白物語   作:ネコ

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53 自己紹介?

 昼休みも終わりに近づき白たちが教室へと戻ると、今度はバラバラに座らずに班ごとに座っていた。

 

 白たちも空いている机に座るが、人数の関係上4人で1つの机は狭かったので、2人ずつで分かれて座っている。

 

 そうして昼休みが終わるとイルカ先生に続いて、上忍が入ってきた。上忍は男ばかりだったが、その中で1人だけ女がいたのですぐに分かったのだろう。8班のメンバーは、みんなそちらの方を見ていた。

 

「8班のメンバーは私についてきなさい」

 

 そういうと、唯一の女である紅は、教室を出て行ってしまった。8班のメンバーは急いで立ち上がり、教室を出て紅の後に続く。

 

(紅さんって、近くで見ると輪廻眼に見えるな)

 

 教室を出て到着した先は演習場だった。ここで何をするのかとみんな疑問に思っているようだ。

 

「私は夕日紅。あなたたちの担当上忍よ。まずは自己紹介として、あなたたちの事を教えてちょうだい」

「俺はキバだ! って他に何を言えばいいんだ?」

「何でもいいわよ。たとえばあなたの頭に居る子についてでもいいし」

「ああ! こいつは赤丸っていうんだ。赤丸!」

「ワンッ!」

「俺の家族だ。赤丸と散歩するのが日課だな」

 

 その後も、赤丸との話が続いたが、途中で紅に止められ次の者の自己紹介へと移った。キバはまだ語り足りなさそうに少し不満顔である。

 

「油女シノ。蟲使い。趣味は虫を集めること、以上だ」

「お前簡潔すぎるだろ!」

「では次行きますね。白と言います。以上です」

「おい!それこそ名前以外何も分からないじゃねえか!」

「えっと。自己紹介してもいいのかな?」

「ヒナタ頑張って」

「無視するんじゃねえ!」

「虫の話か。それならば話すことは色々とある」

「お前はちょっと黙ってろ!」

「言い争いはやめなさい。言いたくなければ無理に言わせる必要はないわ。けど覚えておきなさい。この班はこれから一緒に行動していくのだから、今の内から仲間として、相手に自分の事を知っておいて貰わないと、後々困ることになるし、チームワークなんて生まれないわよ」

 

 紅は明らかに白を見ながら言ってきていた。白は改めて自己紹介を行う。

 

「改めて、名前は先ほど言った通りです。好きなことは自由があること。嫌いなことは自由が無いこと。趣味は色々です」

「それってあんまり前と変わらなくないか?」

「ちゃんと好き嫌いまで言ったよ?」

「ん~。確かにそうだよな」

「では次ヒナタどうぞ」

「<いいようにあしらわれたな>」

 

 シノの呟きはキバには聞こえなかったようだ。白はシノに向かって、人差し指を口に当てて黙るように促している。

 

「日向ヒナタです。えっと。好きなものは甘い物です! 嫌いなものは甲殻類が苦手です! 趣味は押し花をしてます! 以上です!」

 

 ヒナタは、大きな声で一気に捲し立てるように言い終えると、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。みんなの前での自己紹介が恥ずかしかったのだろう。

 

「ところで、なんでこんなところで自己紹介なんだ?」

「演習場に来たってことは、演習場を使用するようなことをするってことじゃない?」

「白の言う通りよ」

 

 紅は白の言葉に頷くと、この演習場に来た目的を話し始めた。

 

「今からあなたたちの実力を見せてもらうわ。一応アカデミーの方から聞いてはいるんだけど、実際に確認してみないと分からないからね」

「確かにその通りだ。俺も担当となる上忍の実力を知っておきたい」

「なんだ。そういうことかよ」

「ここに来た時点で気付いてよさそうだけど……」

「うっせーな! 細かいことをぐちぐちいってんじゃねーよ!」

「はいはい」

「やめようよ、2人とも」

 

