、たかだかこんな練で兄さんを止められるはずがない。
せいぜい0.05秒。それだけ私の自由意志が残っている時間が増えるだけ。
八方ふさがり。どうすることもできない。
兄さんの針が目の前にまで迫る。
あと、数センチ。
そう認識した瞬間、感情が爆発した。
なんで。どうして。私はただ幸せになりたいだけなのに。平和に暮らしたいだけなのに。いい人生を送りたいだけなのに。そのために努力だってしてるのに。そのために強くなりたいって願ったのに。
ただ、平凡でいたいだけなのに。
その叫びが届いたのか、追い詰められて限界を超えたのか、そこらへんはよくわかんない。
一瞬にして、オーラ量が膨れあがる。
それは、迫ってきている兄さんの針を弾き飛ばすぐらいには、
「……やっぱり念取得前に無理してでも刺しておけばよかった。下手に精孔が開いて死なれても困るから、ある程度念を覚えてからにしようと思ったんだけどね。加減、見誤ったかなあ。まあいっか。それならそれで。」
兄さんが一瞬吹き飛んだ針を見て少し驚いたような顔をする。でもその表情は、やっぱりいつもの無表情へと戻る。
オーケー、私。一回落ち着こうか。
さっきの兄さんの言葉でやっとわかった。なんで今、いきなり私に針を刺そうとしたのか。
兄さんの針は念の攻撃。ノーガードで受けたら死ぬ危険がある。だから育つまで待った。
私がそのオーラを受けても生き延びられるぐらいの念能力者になるまで。
つまりこのマインドコントロールは私が生まれた時から施されるのはもう決まってたんだ。
ははっ、嘘でしょ。
もう何の解決策も浮上しなくて、乾いた笑いがこみ上げてくる。
兄さんは私にどんな命令を下すんだろうか。
思わず湧いたその疑問に、私の脳は即座に回答を返す。
そんなのわかりきってる。
きっとそれは、こんな平凡な望みを抱けるような意志さえ奪い取るんだろう。
これから私は自分のための何かを得たいなんて思うこともせずに、ただこの家のために尽くし続けるんだ。
「そうだよ。カルトはこの家のモノになる。カルトの行動にカルト自身の意思は必要ない。カルトはただ俺の命令を聞いて動く、便利な人形であればいい。」
兄さんの言葉が、オーラを纏って鼓膜から脳へと伝わる。
「平凡な人生?笑わせないでよ。カルトに自分の人生を選ぶ選択権はない。」
一言一言が、心に刻み込まれるような感覚。
「カルトの命はゾルディック家の所有物でしかないんだから。」
脳内でなんども兄さんの言葉が渦巻く。
だんだんと意思が渦の中に飲み込まれていく。
ヤダ
嫌だ。
飲み込まれそうになった意識の中で、その言葉だけが自己主張をやめない。
その言葉だけが、私をつなぎとめている。
嫌だ?何が?
何が嫌だったんだっけ?
私はなんで抗ってたんだっけ。
奪われた何かを懸命に取り戻そうと、記憶を探る。
絶対に失っちゃダメな何か。それを全力で探し回る。
『平凡で幸せな人生を送る』
見つけた。
これが、これが私の軸。私が私であるという証明。
この思いがある限り、私は『大丈夫』だ。
渦に飲み込まれかけていた半身を起こして、オーラを練る。
今ここで抵抗しないでどうする。ここで負けたら私の思いはどうなる。
私の願いはここで捨てられるほど軽いものなのか?
違う。私の願いは外からの力で曲げられるようなヤワなもんじゃない。
そう意識した瞬間、オーラが激流のように流れ出す。
ばちんと、耳元で音がしたような、そんな感覚。
わかる。全部わかる。ここに何が存在しているのか。どんな風に空気が流れて、どんな風に移り変わっているのか。
全て、手に取るようにわかる。
「これは………円、に近い。けど、まだそこまでの練度はないか………。」
イルミ兄さんのそんな呟きさえ、音ではなく、空気の流れそのものとして読み取れる。
なにこれ。どういうこと。
ううん、今はそれは後だ。とりあえずこれで、乗り切らないと。この状況を。
幸いなことにまだ針は刺されてない。まだ抗える。終わってない。
考えろ。どうやったら兄さんを止められる?
違う、兄さん自体を止める必要はない。とめたいのは、兄さんから針を刺されること。
さっきみたいに弾き飛ばすのは愚策でしかない。何度やったって、何の解決にもならないんだから。
針を、壊すのは?
