白物語 作:ネコ
51 卒業?
ヤマトより聞かされた内容は、火影とヒアシとの取引内容を含んだものであった。
「そんな取引やってたんですか」
「木の葉の里としては当然のことだと思うよ。……君のことは別にして」
「それが罷り通るんですね」
「以前から出ていた案なだけに今回試験的に行ってみるらしい。そういった意味で君は適任ということだね」
食事をしながらの話だったが、途中で白は箸を動かす手を止めてしまう。卒業後の進路が決まっていることは、分かっていたつもりだったのだろう。しかし、今ヤマトから聞いた話が本当だとすると、考えていたよりもだいぶ楽な内容だった。
食事を終えてヤマトが帰宅した後も、白は話の内容を思い浮かべながらその日は眠りについた。
白が上忍に就任してから変わったことと言えば、今のところ指示する側に回ったくらいだろう。指示と言うより教育だろうか。週に1回という頻度ではあるが、手術や検死以外にも医療忍者の下忍に対して講義を行うことになっていた。
本来であれば、こういった手順にて、下忍過程を過ごしていくのかと見せつけられていた。白の時とは大違いである。講義の内容も易しいもので、手取り足取りとはよく言ったものだった。白の時はいきなりの中忍試験だったので、余計にそう思わざるをえなかったに違いない。
暗部の方もヤマトと一緒に行動していた時とは違い、火の国内限定ではあるが、単独任務が増えてきていた。任務内容については基本的に調査ばかりだ。任務内容については、ヤマト曰く配慮してくれているとのことだったが、白にはその配慮があまり伝わってはいなかった。
調査と言っても簡単に情報が集まるわけでもなく、数人は手にかけている。情報収集にも限界があるので、尋問を行ったりもするからだ。しかし、尋問のスキルが白には無いため、見せしめにして情報を聞き出していた。元々が潰すための証拠集めといったものなので、それも気にしないでいい要素の1つだったりする。
後は中忍試験の試験官の1人になったことだろう。医療忍者の方ではあったが、試験官の中に最低1人は医療忍者を配置するとのことだ。もし、試験内容に不備があれば、すぐに対応できるようにするためではあるが、他にも医療忍者が居る中で選ばれる辺り運が無い。
その中忍試験のための打ち合わせで、白は5日間ほど部屋に缶詰にされてしまっていた。試験内容を決めるのに3日使い、内容に不備が無いかを確認するのに残りの2日というものだ。
結果的に、特に質問してくる受験生がいなかったで白は安堵していた。毎回あのようなことをしているのかと思うと、白に無駄なことをしていると思わせるには十分だった。
秋休みも終わった頃に進路に関する書類が配られた。持ち帰ってから、よく検討して提出するように、ということだったが、既に白は決まっている身なので、その場で提出していた。もちろん配属先は医療忍者である。
「やっぱり考えは変わらなかったか」
「他には何があるんですか?」
「そうだな。通常の下忍だったり、情報部だったり。中には親の意向で、アカデミーを出ても忍びにならにならないなんてことがある」
「忍びにならないなんてありなんですか?」
「特に木の葉の里の情報を持っているわけでは無いからな。それに誰しも忍びに向いているわけでは無い。強制は出来ないさ。ただし、保護者とは話をさせてもらうけどね」
「そうですか……(普通だったらかなりの選択肢があるんだな)」
そんなこんなで色々あったが、概ね束の間の平和を満喫していた。後は卒業試験の日を待つばかりであった。
そして、アカデミー卒業試験前日。いつものごとくナルトはイタズラをしに出かけてしまった。明日が試験と言うこともあり、教室での注意事項を言っていたのだが、他の先生がイルカを呼びに来たため自習となる。
「またナルト君かな?」
「そうじゃない?と言うかそれ以外考えられないよ」
「ナルト君いつも元気だよね」
「なぜあれだけ怒られてもイタズラをし続けるか分からないよ(ヤマトさんに怒られたら静かになるような気がするな)」
「何事も前向きに捉えてるから」
「行き過ぎだと思うけどね」
白の眼鏡を通して見たナルトは、火影岩に落書きをしている真っ最中であった。見える範囲では上からロープで吊っているようだ。2本のロープが上から伸びているのが見える。
(ロープとかいつ切れるか分からないものに頼るなんて怖くて今じゃ考えられないな)
そんなことを白が考えていると、イルカの声が聞こえてきた。
「何やってんだ! 授業中だぞ! 早く降りてこい! 馬鹿者ーーー!!!」
「やべ! イルカ先生だ」
(うわっ! ぐるぐる回るな! 気持ち悪いだろ!)
