白物語   作:ネコ

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50 卒業後?

 あれ以来、ヒナタはよくナルトを目線で追いかけるようになってしまった。今までも気にしていたようではあるが、それが顕著になった感じである。

 

 別段それにより成績が下がったりするわけでもなく、この時ばかりはヒアシの事も忘れているようなので、特に止めもせずに静観していた。

 

 ヒナタがよくナルトを見ているのに気付いたのか、イノによく「止めときなさい!」と最初の方は言われていたが、今ではからかうネタにされている。それくらい会話出来るようには、落ち込みから回復したと言っていいだろう。

 

 白としては、本当ならこの落ち込むという行為を無くしてしまいたかったが、中忍試験までもたせるどころか、一年しか延長することが出来なかった。なかなか上手くいかないものである。

 

 

 

 アカデミーも5年の仕上げに入る。そこでの最後の試験は身代わりの術だ。

 

 基本忍術なだけに、ここまで来ると出来ない生徒の方がいないと言っていい。しかし、出来ない生徒が1名いた。いつも通りのナルトである。

 

 ナルトは、通常の実習では身代わりの術は出来ていた。しかしその日は、明らかにナルトの体調が悪いことが見た目で分かった。まさか失敗するとは誰も思わなかっただろう。一応試験を行う前に心配したイルカが後日にするか確認したのだが、ナルトは虚勢を張って「大丈夫だってばよ!」と言い切ったのである。そして、失敗した後のナルトは、腹を押さえて教室を出て行ってしまった。

 

 健康管理も忍者の責務の1つである以上何も言えないが、ナルトは何か悪い物でも食べたのだろう。そして、我慢できずにトイレに向かったのだということが推察できた。

 

 イルカは溜息を漏らすと、後続の生徒たちの試験を続けていく。肝心な時に運が無いナルトだった。

 

 試験も終わり、アカデミー最後の年である6年生になった。

 

 授業内容はほぼ実習になっている。教室に戻るのは着替えや昼食の時くらいだろう。休み時間でさえ、そのまま外の演習場にいることが多い。

 

 演習にて怪我をする生徒も少なからず出ているが、それだけ実戦に近くなっているのだろう。白にとっては物足りなさすぎたが……。

 

 合間合間に暗部としての任務も入り、更には医療忍者の中忍という肩書きを持っているため、平日に休んで病院で手術をすることもある。医療に関しては、この1年で必要経験を積んでおけとのことだったが、既に白として学んでいるので2度手間になっていた。

 

(報告書上がってないのか?既に経験済みなのに。やっぱりヒミトとしての実績を上げないといけないのか?)

 

 上に対しての疑問は尽きないが、何度聞いても「何事も経験」で済まされるため聞くことを諦めていた。

 

 白が6年に上がったことで、ネジがアカデミーを卒業し、通常の下忍になった。

 

 そのネジに祝いの言葉を送るべく、プレゼントと共に日向家分家を訪れたが、昼間は演習場の方で訓練を行っているとのことで、そちらの方へと向かう。

 

(確か担当上忍ってガイだったよな。直接会ったことないけど、やっぱり暑苦しい人なんだろうか?)

 

 演習場へと着くが、生憎ガイの姿は無かった。代わりにボロボロになって俯せに倒れている人と、その人に対峙しているネジ。それを少し離れた位置にて見ているテンテンの姿があった。

 

 恐らく倒れているのはリーだろう。顔が見えないので何とも言えないが、スリーマンセルの班メンバーを考えると間違いないはずだ。

 

「おつかれさま~」

「白か。久しぶりだな」

「えっと。知り合い?」

「ああ」

 

 テンテンの問いに、ネジは気まずそうに答えている。

 

「白と言います。アカデミーの6年生です。ネジには色々とお世話になりました。と言うわけで、はいコレ卒業祝い」

「…………」

 

 白はそんな気まずそうなネジに近付き茶菓子を手渡した。中身は甘味堂の串団子なので、もしこの場で食べても、他の人に分けることも可能だろう。

 

 その光景を見てテンテンは何やら笑うのを堪えていた。ネジは下忍になってもクールな性格だからだろう。なかなか見れる顔ではない。

 

