白物語   作:ネコ

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3 再不斬?

 目を覚ますと、昨日と同じ天井が見えた。

 

(まだ夢から覚めないか。それともこちらが現実なのか。胡蝶の夢とか勘弁してほしいんだけどな)

 

 身体を起こし家の中を見ると、人が倒れているのが分かった。恐らくは昨日の侵入者だろう。

 

(昨日のは夢じゃなかったんだな)

 

 改めて侵入者を見てみると、漫画でよく見た顔であることが分かった。

 

(なんで、この人がここにいるの?)

 

 侵入者してきた人物は、再不斬その人だったからである。よく観察してみると、再不斬は気絶しているようで、わずかだが腹部を怪我しているようだ。服に赤い染みが広がっていた。

 

(この人なんで襲ってきたんだ? って言うか昨日助けてくれたのは誰? ……取り敢えず、布団に寝かしとくか。腹に血がついてるけど、原作通りなら、このままほっといても、こんなところで死んだりしないだろうし)

 

 再不斬を布団へと運び、一応怪我の具合を確かめようと服を剥いだときに、いきなり手を捕まれた。

 

「どういうつもりだ?」

「ああ、起きましたか。このままだと私の手が折れるので離して貰えませんか?」

「どういうつもりだと聞いている」

 

 再不斬は、更に不機嫌そうな声で再度訊いてきた。余程今回の行動が理解できなかったのだろう。

 

「どういうつもりも、腹部を怪我しているようだったので、確認しようとしただけですよ」

「では昨日のはなんだ?」

「いや、むしろ聞きたいのはこっちなんですけど? いきなり襲いかかられるし、それを誰かが助けてくれたみたいだけど、その誰かはここに残ってないし」

 

 この言葉に再不斬は唖然としているようだった。しかし、それも束の間。疑うような視線を向けつつ訊ねる。

 

「お前は昨日自分が何をしたのか覚えてないのか?」

「??? それくらい覚えてますよ。朝から洗濯しに里へ行って……」

「そうじゃない」

 

 何を言っていると、少し呆れたように否定の言葉を出され、逆に不審な目を再不斬に向ける。再不斬の言っている意味が全く分からなかった。

 

「何がですか?」

「くっくっく。いやなんでもない」

 

 再不斬は良いものを見つけたと言わんばかりにほくそ笑み、そればかりか笑い声すらあげる。機嫌が悪いイメージしかないため、とても不気味だった。

 

「ああ。そろそろ仕事に行かないといけないので、私は行きますが、あなたは怪我してるようですし、ここで休んでていいですよ」

「どれくらいで戻ってくる?」

「夕方くらいには戻りますけど?」

 

 何故戻ってくる時間を気にしているのか分からず、正直に答える。

 

「そうか。俺も里に行かないといけないからな、取り敢えず一緒に行く。少し待て」

「(まだ抜け忍じゃないのか……)わかりました」

 

 そう言うと、再不斬は手を腹部に当てて目を閉じた。

 

(これが医療忍術なのかな?)

 

 これから過ごしていく上で、必須となりうる忍術である。出来れば教えて貰いたいが、いまは生活を安定させることが優先だろう。

 

 数分経つと、手を腹部に押し付けたままではあるが、再不斬は起き上がった。

 

「いくぞ」

「大丈夫なんですか?」

「移動には問題ない」

「昨日はなんで襲ってきたんですか?」

 

 再不斬は、何を言ってるんだ?といったような顔をしてこちらを見てきた。

 

「お前は、本当に気付いてないのか?」

「何をでしょう?」

「お前が住んでいるこの家付近から死臭がした。それを確認しようとした結果がこれだ」

 

 再不斬は自分の腹部を指差す。この家を調べた結果、この怪我を負ったと言っているようだった。実際にそうなのだが、この時に、どのようにして再不斬に怪我を負わせたのかなど知るよしもない。

 

「えーっと。つまりどういうことですか? (死臭は分かるけど、なぜ怪我までこっちのせいになる?)」

「ああ。つまりはお前のせいだ」

「心が読めるんですか!?」

「表情に出しすぎだ。聞いた話では、いつもヘラヘラ笑っているやつと聞いていたんだがな」

 

 再不斬は、言葉など無視して、自らの考えを口に出す。事前に調べてきた情報と比較しているのだろう。

 

 自分のことが、知れ渡っていることに暫し唖然としてしまう。一応殺したことがわからないように、毎日酒を買っていたが、再不斬に知られた今、ここに残るのは危険だろう。

 

