白物語 作:ネコ
自己紹介を行った翌日から、訓練を行っていた。任務より先に、連携をある程度固めておこうという狙いだ。
キバ、シノ、ヒナタにて紅相手に連携して攻撃を行っていく。今回の訓練では、前回の実力確認とは違い、多少の手傷を負うこともあったので、白の医療忍者としての出番もあった。
班で行動するばかりではなく、週に1回の講義も続いているし、更にアカデミーから行っている医療の手伝いも継続中だ。講義は同じようなことを今年も続けていた。しかし、医療の手伝いに関してだけは更に深いものへと変わっている。
下忍になってからだが、死体を使っての整形術や縫合術、手足の置換術など、明らかに下忍に教える度合いが過ぎたものとなったのだ。白もヒミトとして下忍に教えているので、その差は明確だったと言えるだろう。
ずっと白を担当している医療忍者は、いつもと変わりが無く、色々と教えてくれているので、白としてはその知識と経験を吸収していくだけだった。
自己紹介後、数日間たったが、未だ任務を受けずに班内での訓練を続けている。訓練の成果として、形は出来てきていた。基本となる攻撃パターンとしては、キバと赤丸にて攻撃を行い、ヒナタが相手の後ろから逃げ道を塞ぐような形で待ち構える、そして2人が敵の目を引き付けている間に、シノが虫にて攻撃するといったものだ。前衛2人の内どちらかが負傷した場合には、シノの虫が代わりを引き受けて、その間に白が手当てを行う、というのが手早く出来るようになってきた。
そのような連携の形が定まってきたところで、任務を行うこととなった。
「今日から任務を行っていきます」
「やっと初任務だ!」
キバは任務を楽しみにしていたのだろう。紅の言葉に大はしゃぎだった。
(キバは元気だな。シノはいつも通りと……。それにしてもヒナタ元気が無いな。何かあったのかな?)
シノは紅の言葉を聞いても何の反応も示さなかったが、ヒナタは集合してからというもの、ずっと暗い表情をしていた。
みんなで依頼所へと向かう途中で、白はヒナタに声を掛けた。
「ヒナタ何かあった?」
「……ううん。何でもないよ」
「そう?元気無さそうに見えるけど」
「大丈夫。心配かけてごめんね」
「大丈夫ならいいけど。何かあったら言ってね」
「うん……」
この日8班で最初に行った任務は店の手伝いであった。キバは初任務のあまりの内容に不満を漏らしていたが、Dランク任務など雑用がメインである。キバの思い描いていた任務はCランク、またはBランク以上のことだろう。
店の手伝いと言っても、接客をするわけではなく、裏方の方で荷物の運搬などがメインだ。荷物が壊れやすい物のため、慎重に運んで欲しいという条件付きではあったが、内容的には問題は無い。むしろ、白1人でも十分な内容でもあったからだ。
荷物の量はそれなりにあり、8班全員でそれぞれ分けて運ぶことになった。ここでは医療忍者など関係なく一緒に持ち運ぶ。紅に何かを言われたキバは、最初とは打って変わってやる気を見せて、多めに荷物を持っていた。
(あんなに荷物持って大丈夫なのか? 壊れやすいってこと忘れてるんだろうか……。まあ紅上忍が付いてるみたいだから大丈夫だろうけど。問題はこっちだな)
シノはマイペースに自分が持てる荷物を持つと、慎重に運んでいる。白もシノと同程度の荷物を持っていた。実際にはもっと持てるのだが、もう1人をフォローするために抑えているのだった。そのもう1人であるヒナタはと言うと、荷物を持ち何かを考えながら運んでいる。明らかに心ここに在らずの状態だった。
前をまともに見ていなかったからだろう、ヒナタは転びかけて白がフォローへと入る。それが何度か続き、その度に謝ってくるのだが、任務が終わっても直る気配が無かった。
そのため、白はヒナタを問いただしたのだが、そこで原因が分かった。
昨日、紅が日向家を訪れた。その時にヒアシとの会話を偶然ヒナタが聞いてしまったのだ。しかも、その内容と言うのが、ヒナタを見捨てるといったようなものだった。今まで、ヒナタなりにヒアシに認めて貰えるよう努力してきたが、それを全否定された上に、日向家には不要と言われれば当然落ち込むことだろう。
しかし、それを聞いたからと言って白にはどうしようもなかったが、次のヒナタの発言にて驚くことになる。
「しばらく白の家に泊まっていいかな?」
「えっ?」
「駄目かな?」
「駄目と言うわけでは無いんだけど……」
白の立場上よくは無いのだが、このままヒナタを放っておくわけにもいかず、白は了承した。
ヒナタの所在が不明なのは不味いと思い、紅に事情を説明していた。日向家への言伝をお願いしておくためだ。そして任務後解散となり、白たちはアパートへと向かったのだが、ここで更に問題が発生した。
「こっちはナルト君の家だよ?」
「そうだね」
アパートの階段を上がり、家の扉の鍵を開けた段階でヒナタは気付いたようだ。
「もしかして、ナルト君の家の隣?」
「もしかしなくてもそうだね」
「なんで言ってくれなかったの?」
