白物語   作:ネコ

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47 居心地?

 最近ではあるが、医療忍術の習得難易度がかなり上がってきていた。最初の頃の自学自習は一体なんだったのかと思うほどだ。

 

 手術の見学から始まり、それが徐々に手術の助手へとなり、更にはメインで執刀を行うようにもなってきたのである。見学に関しては、他の医療忍者も居たのだが、助手をするようになってからは、担当上忍と2人で行うことが多かった。正式な医療忍者でもないのにいいのだろうか?と疑問は沸くが、折角の機会を無駄には出来ないので、積極的に行っているのが現状だ。

 

 しかし、それが最近では検死までするようになってきている。医療忍術に関係あるのかと考えたが、医療忍者であれば、検死に携わることにもなるだろうと思い直して、特に異論を挙げずに続けていた。

 

(きっとこの人は、医療忍者として期待してくれてるんだろうな)

 

「君はそれにしても優秀だね。物覚えもいいし、血や死体を見たところで動揺することもない」

「慣れだと思いますが」

「慣れだけでは片付かないとは思うがね。それはそうと、アカデミーの生徒と言うことだが、卒業後のことは考えているのかい?」

「ええ。まあ……」

 

 卒業後のことについては、既に決まっているようなものだが、それを言うわけにもいかず、歯切れの悪い返答をしてしまう。それをまだ決まっていないと思ったのか、提案をしてきた。

 

「卒業後は私の元へ来ないかい?」

「行きたいのは山々なのですが……、実は日向家に世話になった身でして……、進路についての決定権がほぼ無いのです……」

「世話になったとは?」

「小さい頃に命を救われましてね、そこから数年間ですが、日向家にてお世話になったんですよ」

「そうだったのか。しかし、だからと言って将来の事まで束縛されることは無いと思うがね」

「それはそうかもしれません」

「まあいい。時間も無いことだし今日のところはここまでとしておこう」

「ありがとうございました」

 

 本日分の検死を終えて、臭いを落としアパートへと帰宅する。その途中で買い物をするために商店街へと寄ると、知り合いが買い物をしていた。

 

 少し驚かそうと、気配を消して背後へと回り込み、振り向いた際に人差し指が頬に当たるようにして、肩に手を置いて声を掛ける。

 

「やあ」

「キャー!」

 

(そんなに驚かなくても)

 

 肩に手を置いて声を掛けただけにも関わらず、サクラはいきなりのことに驚いたのだろう。振り向きもせずに叫びながら前へと駆けだしてしまった。周囲の人たちを見て、この状態は不味いとすぐに追いかける。

 

「サクラ待って!」

「えっ?」

 

 すぐにサクラに追いつき、名前を呼ぶ。そこでやっとサクラは立ち止まり後ろを振り返った。

 

「声を掛けただけで悲鳴を上げるなんて酷いよ」

「いきなりだったからびっくりしちゃって」

「こんな時間に買い物って珍しいね」

 

 既に時刻としては、夕食の時間のはずである。それにも関わらず、食料品店に買い物にをしに来ているサクラが珍しく、サクラの買い物に付き合い会計を済ませたところで、少し話をしていた。

 

「調味料を切らしてて、買って来てって言われたんだけど、親がついでとばかりに他のも頼んできたの」

「だからこんな時間だったんだ」

「白も買い物?」

「そうだよ。どちらかというとあっちの方に用があるんだけどね」

 

 白が指差した方にあったのは弁当コーナーだった。朝食と昼食は自作しているのだが、夕食に関しては鍛錬などの関係で弁当で済ますことが多かった。疲れた後だとなかなか作る気がおきないのである。

 

「お弁当を食べてるの?」

「夕食は大体弁当かな」

「……家に食べにくる?」

「いや。急に人が増えたら大変だろうし止めておくよ」

「今日はカレーとサラダだから人が増えても大丈夫だと思う」

「確かにカレーだと、大目に作りそうだけど「おおーいサクラ!迎えに来たぞ~」……」

 

 会話の途中に遠くから、大声で割り込んできた人物が居た。言葉の内容からサクラの知り合いと当たりを付けて、サクラの方を見ると、サクラは溜息をついていた。

 

