白物語   作:ネコ

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35 くノ一?

 秋休み中に無事、就職先が見つかって良かったのだが、お客さんの顔を覚えるために、片目に手を当てて生活することが多くなった。その内に、声だけで顔が分かるようにならないと、わざわざ片目を塞ぐ行為をしないといけない。もしくは、手鏡を見るという行為をしないといけないが、頻繁に手鏡を見ていては、鏡でないことを誰かに見られる恐れがある。

 

 店のオヤジに言われたことだが、1度でも来たことのあるお客さんの顔くらいは、覚えておけとのことだ。これが意外と大変だった。店にやってくるお客さんが、思っていたよりも多いのである。店でやることは覚えたのに、顔ばかりは初見の人も来るため、なかなか油断が出来ない。そのため、手鏡よりも片目を押さえる行為をしているのだが、それに伴い、心配性が1人いる。

 

「白。最近目を押さえることが多いけど大丈夫?」

「大丈夫だよ。ちょっと覚えることが多くて、目が疲れてるくらいだから」

「白はすごいね。体術も出来て、勉強もしてるなんて。それに比べて私は、体術だけを頑張ってるのに、未だに白に勝てないし……」

「ヒナタよりも先に始めたんだから、そんなに簡単に抜かれたら困るよ。それに最近は防げるようになってきてるから、こっちの方が焦ってるんだよ?」

「そうなの?」

「安心していいよ。少しずつ上達はしてるから」

 

 話題が勝手に逸れていくのはいいのだが、この後ろ向きの思考はどうしたものかと考えさせられる。やっと、一緒に居る時で、女子生徒限定かもしれないが、教室内の人であれば話せるようになってきている。最初の頃に比べれば随分進歩したものであった。

 

 そんなことで、日々は過ぎ去り、1年の最後に試験があった。試験と言っても、1年の時に教わったことの復習のようなものだ。読み書き計算など、聞いていなくても間違いようが無い。しかし、変に満点をとると、対抗心を燃やしてくること請け合いな人物が居るので、計算問題にて空白を入れておいた。間違った答えを書くのにちょっとした抵抗感があったからだ。

 

 試験に関しては、成績にあまり関係なく、みんな2年生へと上がることになった。

 

 ここからの内容は、忍びとしての授業の始まりである。クラスに変更は無かったが、男女にて授業が分かれることがあった。通常の授業と、くの一の授業は日によって変更され、2クラスの内片方に女子生徒、もう片方に男子生徒と別れて行うことになっている。

 

 男の方は、体術など体力作りがメインだったが、女の方はと言うと―――

 

「本日より、くの一としての授業を始めますの。まずくノ一とは、忍術だけではなく、女性としての幅広い知識と教養を身に付けなければなりませんの。スパイ活動する際に、普通の女性として振る舞えなければ苦労しますからね。今日は感情表現について行いますの。丁度人数も偶数ですし、お隣通し2人でペアとしますの。それでは、お互いに向き合いましょう」

 

(感情表現って何するんだ? まさか、こんな授業があるなんて思わなかったなあ。まあペアってことだし、ヒナタと組むから問題ないかな)

 

 各席には本来3人ずつ座っているのだが、男生徒が居ないため、今は2人ずつ座っている。当然と言えば当然だが、白はヒナタの隣に座っていた。

 

 他の子を見てみると、サクラとイノがペアなのが見て取れる。いまはサクラも、ヒナタと同じような性格で、かなり大人しい部類だ。と言うよりも泣き虫サクラと言われているくらいである。きっとこれを機に、イノに引っ張られて、どんどん性格が変わっていくのだろう。そう考えると、イノのサクラに対する性格矯正または、改変と言った方がいいだろう。その技術には目を見張るものがある。

 

「感情表現って何をするんだろうね?」

「怒ったり泣いたりするのかな?」

「やっぱりそう思う?」

「たぶんだけど……」

 

 ヒナタは自信なさそうに言ったが、実際その通りになった。

 

「それでは、さっそく始めますよ。まずは笑顔からですの。相手に作り笑いと悟られぬようにすることがポイントですの。そこで、過去にあったことを思い出しながらやると、上手くいきやすいですの。それをペアに見てもらって、おかしなところがあれば教えてあげるように。それでは始めてよろしいですよ」

 

 この後も笑い方や泣き方、怒っている振りなど、色々なことをしなければならなかった。

 

(正直もう勘弁してくれ!)

