白物語   作:ネコ

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63 1次試験?

 中忍試験会場へと煙玉を投げ込む前に、登場する場所を確認しようとイビキが中を覗くと、部屋の後方―――受験生が入ってくる扉付近で、受験生同士による諍いが起きていた。

 

 白の耳にも、教室の中からナルトとサクラの声が聞こえてくる。

 

「カブトの兄ちゃん!!!」

「大丈夫!?」

 

 中の様子を確認して状況を理解したのか、イビキは先ほどまでの、パーティーの時のような緩んだ顔ではなく、険しい顔つきへと表情を変えた。

 

「少しは大人しく待ってられんのか……いくぞ! 前方ど真ん中だ」

 

 イビキが煙玉を投げ入れると同時に、試験官全員が移動する。煙玉は『ボンッ!』という音と共に、煙を限定的に、そして一時的に充満させていく。

 

 その煙が晴れる前に、イビキが教室内に響き渡るような声で怒鳴り散らした。

 

「静かにしやがれ! どくされやろうどもが!」

 

 怒鳴り声の聞こえた方向―――煙玉の晴れた場所に現れた試験官たちに、受験生は目を釘付けにしていた。受験生の視線が、自分たちに集まっていることを確認したイビキは挨拶を行う。

 

「……待たせたな。……中忍試験の1次試験を担当する森乃イビキだ」

 

 イビキは普通に挨拶しているだけなのだが、受験生たちの半数はその顔と態度、そして声に恐れをなしているようで、固唾を呑んで見入っている。この様子ならば、当初の目的である、煙玉誤魔化し作戦は成功したと言えるだろう。イビキだけでも十分だったかもしれないが……。

 

 イビキは自己紹介をすると、先ほどの諍いを起こした主犯―――音隠れの受験生へと指を突きつけた。

 

「音隠れのお前ら! 試験前に好き勝手やってんじゃねーぞコラッ! いきなり失格にされてーのか?」

 

 これに対して、反省の色を見せずに言い返してくる音隠れの受験生へと、イビキは鼻を鳴らして注意喚起をしていく。

 

(そんなに怖い顔して言っても内容が優し過ぎますよ……)

 

 イビキの言った内容は、対戦や争いを禁止するもので、更に、試験官が許可を出したとしても、相手を死に至らしめる行為を許さないというものだった。

 

「……なんか甘っちょろいな、この試験」

 

(ほら、音隠れのやつに言われた……)

 

 イビキの発言に対して同じような考えを持った者が他にもいるようで、鼻で笑い馬鹿にしたような顔で試験官を見てきたが、逆に試験官たちは、その顔を見てニヤニヤと笑っている。それはそうだろう。なぜなら、この1次試験は、前回までと違い戦闘行為が全く関係ない筆記試験なのだから。

 

「ではこれから試験を始める。……志願書の代わりに、この座席番号の札を受け取り、その番号の席に着け。……着席し終えたら筆記試験の用紙を配る」

 

 試験用紙の束を持った試験官と、座席番号の札の入った箱を持った試験官が、前に進み出たところで、受験生がざわめきだした。

 

「ペッ……ペーパーテストォォォオオオ!!!」

「うるさいぞ! 失格にされてーのか!?」

 

 ナルトは白目を剥いて大声で試験の内容を叫んだ。その大声に、イビキは先ほどの音隠れの件もあってナルトに対し一喝する。これによりナルトは大人しく黙った。しかし、その顔色は悪いままだ。筆記試験の事など僅かなりとも考えていなかったのだろう。

 

 順次、志願書と座席番号札を交換して座席へと座っていく。この時に、班員である3人が揃っているかの確認も行われていた。

 

 ところどころ空席はできたものの、教室にいる受験者全員が座り終えたところで、イビキが今回の試験のルール説明を行った。この時に、他の試験官が問題用紙を裏向きで配布していく。

 