先ほどまで落ち込んでいたのが嘘のように、ヒナタは白を問い詰めてきたのである。今まで白の家の場所を知らなかったのもそうだが、それがナルトの家の隣と分かったのだから、ヒナタとしてはもっと早くに知りたかったのだろう。
「聞かれなかったから……」
「聞かないと教えてくれないんだ」
どこか悲しげな顔をしていたが、部屋に入って隣から聞こえてくる騒音により、嬉しそうな顔に変わっていく。
(食事は作るからいいとして、問題は着替えとかだよなあ)
そのようなことを白が考えていた時に、訪問者が現れた。紅である。
「これにヒナタの着替えが入っているわ。ヒナタの事はお願いね」
「ヒアシ様は何も言われなかったんですか?」
「しばらくはここから通わせてあげて」
「……昨日と同じようなことを言われた訳ですね。分かりました」
「助かるわ。それではまた明日ね」
「はい。ありがとうございました」
部屋へ戻ろうと踵を返したところで、廊下に立っているヒナタに出会う。
「はい。ヒナタ着替えだよ」
「うん……」
ヒナタは先ほどの会話が聞こえていたのだろう。また元気が無くなっていた。そんなヒナタを連れて台所へ行き一緒に食事を作る。
(こういう時は違うことで気を紛らわせるに限る)
この日からヒナタと一緒に住むことになった。
最初の頃はドキドキしていた白も、数日もするとヒナタのいる生活に慣れてしまっていた。元々、日向家でも同じようにして、小さい頃から一緒に過ごしていたので、慣れるてしまうのに時間は掛からなかったのである。
そんな折に、木の葉の里から出していた影分身から連絡が入った。
「やっとガトー見つけた」
「結構時間かかったな」
「ガトーの所在を知るのにたらい回しをくらったから仕方ない」
「やっぱり島の方に居る感じ?」
「居るね。たぶん雇われてるはず。と言うか、今その島にいるんだけど意外と広い。それと貧乏人ばっかり」
「見つかりそう?」
「最悪ガトーを締め上げる」
「それだと立場悪くならない?」
「あー。やっぱり地道に探すしかないか」
「あれがあればよかったんだけどねえ」
「だよねえ」
再不斬に渡した秘術による手鏡に向けて、何度か話し掛けてみたものの反応が無く、視界も暗いままだった。白は不審におもいつつも放置していたのだが、影分身を手に入れた当初、鍛錬していた時に、本体が気絶したことで謎が解けた。
寝ている状態ならば、術が解けることは無かったのだが、気絶した状態だと術が解けてしまっていたのである。
そのため、木の葉の里に入った時には既に術が解けており、再不斬へと繋がっていると思っていたその視界も暗かったわけだった。
「広いと言っても限りはあるんだし、捜索と鍛錬ガンバ」
「そっちこそ退屈と窮屈と不自由な生活ガンバ」
自分で自分を励ましている姿に滑稽さを感じ、白は苦笑いをしてアパートへと戻っていった。
それから数日後にまた連絡が入ってくる。
「見つけたんだけど、近寄っていいのか悩む」
「なぜ?」
「いるのが再不斬さんだけじゃないんだよね」
「そういや部下がいたんだっけ?」
「ただの取り巻きにしか見えなかった」
影分身からの情報では、再不斬以外にも部下と思わしき忍者がいるようだ。しかし、だからと言って立ち止まるわけにもいかず、白は影分身を急かす。
「まだCランク依頼の方には載ってないけど、たぶんそろそろ載るはずだから急いでよ」
「分かってる。最悪時は動くからそのつもりで」
「最初からそのつもり。こっちはいつでもいける」
「では突撃をしてくる」
「交戦とかはやめてくれよ」
「その時次第」
「だよね」
暗部にいる関係上、任務内容を見る機会があった白は、Cランク任務の確認を行っていた。そこに波の国への護衛依頼が入っているか確認するためだ。
未だに依頼はないが、護衛依頼でカカシ班が波の国へ行くまでに、白には修得しておきたいことがあった。それをするために再不斬へと影分身を送り出したのである。
影分身と最後に交信をしてから、少し待っていたが、白への連絡はなかった。
その頃影分身が何をしていたかと言うと……
「はいはい。そこを通してね」
堂々と真正面から再不斬の居る建物へと突撃していた。
「どこの者だ?」
「教えても意味が無いかな」
「怪しい奴だ。捕らえるぞ」
「殺っても構わんだろう」
「怪しい奴でいいよ、もう……。んじゃ通してね」
「簡単に通すと思っているのか!」
「もういい殺るぞ」
「止めておいた方がいいと思うけど?」
「「ふざけるな!」」
建物の入口に居た2人は、白に向かい走り出した。それに構わず白も2人への歩みを止めない。
2人が白へと攻撃するべく、鉤爪のついた方の手で切り裂こうとした時、そこには既に白の姿は無かった。
「どこに行った!?」
「幻術か?」
2人は辺りを見渡して白が居ないことを確認すると、幻術と思い込んだのか、幻術を解くために印を組んだりお互いに触りあったりしていた。
当事者である白は既に建物内に入っていた。単純に瞬身の術を使って進んだだけなのだが、2人と白の間には明らかな実力差があり過ぎて、2人では目で追えずにいたのだ。そのため、白としては悠々と建物内に入ることが出来ていた。
(負傷させたら、後で何言われるか分からないから仕方ない。ここかな?)
