白物語   作:ネコ

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106 穢土転生?

 ヤマトから事情を聞き終えた自来也は、フカサク及びシマとヤマトを交えて相談していた。ここに敵がいない以上居ても仕方なく、肝心の敵が現在どこにいるか分からないのである。

 

 白本人には、敵本体がどこに居るのかが分かってはいたが言うつもりは無く、素知らぬ振りをして蓮を見続けていた。

 

 そこへひと通りの相談を終えたのか、自来也が呼びかけてくる。

 

「白もこちらへ来い」

 

 既に小南は自来也たちの元へ行っており、そこから白ゼツの見張りをしていた。白は呼ばれたので振り向き、頷くと自来也の元へ歩いていく。

 

 しかし、それも束の間。ヤマトがその名前に反応する。

 

「白? ……ああーー!! 君ねぇ! 分かってるのかい!? 君のやったことは「だまっときんさい!」……はい……」

 

 白に叫びながら詰め寄っていたところをシマに叱られた上に、その長い舌に巻き取られて元の位置に戻される。ヤマトは叱られたことで項垂れていた。既に上下関係がはっきりしているようだ。

 

 そのことに安堵しながら白は自来也たちの元へ近付いていく。それを恨めしそうにヤマトは見ていたが、状況を思い出したのか、意識を切り替えて表情を元に戻す。

 

「取り敢えず戦場は、雷の国の方へ移ったとみて間違いなかろう」

「そうと決まったら急いで戻るで!」

「その前に聞きたいんじゃが、穢土転生は初代柱間様も蘇らせることは可能なんかの?」

 

 自来也は壁に埋め込まれた柱間を見てから白へと訊ねてくる。

 

 まるで、初代柱間を穢土転生しろと言ってきているようだった。確かに相手がマダラと聞いては、それと対等に渡り合えた柱間を蘇らせたいと思うのは当然だろう。

 

「たぶん無理だと思いますよ。魂が違う場所で封印されてるので、呼び出すことができないと思います。それに生贄が必要になりますし。ここにそんな生贄は……」

 

 白が言い終える前に皆の視線がひとつところに集中する。それは身体中を紙で覆い尽くされて身動きの取れない白ゼツだった。

 

「丁度よさそうなのがおるんじゃ。ものは試しにやってみてくれはせんか?」

「はあ……。まあ、やってみますが無理だと思いますよ」

 

 フカサクからの言葉で、無駄だと分かりつつも柱間の形をしたものから欠片を抜き取り、それを広げた巻物に付けて簡単に穢土転生の説明を行ってから、術式を行使する。

 

「穢土転生!」

 

 白が叫ぶと同時に穢土転生の術式の模様が浮かび上がるが、それだけで、それ以上は何も起こらなかった。白は分かっていた結果だけに、特に落胆はしなかったが、他の者……特にヤマトは肩を落として落胆している。

 

 しかし、自来也は何かを思いついたように、白に話し掛けた。

 

「もしや、その柱間様の形をしたのは、柱間様ではないということは考えられんか?」

「うーん。どうでしょう……。でも、他の人の身体の一部って言われても……。俺は一応持ってはいますが、今は違う人に穢土転生されてるので無理なんですよね」

「それは何でもいいんかの?」

「ええ。どこでもいいですよ」

「それならいいもんがある。お守りと言ってミナトのやつから貰った物だ。あやつも同じような物を持っておっての、僕の一部を魂を込めて入れた、と言うとった。何やら縁起物らしい」

 

 そう言うと、自来也は懐からお守りを取り出して白へと手渡す。それを溜め息交じりに白は受け取ると、もう一度だけ同じことを自来也に説明した。

 

「ミナトさんって4代目ですよね? 屍鬼封尽で封印された人ですよね? さっきも言いましたよね? 無駄だって」

「さっきのは本当に初代様のものかわからんかったからの。今度はミナトの物で間違いない」

「はあ……これで最後ですよ。本当に……」

 

 白は面倒臭そうに今一度同じ手順にて穢土転生を行う。前と同じように穢土転生の模様が浮かび上がり、白ゼツに塵が集まり始めた。

 

 そして次第に人型へと姿を変えていく。

 

 周囲はそれを唖然とした表情で見つめていた。

 

 蝦蟇仙人夫妻については本当にできるとは思っていなかったのだろう。

 

 自来也については、大蛇丸なら術を完成させていてもおかしくないので、白の術式に問題があるのではなく、説明の内容……封印されているから無理だろうと思っていたところへこの変化が起こったために。

 

 ヤマトは、ただただ信じられずにその光景を見ていた。

 

