白物語   作:ネコ

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ナルトの世界
1 憑依?


 気が付いたときには、目の前に拳がせまり殴られていた。

 

(痛いな……それにしても、なんでいきなり殴られたんだ?)

 

 身体は軽々と吹き飛び、壁に当たってから止まる。そこで、自分の身体の状態を改めて把握することが出来た。

 

 全身……見えるところは手足のみだが、身体中に痣がたくさんある。おそらくこの痣は、先程殴った目の前の人物によるものだろうことは、容易に想像ができた。

 

 身体の痛みはそれほどでもないが、これを日常的にされては、いつか死ぬことは間違いないだろう。むしろ今まで死ななかったことのほうが不思議でならない。

 

 そんなことを他人事のように感じながら、先程殴ってきた目の前の人物へと目を向けた。

 

 その人物は、酒に酔っているのか顔を赤くしたままで、動かなくなったこちらを一瞥すると、殴るのに飽きたのか、酒を飲み始めた。

 

「いつまでもヘラヘラと笑いやがって!薄気味わりいんだよ!」

 

 どうやら、ただ笑っていただけで殴られたようだ。かなりの理不尽と言ってもいいだろう。

 

(それだけで殴るか普通? て言うかここどこだよ……)

 

 何故自分はここにいるのか、まずはそこから考えよう。確か、学校帰りに漫画を買ってそれを読みながら家に帰っていたはずだ。本屋に寄って、いつも通りの道を歩いていたことは覚えている。ただ、そこから先が全く思い出せない―――

 

 気が付いたらいきなり殴られているという場面だったのだから、混乱しなかっただけマシなのではないだろうか?それ以前に、これは拉致なのかすら分からない。自分の手足を見るに明らかに子供の手足である。

 

 今いる家の中も木造の小屋のようなもので、中央に囲炉裏のあるだけの殺風景な造りだ。囲炉裏の近く、と言うより、男の近くには酒の瓶が転がっていて、端の方に布団がひいてあるくらいだった。

 

 この男は酒に弱いのか、それとも何処かで飲んできたのか分からないが、酔っただけでこっちを殴るようなやつだ。これからも酒を飲む度にこの行為は続くだろう。

 

 わざわざ痛い目に遭いたくはないが、現状がどうなっているのか不明な以上様子を見るしかない。

 

 取り敢えず、殴られた原因は先程男が言ったように、ヘラヘラと笑っているからならば、笑わなければいいだけだ。ただそれだけのこと。

 

(このまま寝るか……)

 

 体力は一応まだあるが、寝た方が身体の回復は早いに違いない。もしかしたら、次に目覚めたときには夢だった―――という展開もありうる。この微妙な鈍痛があるのは気にはなるが、元々の現実でも痛みに対して鈍かったので夢のなかでもそんなものかもしれない。

 

 そんなことを思いつつ、その日は壁の近くに転がったまま眠りについた。

 

 

 

(ぐっ!)

 

 翌朝、腹部への突然の衝撃に目が覚めた。

 

「起きたらさっさと稼いでこい!」

 

 どうやら、この男が腹に蹴りを入れてきたようだ。痛みに対して鈍いとは言っても、蹴りを入れてきたことを許すつもりはなかった。

 

(こいつには、相応の報いを受けさせてやる!)

 

 しかし、今この男に復讐したとしても、その後どうするかを考えると、今は我慢するしかない。

 

(それ以前に、朝食は無いんだろうか? かなり腹が減っているんだが……この身体はちゃんと食べてるのか?)

 

 朝食の事もそうだが、今後の事が更に不安になってきていた。見るからにガリガリの身体だ。それでも、動くのは何故か分からないが、精神的に何かが減っているような気がしていた。今はそれのおかげでなんとかなっているようだ。

 

 しかし、それはいつ切れてもおかしくはない。現在の状況を把握して手を打たないと、手遅れになってしまう。そう考えていると―――

 

「なにしてやがる! 早くいきやがれ!」

 

 怒鳴り声の方を振り返ると、男が空いた酒瓶を投げてきた。二日酔いのせいか、狙いは定まっていないようで、検討違いのほうへと飛んでいく。

 

 しかし、稼いでこいと言われても、どこにいけばいいのかすら分からない。

 

(ここは、一応聞いておいた方がいいだろうか? でも、言ったら言ったで、また暴力をふるわれそうだしなあ……)

 

 稼いでこなければ、更に酷いことになるのは間違いないだろう。結局どっちをとっても暴力を振るわれることには違いないことだった。

 

(どっちをとっても結果が一緒なら、マシな方を取るべきかな)

 

 考えをまとめ終えたところで、男へと確認する。

 

「何処で稼げばいいんでしょう?」

「いつも通りやればいいだろうが! ああくそ! 頭いてぇ、さっさといってこい!」

 

 いつも通りが分からないから聞いてみたが、どうやら男は二日酔いのようで答える気はないようだ。二日酔いでなくても答えたかは分からないが―――

 

 男に背を向けて、ため息をすると共に、小屋の外へと出るべく、扉へと手をかけそっと開けると、外から霧が入り込んできた。

 

 まだ、外は薄暗くこんな中で、一体何をして稼いでこいと言っているのか不明だった。しかし、そこで立ち止まっている訳にもいかず、なにか言われる前に外に出た。あれ以上あの場に留まっても、あの男を怒らせるだけなのは目に見えているからである。

 

(まずは、現状把握だな。人が見つかればいいんだけど……)

 

 薄暗い霧の中をしばし散策していると、少しずつではあるが、明るくなってくると同時に、霧自体も薄くなっていく。

 

 一応下を見ながら、道らしきものを通っていたおかげだろう。霧が少し晴れたそこには、大きめの集落が見えてきていた。

 

(それにしても、かなり田舎だな)

 

 その集落は、いままで生活していたものとはかけ離れており、一体いつの時代だと言いたいくらいの建物が建ち並んでいた。

 

(ここで稼ぐっていつも何してたんだ? ……ここで考えても仕方ないな。取り敢えず、あの集落に行ってみるか)

 

 じっとしていても何も始まらないため、集落へと近付くと、その集落の入り口にいた人に声をかけられた。

 

「今日も早いな。また手伝いか?」

 

 どうやら、集落の入口にいる男とは知り合いのようだった。

 

(知っている人がいるのは丁度いい。聞きたいことがあるんだよね)

 

 相手の機嫌を損ねぬよう、また、自分の事を聞き出すように言葉を選んで話し掛ける。

 

「私のことを知っていますか?」

「ん? いきなりどうした?」

「昨日から記憶がはっきりしないので、知っているのならば、教えて欲しいんですが……」

「(あいつ今度は自分の子供も殺す気かねぇ。記憶が飛ぶくらいやるとはな)まあいい、ここがどこだかわかるか?」

「分かりません」

「そこからか」

 

 男は溜め息を吐きつつも教えてくれた。

 

「ここは霧隠れの里だ」

「はい?」

 

 この男が何を言っているのかが分からなかった。

 

(きっとこの年になっても、厨二病にかかったままなのかもしれない。それとも特撮? でもこの身体だしな……)

 

 そんなことを思っていたが、話は続いていたので、取り敢えず男の話を聞くことにした。

 

 

 その結論として―――

 

 

 

 ここがナルトの世界であるということがよくわかった。

 


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