白物語 作:ネコ
湯の国の目的地までは2日かかる。木の葉の里を出発してその1日目。夜になり、その日は予定通りの宿場街に到着することが出来た。辺りはまだ明るいが、これより先に進むと野宿となってしまう。それにそこまで急ぎの依頼ではないこともあり、この宿場街で宿を取ることにしてあった。
宿を取ったと言っても、荷は荷車に括り付けられているため、宿内に持ち込むことはできない。そのため、荷物の番を決めなければならなかった。その荷物の番については、スリーマンセルにて行い、1人ずつ休憩を取るというものだ。この時、馬の手綱を牽いていたということで、白が一番最初に休憩することになった。
「旅館の人に聞いたのだけど、最近盗賊が出ているそうだから、何かあったら呼びなさい」
「紅先生は一緒にいてくれないのかよ」
「私は今回見ているだけのつもりよ。助言はするけど、基本はあなたたちだけで対応なさい。但し、戦闘になりそうであれば、先ほども言いましたが呼ぶように」
「俺だけでもやっつけてやるぜ!」
「はあ……。シノとヒナタ。頼みましたよ」
紅は「何かあったら呼ぶように」と再度言って自室へと行ってしまった。その後もキバはぶつぶつと文句を言っているようだったが、誰も突っ込もうとはしない。愚痴の矛先が向いてはかなわないからだ。
荷物の番の中に、馬の世話が入っていないだけ、まだ良かったと言えるだろう。馬の世話をしたことのあるメンバーなど居ないのだから。そのため、馬については厩にて預かってもらっていた。
白も休憩となっていたが、残ったメンバーが心配なため、影分身で遠くから見張らせていた。
なぜ遠くからかと言うと、紅班は探索・感知が得意だからである。薬にて体臭を消しているとはいえ、油断は出来なかった。赤丸は臭いを消したのでいいとして、シノの虫を使っての探索範囲が、どれくらいか分からないからだ。そして、定期的に白眼で周囲を警戒するヒナタも厄介だった。その為必要以上に、影分身は離れた位置で様子を見るしかなかったのである。
ただ、この時ばかりは離れていたことが、良い方向に働くことになった。
少し暗くなり始め、人が少なくなってきた頃に、明らかに一般人とは思えない集団が現れたのである。しかも場所は宿場街が見える高台。白が隠れてキバたちを見ている場所であった。
その現れた集団の会話に耳を傾けていた白は、内容から盗賊と断定した。数名は先に送り込んでいて、既に狙いを定めていたのである。その中に護送対象である物も含まれていた。
(こいつらが紅さんの言っていた盗賊か。数人は宿場街にいるみたいだけど、数人ならあの3人でも対応できるかな? ―――水遁・霧隠れの術)
高台を霧が少しずつ覆い始めた。夜であることと、そして霧が膝下しか覆ってなかったことで、そのことに盗賊たちは気付かなかった。
十分に密度の濃い霧が充満したところで、白は仕掛けた。
(―――氷遁秘術・千殺氷翔―――)
片手にて印を組み術を発動させた。
「ぎゃーー!!」
「ぐあっ!?」
「いてぇえ!!!」
盗賊たちの足元から上空へ向けて、千本の形をした物が一気に突き進む。悲鳴を上げれた者は、まだ軽傷の部類であると言えるだろう。十数名居た盗賊たちの内、半数以上は所々穿たれた箇所を押さえて呻き、残りの者は動かぬまま倒れていた。
(次はこっちと、―――水遁秘術・千殺水翔―――)
上空に向けて再び、残りの霧が千本となって空へと向けて上がっていく。その進路に居る者を貫いて。
(氷遁の時よりも威力が落ちる分、術の展開速度はやっぱり早いな)
氷遁で同じような術があったので、水遁でも出来ないかと改良した結果であった。
そこで、上空へと上がっていた氷の千本が下へと落ちてくる。その時には、そこに立っている者は居なかった。しかし、それで終わるはずもなく、次の術が盗賊たちを襲う。
(―――風遁・風切り舞―――)
幾重もの風の筋が、盗賊たちを縦横無尽に蹂躙する。術を解き終えたそこに、人の形をしている者はいなかった。生きている者が居ないことを確認し、残党が戻ってきた時の事を考えてその場に留まる。
宿場街の方でも騒ぎが起きたようで、キバたちも戦っていた。相手は3人。始めに荷車を奪い、それに盗んだ物を乗せて行こうと思ったのだろう。しかも、それを守っているのが子供であったために、格好の標的となったようだ。
