白物語   作:ネコ

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32 授業?

 最初はこのようなものかもしれないと、初日の授業を終えてから思った。

 

 午前中は、アカデミー内をぞろぞろと、そしてガヤガヤと騒がしくしながらクラス単位で歩き回り、ひとつずつの部屋の説明を先生がしていく。授業の行われている教室は、廊下側からの見学だけを行い、それ以外の場所では部屋の中へと入っての説明だった。アカデミー内をグルグルと回っただけでお昼になってしまった。

 

 本当ならばもっと早めに終わったのだが、予想通りと言うか、ナルトは行く先々でイタズラをしているが、先生は全く取り合おうともせず、後片付けを冷たい目で命じるだけである。その片付けを待っていたので時間が掛かったのだ。ナルトは途中から、イタズラに飽きたのか、それとも効果がないと思ったのか、大人しくついてきてはいたが、かなりご不満の様子だった。

 

 午後からの授業の内容は、あまりにも簡単すぎるものだった。文字の練習や計算などをやるはめになるとは、想像していたよりもレベルの低さに溜息しか出ない。

 

 忍者アカデミーというからには、忍具や忍術などについての説明があると考えていた。しかし、よく考えてみれば、いまの年齢は、前で言う小学生である。忍具や忍術などの説明を受けるためには、確かに、文字が読めなければ理解できないだろうし、計算についても必要だろう。

 

 そう思ったのは、隣の席で真面目に授業を受けているヒナタがいたからだ。クラス全体を見回して、既に授業内容を理解してそうな生徒は少なく見える。既に理解してそうな生徒―――サスケなどにとっては暇そうだ。

 

 初日の授業を終えると、同じ教室内の生徒が色々と話しかけてきた。昨日はすぐに帰ったり、他の子もいきなりは話しかけづらかったのだろう。

 

 話しかけてくる内容としては、「これからよろしく」といった軽い挨拶がほとんどだった。ヒナタも挨拶は出来たのだが、声が小さく、下を向いてこちらに助けを求めるような目線を向けている上に、更に白の袖を掴んでいるので、相手にとってあまり好い印象ではないだろう。

 

(仕方ないフォローしとくか)

 

「自己紹介はしたから知ってると思うけど、名前は白。隣のヒナタとは友達なんだ。ヒナタはちょっと恥ずかしがり屋なだけだから、気にしないで。ヒナタ共々これからよろしくね」

「ふ~ん。まあいいんじゃない?」

 

 少しヒナタを値踏みするような視線を向けた後に、女の子は立ち去って行き、他の子にも回っているようだ。

 

 このような感じで、ヒナタに対してのフォローはしていたが、好意的に受け取る子もいれば、どうでもよさそうな子、あからさまに不機嫌そうな子など様々だった。この辺りは、ヒナタが他の生徒に慣れてくるまで仕方ないだろう。

 

(ヒナタに関しては徐々に慣れて行ってもらうとして、この内容の授業が続くなら他の事が出来そうかな)

 

 次の日からも同様の授業内容であったために、早速行動に移すことにした。

 

 ヒナタに図書室に行ってくると伝えると、一緒に行くと言う返答があったので、行動を共にしているが、こういう言い方をしてしまうと、ヒナタは断ったためしがない。ヒナタには悪いと思ったが、ヒナタを1人教室に残しておくのも心配であったため、休み時間に一緒に図書室へと連れて行くことにしたのである。

 

 図書室にて、有益な本や巻物が無いか探す。整理整頓が出来ていないからなのか、それともわざとなのか、本の並びがバラバラである。ただ、読めそうな年齢順に分けてあるだけマシだった。白は、高学年の生徒が読む棚へと移動し、忍術や幻術の書を手にとって中身を確認していく。本屋に売っていない内容ではあるのだが、これから先に習うであろう物ばかりだった。授業中の印の練習には丁度よいかと、出入り口にて暇そうにしている先生へ、貸し出し許可を貰い部屋を後にする。

 

 ヒナタは結局何も借りぬまま、ついてきただけになってしまった。

 

「何も借りなかったけど、良かったの?」

「まだ、そんなに読めないし、時間があんまり取れないから……」

「そうだね。ごめん」

「白は悪くないよ。……それにしても白はすごいね。そんな難しそうな本を読めるなんて」

「色々と勉強してるからね。それよりも、そろそろ休み時間が終わるから教室に戻ろう」

 

 よくよく考えれば、ヒナタに勉強をする時間があったとは思えない。あったとしても、早朝くらいだろう。アカデミー終了後にも鍛錬は続いている。夕食の時間が休憩のようなものだが、その後も続けているので、夜に勉強する時間などないだろう。いつも疲れ果てている姿を見ているので、そこから無理をして勉強しているとは考えにくい。

 

 ヒナタには、悪いことをしたなと思いつつ、ヒナタと共に教室へと戻っていく。

 

 授業の開始時間ギリギリに戻ったせいかもしれないが、教壇側の教室の戸が少しだけ開いており、その上に黒板消しが設置されていた。設置したのは、おそらくナルトで間違いないだろう。これに気付かない先生などいるのだろうかと疑うが、わざわざ自分で潰す必要はないだろうと、空いている戸ではなく、閉まっている方の戸を開けて教室へと入ることにした。

 

 予想通りではあるが、黒板消しに引っかかることもなく、先生は戸を開き黒板消しが落ちてくるまで見守った後に教室へと入ってきた。そして、誰がやったかを確認するために口を開こうとした時、その前にナルトが名乗り出た。名乗り出たというより、失敗したと悔しそう言ってのけている。その様子に、先生は淡々と床に散ったチョークの粉を、次の休み時間に掃除をしておけと言うのみで、そのまま普通に授業が行われた。