そう思ったのは、ただの勘だった。
おそらくあの針は、いつもの針と違ってそう何本もないと思う。
この能力のための特殊な針だとしたら。もしそう仮定できるなら。
それなら可能性はゼロじゃない。
兄さんの針を凝視する。
急に私のオーラが増加したことを警戒したのか、兄さんとの間には距離ができている。よし、この状況なら多少考える時間はある。
兄さんの針、かすかにオーラを纏っている。そこからして、おそらく私の知ってる針の硬さとは比べものにならないぐらい硬い。
刺そうとしたところを力ずくで折るとかは不可能そう。
じゃあ、何か道具を使う?
そう思って周りを見渡す。
ナイフ、本、ガラス製の水差し……使えそうにない。
焦ったように辺りを見渡すと、それは唐突に目に入った。
紙。ただのコピー用紙。
いけると思った。
この部屋にあるものの中で下から数えたほうが早いぐらい脆いように見える。でもそれは見かけだけ。
紙繊維。それは特定の方向からの力にはとても強く、角は鋭利な刃物のように鋭い。
これだ。これを使えば………
紙に意識を集中させる。そこに神経を移植するように。
うう、思ったよりうまくいかない。周りの情報が邪魔だ。
オーラによって感知している情報が多すぎる。
ど、どうしよう。これじゃあ、紙だけに集中とか難しすぎる。
じゃあ紙の方向以外にも出てるオーラを全部絶状態にすれば、って思ったけどこれも無理。四大行の同時併発は今の私には無理だ。練と絶を同時にできるほど、私はまだオーラの操作に慣れてない。
あれもダメ、これもダメ。紙の操作をするためにはオーラを今以上に的確にコントロールする必要があるけど、そんな技術私にはない。
ダメだ、詰んだ。
ていうか、なんでこんなに脳に流れ込んでくる情報量が多いんだろう。オーラ出してるだけならこんなに情報感知できるわけないじゃん。
そうだ、確かにおかしい。
だっていつもの練の濃さなら情報量が多すぎて集中が乱れるなんてあるわけない。
うーん、どういうことだろう。
疑問に思って自分の手をかざしてみると、さっと血の気が引いた。
オーラが、アホみたいに出てた。
それどころか私は、オーラを目視していなかった。
オーラを、感じていた。
五感が知らないうちに消え去って、すべての感覚がオーラの超感覚によってまかなわれていた。
そこまでわかればさすがに気づく。
要は私は、自分の感覚神経と言っても遜色ないほどの感度をもったオーラを、部屋全体に投げまくってるんだ。
そしてそこからオーラに当たったすべての情報を得て、処理している。
問題はそのオーラの密度が濃すぎたこと。
オーラ量が多すぎることで、情報量が処理の限界を超えて、集中できない。なるほど。なにその悪循環。最悪じゃん。
そして、オーラ感知が成功すると同時に五感が消えたのも、それで説明できる。おそらく脳が、これ以上の情報を処理できないから意図的にカットしたんだろう。
普通だったらそこまでの情報量がないから、五感が完全に断ち切られることはない。でも、私は脳がキャパオーバーするぐらいの情報を運悪く得られてしまった。なんという不幸。
五感がない。それは、たった5文字で表せるにしては恐ろしすぎた。
念って、こんなにリスキーなものなの?
いつもは纏っているオーラが外側へと放出されていく感覚。
まずい、これ………これ以上長時間続けたら倒れる。
てかオーラって枯渇したらどうなるんだろう?倒れるぐらいで済むといいけど。
いや、倒れてもアウトだ。だってそんなことしたら兄さんが何のためらいもなく針を刺す。
今兄さんが静観してるのは、私がある程度オーラを自分の意思で動かせないと、殺傷を目的としていない攻撃でさえ死亡させる可能性があるからにすぎない。だからもし倒れたら、ここぞとばかりに操作される。
だめだ。それはダメだ。
だったらどうにかしないと。
吸って吐いて吸って吐いて。酸素を脳に送り込む。
自分と針と紙だけ。それ以外はどうでもいい。
紙に自分の全てを送り込むんだ。
これでうまくいかなかったら死ぬ。
大げさに言ってるわけじゃない。本当にそうなんだ。
オーラを使い果たして、か。それとも針をさされて、か。
でも私はそんなのどっちもやだから。
だから、第三の選択肢を選ぶ。
お願い、いうことを聞いて。
紙にそう念じながらすべてのオーラを注ぎ込むと、私は死んだように床へと倒れこんだ。
とてもとても難産だった。