 内容は打合せの通りのことを黒板に記入して、受験生へ分かりやすいように説明していく。説明の合間にサクラが質問するが、そんなことはお構いなしにイビキは話を続けていった。

 

「説明は以上だ。試験時間は1時間とする。……始めろ!!」

 

 イビキの言葉で、受験生は一斉に問題用紙を見て、数瞬後に固まってしまった。下忍レベルでは解くことなどかなり難しいのだから当然だ。

 

(俺の担当サクラの列かよ……サクラは、カンニングしないでも余裕だろうからつまらないな……。隣のやつがナルトの列担当か……)

 

 隣にいる試験官のボードに記載されている座席番号を見て、改めてナルトを見ると、隣にヒナタが座っているのが見えた。

 

(そういや、ナルトの隣になるんだったっけ……)

 

 しばらくは、教室内をカリカリという音だけが響いていたが、おもむろにサクラの横にいた受験生が立ち上がりイビキへと質問する。

 

「あの~。これだけは教えてほしいのですが……、一体上位何チームが合格なんですか?」

 

(立ち上がりでマイナス2点と、質問したからマイナス2点。チェックチェックっと。後、2回しかできないから気を付けろよ……名前しらないけど、砂隠れの受験者)

 

 予想通り、イビキにより素気無くあしらわれて、すごすごと席へ座り直す。

 

 その後また、カリカリという音だけが響き渡る。ここで、カンニング行為をしなければならないと気付いたのか、大体の者が動き出した。自分たちの能力でカンニングを行っているのだろう。特にサスケやネジは分かりやすかった。瞳術を使用しているので、顔を見ればはっきりと分かるのである。無様なカンニングではないので、点数を引かれることはないだろうが……。

 

 その後すぐに、初めての失格者が出た。ナルトのすぐ後ろの受験者である。その受験者の問題用紙に、試験官はクナイを投げつけて言い放つ。

 

「5回ミスった。テメーは失格だ」

「そ……そんな……」

「こいつのツレは、2人ともこの教室から出て行け。今すぐにだ」

 

 文句を言いながらも、3人の受験者は素直に従い教室を出て行く。

 

 白はそれを見て、再度サクラの方を見ていると、隣の試験官がカリカリと記入する音が聞こえて来た。

 

 ナルトのやつだろうなと思いつつ、覗いてみると、ナルトの点数が引かれているのはともかく、ヒナタの点数まで引かれていたのである。

 

(おぃぃいい!? ヒナタは俺が教えてたし、自分で勉強してたから、今回の問題くらい解けるんだよ! 引くならナルトだけにしてくれよ!)

 

 ナルトとヒナタは仲良く6点引かれていた。ナルトの方を見ると、2人でこそこそと会話をしている。そんなことをしていたら点数を引かれるのも当然だろう。

 

 会話が止みヒナタは静かに前を向いていたのだが、その手が問題用紙を、ナルトに見えるようにして動かしていた。それをナルトは覗こうとして、更に隣の試験官が点数を引いていく。試験官の書き込む音が聞こえたのだろう、ナルトはヒナタの問題用紙を見ずに、自分の答案用紙と壁掛け時計を気にしながら大人しくなった。

 

(ナルトやばいぞ! あと1回で試験終了のお知らせだ! 変なことはするなよ! ヒナタにも影響が出るんだからな!)

 

 白の心配を余所に、徐々に受験者は減っていった。そんな中、突如サクラが机に伏してしまう。サクラの後方にいるイノが術を使ったのだろう。同じように机に伏している。

 

(これって俺がやることって、サクラ以外のやつを見とくだけなんだよな……。しかも既に見るやつがいつの間にか5人しかいないし……)

 

 白の担当していた受験者は、同じチーム内の受験者の失格により、連帯責任で一緒に出て行ってしまっていた。サクラの横に座っているやつは、最初の時のカンニングで満足してしまったのか、あれ以来カンニングをせずに待機している。そのため、白は残りの受験生を見つつ、隣の試験官とナルトたちの動向を気にしていた。