 

 ナルトはつまらなさそうにし、返事もせず授業を受けていたが、ヒナタはチラチラと後ろを振り返り、そんなナルトを憧れのような目で見ている。引っ込み思案なヒナタにとっては、あそこまで自分の意見を言えるナルトが羨ましいのかもしれない。

 

(この頃から気にしてたのか……。まあ、あれだけ目立つことをしてれば、注目を浴びるのは当然かもしれないけど……)

 

 こちらはと言えば、ナルトがクラスの注目を浴びてくれているので、印の練習などには事欠かない。先生自体も、あまりナルトと関わり合いになりたくないのか、こちらの方へはあまり近づいて来ないので、なおさら好都合だった。たまにイタズラの度合いが大きくなることがあり、自分の席でどこから持ってきたのか、煙玉などを使うなどあったが、あちらへと注意が行くので我慢している状況だ。まあ、我慢できずに消しゴムを投げつけたこともあるが、白が投げつけたことに気付かず、辺りをキョロキョロとするばかりである。

 

 最近ではやっと秘術の改良に成功したので、それの実践も踏まえて授業を受けている。前までは、秘術による手鏡は音声だけしか伝えることが出来なかったが、いまでは、手鏡の向こう側を見通せるようになっていた。その為、水分身に本を捲らせて、その内容を手鏡にて見ることで、授業中であるにも関わらず、他のことを学べているのである。

 

 下手に授業以外の本を広げていては、怪しまれること間違いないだろう。それに3代目火影は、遠見の術かなにかが出来たはずだ。ナルトを気にかけているので、その周囲に居る人物にも注意を向けているだろう。その点、手鏡であれば、自分の身嗜みを整えていると思われるだろうし、女生徒が持っていても不思議ではないので、先生から見ても怪しまれないだろう。こんなことで、アカデミーに女で申請していたことが役に立つとは思わなかったが……。

 

 これが出来るようになってから、一度再不斬に色々と教えてもらおうかと思い、映像を繋げてみたのだが、そこに映った光景は真っ暗だった。おそらくは、荷物の中にでも入れているのだろう。もし、戦闘中や隠遁中であったなら文句を言われそうだったため、定期的に繋げてみるようにし、見えるようになるまでは音声による接触は控えておくことにした。

 

 アカデミーでの授業に関して、机上の勉強はいいのだが、一番困るのは外に出ての運動だった。はっきり言って現状では何の鍛錬にもならない。気分が悪いと言って欠席することも考えたが、ヒナタを1人にしてしまう上に、欠席ばかりしていては、アカデミーの方から日向家に何を言われるか分からないので、この時ばかりは自重して大人しくしている。

 

 

 

 そんな日々を過ごして季節は夏に移った。

 

 朝の目覚まし代わりの飛来物は、今ではクナイに変わっている。布団に刺さってはいけないので、掴むようにしているが、そろそろ慣れてきたので、時間をランダムにするか本数を増やす必要があるかもしれないと考え中だった。

 

 この身体になってからというもの、夏という季節は、一番苦手な季節になった。この季節ばかりはシノと同じようにフード付きの服を着るようにしている。肌も露出しないように薄手の長袖だ。この季節の日差しを肌に受けると、結構な不愉快感が生まれてくる。もしかしたら、日焼けによる痛みかもしれないが、痛みに対して鈍いため判断できない。

 

「白は暑くないの?」

「もちろん暑いよ?」

「この季節になると長袖を着ているのは何故?」

「日焼けしたくないからかな?」

「そうなんだ」

 

 ヒナタは、白に対しては普通に話せるようになったのだが、未だに同じ教室の生徒には、ヒナタから声を掛けることはない。相手から話しかけられた時に、白の袖を掴まなくなったのと、あまり頭を下に向けない分だけ、進歩していると言っていいかもしれない。しかし、口数が少なく、目線も相手に合せようとしない為、すぐに話相手が違う子に移ってしまっている。

 

 現状では、ヒナタが白の付属品的扱いのようだ。特に、白から他の子に対して話しかけていくことは無く、いつもヒナタと話しているのだが、それでも話しかけてくる子はいる。話題は色々とあるが、大概が白の方へと来るのである。術の効果を確かめるために、街中での情報収集をしているのだが、話しかけられた際に、その内容を知っていたため、何やら情報通と思われたようだ。それ以来、白へと話しかけてくるようになったのである。その時は、いつもの愛想笑いで、ある程度の受け答えをし、ヒナタを巻き込んで少しずつでも、クラスに馴染めるよう改善している最中であった。

 

 この頃に忍者アカデミーの大増築が行われた。なんでも数年前の事件のせいで、本来はもっと早くに大きくする予定だったが、里の方の復旧に予算を使ったため、予算が足りずにいまに至ったらしい。確かに、アカデミー内をよく見てみれば、古い部分と新しい部分があり、過去に何度か増改築したような痕跡が見受けられる。

 

(数年前って確か歴史書では九尾の方だったかな? それ以前に増築する必要あるのかな? まあ木の校舎から石作りの校舎に変わってるみたいだけど)

 

 増築に関しては、工事中は危険な為、そちらの方へと近づかないようにと言われていたが、そんなことを言えば動き出す人物がいることを理解しない先生に、そろそろ学習したらどうだろうかと思ってしまう。

 

 まあ、言っても言わなくても一緒だったかもしれないが……。

 


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