白物語   作:ネコ

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木の葉の里
22 里入?


 白が気が付いた時に見えたのは、最後に見た景色ではなく、見知らぬ部屋の中だった。和風な家と言ったらいいのだろうか。その部屋の中央にて、白は布団に寝かされていた。

 

 外はまだ明るくなったばかりのようで、少し薄暗いように見える。

 

(取り敢えず、まだ生きてるみたいだ……。気が付いたら学生に戻ってるっていうのは夢の見すぎかな?)

 

 意識があることを確認して、次に身体に異常がないか確認する。

 

 布団の中で軽く身体の各部を動かし、その後、チャクラを身体中に行き渡らせてみるも異常なし。これから生きていくうえで、身体欠損やチャクラ使用不可能などになったら目も当てられない。

 

(溜息しか出ないけど、格上相手だと、逃げることすら出来ないうえに手加減されるなんてね……。相対して実力の違いが分かるだけでも、自分のレベルは上がってるんだろうけど……、自信なくすなあ……)

 

 あの場で、自分がなぜ殺されなかったのか不思議だった。しかも意識を刈り取るというやり方で、生かされたことを考えると、手加減されたと見ていいだろう。最初にクナイで襲いかかられたときは、完全に殺す気だったのに、だ。

 

 生きてることに対して安堵するが、ここまで差があるのか、とも思い知らされる。

 

 再不斬との鍛錬は、かなりの手加減をしてもらっていたことに、今更ながらに気が付いた。こちらの手ごたえや自信を付けさせるために抑えていたのだろう。ある程度拮抗した実力の方が伸び代が高いことが多いので、敢えてそういう風に調整していたのかもしれない。体術に関して厳しかったのは、自分にあった攻撃方法を見つけろということだったのだろう。

 

(自分の実力が、今どの辺りなのかを知っておきたいな。それにしても、ここはどこだろう?)

 

 いま自分のいる場所に見覚えが無い。特に拘束されている訳では無いので、意識を失った後に、誰かに保護されたのだろう。

 

 どれくらい寝ていたのか分からないが、不安は募る。

 

(服は着替えてないけど、懐に入れてた巻物とクナイがない。クナイはたぶんあの場に落としたんだろうけど、巻物は困る。それに、背負ってた籠も無いとなると、この先あてがない)

 

 上半身を起こして部屋の中を見渡すと、持ってきていた籠が目に入った。

 

(良かった。籠の中のお金が無いと、最低限の生活すらできないし)

 

 その籠に向けて歩き出し、実際に身体を動かすことに関しても問題がないことを確認する。そして、籠の中を見て、そこに懐に収めていた巻物があることに気付き、中身を確認した。ひとつは血継限界術が記された巻物。残り2つは再不斬から預かっている、持ち運び用の巻物である。ただし、クナイについては1本、懐に入れていた分が見当たらなかった。

 

(クナイ5本中1本紛失か……。クナイ1本で助かったと思えば安いものかな? あの場所に落ちてるかもしれないけど、あの場所がどこか分からないし、諦めて買うしかないか……。再不斬さんのだけど、クナイはクナイだし、どれも一緒でしょ)

 

 お金についても手を触れられた様子はなく、籠の下にある落とし底の下に敷き詰められたままだった。それを確認し、籠のふたを閉じたところで、人の気配がこちらへと近づいてくるのが分かった。

 

 恐らくは、白の様子を見に来たのだろう。ここまで来てわざわざ殺されたりはしないはず。と思い、籠の近くで待機しておく。相手の意図が分からない以上、ここで逃げても仕方ないし、先ほど上には上が居ると思い知ったばかりだったからだ。

 

 障子を開けて入ってきたのは、和風姿の男が2人だった。1人の男の名前は日向ヒアシ。原作通りなら、日向ヒナタの父親である。もう1人については見覚えはないが、同じ格好をしていることから日向家の者だろう。

 

(ここは日向家か。ということは攫われたのはヒナタだったのかな?)

 

「助けていただいてありがとうございます」

 

 取り敢えず、その場にて正座をし、頭を下げて礼を述べておく。経過はどうなったのか分からないが、助けてもらったのは、推測ではあるが事実だろう。

 

 頭を上げずにいると、日向ヒアシの方から声を掛けてきた。

 

「私は日向ヒアシという。頭を上げてよい、それと名前を聞いてもよいか?」

「失礼しました。名前は白です」

「白か。他に名前は無いか?」

「白しか分からないです(名前についても再不斬さんに付けてもらっただけだし)」

「どこから来たのか分かるか?」

「波の国から来ました。ここはどこなんでしょうか?(付き人の視線が厳しいけど、嘘は言ってないから大丈夫だよね?)」

「ここは木の葉の里だ。そちらにも聞きたいことはあるだろうが、それよりも、先にこちらから聞きたい。子供1人であんなところにいて親はどうした?」

「両親は死にました。波の国にいるよりも火の国が安全と思ったので、頑張って移動していたんですが、場所が分からなくて迷子になってました。そこへ覆面をした男がやってきて気を失いました」

「迷子か……」

 