「えっと知り合い?」

「お父さん」

「斬新な髪型だね」

「うん……」

 

 近付いてきているサクラの父親の髪型は、まるでヒトデのような形をしていた。サクラは少し恥ずかしそうに顔を下に向けている。色々な意味で恥ずかしいだろうが、人の趣味にまで口は出せない。

 

「おっと。お友達かい?」

「白と言います。サクラさんにはアカデミーでお世話になっています」

「おぉ! 白ちゃんか! 貫禄がある。どおりで箔が付いているんだな! はっはっは!」

「お父さん! 止めてよ恥ずかしい!」

 

 いきなりの内容に白が固まっていると、何を勘違いしたのか、サクラの父親は更に言葉を続けていく。

 

「おっと。少々高度すぎて分からなかったかな? 私の行動『ぐほっ!?』」

 

 恐らく高度と行動を掛けようとしたのだろう。サクラの鳩尾への無言の一撃によって、腹を押さえて苦しみだした。

 

「もういいから。それよりも、友達を夕食に誘いたいんだけどいいよね?」

「ああ。もちろんだとも。マヨネーズは買ったかい? どれを買うか迷ったり『がはっ!?』」

 

 苦しみからすぐに復帰したと思ったら、今度はアゴにアッパーカットが入っていた。綺麗に入ったせいか、倒れて気絶しているように見える。今度も言い切る前に潰されたところを見るに、反射的な動作であることから、これが日常的に行われているのだろう。

 

「許可が出たし行こう」

「えっと。放っておいてもいいの?」

 

 サクラの父親が気になり、目線を向けるも、サクラは全く気にしていないようで、白の腕を掴み歩き出した。アカデミーに入った頃の大人しかった面影が全くない。

 

「気にしないで、すぐに復活してくるから」

「まあ。それでいいならいいんだけど」

 

 サクラの住むアパートへと辿り着いた時に、丁度サクラの父親も追いつき、夕食に招かれることになった。気絶状態から簡単に復活できる辺り、サクラの父親も慣れているのだろう。慣れたいとは思わないが……。

 

「おかえりなさい」

「ただいまお母さん。悪いんだけど、夕食もう1人分の準備お願い」

「あら。お友達を連れてきたのね。イノちゃん以外を連れてくるなんて初めてじゃない? 準備するから少し待ってね」

「おじゃまします」

 

 流れに任せてしまい、ここまで来てしまったことを少し後悔していた。自己紹介をしながら、食事が始まってからも、親子の漫才は続いたのである。夕食をご馳走になっている手前、無視するわけにもいかず、苦笑いで聞き続けるしかなかったのである。

 

 内容が面白ければ良かったのだが、迎えに来た時に、店でも発したようなオヤジギャグばかりだった。それに対してサクラが突込みを入れて、母親がそれを面白そうに見ている。

 

(普通の家族って言うのは、やっぱりこんな感じなんだよな。今までが特別だっただけにある意味新鮮だ)

 

 白はほとんど会話に入れずに、居心地が少々悪かったが、久しぶりの他人の手料理に懐かしさを感じていた。

 

「ごめんね。急に誘っちゃって」

「そんなことないよ。夕食誘ってくれてありがとう」

「でも、お父さん迷惑だったよね? あれってたぶん場を盛り上げようとしたんだと思う。イノの時もそうだったし、普段より調子にのっちゃったみたい」

「優しそうな家族でよかったんじゃないかな。大事にするべきだよ」

「優しいと言えば優しいけどね。あのダジャレさえなければもっといいんだけど」

「そこは人それぞれの個性ということで、それじゃあ帰るよ。またアカデミーで」

「またね~」

 

 サクラに見送られながら、家路についた。精神的に疲れ果てていたので、そのままベッドへと入ってその日は寝てしまった。

 

 それからは、サクラ繋がりでイノとも仲良くなり、フォーマンセルの演習やくノ一の授業の際には、ヒナタと一緒に4人で行動することが多くなった。

 

 そうして、ヒナタも4人での行動に慣れて来た頃に、また任務である。今回は川の国の雨隠れの里への中忍試験の内容通知だった。

 