 もしかしたら、今一緒についていくことすら危険かもしれない。 

 

「安心しろ。悪いようにはしねえよ」

「心を読むのを止めて欲しいんですけどね」

「それはお前が悪いな。そう言えばお前の名前は何て言うんだ?」

 

 この時、始めて自分に名前が無いことを知った。今まであった人からは聞いた覚えがない。実際親からも呼ばれたことはなかった。そういったものが書かれた物も、この小屋には無い。

 

「自分に名前が無いのを忘れてました……」

「……本当みたいだな」

「嘘を言っても仕方ないですからね。親と思わしき男からも呼ばれたことはありませんし」

「なるほどな」

 

 再不斬は、身体をじろじろと見回しながら一人納得する。身体の至るところに痣などの怪我があれば、親から何をされていたかなど、想像するのは簡単だった。

 

「名前は無くてもなんとかなってるのが現状です」

「名前が無いと後々不便だ。俺がつけてやるよ」

「それでしたら、格好良さげなのでおねがいします」

「名前は格好よりも、単純なものでいいんだよ」

 

 再不斬はどうでも良さそうに、一瞬遠くを見るような目をする。

 

「そんなもんですかね(変な名前だけは勘弁だな)」

「そんなもんだ。名前はそうだな……白でいいか」

「えっ?」

「分かりやすくていいだろ?」

 

 再不斬の名前を聞いたとき、思わず聞き返してしまった。鏡の無い現状で、自分の姿をまともに見たことがないので当然だ。

 

(まさかの白だったのかよ! ……いや待てよ、血継限界がある分、有利と考えればいいんだ! やる気出てきた! 後は死亡フラグを回避するだけ!)

 

 白は、考えを改めてやる気を出すと、嬉しそうに再不斬へと話し掛ける。

 

「とてもよい名前ですね!」

「この霧を見てつけただけなんだけどな」

「それを言うと色々と台無しですが、よい名前なのでいいです」

 

 再不斬の名前を付けた理由に、少し唖然としてしまうが、自らが何者かが分かり、そのようなことなどどうでも良くなってしまう。

 

「最初に言っただろ? 名前なんて単純なものでものでいいんだよ」

「確かに言ってましたね。では、あなたの名前はなんというんですか?」

 

 知ってはいたが、ここで訊いておくことで、後々呼びやすくするために白は訊ねた。変に知らないうちに名前を呼んで、怪しまれないようにするためだ。

 

「再不斬だ。それじゃ立ち止まってないで行くぞ」

「そうでした。仕事の時間が迫ってる」

 

 そう言って小走りで進んでいく再不斬に、こちらはやや駆け足でついていくのだった。

 

 

 

 一日の仕事が終わり小屋へと戻ると、そこには再不斬が囲炉裏の近くにて堂々と座っていた。

 

「これは立派な不法侵入です」

「裏のやつは処理しといてやったから、むしろ俺の方がお前に対して貸しがあるくらいだ」

 

 犯罪ですよといっても、再不斬は簡単に返してきた。しかも、白にとって言い逃れが出来ない部分で、である。

 

「やはり、あそこから漏れてたんですか、お手数お掛けしました」

「白……お前は一体何歳なんだ?」

「多分身体の大きさから見るに、三歳くらいではないでしょうか?」

「三歳が、大人を簡単に殺れたうえに、埋めることができると思うか?」

「そう言えばそうですね(昔の感覚でいるせいか、できて当たり前と思っていたけど、普通は無理だよな)」

 

 当初は、ガリガリでいつ倒れてもおかしくない状態だった。しかし、いつしか気付けば身体は、以前の不調など無かったように、肉付いてきている。そして、それが今では普通であると思い込んでいたのである。

 

「それはな。お前が常にチャクラで身体を強化してるからだ」

「……聞きそびれました。もう一度お願いします」

「チャクラって言ったところで分からないだろうな。まあ、追々説明してやる。取り敢えずは、そいつのコントロールからだな」

 

 こちらを無視して再不斬は、何事か呟き考え始めたが、いままで全く分からなかったものを常に無意識にて使っていることを指摘されたのだから、詳しい説明が欲しいところであった。

 

「取り敢えず、コントロールの仕方を教えてください」

「そうだな」

 

 この日より、仕事が終わってから帰宅後に、チャクラの訓練が始まった。

 


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