白物語 作:ネコ
自来也は仙人モードを解いており、小南は身体の半分が紙の状態になっていた。ヤマトは白たちと合流すると同時に倒れてしまう。
「今度はうちはイタチか……」
「自来也先生なぜここが?」
「あれだけでかい封印術を見せられれば嫌でも場所は分かる。後は小南に上空から探してもらっただけだの」
自来也の言葉に反応した者が1人いた。その者は、今まで疲れて倒れていたとは思えない速度で自来也に掴みかかる。
「自来也! 貴様と言うやつは!!」
「うっ……。すまんがそういったことは終わってからに……」
「何が終わってからだ! ちょっと歯を食いしばれ!」
自来也が綱手に殴られるのを横手に見ながら、綱手の代わりに、カツユと共に五影たちを回復させていく。
誰も綱手の行いを止めるものはいなかった。それでも、今が戦時だということで、数発で済んだのはまだよかったかもしれない。自来也の顔は仙人モード時のように腫れ上がっていたが……。
綱手が、ひと通り殴り終わって落ち着いたときに、数人で近付いて来た者たちがいた。
「久しぶりね。あなたたち。……自来也生きてたの?」
挨拶をしてきたのは大蛇丸だった。他にも水月と香燐が、その後に続くようにして近付いてくる。
大蛇丸は、自来也が穢土転生とでも思ったのだろう。目を見てしばらく驚いていたが、顔を見て笑みを浮かべると香燐に指示を出す。
「香燐、綱手の回復をしてあげなさい」
「なんのつもりだ?」
綱手は大蛇丸の言動に困惑を隠せなかった。死んだと思われた大蛇丸が、いきなり現れたこともそうだが、回復するとまで言ってきたのだ。木の葉を一度潰そうとしただけに、すぐに信用することができなかった。
「私も色々と考えが変わったのよ。自分で風を起こすのもよかったけど、今は他人の起こす風に乗るのが楽しくてね」
「…………」
綱手と自来也は大蛇丸を見て、2人は顔を見合わせて頷くと大蛇丸の提案を受け入れる。
「いや、私よりもこっちの白を回復させてくれ」
「白?」
大蛇丸は綱手の申し出に疑問を浮かべる。今更普通の忍びを回復したところで、戦争の役に立つとは思えなかったからだ。
「えーっと。初めまして……?」
「…………」
こっそりと距離をとっていた白へと矛先が向く。大蛇丸は白を上から下までじっくりと見つめた。そこへ大蛇丸の後ろから声が掛けられる。
「あれ? 白は、大蛇丸様のお気に入りじゃなかったのか?」
「白。君、今逃げようとか考えてないよね? 大蛇丸様は、それはもうしつこいくらいに追ってくるよ? くっくっく」
香燐は疑問を口に浮かべただけだったが、水月は何かを察したのか、白の逃げ道を塞ぎにかかる。白は余計なことをと内心思いながら、大蛇丸から目を離せずにいた。
その間に、水月と香燐が大蛇丸へと白のことを説明していく。
「あの子が弟子をとるなんてね……。と言うことは、私の孫弟子になるのかしら?」
「いや。白は、わしが教えたからわしの弟子じゃろ」
「医療忍術が得意なようだから、私が弟子をとってもいいかもしれんな」
3人の話し合いにイタチが水を差す。
「そんなことよりも、十尾をなんとかするべきじゃないのか?」
「そうよ! ナルトのところに早く行くってばね」
イタチの作戦はシンプルなもので、今現状で一番脅威となる人物……マダラの封印を行い、その戦力を全て十尾へと持っていくことだった。
マダラと十尾では、十尾の方が能力が未知数な分脅威ではあるのだが、十尾を確実に倒せるという根拠がなかった。そのため、まだ倒せる可能性のあるマダラを先に倒すことになったのだった。
「状況が動きました」
「移動しながら聞くとしよう」
「俺が砂で運ぶ。みんなはチャクラを温存してくれ」
「香燐。白の回復を」
「うち、サスケ以外の男に噛まれるの嫌だな……」
「サスケ好きを認めたね!」
「ストックあるからいいよ……もう……」
カツユからの報告でみんなが一斉に動き出す。我愛羅の砂がみんなを乗せて行く前に、白はクシナとイタチを棺へと戻す。
香燐と水月が、砂の上でも言い争いをしている中で、白は巻物を取りだし、その中から輸血用のパックを取り出した。香燐の血である。
チャクラを戻している間に、最後の戦場の状況をカツユが説明していく。
「おじい様たちが十尾を封じているのか!! 穢土転生体と言うことは……」
「これも白なの?」
「俺はクシナさんとイタチさんだけです」