「中身は食べ物だから早めに開封することをお勧めするよ」

「分かった」

 

 テンテンは落ち着いたのか、自己紹介してきた。

 

「私はテンテン。そこで寝てるのがリーって言うの。よろしくね」

「よろしくお願いします」

 

 倒れているのはリーで間違いなかった。

 

「それにしてもやりすぎじゃない?」

「そいつは体術だけで忍者になると言っているんだが、はっきり言って白以下だ。体術に自信があるようだったから多少は期待したんだがな」

「リーがネジに最初に負けた時に言っていたのがこの子ってわけね。そんな風には見えないんだけど」

「相手を見た目で判断するのは危険だ」

「たぶん過大評価してるよ。それにリーさんだって、これからなんだろうし、例え今がどうあれ、油断はしない方がいいんじゃないかな?(まだ下忍成り立てだから、体術もそこまでじゃないだろうし)」

「白がそう言うのなら、そうなのかもな」

 

 ネジはリーを見て、白の言葉に半信半疑のようだ。しかし、この1年と少しでかなり成長するはずなので、白の言っていることは間違いではない。

 

「それでは、訓練の邪魔になりそうなので失礼しますね」

「またね~」

 

 見たところ特に大きな怪我もないし、かなり手加減されたのだろう。倒れたまま、と言うよりも気絶したリーを放置してその場を後にした。

 

 

 

 数か月後に、他里に行く任務が来た。

 

 今回の任務は、新しく出来た里への中忍試験の案内をするのではなく、来年からの中忍試験参加に伴う調整を行うようだ。白たちはその調整役の警護である。

 

 新しく出来た里の名前は、音隠れの里。出来たばかりと言うこともあり、木の葉の里に比べると里の規模がかなり小さく、住んでいる人も若い人ばかりだった。

 

(大蛇丸が里長だっけ? まあ、この段階ではまだ安全だろうけど、ここにはあまり近付きたくないなあ。目を付けられたら最悪だし)

 

 本来であれば、出来たばかりの里の方から調整に来るべきなのだろうが、木の葉としても音隠れの里の状況を確認するために、調整は音隠れにて行うことになったようだ。警護の内容にその事が含まれていると説明を受けていた。

 

 実情を知る白としては、どう報告するべきかと悩んでいたが、結局は見た目通りの報告書を行った。一応、注意喚起として「出来たばかりの里であるため、今後の動向には注意が必要」と言ったのだが、その真意をどこまで上が汲み取るかは分からない。

 

 変に本当の事を報告しないのは、本当の事を報告すると、ダンゾウ辺りに危険視されかねないためだ。いつの断面で大蛇丸と接触しているのかが分からない以上、余計なことを報告することは出来なかった。

 

「以上が中忍試験の概要となります。実際の内容については、その年に別途調整を行いますので、音隠れの里から調整役を派遣していただきます。説明は以上ですが何かご不明な点はございますか?」

「いえ。特にありませんよ」

 

 音隠れの里の調整役は見たこともない男で、特に護衛を付けるわけでもなく1人で対応していた。

 

 木の葉側も調整役は1人なのだが、他里と言うこともあり、暗部4人付きで行動している。敵地と分かっているだけに、少ないとは思うが、ここで何かあろうものなら、大蛇丸の計画が潰れることになるだろう。そのため、安全だと分かってはいても、白としては逃げる準備を整えていた。

 

 話し合いも終わり部屋を退出する際に、音隠れの調整役が中忍試験とは関係ないことを話しだした。

 

「木の葉の里は優秀な暗部の方が多そうでいいですね。そちらの方などかなり若そうに見えるのですが」

 

 明らかに白を見ながらの発言である。この時、白は面を付けているだけで、特に変化の術を使用しているわけでは無い。長い髪が邪魔なので、結んで服の中に仕舞いこんでいるくらいだ。

 

「暗部には優秀な者しかおりませんよ」

「これは失言失礼しました」

「いえ。それではこれにて」

 

(変化の術くらい使用しとくべきだった……)

 