しかし、相手はただの盗賊。子供とはいえ忍者に敵うはずもなく、あっさりとやられて捕まってしまう。捕まえたことで気をよくしたのか、キバは大声で騒ぎたてているようだった。
その声に気付かない紅と白ではなく、2人は荷車の元へと向かった。紅は別件で起きていたし、白は通常の生活が仮眠であるため、すぐに行動出来たのである。そして、そこで倒れている3人を見て、紅は事情の説明を3人に求めていた。
「それで。これはどういうことかしら?」
「襲ってきたから返り討ちにしてやったぜ!」
「つまり、この者たちは噂の盗賊ということね。すぐに縛り上げなさい。私はこの街の詰所に話をしてきます」
紅は言い終えると、その場から消え去った。残された4人は倒れた3人を縛り上げていく。
「俺がいる限り、荷物には触れさせねえ!荷物の護送は俺に任せとけってんだ!」
「頼もしいね。それなら明日の朝まで交代は不要だね」
「そうか。そこまでキバが言うのであれば仕方ないな。次はキバの休憩だが先に休ませてもらおう」
「折角決めた順番なんだし、休ませてあげた方が……」
「ヒナタ何を言ってるの? キバが任せとけって言ってるんだよ。本人の意思を尊重してあげないと失礼だよ」
「そうなのかな?」
「そうそう」
「いや。休憩は欲し「まさか自分の言ったことを曲げたりしないよね?」……」
「では先に休ませてもらう」
「用があったら呼ぶよ」
シノは頷くと、宿の中へと入って行く。それを見届けてからしばらくすると、紅が警邏を率いて戻ってきた。
「待たせたわね。荷の方に付いていてちょうだい」
「わかった」
「わかりました」
「はい」
捕縛した3人を引き渡し、キバ、白、ヒナタの3人は、そのまま荷の護衛に移った。その時に、影分身を解除したことで、他にも盗賊が居たことを知る。
(あっちの高台か……。その内、誰か見つけるだろうから放置でいいか。それよりも……)
白はキバへと視線を戻した。
「それよりも、紅先生が盗賊が出るっていうから期待したけど、この程度なんだな。弱すぎるっつぅか、歯ごたえってもんがないよな。ヒナタもそう思うだろ?」
「えーっと。油断はしない方がいいと思う」
「油断なんてしてねえよ。あいつらくらいなら、俺1人で十分だって話をしてんだよ!」
キバは相手を倒すことしか頭にないようだ。本来の任務は、荷物の護衛であることをすっかり忘れている。もし、高台にいた連中まで一気に襲いかかられては、キバはともかく、荷物の方は無事では済まなかっただろう。
(これは、明日の朝、お叱りコースだな)
他人事のように考えながら、荷物の護衛を務めることになる。
翌日の朝。荷車の前で紅班全員が集合していた。昨日の件を含めて事情を聞いた後、説教を受けているのである。何故か白も含めて……。戦闘になりそうな時には、1人は呼びに来るよう伝えたにも関わらず、全員が戦闘行為を行ったからだった。
説教が始まってしばらくした時に、詰所の方から人が走ってきた。内容は昨日の件で、協力者としての紅へ確認を含めて連絡をしに来たようだ。
「はぁ……はぁ……ふぅ。おはようございます。間に合ってよかったです。昨日の件について、お聞きしたいことがあるんですがよろしいですか?」
「ええ。構いません」
「ありがとうございます。昨日引き渡していただいた盗賊の仲間についてなんですが、何かご存じないですか?」
「知りませんね……。仲間がいたのですか?」
「あの後、盗賊たちを尋問したんですが、そこで仲間がいると言うのです。仲間は何処にいるのか聞いても全く答えようともしません。そこで、捕らえたあなた方なら、なにか御存じではないかと思い来たわけです」
「残念ですが、知りません。私たちも用事がありますので失礼します」
「いえいえ。こちらこそ引き留めて申し訳ありません。よい旅路を」
(説教から抜け出せた!いいところに来てくれたよ本当に……)
詰所の人たちはこれから、盗賊の仲間について、一生懸命捜査をすることになるだろうが、既に脅威はないので取り越し苦労に終わることは明白だった。しかし、それを教えてやる義理も無ければ義務もない。逆に教えてしまえば、なぜ知っていたかなど聞かれることだろう。
白は、面倒事は遠慮とばかりに頭を振り、馬の手綱を握って宿場街を出るのだった。
道中は、特に何事も無く、目的地である湯の国へと夕方に到着した。明るいうちから、襲う者がいなかったとも言える。元々、感知タイプの班である。襲撃があったとしても、奇襲をかける方が難しい。