 

 そんな中で、特に困ったことがあった。それはヒナタの落ち込んだ振りである。過去の事というか現在の自分の事を想像したのか不明だが、振りとかではなく、本当に落ち込んでいるのだから、立ち直らせるのに少々手間取ったのは言うまでもない。

 

(このくノ一の授業はとても危険だ……。精神的に……)

 

 幅広い知識はいいとして、教養だけは中身が男であることから、精神的に辛いものがある。しかも、この感情表現の授業の最後には、1人ずつ教室の前に出るように言われた。

 

「それでは顔だけではなく、身体全体を使って何か1つ感情を表しましょう」

 

 と言われたのだ。身体全体と言われてもやりたくなく、いつもの微笑み顔でいたら、案の定「もっと頑張りましょう」と言われてしまった。余計なお世話である。

 

(これが試験だったら落第確定に近いな。ナルトの気持ちが少し分かる気がする)

 

 他の日は、実際の花を見てその名前を覚えたり、歌を歌ったりと、かなり平和な授業だった。一番最初の授業が、白にとってハードだっただけに、その後がとても楽に思えたくらいだ。おそらく、延々と感情表現の授業が続いていたら、ヒナタだけではなく、白も精神的に参っていたかもしれない。

 

 男女合同の通常の授業の方では、チャクラについて学び、それに伴う忍術や忍具についての説明をするようになっていた。忍術と言っても火遁や風遁ではなく、身代わりの術や分身の術のような基本忍術だ。しかも実際にやるのではなく、先生が見本を見せるだけと言うだけだ。見たことが無ければ参考になるのだろうが、知っているので、バイトの方を頑張っている。

 

 忍具については、この学年で使う忍具についてのみ勉強するようで、学年が上がるごとに使う忍具が増えていくようだ。知らない忍具については、触れないように言われ、落ちていたりしたら先生に言うようにと言われた。ひと通り教えて危険であると認識させてもよさそうなものだが、まだ年齢が低いので、起爆札などでイタズラをされないように教えたくはないのだろう。

 

 この頃から、ナルトが度々授業を脱出するようになった。きっとどこかでイタズラでもしているのだろう。被害がこちらに来なければ、どこでイタズラをしようと構わない。しかし、ナルトが居てくれていたお蔭で、先生が近づいて来なかったのに、最近は来始めたし、目を押さえているのをヒナタと同じように心配してくる。居なくなって初めてわかるなんとやらである。

 

(ナルト防波堤はどこに行った! あいつがいないと先生が来るじゃないか!)

 

 別にナルトが悪いわけでは無いのだが、ナルトを罵りつつ授業を受けていた。生徒には被害は無かったようだが、担当していた先生はそうもいかなかったようで、授業を抜けられて何やら言われていたようだ。自習になるような何かをやっているあたり、結構大事なのかもしれない。自習自体は、白として大助かりなのだが……。

 

 日は移り、くノ一の授業は教室内ではなく、屋外での授業も増えてきている。今日は里の中ではあるが、近くの花畑まで移動し、そこで授業を行うとのことだった。

 

「みなさんいますね。それでは授業内容を言いますの。今日の授業内容は生け花です! 各自で思い思いの花を集めましょう」

「「「「「は~い」」」」」

 

 先生は、各自とは言っていたが、ここまでくると、さすがにグループがある程度出来ており、1人で行動している子は少ない。

 

 もちろんのことだが、白はヒナタと共に、どんな花にしようかと話しながら移動していた。

 

「さて、適当に綺麗なのを取って行こう。あそこのなんて綺麗そうだし」

 

 そこには1本だけ目立つように咲いている花があった。生け花なので、1本だけでは駄目だろうが、メインにはなるだろうと思い取ろうとしたのだが、ヒナタから声が掛けられた。

 

「適当は駄目だよ。先生は思い思いの花って言ってたよ」

「その思い思いが、適当で綺麗な花だった場合はどうすればいいの?」

「えーっと。それは……」

 

 半分本当、半分冗談で言ったつもりが、ヒナタは真剣に考え始めてしまったのである。特に困らせるつもりはなかったので、冗談だと言うつもりだった。しかし、そう言う前に、三人組がなにやら『キャーキャー』叫びながら、目の前を先生の元へと走って行ったので、ヒナタに冗談だと言うタイミングを逃してしまった。しかも、通った後を見ると、白が先ほど取ろうとしていた花を踏んでいっていたのである。

 

(あいつら! ―――氷遁・氷柱壁!―――)

 

 3人組みの足元へと小さな氷柱を作り、足を引っ掛けさせて転んだのを見て氷遁を解除する。3人組は綺麗に揃ってヘッドスライディングを決めていた。服は汚れるかもしれないが、草花が多いのでそれほど痛くは無いだろう。

 

 その見事なヘッドスライディングに溜飲を下げて、3人組が走ってきた方を見ると、イノとサクラが居るのが見える。たぶんだが、3人組がサクラに何か言ったのに対して、イノが何かしたのだろう。

 

 先ほどの3人組は、弱気な生徒に絡んでくることが多く、ヒナタも最初の方は何度か言われたが、白が情報通であることと、その白の親友であるということから、絡むことが無くなった。その分の被害が他の生徒、特にサクラの方に行っているのかもしれないが、そこはイノがなんとかするだろう。ということで放置している。

 

 この日の生け花の授業も、騒がしく汚れたせいで泣いている生徒も一部いたが、つつがなく終了した。

 

 数日後には、また秋休みに入る。今回の休みの計画は出来てはいるが、計画内容の方向性が違う方向へと行っているような気がしないでもない。しかし、今後の事を考えるとやり遂げなければ、ならないと気合を入れて挑まねばならないと思うのだった。

 


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