白物語   作:ネコ

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57 和解?

 風呂から先に部屋へと戻ってきたのはキバとシノ、それから赤丸だった。赤丸は既に犬の姿に戻っている。残りの2人は露出している肌の部分が真っ赤になっていた。

 

 部屋へと入ってきた2人を見て白は不審気にその姿を見る。シノがキバに支えられて入ってきたからだ。

 

「シノはどうしたの?」

「長湯勝負してたんだけど、なんか茹っちまったみたいでさ。途中でやめて連れてきた」

「そんなことしてたのか……」

「医療忍者なんだろ? パパッと治せないのか?」

「医療忍術は万能じゃないんだ。それに、なんとかに付ける薬は無いって言うし、布団に寝かせて、団扇か何かで扇いでればいいよ」

 

 医療忍者に対する考えを改めさせると共に、風呂で何をしているのかと、呆れたような声で、やる気なさげに適当な返事をする。

 

「おお! そうなのか……。じゃあ頼んだぜ!」

「はあ? 断るよ……。扇ぐのはキバがやってよ。どうせキバの方から勝負を挑んだんでしょ?」

「お前見てたのかよ……? まあそうだけどさ……仕方ねえな……」

 

 キバは面白くなさそうに言うと、シノを布団へと寝かせて、近くにあった盆を持ち、団扇代わりにシノを扇ぎ始める。しかし、始めてしばらく経つと、それも途中で飽きてきたのか、扇ぐのをやめて赤丸と戯れはじめた。

 

(はあ……。飽きるの早過ぎ。シノも勝負なんて受けなければ良かったのに……)

 

 部屋の壁に差してあった団扇を手に取り、キバの代わりに扇ぎ始めた。キバはというと、今は赤丸の毛繕いに夢中なようだ。赤丸も満更ではない様子で喜んでいる。

 

 それからしばらくして紅とヒナタが戻ってきた。紅は部屋の状態を見て眉を顰めながら部屋へと入り、ヒナタは紅の後ろに隠れるようにして部屋へと入ってきた。

 

 部屋へと入ってきたヒナタの視線は白に固定されており、観察するようにじっと見つめている。

 

「シノはどうしたの?」

「湯あたりのようです。誰かが勝負を仕掛けた結果ですね」

 

 白はそう言うと、赤丸の世話に夢中になっているキバへと目線を向ける。

 

「あなたは止めなかったの?」

「そもそも風呂に入れてません。他の客の視線が煩わしかったので、人の居ないときに入ります」

「そう……」

 

 紅は気遣わしげに白を見た。そして、キバへと視線を移して溜息を漏らす。自分で行ったことを、他人任せにして自分のことをしているためだろう。

 

「取り敢えず……キバ!」

「はいっ!?」

 

 赤丸の世話に夢中になっている時、突然呼ばれた自分の名前にキバは反射的に返事をする。そこで、自分を呼んだ相手が紅であることに気付き、冷や汗を流し始めた。動物的な直感で、目の前の紅が怒っていると分かったのだろう。

 

「あなたには赤丸の毛繕い以外にもやることがあるわね?」

 

 紅はキバから白へと視線を向ける。

 

「はい……」

 

 紅に尋ねられたキバは、赤丸から離れて、ゆっくりとした足取りでシノの元へと向かう。シノの看病を代わるためだ。そんなキバに、白は持っていた団扇を手渡した。キバは諦めたような顔をして団扇を受け取ると、シノの傍らに座り扇ぎ始める。

 

「白はヒナタと話をしておきなさい。ヒナタ……。いつまでも後ろにいないで出てきなさい」

 

 なかなか出ないヒナタに、白は自ら近付いていく。そんな近付いてくる白に対して、ヒナタは更に硬直してしまい、その場から動くことができなくなっていた。

 

 白はヒナタの腕をとり、部屋の外へと連れ出していく。ヒナタは連れていかれるままに、身を任せるしかなかった。

 

