白物語   作:ネコ

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69 治療?

 木ノ葉病院治療室で、白はヒミトとして1人ヒナタの治療に当たっていた。1人というのも、これから重傷者―――リーが来るはずだからである。それに、一般の患者のためにも、他の医療忍者に頼むわけにもいかなかった。

 

 ヒミトは、医療忍者の上忍と言うことで、治療の手伝いや講師として木ノ葉病院へとよく足を運んでいたため顔見知りが多く、治療室借用の手続きやヒナタの治療を1人で行うということなどを、承諾してもらうことができていた。ただし、事後に手続きは行うということが前提だが……。

 

(無意識の状態で、あそこまでよく動けたな……)

 

 ヒナタは、通常であれば動かすことすら困難な状態であるにも関わらず、無理に動かしたことにより、所々で筋肉の負傷が見受けられる。

 

 特に酷いのが胸への柔拳による攻撃だった。柔拳によりチャクラの流れが阻害されているため、少しでも白が供給するチャクラの流れを止めると、そのまま心臓が止まってしまうような状態だったのだ。

 

 約1時間ほど治療を行ったところで、僅かずつヒナタのチャクラが流れ始めた。それを確認した白は、額の汗を拭い、一旦治療していた手を止めて一楽の方の影分身へと連絡を取り、影分身を一旦解除した上で、再度影分身を使用した。

 

 ヒナタを寝かせてある治療台を左右から挟む形で立ち、腕から順に先ずはチャクラの流れを元に戻していく。今回は、点穴の箇所に痣が残っていたため、治療がし易くなっていた。しかし、点穴を柔拳により攻撃された数が多かったため、時間がかかったのは仕方ないだろう。

 

 チャクラの流れを元に戻したところで、影分身にヒナタの着替えを取りに行かせ、その間に無理をして負傷した箇所の治療を行っていく。

 

 その時、誰かが音も立てずに治療室へと入ってくるのが白には分かった。

 

「こちらは忙しいので、用件だけを言ってもらえませんか?」

 

 白は振り返りもせずに、部屋へと侵入してきた人物へと声を掛けた。

 

「まさか気付かれるとは思わなかったよ。ヒミト君……いや白君と言うべきかな?」

 

 治療室へと入ってきた人物は、カブトだったのである。しかも、白の正体を知っているというおまけつきだった。一旦治療の手を止めて、カブトへと向き直る。

 

「再度聞きます。何か御用ですか?(なぜここに来るんだ? サスケの方に行くんじゃなかったのか?)」

「いやなに。ここに来る途中偶々見かけてね。自分の手掛けた教え子に会っておこうと思ったんだよ」

「……教え子?(カブトに会ったのは中忍試験の時が初めてのはず……?)」

「気付かなかったのかい? アカデミーの頃から色々と教えていたつもりだったんだけどね」

「…………(げっ! まさかあの気のいい人がカブトだったのか……)」

「気付いてなかったようだね……。君を教えていた医療忍者の上忍は僕だよ。……まあいい。それよりも、用件だったね。単刀直入に言うと木ノ葉の里を出ないかい?」

「……勧誘ですか……」

「そうだよ。さすがに僕一人ではこれから先、荷が重くなりそうでね。何人か一緒に行くんだが、如何せん君ほど優秀なのがいないんだよ。……それでどうかな?」

 

 白にとって最悪な状況での選択を迫られていた。逃げることだけならば可能だが、その場合ヒナタを見捨てなければならず、闘ったとしても、ヒナタを庇いながらなので、良くて相打ち、悪ければ……死である……。

 

(急いでいたからって途中で変化の術を使用したのはまずかったな……まさか見られていたとは……さて、どうしようか)

 

 しばし、考えていたところに影分身が戻ってきた。カブトを挟み撃ちのような恰好にはなったが、それでも油断ができる状況ではない。正体がすでにバレているのもよくなかった。

 

「この件をあなたの上にいる方は知ってるんですか?」

「……なるほど、噂に違わず情報集能力も高いみたいだね。……この件は完全に僕の独断だよ」

 

(余計なこと言ってしまったか……)

 