「それは私よ」
綱手と照美からの質問に、白は知らないとばかりに否定の言葉を伝えると、大蛇丸が横手から答えた。
綱手や他のメンバーが納得するなか、次々と状況報告が上がっていく。
十尾を操っていた面の者は、カカシと共に何処かへと消え去ったので、残るは十尾だけ。その十尾も操るものがいないので、ただ暴れているだけだった。
ただ、そのチャクラ量は相当なもので、十尾の分裂体を大量に身体から出して、本体へと近付けさせないようにしている。
連合の忍びたちで分裂体を相手にしているが、その数は減った傍から増えていき、いつまでも終わることはなかった。
その中で、まともに本体へと攻撃出来ていたのは、ナルトとサスケ、それと歴代火影の影分身だけだったが、それは焼け石に水程度の効果しかなく、すぐに分裂体によって本体から離されてしまっていた。
「あれか……」
白たちが歴代火影による封印術が見える位置までたどり着いたところで、十尾の大きさとそれを封じる術の規模に驚いていた。
「後はあれを倒せばしまいじゃの」
「油断はするなよ。おじい様が封印術にて縛っているということは、現状では倒す術がないか、時間がかかるということだからな」
「柱間殿のことはお主よりも知っとる」
「おしゃべりもそこまでだ」
土影の安易な言葉に、綱手は諌めるが、土影はどこ吹く風とばかりに受け流す。それを我愛羅が止めに入った。
戦場に到着すると、至るところに連合の忍びが倒れ伏しているだけで、敵の死体はどこにもない。敵はやられると、ただのチャクラの物質となって地面へと吸い込まれていっていた。
五影たちが到着することで、士気は更に上がったが、打つ術が今のところひたすら十尾のチャクラが切れるまで攻撃するしかないということが分かり、白はげんなりとする。それでも、火影の封印術により十尾による尾獣玉が来ないことが分かり、ホッとすると攻撃に専念していく。
仙人モードへと変更しそれを感知した所で、白は忍び連合の杜撰な攻撃に辟易する。決して無駄ではないのだが、切り裂かれたり、倒された十尾の分裂体は、地面へと吸い込まれた後に、また十尾へと還元されていたのである。
完全に塵にしてしまうナルトの風遁・螺旋丸や、サスケの炎遁・加具土命のように燃やし尽くしてしまわねばほとんど意味が無かった。
白は両手で印を組み仙術を使用する。
(仙法・明鏡龍水)
連合軍が倒した敵を、龍水弾の形をとった水が、地面へと還元する前に次々とチャクラ物質を取り込み、最後には鏡の中へと消えていく。そして、鏡自体も消えてしまった。
白は、それを続けていく。他の連合の忍びたちも、気付いた者は同じように封印したりと削ってはいくが、十尾のチャクラが減ったようには、誰も感じることはできなかった。
いつまでも続くかと思われた攻防にも、終止符がうたれる。十尾の頭上に、面が割れた状態の男が現れたのである。時を同じくしてカカシも連合側へと姿を現す。
「オビト! これ以上はやめるんだ!」
「何度も言わせるな。この無意味な世界になど興味はない」
オビトはカカシ同様ボロボロの状態であったが、十尾へと自分を繋げると印を組む。十尾はそれまで出していた分裂体を全て呼び戻して吸収し始める。
「いかん! あの者を誰か止めよ!」
柱間の叫びに呼応して、一気に攻撃を仕掛ける。一番早かったのは、ミナトだった。オビトに飛雷神の術のマーキングを付けていたのだろう、ミナトは動揺しながらもクナイをオビトへと突き刺す。
「君が面の男だったなんて……」
「……あんたはいつだって遅い」
ミナトがクナイを引き抜くと、オビトはその場に倒れ伏しながら呟くようにミナトへ言う。
誰が見ても負け惜しみにしか見えなかったが、その瞬間、十尾の中へとオビトは吸い込まれてしまった。
これで十尾だけだと皆が考えたとき、十尾が縮小し始める。それに伴いチャクラも、その中心へと凝縮していく。
そこには、十尾を人の形にしたようなものがいた。それは歪な形をしており、いきなりナルトに向けて小さな尾獣玉を撃ってくる。それをナルトは躱すが、その尾獣玉は火影たちが張った四赤陽陣を貫通し、その先にあるものを消し飛ばしていく。
「この結界を貫通するだと!?」
ナルトはキラービーと共に尾獣玉で相殺を試みるが、それは上へ弾くことが精一杯だった。尾獣玉は執拗にナルトを狙ってくる。
「なぜナルトを!?」