 無事に木の葉の里へと帰ることが出来たが、音隠れの里の調整役が、白を気にしていたのは間違いない。今更どうしようもないため、今取り掛かっている忍術の完成を急ぐことにした。完成させるにはある条件が必要なのだが、それについても見通しは立っているので、アカデミー卒業まで生き残ることが出来れば、今後の生存確率は飛躍的に上がるだろう。

 

 木の葉の里に帰ってきてからも、訓練に任務にアカデミーと自由になる時間はなかった。そうして過ごしていると、火影より呼び出しがあった。

 

「何か用ですか?」

「その態度。お主も変わらんの」

「ちゃんと人によって使い分けてるんで」

「……まあよい。今回はヒミトの件で呼んだんじゃ」

「なんかしましたっけ?」

 

 ヒミトとしての活動は、ヤマトからのお仕置き、もとい、オハナシをした時から真面目に取り組んでいるため、ミスはもちろんのこと不手際など無かったはずであった。そのため思い当たる節が無かったのである。

 

「ヒミトを本日より上忍として扱うのでそのつもりでな」

「はっ? って言うかそんな簡単になれるの? 試験とかは?」

 

 火影の言った言葉にかなりの衝撃を受けていた。特に何もしたわけでもないのに、いきなり上忍である。

 

「中忍になってからの実績と里への貢献度。それで試験を受けることは可能じゃが、他にも上忍数名より推挙の上がった者で、火影自らが認めた者については上忍になれるようになっとる」

「新手の嫌がらせと思っていい?」

「忍びにとって上に上がるということは名誉なことだと思うがの」

「危険な任務が増えそうで嫌なんですが?」

「安心せい。上忍とは言うても医療忍者としての上忍じゃ。お主の腕がかなりのものだと聞いておるぞ」

「まあ。それなりには自信はあるけど……」

 

 この時には、一般的な手術から検死まで一通り出来るようにはなっていた。助手すらも、ほぼ必要ないくらいである。

 

「それにの、医療忍者はなかなか育たんのじゃ。まず適性が無ければ話にもならん。適性があったとしても、それが結果に繋がるわけでもないしの。優秀な者は早々に上げてしまいたいのじゃよ」

「そんなものか。それで、上忍になった時に損することは?」

「得することの方が多いと思うがの。まあ、それについてはこの本に記載してあるので読むとよい。どれを損と思うかはお主次第じゃしの」

「いっぱいある訳ね……」

 

 白は肩をガックリと落とし火影から一冊の本を受け取り、その場でパラパラと読みはじめる。しかし、本の内容―――条項が多すぎて溜息を漏らした。

 

「これってこの里の条項が全て載ってない?」

「当たり前じゃ。仮にも上忍ならば知っておかねばなるまい」

「他の上忍みんな知ってんの?」

「……たぶんの」

「知らないわけね」

 

 火影は惚けるつもりなのか、明後日の方向へと目を逸らす。こんな条項を全て覚えている者など極少数なのだろう。

 

「最低限知っておくべきことはヤマトより聞いておるはずじゃ。後は医療方面を覚えればいいじゃろ」

「まあ、暇な時でも見とくよ。誰かさんのせいで忙しいから!」

「さて、無事に話も終えたことじゃし戻っていいぞ」

「もう突っ込むのにも疲れて来たよ」

 

 火影の執務室を出てアパートへ戻ると、ヤマトがやってきた。

 

「やあ」

「また任務ですか?それとも医療関係の依頼ですか?」

「おいおい。僕はそんなことばかり君に持ってきてるわけでは無いよ」

「他に何かありましたっけ?」

「取り敢えず中で話そう」

 

 ヤマトは手に袋を持っており、それを机の上に置くと中身を出した。袋の中身は料理であり、箱から出した瞬間に良い香りが漂い始める。

 

「上忍おめでとう!」

「ああ。そういうことですか。えーっと、ありがとうございます」

「あんまり嬉しそうではないね」

「これからもっと忙しくなるのかと思うと気が重くて」

「それについてだけど、上忍になったことで言っておくことがある」

「なんです?」

「折角の料理が冷めてしまっては勿体ないから食べながら話そう」

 

 この日に白の卒業後の事などについても色々と聞かされたのだった。

 


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