白物語 作:ネコ
中忍試験本選の前日。
「だいぶ対応できるようになってきたね。これなら明日も十分にいけるかな?(ヒナタを他の隠れ里から守って貰わないといけないし)」
「はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えなネジに向かい、話しながらも白は追い討ちをかけていく。それに対してネジは、回天を幾度となく使用しているため、チャクラを大量に使用しており、今は身体能力だけで対応しているような状況だった。
明日の中忍試験本選では、砂隠れの里を監視していた組が、そのまま会場の警護に当たることになっている。他にも数名が加わることになっているが、人数は少ないと言っていいだろう。
影分身を中忍試験中はヒナタに付ける予定ではあったが、今後の事を考えるとネジにヒナタの警護をしてもらわなければ難しいことになってくるため、白はネジを鍛えることにしたのだった。
ネジが動けなくなるまで追い込んでから休憩に入り、今度はテンテンの方へと白は視線を向けた。そこでは、水分身2人と拮抗している姿が見える。最初の頃と変わってないように見えるが、手加減有りから手加減無しになっただけ進歩したといっていいだろう。
(やっぱり1ヶ月だと普通はあれくらいの進歩が限界だよな)
白はテンテンからネジへと視線を移した。先ほどまで、寝そべって荒く息を吐いていたネジは、上半身を起こせるまでには回復したようで、座ったような状態のまま息を整えていた。そのような状態のネジへと白は近付いていく。
「最初に言った通り、後は軽く組手をして昼からは休みね。明日が本番なんだし」
「……分かった……」
「それと額の呪印に何か違和感はある?」
「今のところないな……しかし……本当に解除されているのか?」
「まあ、実際に使われてみないと分からないよね。……さて、十分喋れるみたいだし続きを始めよう」
「…………」
その後、息を整え終えたネジは立ち上がり、本日最後の組手へと取り組んでいった。
水分身にて監視していた砂隠れの3人はというと、どこから知ったのか、ここ数日ほど昼になると、一楽へと昼食をとりに来ていた。
特に会話らしい会話も無くただ淡々と食べては帰るを繰り返している。店のオヤジも空気を読んでか、特になにも言わずに注文された品を出していく。一緒に連れ出された2人―――テマリとカンクロウは最初の方こそ喋ってはいたが、後になるにつれて全く喋らなくなってしまっていた。我愛羅が興味を持つことが珍しかったので、色々と話し掛けていたが、全くの無反応なので、お喋りが無くなっていくのも仕方ないのかもしれないが……。
ただ、中忍試験本選の前日だけは、我愛羅が反応した。いつものように、最初だけテマリとカンクロウが少し話していた内容に、一楽の看板娘であるアヤメが、話しに乗っかっていったのである。傍から見れば2人が、我愛羅へと話し続ける姿が、あまりにも可哀想に見えたのだろう。そのため、話し相手になろうとカンクロウたちへと話し掛けたのだが、内容がいけなかった。
「あなた方はご兄弟ですか?」
「……ああ」
(とうとう話し掛けてしまったか……)
話し掛けてくるとは思わなかったのだろう、テマリとカンクロウは最初に自分たちのこととは思わずに、返事が遅れてしまう。白としても、オヤジと一緒で話し掛けないようにしていたため、アヤメの様子を黙って見ていた。
「どこから来られたんですか?」
「砂隠れの里からに決まってるじゃん」
カンクロウは額当てを掴みながら、まるで馬鹿にしたかのように、アヤメに見せつけるようにして言い放った。アヤメはその額当てを見ると納得顔で頷く。
「そのマークが砂隠れの里のマークなんですね。……初めて知りました」
「「…………」」
(……天然すぎる……。でも、一般人だと知らないものなのかな?)
アヤメの一言に絶句している2人を余所に、アヤメは更に話し掛ける。この時の内容が決定的だったのだろう、我愛羅が反応してしまった。
「ご兄弟共にしっかりしてますね。礼儀正しいですし、親御さんの教育が良かったのでしょうね」
アヤメにとっては褒めたつもりだったのだろう。しかし、我愛羅にとっては違った。親は我愛羅を殺しに来るような奴という認識しかないのである。そのため、アヤメのこの言葉により我愛羅は頭を押さえると、何かを我慢するように苦しみだした。それを見て慌てたのはアヤメである。
「大丈夫ですか!? すぐに病院に!」
(ヤバイ!?)