 

 途中騒ぎ立てる受験者もいたが、担当の試験官に壁に一瞬で押し付けられて、実力差を見せつけられると、あっさり引き下がり教室を出て行った。

 

(あーあ。今度はサクラの両隣の奴も一緒にいなくなっちゃったよ……見るのサクラだけだし、もういいや)

 

 満足して、カンニングを止めていた砂隠れの里の受験者は、自分の班員の失格にショックを隠しきれていなかった。まあ、あの程度のカンニングで、情報収集できたと思っているようでは、この先やっていくことは難しいので、ここで落ちた方が自身のためでもあるのだが……。

 

 サクラは既に答えを記入し終えているのか、ナルトの方をかなり気にしている。別段カンニングではないと分かっているので放置し、白はヒナタとナルトの動向に注視していた。

 

(頼むからこれ以上変なことはしないでくれよ……)

 

 試験も残り約20分になったところで、カンクロウがトイレを要求してきた。本来認められないことなのだが、試験官に紛れ込ませた傀儡人形に許可を出させて、トイレへと向かって行ってしまう。

 

 トイレへの許可を出すことなど、あり得ないと分かってはいても、一応無様なカンニングではないと見なしたのか、試験官の誰もチェックを入れていない。担当が誰かは分からないが、見逃してもらえたのだろう。

 

 白の祈りが通じたのか、ナルトたちは特に問題を起こすことなく、規定時間の45分が経過した。時計を確認したヒビキが最後の10問目の説明を行おうとしたところで、カンクロウがトイレから戻ってくる。

 

「運が良かったな……。お人形遊びもほどほどにしておくことだ。……まあいい、座れ」

 

 カンクロウが席に着いたところで、イビキはより厳しい顔つきに変えて、最後の10問目に対する説明を行う。

 

「まず、お前らに選ばせてやる。……この10問目の試験を受けるか、受けないかを……な」

「えっ……選ぶって……。もし、10問目の試験を受けなければどうなるの!?」

 

 ヒビキの言ったことは、受験者にとっては当然の疑問だろう。

 

「受けないを選んだ者はその時点で、持ち点を0とし失格とする! もちろん同じ班の者も失格だ!」

 

 このイビキの回答に受験者たちからは非難の声が上がるが、イビキは気にせずに説明を続けていく。

 

「そして……もう一つのルールだが、……受けるを選び、正解できなかった場合―――その者については、今後永久に中忍試験の受験資格をはく奪する!!」

 

 教室内を静寂が支配した。しかし、それも一瞬のことで、受験者から非難の言葉が、そこかしこから上がってくる。それに対しイビキは平然として切り返した。

 

「運が悪かったな……今年は俺がルールなんだよ。……自信がなければ受けないを選べ。そして来年また受ければいい」

 

 この言葉で、1人の受験者が受けないを選んだことにより、それに釣られるようにして、他の受験者も受けないを選び教室を出て行く。

 

 そして、ある程度人数が減ったところで、他にも出て行こうとした受験者がいたようだが、ナルトの怒声により立ち上がるのをやめる。

 

「なめんじゃねーーー!!! おれは逃げねーぞ!!! 受けてやる! 中忍なんかにならなくたって……意地でも火影になってやるってばよ!!!」

 

(いやいや……中忍になれないと、上忍にもなれないわけで……火影に推薦すらされないから……)

 

 規則以前の問題だが、現状の規則では、下忍が火影になることなど不可能だ。この後、その規則が変われば話は別だが、この段階でのナルトの発言は完全に的外れである上に、考えなしと言ってもいいだろう。そんなナルトを見て、サスケとサクラが笑っていることに、白は理解できなかった。

 

 イビキとナルトの間で、言葉のやり取りがあり、このやり取り以降受けないを選ぶ者は出なかった。イビキとしては、もう少し減らしたいところではあったのだろう。しかし、ナルトの言葉で、これ以上受験者が減らないとわかると、視線を巡らせて、教室の壁際にいる他の試験官たちへも確認を行う。他の試験官たちも同じ考えのようで、みんなイビキに顔を向けて頷くと、それを確認したイビキは受験者たちへと再度視線を戻した。