 廊下に出て、歩きながらヒナタに当たり障りのない言葉をかけるが、反応は芳しくない。落ち着いて話せる場所を求めて、歩いていると、廊下に長椅子が設けられていた。そこで、ヒナタと話すべく腰を降ろす。

 

「何から話そうか……」

「……ずっと一緒にいたのに……気付かなかった……」

「こっちも、てっきりわかってるものだと思ってたよ」

「…………」

 

 沈黙が少し過ぎたところで、あの場では言えなかった理由の一部を伝える。

 

「僕が拾われたのは知ってるよね?」

「……うん」

「拾われたの最初の理由は、ヒナタの訓練相手のためだったんだ」

「…………」

 

 このことについては、予想はできていたのだろう。何も返答はなかったが、ヒナタの目線は続きを促しているようだった。

 

「最初の手合わせで、実力もある程度知られてからは、ヒナタの世話と護衛も兼ねることで、アカデミーに通うことになったんだよ。その時に女として登録されたんだ」

「それで納得できたの?」

「納得も何も、命の恩人なわけなんだよね。だから、簡単に断ることもできないし……。それに、ヒナタと一緒にいるなら、女として登録していたほうが都合がよかったからね。言っておくけど、アカデミーには通いたいと思っていたから、ヒアシ様には一応感謝してるんだよ?」

「白は……父様に言われたから……私の傍にいたの?」

 

 ヒナタにとって一番の心配事だった。人に言われたから一緒に居た……などと言われた時には、誰を信じていいのかすら分からなくなっただろう。

 

 そのため、白の次の言葉を聞き漏らすまいと、白の方へと向き直る。白を見るヒナタのその目は真剣そのものだった。

 

「これは前にも言ったかもしれないけど、ヒアシ様の言ったことは関係ないよ。ヒナタのことは家族だと思ってる。……この答えじゃダメかな?」

「……ううん。そんなことないよ……<ありがとう……>」

 

 ヒナタは答えを聞くと、目尻に涙を浮かべて満足そうに微笑んでいた。そして、何かを思い出したように、目尻の涙を拭き取り謝罪の言葉を言う。

 

「こっちこそ気付かなくてごめんね」

「いいよ。どうせこんな容姿だからね……。途中からは諦めてたんだ。まあ、くノ一なんて普通経験できることではないからね、何事も体験してみるものだと思ったよ(主に辛いことしかなかったけど……)」

「そうなんだ……。ねえ知ってた? 白は女子生徒から人気があったんだよ?」

「えっ? ……なぜ?」

 

 ヒナタから言われた内容を始めて知ったことに、驚きを隠せなかった。そこまで目立つような行為をしている自覚が白にはなかったからだ。実際には、実技の成績は優秀なうえに、色々なことを知っており、そのことで威張るわけでもなく丁寧な対応をしていたので、一部の生徒から支持されていたのだった。

 

「たぶんだけど、何事にも冷静だし……色々知ってて頼れる人だったからかな? 白がいないときに、よく趣味とか好き嫌いを聞いてくる子がいたんだよ」

「初めて知ったよ……ははは……」

 

 任務などでいない時に、そのような話が上がっていたとは思いもしなかった事実に、苦笑いしか出ない。しかし、白もまたヒナタについての情報は持っていた。

 

「でもそれを言うなら、ヒナタも男子生徒に人気があったことは知ってた?」

「えっ?」

 

 今度はヒナタが驚く番だった。自分に自信が持てないヒナタにとって、あり得ないと考えていたのだろう。即座に否定し始める。

 

「そんなことあり得ないよ……。白みたいに綺麗じゃないし……髪も短いし……頭もよくないし……<白に勝ってるところなんて……>」

 

 ヒナタは白と比べ始め、自分で思う劣っているところを言い綴っていき、最後の方に小さくつぶやくと、自分の胸に両手を重ねた。

 