 小南も目を見開きその現象を見つめている。

 

 白自身も成功するとは微塵も思っていなかったので、その光景をその場のメンバーと同じように見つめていた。術の制御を忘れて……。

 

「ナルト!」

 

 その人物は周囲を見渡してナルトを探しているようだった。そしていないと分かると、もう一度周囲を見て、見覚えのある人物へと詰め寄る。

 

「ナルトはどこだってばね!?」

 

 自来也は胸ぐらを掴まれて持ち上げられると、慌てたようにして胸ぐらを掴んできた相手に言い聞かせる。

 

「クシナ落ち着け! ここにナルトはおらん!」

「じゃあ……どこに……?」

 

 穢土転生で蘇ったのはナルトの母親……クシナだったのである。クシナは不安そうな顔をしながら自来也を見つめていた。それを当惑した表情で自来也も見つめている。

 

 周囲はそれについていけずに見守るばかりだ。

 

「ナルトは元気にしとる。尾獣チャクラをコントロールするために、今は雲隠れの里「雲隠れ!?」あっ!? これ! 待たんか!!」

 

 クシナは何も言わずに迅速な動きで何処かへと走り去ってしまった。それを黙って見送っていたうちの1人である小南が、自来也に訊ねる。

 

 この中で一番冷静なのは彼女だけだったのかもしれない。あの蝦蟇仙人夫妻でさえ呆気にとられていたのだから。

 

「結局あの人は誰?」

「ミナト……木の葉の里の4代目火影の嫁なんじゃが……相変わらずじゃのぉ……」

 

 深々と溜め息を漏らす自来也に、小南は不思議がり、ヤマトは驚愕の表情に変わっていた。白はやっと呆然とした状態から復帰して、何も見なかったと言わんばかりに巻物を懐に片付けていった。

 

「さて、ここには何も無いようですし、帰りましょう」

 

 白の言った言葉は見事に無視され、自来也は両肩に乗った蝦蟇仙人と相談を始める。自来也たちも先ほどの光景を見なかったことにしたようだ。

 

「自来也ちゃん敵の拠点はここで間違いないんか?」

「ここのはずなのですが、尾獣のチャクラを感じないことから、ここは放棄されたのでしょう」

「それなら、ナルトちゃんのところに行った方がよくありゃせんか?」

 

 話し合いをしている最中にその声は聞こえて来た。

 

「ここどこだってばねーーー!!」

 

 その後すぐにクシナが戻ってくると、矢継ぎ早に自来也に訊ねてきた。

 

「この中に感知タイプの子はいる!?」

 

 その瞬間。その場の皆の視線が白へと集中する。まるで示し合せたかのような連携だった。

 

(あぁ……今なら白ゼツの気持ちがよく分かる……)

 

 白が現実逃避をしていると、クシナは白の手を掴み取り逃がさないとばかりに、その場から連れ出していった。

 

 他の者たちは白が連れ出されていくのを黙って見送っている。奇襲作戦が失敗した以上、潜入部隊に意味はなく、逆にクシナの相手をしてもらおうと考えたためだった。この時その場にいた皆の気持ちが1つになる。

 

 その後、どうするかを残ったメンバーで検討していくのだった。

 

 

 

 連れ出された白は、雲隠れに向けてひた走るクシナに手を捕まれて、同じように横を走っていた。

 

「取り敢えず一緒に行きますから離してもらえませんか? ナルトに会いたいのは十分に分かりましたから」

「本当に?」

「ええ」

 

 クシナは少し疑いながらも掴んだ手を離す。白はやっと解放されたと、安堵しながらクシナへと問いかけた。

 

「ナルトに会ってどうするんです? と言うか今の状況分かってますか?」

「どういうこと?」

 

 そこで初めてクシナは立ち止まると白へと説明を求めてきた。それに対して、白は忍界大戦のことや、無限月読計画について説明していく。

 

 大人しく聞いていたクシナは説明が終わってからしばらく考え込む。しかし、それも少しのことだった。

 

「つまり、この大戦はナルトを守るためのものってこと?」

「そういうことです。今は大量の影分身を各戦場に送り込んでるみたいですね。ここから一番近いのは……このまま走っていくと、早くても1日はかかります」

「んーもっと早くならない?」

「まあ……やれないことはないと思いますけど、試したことが無いんで何とも」

「やれるならやってみるってばね!」

 

 それくらいのガッツを見せろと言わんばかりに、クシナは拳を握りしめて白に言った。白は諦めたようにして、クシナを抱えると移動を開始する。

 

 やはりと言うべきか、クシナの身体は耐え切れずに、身体のあちこちがボロボロと崩れ始めた。

 