 ヒナタの仲裁により、2人は言い争いを止めた。キバはまだ何か言いたそうにしていたが、白はそれを素知らぬ顔で受け流している。

 

「取り敢えず、自己紹介順に実力を見せてもらいましょう。他の人は離れていて」

「よっしゃ! 俺からだな!」

 

 キバはやる気満々の表情で、紅を見ると赤丸に声を掛けた。周囲の状況など気にしてもいないようだ。

 

「やるぞ赤丸!」

「ワンッ!」

 

 キバ以外の3人が離れる前に、キバは紅へと赤丸と共に襲いかかった。

 

「はあ……。全く」

 

 キバの行動に飽きれながら、紅はキバと赤丸の攻撃をあしらう。キバと赤丸との連携は、この時点ですでに完成されていると言ってもいいだろう。しかし残念ながら、その連携が通じる相手ではなかった。掠りさえさせないのである。

 

「ちくしょう! なんで当たらねえんだ!」

 

 キバは攻撃が当たらないことに苛立ち始め、頭に血が上っているのか、攻撃が段々と単調になっていく。そこまで様子見をしていた紅は、キバに一撃を入れるとあっさりと気絶させた。

 

「ここまでね。白はキバを看なさい。次はシノ」

「はい」

「了解した」

 

 白はキバの服を掴み引き摺るようにして、邪魔にならない位置に移動している。赤丸が心配そうにキバの周りを回っているが、ただ気絶しただけで外傷はほとんどない。少しあるのは、攻撃を躱された時に自分で地面に転がった結果だ。白は特に気にした様子も無く、そのままキバを寝転がし放置していた。

 

「俺はキバのようにはいかない」

「いつでもいいわよ」

 

 紅とシノの2人は、その場で対峙していたが、先に動いたのは紅の方だった。瞬身の術にて最初に居た場所から移動している。紅の元居た場所には虫が集まっていた。

 

(虫は結構厄介だよな。小さいし気付かれにくいし)

 

 シノは虫を使って攻撃しているが、虫たちが全く追いついていない。

 

 その後も、シノはその場を動くことは無く、紅ばかり動いていた。結局最後には、キバと同じように気絶させられていたが、それも仕方ないだろう。戦闘を虫頼りにしているので、シノ自身に紅の攻撃を避けるすべがないし、虫で防ごうにも、それ以上の速さで迫られては防ぎようがないからだ。

 

「白はシノを連れて行きなさい。次はヒナタ」

「はい」

「えっ?あの。次は白じゃ……」

「白は医療忍者として聞いているわ。今回の事で実力を見るのは違うでしょう?」

「でも白は私より「ヒナタ頑張ってね!」……」

 

 ヒナタが余計なことを言う前に、白は言葉を被せてきた。口にチャックのジェスチャーをすると、シノの脇に両腕を通してキバの元へと連れて行っている。それを見てヒナタは何かを言いたそうにしていたが、何も言わずに構えをとった。

 

 ここでヒナタが、紅に知っていることを言えば、白にとっては動きづらくなってしまっただろう。紅には、医療忍術が使えるという情報だけいっているので、白としては他の情報を今の段階で伝えることは出来なかった。必要ならば上から伝えるはずだからだ。

 

 白の素性については、日向家に居たということくらいは知っているだろうが、どれくらいの実力があるかなど、紅には分からないだろう。分かるとすれば、アカデミーでの成績くらいだ。

 

 ヒナタと紅の勝負が始まり、それを見ていたが一向に双方とも動かなかった。ヒナタは完全に防御の型である待ちの構えであるし、紅は様子見をしているため動きが無い。

 

 今回、先に動いたのは紅だった。ヒナタが完全に動く気が無いことが分かったのだろう。紅の方から仕掛けていく。一瞬で終わらせるつもりは無いようで、手加減しながら攻撃をしているのがよくわかるものだった。前の2人の時とは対応が大違いである。

 

 しかし、速度が上がるにつれて対応しきれなくなってきたのか、ヒナタの呼吸が乱れてきていた。そして、追いつかなくなり、ヒナタへ寸止めされたところで終わりを告げられる。