 ヒアシは思案顔になり、もう1人は「どうするんです?」と言わんばかりにヒアシの方を見ている。しばらく沈黙が流れ、白は耐え切れず声を掛けようとしたところで、逆にヒアシに声を掛けられた。

 

「これからどうするか決めてあるか?」

「決めきれてません。火の国で暮らすことしか考えてませんでした」

「ではここに……、日向家に住んでみてはどうだ?」

 

 この言葉にギョッとしたのは、一緒に居た男である。いきなり当主は何を言い出すのだと、驚きを隠せずに更に言葉まで出してしまっていた。

 

「当主! 何を考えているんです! 日向家に他の者を住まわせるなど!」

「別に日向の姓を名乗らせる訳では無い <ヒナタと恐らく同じ年頃だし、1人で波の国からあそこまで来たのだ。体力はあるだろう、それに恐らく忍術を使えるはずだ。ヒナタのよい練習相手になると思わないか?>」

「しかし、柔拳については、おいそれと教えていいものでは……」

 

 男の言葉は段々としりつぼみのように弱弱しいものへと変わっていく。例え柔拳を教わったとしても、日向家に伝わる白眼がなければ、ほぼ意味が無いことに気付いたのだ。教わることで対処の仕方くらいは分かるかもしれないが、その対処と言うのも、接近戦はしないというだけのもので、里の者なら誰にだって理解出来ているだろう。それを今更理由に挙げても仕方がない。

 

「分かりました。ではそのように手筈を整えますが、住む場所などはどうしましょうか?」

「ヒナタと共に鍛錬をするつもりだ。なので、ヒナタの近くの部屋でよかろう。今回の事で、多少の自衛手段を持たねばならんことがよくわかったしな。ヒナタの歳も3つになったし丁度いい機会だ」

 

(なんか自分の事なのに、話がどんどん勝手に進んでいくなあ。こちらの意見全く聞く気なし? まあ、バックに日向家が付いてくれるなら、この里では安心だからいいんだけど……。最悪、孤児院入りしてダンゾウの元で修行すること考えてたことに比べれば、遥かに好条件だし良いか。でも、自由時間くらいは欲しいなあ。お金は多少なりともあるから、必要な物は多分買えると思うけど、この先のことを考えると、修業道具とか揃えるのにお金掛かりそうだし……、稼いでおいた方が無難かな?)

 

「では、この子を案内してやってくれ。白もそれでよいな?」

「はい! ありがとうございます(決まってから同意ですか。そうですか。分かってたけどね!)」

 

 子供らしい笑みを浮かべて、再度深々と礼をする。そして、ヒアシが満足気に出ていこうとしたところで、部屋の外から、誰かが急いでこちらへと近づいてくるのが分かった。

 

 走ってきた男は、当主を見つけると青ざめた表情で、喋りはじめる。

 

「大変です! 昨日の誘拐犯の身元が分かりました! 先日雲の国から使者として来た忍び頭です! いま大広間にてお歴々方が集まっております! 至急お向かい下さい!」

「同盟条約を結んだばかりの国の者が何故!?」

「……最初からそれが狙いだったかもしれんな」

 

 最後にヒアシが渋い顔でそう呟くと、3人は急ぎ部屋を出ていってしまった。

 

(昨日っていうことは1日しか経ってないのか。それにしても、これでネジの父親が死ぬんだっけ? なんで生け捕りにしなかったのか不明だなあ。見た感じでは自分より格上なのは分かるけど、格上同士だと、どちらが強いか分からないし。これはもっと精進しないといけないな)

 

 決意を新たに高めたところで、いまの現状の事を思い出す。

 

(あれ? と言うか、案内してくれる話はどうなったの? まさかの放置プレー? まあ、確かに緊急を要する事案だし仕方ないか。屋敷の中をこんな時に、うろちょろしてたらマズイだろうし、ここは大人しくしとこう。さしあたって服を着替えるかな。結構汚れてるし……。頭も洗いたいなあ……。誰か来ないかな?)

 

 数日間、着たままだった服を着替えて、荷物の整理を行う。これからの事を考えると、自分にあった修業が出来なくなってしまうのは痛いが、忍者アカデミーに入りさえすれば、多少の自由時間も増えるだろう。入れてもらえることに対して許可が下りればだが……。

 

 それまでは、恐らくヒナタとの柔拳などの練習相手をさせられることになるとは思うが、ここで、安全に柔拳を受けておくことは、ある意味役得であった。ネジの点穴まで突かれると分からないが、自分の医療忍術で、柔拳を受けた際に、どこまで回復することが出来るのかを知っておきたいところだからだ。

 

 日向家と争うこと自体、無いとは思うが、この世界は広い。似たような忍者が居たとしてもおかしくはない。自分が生き残るためにも、色々と覚えておいた方がいいだろう。

 

(ところで、いつまでここで待ってたらいいんだろう? お腹減ってるんだけど……朝食なし? 食材が余ってるんだけど、こんなところで料理したらマズイよなあ。仕方ない、我慢して片手での印の練習でもするかな)

 

 結局、この日は朝食を食べることも出来ず、昼過ぎになってから昼食にありつけることが出来た。

 

 1人で食べることになったところから考えるに、存在を完全に忘れ去られていたようだった。

 


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