 白の言った内容は、逆にカブトの興味を引いてしまったようで、カブトは薄く笑みを浮かべた。

 

「そろそろ決まったかな?」

「条件があります」

「……言ってみるといい」

「俺の条件は完全にあなただけの中に留めて、上にいる人には言わないことと、俺への人体実験はしないこと。それに加えて、連れて行くのがそこにいる影分身でよければです」

「最初の2つはいいとして、3つ目は論外じゃないかい? それに影分身なんてすぐに消えてしまうだろう? 裏切られたら目も当てられない」

 

 カブトの言うことも最もな話しだった。内容的には、スパイを潜り込ませてくださいと言っているようなものだ。しかし、これを否定されるのは想定済みだった白は更に条件を変えていく。

 

「しかし、こちらへのメリットがなさすぎると思うんですが?」

「そうだね……他に条件はないのかい?」

「では……」

 

 白はカブトへと条件を変えて付け加えていく。

 

「……どこでそれを知った?」

 

 カブトは白の出してきた条件を聞くことで、顔から薄い笑みが消えて無表情へとなっていく。

 

「過去を調べれば推測できます(本読んで知ってたなんて言えないよ)」

「……分かった。その条件を呑もう。では1か月後……中忍試験の本選でまた会いに来るよ」

「それでお願いします」

 

 影分身を扉の位置から移動させて、そこを出て行くカブトに一言付け加えておく。

 

「サスケ君のところに行くのであれば、急いだ方がいいですよ。カカシさんがそろそろ行くはずです」

「……君がどこまで知ってるのか非常に興味があるね」

「知っていることなんて高がしれてますよ。それよりも、早めに行くことをお勧めします」

「時間がないのは確かだね。それではまた」

 

 カブトの気配が消えたのを確認し、影分身から着替えを受け取った白は、素早くヒナタの治療を終わらせると、血の付いた服を着替えさせていった。

 

(かなり面倒なことになったなあ……。まあ、本体だろうが一緒にいても逃げることは可能なんだけどね)

 

 着替えさせたヒナタを治療室から病室へと移動させる。その合間に影分身にて手続きを行わせ、ヒナタの看病をしつつ、今後のことについて白は考えていた。

 

 病室へと移動してすぐに、ヒナタの元へと紅がやってきた。

 

「ヒナタの容態は?」

「もう大丈夫ですよ。チャクラの流れは安定していますし、他の箇所についても休んでいれば治ります」

 

 白の言葉に紅は安堵すると、表情を引き締め直して聞いてきた。

 

「場所を変えて聞きたいことがあるのだけど」

「お聞きしたい内容でしたら火影様が知っておられますよ。私の口からは言えません」

「そう……」

 

 火影の名前を出され、紅はそれ以上の追及ができなくなってしまった。

 

「では、個人的なことを聞きます。あなたはなぜ医療忍者になろうとしているの?」

「後方支援が安全だからですよ。前で戦うよりは……ですが」

「理由はそれだけ?」

「後は自分のためですね。医療に関しては知っていて損はしません。忍者同士の争いの有無に関わらず、病気や怪我は絶えませんからね」

「あなたの実力があれば、他の人が傷つく前に助けることも可能ではないかしら?」

「いうほどの実力なんてありませんよ。ただ、足が速いだけです」

 

 あの時の移動速度と、声を発するまで気配を感じさせない技量は、足が速いだけでは説明がつかないものだ。そのことで、自己紹介時に白と手合せを行ったことを紅は思い出した。たった半年ほどで、あれほどの成長をするはずがないからである。

 

「……自己紹介の時の実力は全力ではなかったのね」

「さあ、どうでしょう? 逆にお聞きしたいですが、既に周知のことならいざ知らず、知られていないことを忍者が簡単に教えると思いますか? もしくは自分の実力を晒すとでも?」

「……分かったわ。これ以上は聞かないでおきます」

「そうしてください」

 

 紅はあまり納得できていないようだったが、白はこれ以上自分の事について話すつもりは無かった。

 

「あなたはこのままヒナタの傍にいるのかしら?」

「ええ。数日あれば、治りそうですから、目覚めて落ち着けば退院ですね」

「ではヒナタの事は任せましたよ」

「言われずともそのつもりです」

 

 その後、紅はそのまま病室を退出していった。

 

(この後、火影のところに行くか、それとも日向かな? そう言えばキバも入院してるんだっけ……ほっといても治る怪我だからいいとして、リーはどうなったんだろう?)