 

「実力は分かったわ。ヒナタはキバたちの元へ行きなさい」

「は……い……」

 

 昔ほど鍛錬をしていないせいだろう。ヒナタは短時間であるにも関わらず、息が上がりバテているようだ。ヒナタが白たちの元へと合流するべく、歩いて行ったところで、今度は白が呼ばれた。

 

「最後に白来なさい」

「なんでしょう?」

「あなたには聞きたいことがあるの。あなたの成績は上位であるにも関わらず、医療忍者を目指しているのはなぜ?」

「後方支援の方が安全だと思ったからですよ。平穏無事に、面白おかしく過ごしていければ、それが一番だと思いませんか?」

 

 紅はここで、白という人物の考え方を理解した。白の考え方には賛同できるものはあるが、今の時代にその考え方では厳しいものがある。

 

「考え方は分かったわ。でも、フォーマンセルで動く以上、最低限の戦闘行為はあることは分かるわね?」

「ええ。まあ。フォーマンセルで動くとそうなる可能性がありますね」

「分かっているなら話は早いわ。今からあなたの実力をみます」

「さっきは関係ないと言われませんでした?」

「今回誰も怪我をしなかったし、あなたの医療としての実力を見る機会がなかったから、違うことで実力を見るのはおかしくないでしょう?」

「では、あそこに寝ている二人に、怪我を負ってもらうということで……冗談です」

 

 白が不穏当な言葉を発すると、紅は目を細めて白を睨み付けた。冗談でも、仲間にわざと手傷を負わせると言ったからだ。

 

「いつでもきなさい」

「ではいきますね(幻術使われると困るから、視線をずらしてっと)」

 

 白はアカデミーでの実力に力を抑えて挑んでいた。しかし、触れることは触れられるが、全ての攻撃は軽く防がれてしまっている。フェイントを掛けても、それに見合うスピードが無いので見極められて対応されてしまうからだ。傍から見ても、純粋に体術だけでは敵いそうにもなかった。武器を使用すれば、まだ多少は手傷を負わせることは可能かもしれないが、そこまでの必要性を感じなかったのだろう、そのまま体術のみで挑んでいるようだ。

 

(流石に上忍なだけはあるな)

 

 白は特に慌てることなく攻撃を繰り返していたが、途中で止めになった。紅にしてみれば、全ての攻撃を軽く防いでいるにも関わらず、白は慌てることなく、淡々と攻撃してくるのでおかしいと思ったのだろう。

 

「かなりの技術があることは分かるけど、そんなものではないでしょう?」

「ただの医療忍者に、戦闘面で過度な期待はしないでください」

「……確かにそうね。ここまでとしましょう」

 

 白の最初の発言と体術の技量に、医療忍者であることを忘れていた紅は、あっさりと引き下がった。その後、紅と共に離れていた3人の元へと向かう。キバとシノは気絶から回復しており、2人とも白たちを見ていたようだ。

 

「上忍相手にやれるなんてすげえな! 俺の時は攻撃しても触れもしなかったってのに!」

「手加減してくれたからだよ」

 

 少し興奮気味なキバが、白へと詰め寄ってきた。それを仰け反りながら白は答える。キバの態度は、ここに来た時の態度とはかなり違っていた。シノはその服とサングラスから表情を窺うことは出来なかったが、ヒナタは当然とばかりに頷いている。

 

「みんなの実力は分かったから、明日から早速訓練を行います。それと、任務も並行して行っていくので時間は守ること。今日は解散とします。集合はここに8時です」

「よっし!もっと強くなるぞ!赤丸!」

「ワンッ!」

「了解した」

「わかりました」

「はい」

 

 この日、紅班は自己紹介を含めての実力確認だった。他の班はと言うと、鈴取りの演習を行ったのは、結局カカシ班だけであった。アスマ班などは、親睦のために焼き肉店へ行くなど、担当上忍によって色々と変わっていると白が知ったのは後日だった。

 


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