「自分に似たチャクラを持っておるからだろうな」
「八尾もいますが……」
「危険度の問題であろうぞ……」
十尾の時よりも明らかに素早くはなったが、狙いがナルトと分かっている分、対処はし易かった。ナルトへ向かう尾獣玉は、全て2代目火影とミナトの飛雷神の術により遠くへ飛ばされていく。その間に連合の忍びは十尾へ向けて攻撃していた。
しかし、連合の攻撃のほとんどを無視して、十尾だったものはナルトを攻撃する。連合軍の攻撃は当たるのだが、忍術や通常の攻撃では掠り傷すら負わない。
(これは普通の攻撃では無理だな)
白の仙人モード時の攻撃で、微かに攻撃を受けるレベルの十尾に、白は一旦攻撃を止めて距離を取る。
結界を潜り外へ出られては困ると、火影たちは開けていた結界を塞ぎ直して、十尾を連合軍もろとも結界内に閉じ込めた。
白は十尾からの分裂体が無くなったことで、仙人モードを解き、穢土転生させた2体を口寄せする。
ナルトへ何度目かの攻撃をしようとした時に、イタチがその間へと割り込み八咫の鏡で防ぎ返すと、初めて十尾にダメージを与えることができた。
十尾は一旦距離を置いて尾獣玉を出すのを控え、今度はイタチを含めて警戒し始める。
「イタチ! なんであんたが!?」
「サスケ。無駄話は後だ」
「あの十尾が攻撃受けるなんてすごいってばよ!」
「その盾で防いでいれば倒せるんじゃないか?」
皆の顔に希望が出てきたところで、イタチから無慈悲な言葉が伝えられる。
「そう何度も保たない。後数回が限界だろう」
掲げられた八咫の鏡には、霊気であるにも関わらず、僅かな亀裂が入っていた。
しかし、白が口寄せしたのはイタチだけではない。もう1体居たのである。もう1体であるクシナは、十尾がイタチを警戒しているのをいいことに、十尾へと近付き鎖で縛りあげる。
「クシナ!? ……そうか!」
「ナルトを!!」
「へっ!?」
ナルトは訳が分からないとばかりに疑問の表情を浮かべるが、クシナとミナトは迷いなく動く。
ミナトはクシナの元へナルトを連れて飛雷神の術で移動すると、ナルトの手をクシナの出す鎖へ掴ませる。
「九尾とのチャクラの綱引きは覚えてるかい?」
「九喇嘛とのやり取りなら覚えてるってばよ」
「それを今度は十尾相手にやるんだ」
「ええ!?」
「大丈夫だってばね!」
「今度は1人じゃないよ!」
柱間は十尾が動かぬように更に上から封印を施していく。ミナトはナルトの背に手を伸ばすと、忍びたちへと大声で呼びかける。そのミナトの声と共にチャクラの糸が広範囲へと伸ばされていった。
「みんなも引っ張るのを手伝ってくれ! そのチャクラの糸を掴み、自分のチャクラで引っ張るイメージを思い浮かべて欲しい!」
ミナトの声に従い、結界内にいる忍びたちはチャクラの糸を掴み取り、チャクラを高め始めた。各人がイメージしているのだろう。十尾からナルトに向けて少しずつではあるが、チャクラが流れ込み始めたのが分かる。
イタチや火影の影分身たちは、ナルトたちの前に尾獣玉が来た時のために立ちはだかる。
このナルトたちと十尾とのやり取りが行われている間に、傷ついて重傷を負った者は、結界の外へと移動させていき、結界内には多少の傷はあっても戦闘が可能な忍びたちのみとなった。結界内に残った忍びたちの数は、最初に比べると限りなく少ない。
(これで、本当の終わりなのかな?)
ナルト親子や他の忍びのやり取りを結界内で見ながら、自身もミナトから放たれた綱を握り、周囲へと目線を移す。そこには忍びたちの屍で地面がほとんど埋め尽くされていた。そんな中、白の視点はある1点で止まる。
そこには見知った顔があった。
「えっ?」
白は信じられずにゆっくりと近づく。その人物は、胸に風穴を開けて、仰向けに倒れているネジだった。
ネジが倒れてから1日経っていないと判断した白は、周囲へと呼びかけようとしたところで、それを言葉に出せずに十尾を見つめる。
十尾が急速にチャクラを変質させ始めたからだ。それに伴い、歪だった形も変わっていき、流出していたチャクラも途切れる。
結局十尾を押さえつけることは、僅かな間しかできなかった。十尾だったものは完全な人の形……オビトになると、押さえつけていた柱間の封印術である仙法・明神門を力づくで打ち破り、同じくクシナの鎖を引き千切り、ゆっくりと立ち上がる。
そのチャクラは今までの事が全て準備運動だとでも言うべき程大きくなっていた。