 

「いい覚悟だ……。では……ここに残った全員に……」

 

 イビキは一呼吸を挟み続きを口にする。

 

「1次試験の合格を申し渡す!!! 結構残ったな……78名―――26チームか……」

 

 これに驚いたのは受験者たちである。最後の10問目の問題すら出さずに合格が言い渡されたのだ、当然だろう。ここで、受験者たちからの質問が上がり始め、イビキは今までの態度をコロッと変えると、律儀に答え始めた。

 

 この時、教室内を探るような気配を感じたため、その先を辿ると、黒い布を持ったアンコが、向かい側の建物の突出しの屋根部分にて待機していた。

 

(あの人、パーティーに来ないと思ったら……あれ作ってたのか……)

 

 アンコは準備した物の最終チェックをしているのか、教室内の様子を確認した後に、持っていた黒い布を広げて中身の確認をしている。

 

 そこには、『第2試験官 みたらしアンコ 見参!!』と、デカイ文字で書かれていた。その布の上部両端には、クナイが取り付けられていて、そのクナイで、作った布を取り付ける算段なのだろう。白はそんなアンコを見ていて痛々しく感じていた。

 

 イビキの話が終わり、口を閉ざしたのを見て取ったアンコは、試験会場である教室へ向けて飛ぶと、窓ガラスを突き破って教室内に入ってきた。そして、準備した布についているクナイを天井へと投げつけ固定すると、大声で自己紹介を始める。

 

「私は2次試験担当のみたらしアンコ!! 次行くわよ! ついてらっしゃい!」 

 

 アンコは右手を振り上げて高らかに言い放つ。自分では、格好良い登場シーンだと思っているのだろう。受験者たちのあまりの反応の無さと、教室内の何とも言えない静けさに、アンコは振り上げた右手を降ろせぬまま固まってしまった。

 

(アンコさんの突入の仕方が悪いとはいえ、受験者の数名にガラス片が刺さってる……まあ重傷者はいなさそうだな)

 

 アンコが、ガラスを突き破って入ってきたせいで、侵入してきた場所の近くにいた受験者数名が、顔や手から血が出ていた。どれも掠り傷だが、ひとつ間違えばかなり面倒なことになっていただろう。

 

 シン、と静まり返った教室の中、そこにイビキがアンコへぼそりと呟く。

 

「<空気読め……>」

 

 その言葉に恥ずかしくなったのか、アンコは顔を赤面させるも、すぐに話題を変えて、逆にイビキへと言い返した。

 

「イビキ! なんで26チームも残したの!? 今回の1次試験甘過ぎ! だから情報収集は後に回すべきだったのよ!」

「今回はたまたま優秀なのが多くてな」

「……まあいいわ。どうせ次の試験で半分以下になるんだし。でもこれだと、もしかしたらハヤテまで出番が回ってきそうね」

「それは仕方ないだろう。俺たちは俺たちの役割を果たすだけだ」

「そうね……それじゃあ、詳しい説明は場所を移してやるから、あんたたちは私に着いてきなさい!」

 

 そう言うとアンコは受験者を連れて行ってしまう。部屋を散らかしたままにして……。

 

「あーすまないが、数名はアンコのやった、コレの後片付けを……そうだな、窓側にいる者たちで頼む。俺は筆記試験の用紙を回収して報告書を作成する。反対側の者たちは、アンコの方に着いて行ってくれ……何をしでかすか分からん……議長も心配してたしな。取り敢えず、試験会場まででいい、そこからは2次試験官に任せればいいだろう」

 

 イビキの指示により、試験官たちはテキパキと動き出す。後片付けはすぐに終わり、イビキから解散を言い渡され、みんなその場を後にした。

 


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