建物内の部屋数はそれほど多くなく、白は気配のある部屋を1つずつ見ていく。
「間違えました」
「すいません」
「どうぞごゆっくり」
「ああ、よかった」
4部屋目にして目的の部屋を見つけた。部屋へ入るとそこには、ソファーに身体を預けて寛いでいる再不斬と、その傍らに立つ女性が居た。
「お久しぶりです、再不斬さん」
「……お前白か?」
「分かってもらえて何よりです。忘れられてるかと思いましたよ」
その時に、今まで開けた部屋に居た者たちが部屋へとなだれ込んできた。
「囲め!」
1人の合図に白の周りを取り囲む。包囲が完了した所で再不斬は話を続けた。
「死んだものと思っていたぞ」
「こちらもまさか、気絶したら術が解除されるなんて思ってなかったので、こうして来たわけですよ」
「入口に居た2人はどうした?」
「2人でなんか触りあいしてましたよ。あっち系の人なんですかね?」
「……まあいい。それで?」
「別れた時に言いませんでしたっけ?」
「そう言えば別れた時に何か言っていたな」
「ええ、あの時に借りた物を返しに来たのと、後は確認のためですね。と言うかこの周りの人たち誰です?」
今更ではあるが、生ぬるい殺気を放つ周囲の忍者たちを白は指差す。流石に会話の邪魔になりそうだったためだ。
「俺の部下だ」
「部下居たんですね」
「あの後合流したからな」
「まあ、それはさておき、周りの人たち邪魔なので眠ってもらいますがいいですか?」
「クックック。やれるならやってみるといい。あの頃よりも使えるようになってるんだろうな?」
「もちろんですよ」
囲んでいる忍者たちのレベルは下忍から中忍レベル。白に敵うはずもなく即座に蹂躙されていく。囲んでいる者たちが全て倒れるまで1分も掛からなかっただろう。それを愉快そうに再不斬は見つめていた。
「手加減が上手くなったようだな」
「最近そういうことばっかりしているもので、後これが借りていた物です。もちろん新品ですよ」
再不斬へ巻物とクナイを放り投げるが、それを受け取ったのは再不斬の傍らに立っていた女だった。
「えーっと。あなたにあげたわけじゃないんですが?」
「知り合いのようだけど、敵ではない保証など無い」
「まあ、疑うのはいいんですけどね。それから、再不斬さん確認したいことがあるんですがいいですか?」
「聞くだけは聞いてやる」
「なぜガトーに雇われてるんです? 再不斬さんならお金を奪うことくらい、楽に出来そうなんですけど」
「別に金に拘っている訳じゃない。しかし、あって困るものではないからな。それと、雇われている理由は想像つかないか?」
「想像つかないから聞いてるんですが……」
お前なら分かっているだろうと言わんばかりの顔で、再不斬は白に聞いてくるが、白には心当たりが全くなかった。それを見て分からないと判断した再不斬は理由を述べる。
「力を付けるためだ」
「つまり、ここを拠点にして力を蓄えるということですか?」
「ああ」
「再不斬様。そこまで話してもよろしいのですか?」
少し慌てたようにして女が会話に割り込んできた。
「こいつにならいいだろう。確認したいことはそれだけか?」
「ここを動く気は無いみたいですね。連れ出してくれた恩もありますし、ある情報をお伝えします」
「言ってみろ」
「今この島に橋が造られてますよね? その橋造り職人の抹殺依頼がガトーから出ると思うんですが、その職人がこの島に向かうために、木の葉の里の上忍1人と下忍数名を護衛に雇いますので注意してください」
「なぜ、そんな先の事まで分かる?」
白の言った内容に流石の再不斬も疑わずにはいられないようだった。それはそうだろう。言ったことが本当であれば未来予知に等しいのだから。
「再不斬さんなら、俺が今どこに居るのか知ってるはずですよ」
「そういうことか。それで? お前の事だそれだけじゃないんだろう?」
「ええ。ここからが本題なんですが、誰が来るか教えるので、俺を鍛えてもらえませんか?」
「いいだろう」
「再不斬様! 話からすると奴は敵である可能性が!」
「黙っていろ」
「…………」
「では先に伝えておきます。護衛に来る人の名は……」