 

 しばらくすると、中忍クラスの医療忍者が慌てたようにして入ってくると、病室内を見回して白とヒナタしかいないことを確認すると、白へと慌てたように確認してきた。

 

「君! ヒミト上忍を見かけなかったか!? この病室の子を治療したと聞いてきたんだが!」

「ヒミトさんがどうかしましたか?」

「緊急搬送されてきた子がいて、その子の治療を頼みたいんだが、どこを探してもいないんだ……知っていたら教えてくれ!」

 

 余程急ぎなのだろう、医療忍者は必死の形相をして白へと詰め寄ってくる。

 

「見かけたら伝えておきます。どこの治療室ですか?」

「緊急用の第2治療室だ! 頼むよ!」

 

 医療忍者は、言い終えるとすぐに部屋を出て行ってしまった。他の場所へと探しに行ったのだろう。

 

(他の医療忍者は何をしてるんだ? 何のために1人でヒナタの治療をしたのか分からないじゃないか)

 

 白はヒナタを影分身に任せると、ヒミトへと変化して治療室へと向かった。この時、白は悪態を付きながら影分身を使ったが、そこであることに思い至る。

 

 白は今まで教えてもらっていた医療上忍―――カブトの実力がこの病院の医療忍術の普段の実力だと思っていたが、実際の医療忍術の実力を確認したわけではない。上忍になってからはほとんどがヒミト主導で行っていたからである。

 

 そしてその考えは正しく、既にこの病院内での医療忍術の実力は、白が飛び抜けていた。そのため、他の医療上忍から呼び出しがかかったのである。

 

 治療室へと向かうその途中で、他にもヒミトを探していたのだろう。ヒミトを見かけると急いで駆け寄ってくる者がいた。

 

「すいません! ヒミト上忍ですよね? 第2治療室へ急いで来てください!」

「ええ。今向かっているところです」

「そんなに悠長にしてられないんです!」

 

 その女性はヒミトの手を逃がさないとばかりに掴み、治療室へ向けて走り出した。ヒミトはあまりの女性の剣幕に流されるまま走り出す。

 

 第2治療室の扉の前では、ガイが立ってウロウロとしていた。

 

(やっぱり、中に入るのはリーか)

 

「先生!? リーが! リーが!」

「どいてください! 邪魔です!」

 

 ヒミトの手を掴んでいた女性は、近付いてくるガイを壁の方へと押しのけると、ヒミトを治療室内へと連れて入っていった。

 

 中の手術台に横たわっていたリーは麻酔をかけられ横たえられている。その傍では、掌仙術を使用している医療忍者がいたが、ただ、現状維持をしているだけだった。

 

「来ていただけましたか……」

「取り敢えず、そのまま現状維持をお願いします。その間に手術を行いますので」

「……分かりました」

 

 かなりの衝撃及び圧迫を受けたのだろう。リーの身体は複雑骨折している上に、折れた骨が内臓へと刺さっていた。

 

 開腹手術を終えると、周りにいた人たちから拍手が送られるが、ヒミトとしてはまだ終わっていなかった。この手術は一命を留めたに過ぎず、これから行う確認によって、全ての手術が終わるのである。

 

 ヒミトはリーの身体へとチャクラを流すことで、異常箇所がないかを探すと、予想通り、背中にてチャクラの流れが悪くなっていた。

 

(これは……俺だけじゃ無理だな……)

 

 白は確認を終えると、他の怪我をしている手足については、今いる医療忍者でも十分と判断して後を任せると、一緒に入ってきた女性に声を掛ける。

 

「すいませんが、この患者さんの担当の方が混乱してると思うので、先に出て伝えてもらえませんか? 一命は取り留めたのと、今後無理なことはさせないようにということを……」

「……分かりました」

 

 女性に伝言を任せると、リーの治療が終わるまで、白は部屋の隅で治療の様子を窺っていた。

 


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