ナルトはイルカに声を掛けられて慌てているのか、恐らく足を岩に付けようとして失敗し、その場でグルグルと回転し始めたようだ。それをゴーグルを通して見ていた白にとってはたまったものではない。白はすぐに見るのを止めて目を擦り始めた。
しばらくすると、縛られたナルトがイルカに連れられて教室へと戻ってきた。イルカの怒鳴り声が教室に響き渡るが、ナルトは全く堪えていないようだ。
「はい、はい」
と、ナルトは空返事をしている。
その態度と言葉にイルカは更に怒ってしまい、復習テストを行うことになった。テストは変化の術で先生に化けるというものだ。あの訓練の成果で、ナルトの変化の術に関しては完璧であった。しかし、白はこの先を知っているだけに溜息を漏らしている。
そこで、白はナルトの番の時に、ヒナタがどういう反応をするのか見ることにした。
ナルトは予想通りお色気の術を使用し、イルカは鼻血を出して仰け反っている。
「ヒナタ。そろそろ目を覚まそうか」
「そんな……」
ヒナタはナルトを見てショックを受けているようだ。それはそうだろう、今までこのような術を見せたことは無い。しかし、これから先では結構な頻度で使用する術になる。女性に見せるものではないが……。
「ナルト君はね、ああいうことを考えてるんだよ」
「そうだったんだ……」
ヒナタは何やら考えて、下を向いて残念そうな顔をすると、何かを決意したような顔をして頷いた。
「私頑張るよ!」
「えっと?まあ、頑張るのはいいことだね」
「<ああいう人がタイプなんだ>」
「えっ!?」
何やら聞き捨てならないことをぼそりと呟いたが、白の順番になって呼ばれたので教壇の方へ向かわねばならず、白はヒナタに確認することが出来なかった。
ヒナタも次の順番の為、テストが終わってから確認してみたが、はぐらかすばかりで、まともに取り合うことはなかった。
そして試験当日。卒業試験は分身の術で3人以上に分身するというものだった。1人ずつ隣の教室へと呼ばれていく。その為、隣の教室に居た生徒もみんなこの教室にて集まっていた。
いつも20名いる教室に、倍の40名いると、少し圧迫感があるのは仕方ないだろう。順次呼ばれて行き、教室にいる人数が半数以上呼ばれたころに、とうとうナルトが呼ばれた。そしてしばらくすると、イルカの「失格!」という大きな声が聞こえてくる。
「おい。まさかと思うけどナルトのやつ失敗したのかな?」
「そうじゃないか?」
「ウソだろ?あんな簡単なので失敗するかよ」
「でもナルトだぜ?」
「それもそうだな」
教室に残った生徒たちも、先ほどのイルカの声が聞こえたのだろう。口々に先ほどの失格と聞こえた件について話をしている。ヒナタは驚きのため固まっているようだ。
少しして白も隣の教室に呼ばれた。担当はイルカとミズキである。その担当が座っている前の机の上には、木の葉の里の忍の証である額当てが置かれていた。
「いつでも始めていいぞ」
「はい。分身の術」
それなりの成績を残すために、白は少し多めの5人に分身した。それを見て先生たちは満足そうに頷く。
「合格だ。この額当てを渡そう」
「ありがとうございます」
白はイルカから額当てを受け取り、更に隣の教室へと移動した。そこには試験を受けた生徒たちがいたが、ナルトの姿は見えない。
少ししてヒナタも教室に入ってきた。恐らく失敗するのは、余程の事が無ければナルトくらいだろう。