「男子生徒が近付いて来なかったのは、日向家っていう名前と、僕が近くにいたからだね。ヒナタは、ナルト君にしか意識がいってなかったから気付かなかったかもしれないけど、結構な視線がヒナタに来てたんだよ」

「そうなんだ……」

 

 未だに納得してないヒナタを見て、この時に言うしかないとばかりに白は問いを発する。

 

「と言うことで、男だと分かったんだから、髪の毛を短くしてもいいかな?」

「それはダメ!」

「ええ!? なぜ?」

 

 ヒナタの強い拒絶の言葉に白はたじろいでしまう。女だからと今まで切らずにいたが、話したことで短めに切っても問題ないだろうと思ったからだ。既に髪の長さは、足の付け根付近にまで伸びてきていた。

 

「白にはそれが似合うから」

「結構邪魔なんだけど……」

「家族の言うことは素直に聞いておくものだよ?」

「そこでそれを持ち出すの!?」

「ふふふ」

 

 その後も、笑顔を取り戻したヒナタと、アカデミーの生活において言えなかったことを、色々と話をして部屋へと戻った。

 

「仲直りはできたようね」

「ご心配をおかけしました」

「すいません」

 

 入ってきた2人の顔を見て紅は満足そうに言うと、報告書らしきものを片付け始めた。

 

「時間も遅いようだし、そろそろ人も少なくなっているでしょう。白はお風呂にでも入ってきなさい。キバはもう扇ぐのは止めていいわ」

「では行ってきます」

「ああー。やっと終わった」

 

 白は着替えの荷物を持ち、風呂場へと向かった。

 

 キバはあれからずっと続けていたのだろう、団扇を放り出すと、その場に身体を大の字にして倒れ込んだ。そんなキバを労うように赤丸が頬を舐めている。

 

 ヒナタとの会話をだいぶ遅くまで続けていたせいだろう、脱衣所には誰の姿もなかった。そのことに安堵して服を脱ぐと風呂場へと向かう。扉を開けたそこにあったのは露天風呂だった。

 

(さすが湯の国。当然露天風呂だとは思っていたけど、まさかここまで広い露天風呂とはね)

 

 木の葉の里にも、露天風呂はあったが、そこまで広いものではなかった。広さ的には木の葉の里と比べて、軽く3倍くらいはあるだろう。白はその光景に、多少圧倒されながらも歩を進める。

 

 身体を洗い終わり、湯に浸かってくつろいでいると、誰かが風呂への扉を開ける音が聞こえてきた。湯煙で見えないが、足音から1人であることが分かる。徐々に湯煙の中を近付いてき、湯煙から姿を現したのはキバだった。

 

「あれ? キバって1度入ったよね?」

「シノのやつをずっと扇いでたら、また汗を掻いたから入りに来たんだよ」

「ああ、なるほど。結構長い間扇いでたみたいだね」

「まあな。紅先生の目が厳しくてさ」

 

 キバは掛け湯をすると風呂へと入ってきた。

 

「それにしても、ほんとに男だったんだな」

「まあね。性別のせいで、結構アカデミーの時には苦労したよ」

「そんなもんか? 別に気にするようなことじゃないと思うけどな」

 

 性別など全く気にならないのだろう。そんなことはどうでもいいとばかりに提案してきた。

 

「それよりも、どっちが長く浸かってられるか勝負しようぜ!」

「全く懲りないね……。勝負に関しては遠慮しておくよ」

「負けるのが怖いのか?」

「怖い以前に長湯は身体によくないからね。それじゃお先に」

「おい! 待てよ!」

 

 何か言い続けるキバを放って風呂を上がり脱衣所へと向かった。白い肌は露天風呂に浸かったことでほんのりと赤くなっており、背後から見れば女性と見間違うほどである。

 

 浴衣に着替え終えて部屋へと戻り、シノの様子を確認した後に、その日は就寝となった。

 


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