無事に荷物を引き渡し、一応の任務は完了した。後は、馬を木の葉の里へと持ち帰るだけである。荷車については、荷物と一緒に引き渡してあった。その後、馬を厩に預けに行き、その日は、湯の国の宿で一泊することになった。
5人が泊まれる大部屋へと案内される。そこで、早速と言わんばかりにキバが提案した。
「やっぱり湯の国って言ったら温泉だよな!」
「そうだね」
「この宿にも露天風呂がついてるわ」
「おっし! 行こうぜシノ!」
「ああ」
「でも、赤丸って風呂に入れても大丈夫なの? 忍犬とはいえ、風呂に入れるのはまずいような気がするんだけど?」
「それなら問題ねえな。赤丸。擬人忍法だ」
「ワンワン!!」
赤丸は、キバの頭の上から飛び降りると、キバそっくりに変化してみせた。
「これで問題ないな」
「そうだね(この場合の代金ってどうなるんだろう……?)」
その後、みんなで風呂場に行ったのだが……。
「なんでお前がこっちに来るんだよ」
「ここは男湯だ」
「白、疲れてるの?」
「女湯はこっちよ。見間違えるほど疲れているとは思わなかったわ」
白の目の前には、青い布に男と書かれている暖簾がぶら下がっていた。色と文字で明記されているのだ、見間違うはずもない。ヤマトからは知っている人は少ない方が、良いかもしれないとは言われていたが、流石にこれから同じく活動していく班員に対して、隠し続けるのはどうかと思ったのか、自分が男であることを告げる。
「みんな勘違いしてるようですが、男ですから」
「「「「えっ!?」」」」
みんな一斉に驚いたような声を出した。あのシノまで出したということは、かなり驚いたのだろう。ヒナタが驚いたことに、白も驚いていた。
「お前アカデミーではくノ一にいたよな?」
「聞いたことがある。性同一性障害というものだろう」
「胸がないからって、男ではないんだよ?」
「そこまでだったなんて……」
「…………」
みんなそれぞれ言いたい放題であった。面倒だとは思いつつも、どうしてこうなったのかの経緯を説明する。
「……と言うことなんです」
「「「「…………」」」」
ヒナタの世話をするためなどの部分を省きながらの説明を終えると、みんな黙って固まってしまっていた。それでも最初に紅が硬直から回復し訊ねてくる。
「この事を知っているのは誰がいるのかしら?」
「火影様には、報告がいっていると聞いています」
「そう」
「まあいいや。男だって言うんなら遠慮はいらないよな」
「元々遠慮などしていなかっただろう?」
「なぜヒナタが驚いているかはともかく、みんなが納得してくれて嬉しいよ」
「<そんな……白が男だったなんて……>」
みんなそれぞれ理解は示したが、約1名―――ヒナタだけは違った。あまりの内容にショックを隠せないようで、呆然と立ち竦んでいる。
「早く入ろうぜ」
キバの声を切っ掛けにそれぞれ風呂場へと入っていく。呆然としたままのヒナタについては、紅が手を引いて連れて行った。
白は、そのことに少し心配していたが、キバたちと共に風呂場へと入っていく。宿には当然、白たち以外も泊まっている訳で、脱衣所には他の客もいた。その客たちは、好奇の視線で脱衣所に入ってきた白を見詰める。
(ちょっと……まさか……この視線はかなりキツイ……)
自分に向けられる視線に身震いし、その場に立ち止まる。
「気分が悪くなったから、やっぱりやめておくよ……(誰もいない時に入ろう)」
「そうか? しっかり休んどけよ」
「体調管理は重要だ。気分が悪い時は無理をする必要はない」
「それじゃ部屋に戻ってるよ」
不愉快な視線から逃れて部屋へと戻る。1人になったことで、その間にやれることをやっておくことにした。
「そちらの様子はどう?」
「一応説明したんだけど……、なんか違う方向に進み始めたんだよね」
「どういうこと?」
「影分身解除したら伝わるから、その時にでも。それより、ちょっと忙しくなりそうだから当分は戻れない」
「えっ?」
「チャクラを使うようなことは極力ないから、問題ないし安心して……と言うか現在進行形で忙しいから、また連絡するよ」
そこで話は終わった。
(一体向こうで何が起きてるんだ?)
自分に安心していいと言われたが、内容を聞けないままだったので、逆に不安で仕方ないのだった。