ヒナタは辺りをキョロキョロと窺っている。ナルトのことを探しているのだろう。
「ナルト君なら居ないよ」
「っ!?」
「取り敢えず卒業おめでとう」
「ありがとう。白も卒業おめでとう」
「ありがとう」
「ナルト君落ちちゃったんだ……」
「きっとイルカ先生の事だから、補習させて再試験させるんだとおもうよ」
「だから居ないのかな?」
「さあ、そこまでは分からないかな」
この日卒業と共に、その後の進路についての話があった。40名の内1名(ナルトは失格として)は除外して、12名は忍びにならずに家の稼業を継ぐようだ。残りの27名については忍びの道に進むとのことで、忍者登録後に班分けがある。忍者登録は明日行い、明後日に班分けを行う予定だ。
白にとって、今日と言う日は重要な案件があるので、任務などに呼ばれないよう隠れていなければならなかった。
そしてその時はやってきた。
(やっと動いてくれたか。いつ動くかと待ってたぞ。それにしても、なんで誰も気づかないんだ? もしかしてまたイタズラと割り切ってる?)
白が待っていたのは、ナルトが火影の家に侵入することだった。それにより、ナルトが禁術の記された書を持って移動する。流石に侵入に気付いた火影に見つかるが、例のお色気の術にて一撃で沈んでいた。この世界の男の、女性に対する免疫の低さを実感出来る出来事だった。
ナルトは秘密の修行場にて巻物を広げ始めた。近くの小屋からの明かりと、月明かりにて十分に視界は確保できている。
(多重影分身が何故禁術なのか不明だけど、これ覚えたかったんだよね)
白はナルトのゴーグルからの情報を基に、内容を記憶して印を組んでいく。チャクラを等分に分けるだけあって、数を増やせばチャクラ量が減り、少なければ増える。通常の戦闘に使用できそうな数は、白としても10体が限界だった。時間を短くすればもっと増やせるだろうが、それでは役に立つ場面が少ないだろう。
(数が少ない時は影分身を使用して、一気に増やすときは多重影分身、といった感じかな? 多重影分身で短時間とはいえ1000体とか九尾の力は凄いな)
白は覚えたことに満足すると、アパートへと戻っていく。アパートに戻ったそこには、暗号にて書置きが残されていた。書置きの中身はナルトの捜索である。白は変化の術を使い、暗部の面を装着して森の方へと移動していった。
白が森へと入った時には、既に局面は最終段階に入っており、ナルトがミズキをボコボコにしている最中だった。
白がナルトたちの元へ到着した時には、額に木の葉の額当てをしたナルトが、イルカに抱きついて喜んでいるところだった。イルカは痛い痛いと言いながら、ナルトと共に笑っている。身体の状態からして死ぬことは無いだろう。
「喜んでいるところすいませんが、書の回収をさせていただきますよ。それとあなたの応急処置をします」
「ああ。すいません。お手数おかけします。ナルト! お前も謝れ!」
「悪かったってばよ」
「私は任務で動いてるだけです」
イルカの一番ひどい傷は背中の傷であったので、そこだけ集中的に治し、増血丸を渡す。
「後は病院に行けば十分でしょう」
「ありがとうございます」
「すげえ! どうやるんだってばよ!」
白は息巻くナルトから書を受け取り、ゴーグルに掛けた術を解いた。今からはゴーグルの代わりに額当てを着用するので、ゴーグルに用は無いからだ。その後白は、ボロボロになったミズキを抱えて火影の元へと向かっていった。