「ぎゃぁぁあああああ!!」

「静かにしてください」

 

 喚くクシナを余所に魔鏡氷晶を繰り返して移動していく。そして、目的の場所付近に着いた時には、クシナの身体は頭と胴体を残してほとんどが無くなっていたが、次第に周辺の塵を集めて元の形へと戻っていく。

 

「これは一体どういうことだってばね?」

「これは穢土転生っていう術なんですよ。死んだ人を蘇らせる術ですね。まあ身体は塵なんですけど」

「穢土転生……?」

「それよりも、たぶんここからは危険なんで1人で行ってください。今はナルトの影分身が雷影と戦ってるみたいなんで」

「……? 忍び連合は五影たちが作ったのよね? それなのになぜ雷影と戦ってるの?」

「ああ……。敵と言うか相手も穢土転生を使ってるんですよ。それで死んだ雷影と戦ってるんです」

 

 未だに不思議がっているクシナに簡単にではあるが、穢土転生について説明を行う。魂の呪縛を解いて自ら滅ぶか、封印するしか手が無いことを。そして連合軍は封印して回ってることなどを伝えると……。

 

「封印なら任せて!」

「うずまき一族ですもんね」

「そりゃね! じゃあそろそろ行きましょうか」

 

 クシナはやる気を漲らせてチャクラを高めていく。そのチャクラは辺りの空間を埋め尽くすほどだった。

 

「だから、俺は行きませんって、案内だけのつもりでここまで来たんですよ(相手の能力未知数の相手となんて危険すぎる……)」

「男がグダグダと言わない! 行くってばね!」

 

 クシナはいつの間に出したのか、チャクラの鎖を白に巻きつけると戦場に向けて走り出す。その走る姿はとても嬉しそうに見える。

 

 実際会えるのが嬉しくて堪らないのだろう。白への鎖の締め付け具合が、戦場に近付くにつれて段々と上がっていく。

 

 さすがにこのままではまずいと感じた白はクシナへと意見する。

 

「ちょっと、このままだとやばいんで、この鎖を緩めてください。一緒に行きますから」

「あなたさっきの移動で緩めた隙に逃げるつもりでしょう? そうはいかないわよ」

 

 クシナは緩めることなく逆に鎖の量を増やしてきた。それに諦めたようにして連れ去られる。そこで、本部の感知結界に気付かれたことが分かった。

 

 白は動けないのをいいことに集中していく。

 

 クシナたちが戦場に到着した時には、雷影が大きな壁を破壊しているところだった。

 

 クシナはそんな雷影の後ろから迫ると、雷影を包むようにして鎖の結界を張る。雷影はその鎖の結界から出ようとするが、全く出れないことが分かると、結界を張った者を睨み付ける。

 

 そして、雷影はその結界を張った者へと素早く近付き拳を突出して身体を破壊するが、その身体がすぐに戻っていく様を見て驚愕した。

 

「なぜ穢土転生体がこんなところに居る? お前は一体……」

「そんなことはどうでもいいってばね!」

 

 鎖で出来た結界は徐々に小さくなって行き、最終的には雷影をその鎖で捕らえてしまう。そこで、他にも鎖で掴まえられている者を見て納得した。

 

「なるほどね……。君がいたとは今の今まで忘れていたよ。全て処分しなかったのは迂闊だったね」

「言っときますけど、俺は今回の大戦には参加するつもりないんですよ」

「今の現状を見てそんなことが信じられると思ってるのかい?」

「ですよね……」

「まあいい。君の存在を忘れていた僕がいけなかったんだ。それを考慮して戦略を組み直そう」

「忘れてください。全力で」

 

 白の考えなどお構いなしに雷影の中のカブトが言うと、その瞳は通常の穢土転生体のものへと変わっていく。白はガックリと項垂れていると、それまで静かだった戦場が勝利の雄たけびで一気に沸き立った。

 

 そこへナルトの影分身が近付いてくる。

 

「なんでかーちゃんがこんなところにいるんだってばよ!?」

「ナルト!!」

 

 クシナの意識がナルトへ向いた一瞬を見計らい、ほんの少しの時間だけ仙人モードになり白はクシナの鎖から脱出してから、封印班に向けて雷影を封印するように指示を出す。

 

 しかし、白の言葉を聞く者はほとんどいなかった。いきなり現れた上に、忍びの額当てもしていないのであるが、それ以上に周りの声が煩すぎて声が届かなかったのである。

 

 前線の方にまで来ていたテマリが気付いたことによって、雷影を封印することができたが、白はカブトに敵認定されてしまったことにショックを隠せなかった。

 


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