「今回は水の多そうなところでよかったですよ。また砂隠れに行けって言われたら、どうしようかと思っていたところです」

「そんなに同じ場所は続かないさ。それよりも、今回行くところはかなり危険だから注意してくれ」

「巻物渡すだけですよね? なんで危険なんですか?」

「昔の話だけど、雨隠れの里は大国の中間に位置しているせいで、戦争に巻き込まれることが多かったんだ。そのせいで住民たちは、他里の者に対してあまりいい感情を持っていない。入国するのにも手続きが大変なんだ。入国してから問題が発生したら、戦争にも繋がりかねないんだよ」

「そんな危険な場所には行きたくないんですが」

「我が儘を言わない。それに手続きはちゃんと踏んでるから、そうそう危険にはならないよ」

「絶対とは言えないんですね……」

「まあ、内容としてはBランク任務だからね。もちろん戦闘も考慮されてる」

「下忍にもなってないのにBランクなんて、酷すぎますよ」

「実力的には問題ないと判断されたんだ。愚痴はその辺にしてさっさと終わらせるよ」

 

 この後の国境沿いの入国審査からして時間が掛かった。今回は暗部の面を付けての行動であるため、余計に時間が掛かったと言ってもいい。しかも、巻物を渡す相手が大物なだけに、簡単に入国できるはずもなかった。

 

 時間は掛かりはしたが、手続きをヤマトに丸投げしている状態で、横で立っておくだけだったので楽だったのだが、あまりにも暇だったのは言うまでもない。

 

 入国を果たして、やっと雨隠れの里に着いたと思ったら、雨隠れの里に入るのにも、更に手続きが必要だった。しかも里に入るまでに丸1日掛かったのである。中忍試験の内容通達の巻物以外にも、里に入る為に必要な書類があり、その書類の確認作業のために1日待たされたのだった。

 

「なんでこんなに厳重なんですか?やりすぎでしょう」

「ここの里……長の方針だから僕たちがどうこう言うことじゃないよ」

「それはそうなんですが、かなり閉鎖的ですよね」

「トラブルになりそうな発言は控えるように」

「そうでした。すいません」

 

 ヤマトとの会話を止めて目的地に向けて進む。

 

 その目的地にあったのは城だった。今までが普通の街や建物ばかりだったので、このような城を見るのは、この世界に来てから初めてであった。城に入る前に、今度は武器を置いていくように言われ、軽く身体検査までされた。

 

 そこまでしてやっと入城出来たのである。そして、城の最上階まで上がったところに、今回の書状を渡す相手がいた。名を半蔵と言い、忍びの世界では知らぬものが居ないと言うことだが、実際の戦闘場面をそれほど知らない白にとっては、知らないに等しい人物であった。

 

「これが今回の中忍試験の内容を認めたものです」

 

 半蔵の代わりに、半蔵の傍で控えていた者が受け取り、その書状を持って印を組み、何かを確認した後で半蔵に手渡していた。巻物に危険が無いか確認しているのだろう。半蔵は渡された巻物を開き、中身を確認する。一通り確認したのか、既に準備していた巻物をこちらへと渡してきた。

 

「確かに受け取った。そちらに此度の調整役と受験者を送ろう」

「承りました。それでは失礼いたします」

 

 出る時にはそれほど時間が掛けずに出ることが出来た。特に揉め事が起きることなく出れたことに安心する。渡していた武器を確認しながら返してもらい、城を離れたところでいきなり門の付近が爆発した。

 

 その光景を唖然として見ていると、爆発させたと思わしき者たちが、門の方へ向けて走っていくのが見える。

 

「やはり内戦はまだ続いていたか」

「内戦ですか……。てっきりヤマトさんが、むしゃくしゃしてやってしまったかと思いましたよ」

「君とはじっくり話し合わなければいけないようだね」

「それよりも、今襲ってるやつらの仲間と思われたら嫌ですし、さっさと離れましょう」

「そうだね」

 

 城から離れたのはいいものの、先ほどの門の爆発により、里から出るのに2日掛かってしまったのである。出国については、半蔵より渡された巻物により、すんなり通れたのでよかったが、あそこまで厳重であると何度も行きたいとは思わない場所であった。

 


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