急な態度の変化に慌てたのはアヤメだけではなくテマリとカンクロウ、それに白もだ。白は、我愛羅へとおしぼりを持って近付こうとするアヤメの手を掴み引き寄せて、テマリとカンクロウへと言い放つ。
「今日のお勘定はいいから、その子をゆっくりと休める場所に連れて行くといい」
「ああ、すまない。……急ぐぞ」
「分かってる!」
焦るテマリとカンクロウに両脇を支えられながら我愛羅たちは店を出て行く。白はホッと息を吐きながら安心していたが、危険を感じとりそちらを振り向くと、オヤジが険しい顔をしながら近付いてきていた。
「覚悟はできてるんだろうな?」
「はっ?」
「歯あ喰いしばれ」
そう言い終えると、頭へと拳を振り下ろしてきた。白は、いきなりの事態についていけずに、そのままの状態で立っていたが、おやじの次の言葉で理解した。
「いつまで抱きついてるつもりだ! さっさと離れやがれ!」
そこで白は、顔を真っ赤にしているアヤメを抱きしめているという状態に気付き、慌てて掴んでいた手を離して、自らも距離を置く。
「すいません! そんなつもりは微塵もなかったんですよ! これは、その……緊急避難と言いますか……そう! 事故なんです! なので気にしないでください!」
白の言い訳が通じるわけも無く、アヤメは俯いてしまい、その後また白はオヤジに殴られるのだった。
店を出た我愛羅は、しばらく頭を押さえて歩いていたが、途中で両側から支えていた2人の手を振りほどいた。
「お前たちは先に帰っていろ」
「明日は大事な日なんだし、今日は帰ろう?」
「……そんなに時間はかからない」
「それなら俺たちが一緒にいてもいいだろ」
「目障りだ」
「……ああそうかい! それじゃ先に帰らせてもらうわ!」
「ちょっと! カンクロウ!」
カンクロウはテマリの制止も聞き入れずに宿の方へと向けて行ってしまった。それでも、テマリは説得しようしたのだが、我愛羅は取りつく島もなかった。
「お前もだ」
「……わかった。ただし、明日決行なんだから余計なことはしないで」
「…………」
テマリは我愛羅へと忠告すると、カンクロウと同じく宿へ向けて戻っていった。それに伴い暗部の方も二手に分かれて監視を行う。白の水分身の方は我愛羅の担当となった。
我愛羅は宿へと戻っていく2人に見向きもせずに、違う方向へと足を向ける。その向かった先というのが、木ノ葉病院だった。
監視対象の奇妙な行動に、もう1人の暗部から声が掛けられる。
「何かおかしくないか? 今まで宿でじっとしていたのに、今更病院に行くなんて……」
「ここに入院していて我愛羅と関係がありそうなのは……対戦したリーと音忍に負けたチョウジくらいのはずです。確率的にリーの方に会いに行くのでしょうが……会わせるのは危険です。私怨が混ざっている可能性があります」
「……しかし、リーと言う子には、確かガイ上忍が付いていなかったか?」
「ついているはずですが、四六時中はさすがに無理でしょう……」
「そこを突かれるとまずいか……分かった。俺の方からガイ上忍へと伝えるから、お前はこのまま監視を継続してくれ。優先するのはリーと言う子の安全だ。……もし、監視対象が攻撃したらの話だがな」
「分かりました」
我愛羅の後を追跡していると、イノとサクラが花を持って受付に佇んでいた。受付に人が居ないところを見るに、自ら記帳しているのだろう。我愛羅は2人を見つけると、後を追い始めた。リーの病室が分からないためだろう。しかも、追跡に際して砂を使い壁に見立てているため、余程注意して見なければ気付けないほどのものだ。サクラは視線を感じたのか、何度か振り向いたが、気付かずにそのまま病室の方へと向かっている。
イノとサクラは、サスケの病室へと入るが、誰も居らず近くの看護師に確認しても逆に聞き返される始末で、諦めて近くの長椅子に座り2人で話し合っていた。
そこで、我愛羅は2人に見切りをつけたのか離れて行った時に、外から看護師の大きな声が聞こえてきた。
「何をしているんですか! 今すぐ止めなさい! あなたは今動ける身体ではありません!」
「黙っていて下さい! ……っ!?」
腕立て伏せをしていたリーは、身体に無理をさせたことにより身体全体に痛みが発生し、その痛みに耐えきれずそのまま地面へと俯せに倒れ気絶してしまった。
「リーくん!」
「リーさん!」
看護師がリーへと駆け寄り状態を確認しているところへ、サクラたちが駆け寄っていく。看護師はサクラたちへとリーの事を頼み担架を取りに行ってしまった。
この場面で我愛羅が砂をゆっくりと動かし始める。その後すぐに、地震が響き渡った。この地震により砂の動きが一旦止まり、ゆっくりと我愛羅の元へと戻っていく。
そこで白本体が到着し、水分身と合流した。
(間に合ったか……というかあのカエルのお蔭だな)
地震の正体はガマブン太であり、ナルトを木ノ葉病院へと連れてきたところだった。その騒ぎの間に看護師たちはリーを担架に乗せて病室へと連れて行き、サクラはそれに付き添っていく。イノは、その場で別れると、チョウジのところへと向かったようだ。
水分身にはそのまま我愛羅の監視を継続させて、白は先にリーの部屋へと入っておく。少ししてリーを連れた看護師たちが部屋へと入ってくると、リーをベッドへと寝かせ終えてそのまま退出していった。その場に残されたのはサクラのみである。
サクラは、手に持っていた水仙の花を花瓶に添えて、しばらくリーの様子を窺うと、悲しそうな表情をして帰っていった。
その後、サクラが十分に離れたところで、我愛羅が音も無く入ってきた。病室に入ると同時に砂での隠蔽を解除して、ベッドに寝ているリーへと近付いていく。途中何度か頭を押さえつつもゆっくりと近付き、リーの顔へと手を近付けていった。この時に、瓢箪が砂へと変わっていき、リーの周囲を包むようにして展開されていく。
そして、我愛羅の手がリーの頭に触れるというところで、その手がピタリと止まった。
止まった原因はシカマルの影真似の術である。そこへナルトが我愛羅へと殴りかかることで、我愛羅がリーから少し離れた。
「てめー、いったいどういうつもりだってばよ!」
「……おいナルト……影真似中は俺も一緒に動いちまうんだから気を付けろよな」
「あっ。わりぃシカマル」
その後に、我愛羅はリーを殺そうとしたことと、過去の話を切り出していく。
(やっぱり、アヤメさんの親の話が発端だったか……)
途中でシカマルが駆け引きをしようとしたようだが、影真似の術はあくまで身体の自由を奪うだけのものである。そのため、既にチャクラを練り込んである瓢箪の砂を印なしで自在に操れる我愛羅には効果がなく、逆に煽る結果へとなってしまっていた。
(ガイ上忍早く来ないかな……来たか)
我愛羅が砂にて攻撃を仕掛けようとしたところで、ガイが病室内へと入ってきた。
「そこまでだ!!」
「「「!!!」」」
いきなりの闖入者に3人は驚き、一斉に部屋の入口へと視線を向ける。
「ここは病室だ、静かにしていろ。それに、明日は本選だ。……どうしても闘いたければそこで闘えばいいだろう」
突然のことに驚きにより、ナルトは固まってしまい、シカマルは影真似の術は途切れさせ、我愛羅に至っては、ガイの顔を見たことで頭を押さえて苦悶の声を上げると、ゆっくり部屋の外へと向かっていった。そして、部屋を出る際に一旦立ち止まる。
「お前たちは必ず殺してやる。明日を楽しみにしていろ」
そう言い残すと我愛羅は部屋を出て行った。
「お前たちも戻るんだ。本選は明日だからな。……体調は万全にしておいた方がいいぞ! 身体も心もな!」
ガイの言葉でナルトとシカマルは部屋を出て行った。その後、ガイはリーへと近付くと、その場で話し始める。
「居たのなら止めるべきではないのか?」
「攻撃が当たるようでしたら止めましたとも」
そこには、負傷したリーを抱えた白が立っていた。ベッドに居たのは変化の術を使った影分身だったのである。
「リーの件については感謝する」
「任務のついでです。もう襲われることはないとは思いますが、ついてやっててください。……それと、余計なお世話かもしれませんが、修業は控えるように言っておいてください。逆に身体の状態が悪くなります」
「……わかった」
白は影分身を解除して、リーをベッドへと寝かせてから病室を後にした。