白物語 作:ネコ
場所はガトーカンパニー会議室。そこには、3人の姿があった。白、女忍者、ハナビである。
波の国へと戻ってきた白は、再不斬に女忍者へ説明しておくように言われたため、会議室にて事の経緯を簡潔に説明していた。
「と言うわけで戦争を回避できた上に、同盟を結ぶことになりました」
「よくやったわ! 婚約など
「……もうそこまで思ってるんなら、そろそろ自分からアピールしたら?」
女忍者の態度は、再不斬のことについてあからさまにも関わらず、本人を前にすると全くその気配を見せなかった。そのことについて白は言ったのだが、女忍者は聞く耳を持たずに座ったままガッツポーズを決めている。
白は呆れたようにその光景を見ていたが、次のハナビの発言で少し考え込んでしまった。
「先生が言っていた任務というのは、霧隠れの里と波の国とを同盟させることだったのですか?」
「任務?」
女忍者はハナビの言葉に聞き返すが、その前に何か言わねばと白が口を開く。
「あ……いや、あれだよ。うん。今回の戦争回避の話だよ」
ハナビを連れて来る前に、長期任務で里を離れる旨を言っていたことを思い出した白は、慌てたように言い訳をする。それを知らない女忍者は、任務のことを白の理由に当て嵌めて考えたため、白をフォローする形となった。
「……そうね。そのためにお金使ったんだし。……それにしても、よく引き受けるところがあったわね。普通引き受けないわよ? 直接やりあうわけではないとはいえ、里を襲うなんて」
「そのあたりは、秘密ってことで」
暁の事を明かすわけにもいかず、白は端的に答える。
「まあ、うまくいったんだからいいわ。……それよりも、減った分のお金は回収するわよ!」
「はっ?」
「あんたの説明だと、こっちに戦力をもらえるのはいいんだけど、理由が不明じゃない? まるで、どこかからの襲撃を警戒してるみたいなんだけど? まあ、どちらにしても維持するためにはお金は必要よね」
白は、ハナビがいたため、木の葉の里のことを言わずに説明したのだが、女忍者にはそこで引っ掛かってしまったようだった。
(やはり言うべきかな……? 人の噂に耳を傾けていればその内分かることだし……)
白はハナビへと意識を向けつつ、女忍者へと説明する。
「木の葉の里が、砂隠れの里に戦争を仕掛けられたんですよ。結果的に、木の葉の里の勝利で終わりましたけどね。波の国としても、いつ、どこの国から戦争を仕掛けられないとも限りませんから。そのための武力です」
予想通りと言うべきだろう。ハナビは、白の最初の言葉で顔を青くし、勝利という言葉で安堵していた。離れていたとしても、里のことが心配なのだろう。
「理由は分かったから、稼ぐためのアイディアを募集します」
「お金と再不斬さんとどっちが大事なんですか?」
純粋に気になり、白は女忍者へと問いかける。
「再不斬様に決まってるでしょ。……でも、お金がないと満足に生活できないのも、また事実なのよね」
即答で断言し、どこか勝ち誇ったように言い切るが、後の言葉で色々と台無しだった。
「と言うわけで、話を脱線させようとしても無駄よ。早くアイディアを出しなさい」
「自分で出す気全くなしですか……」
「まずは、人の話を聞くことが大事だと思うのよね」
言っていることは、正しく聞こえるのだが、これまでのことを考えると、考える気がないのが分かっているだけに、白は呆れていた。
「では、季節も冬ということで、クリスマスなんかどうですか?」
「「クリスマス?」」
クリスマスという単語に聞き覚えがないのだろう。2人して同じ反応を示した。
「えーっと。家族で祝う日と言うか、カップルで祝う日と言うか、なんて言ったらいいのかな……あれだ! サンタが、寝ている子の枕元にプレゼントを置いていくんですよ」
「祝う日を作るというのは、取り敢えず百歩譲っていいでしょう。でもね、サンタとか言う怪しいやつを、枕元まで近付かせるなんてもっての他よ! どうせ、プレゼントとか言うのも、寝首をかくとかいうことでしょう? そんなホラーはいらないから」
家族と言う言葉に反応したハナビは、見るからに落ち込み、さらに女忍者の言うサンタ像を想像したのか、顔色が悪くなっていた。
「なにそのサンタ……プレゼントって言ったら、子供が欲しがっている物を置いていくに決まってるでしょ」
「なんで子供だけなのよ? しかもどうやってその子供の欲しがっている物が分かるのよ? ……私にくれたっていいじゃない! そのサンタとか言うのはケチなの? それとも小さい子が好きな異常性癖でもあるの?」
女忍者は、自分のことを棚にあげてケチだの文句をいい始め、更には変態扱いである。このままでは、どんどんと悪い方向に進むと思った白は、話を少し戻してから話を進めることにした。
「はあ……サンタの件は忘れていいから。……取り敢えずお金を稼ぐのに何か特別な日を作って、それを祝うための品物をある程度安く売り捌くことで、売り上げを伸ばしたらいいと思います」
「特別な日って言うのが、さっきの話ってわけね……でも、いきなり特別な日って言われてもなかなかピンとこないわよ?」
「そこはこっちで勝手に作るんですよ。ガトーカンパニーの創業記念日とか、切っ掛けはなんでもいいからこの日ってのを作るわけ」
段々とどうでもよくなってきた白は、言う内容が適当になり始めるが、次の女忍者の言葉に少し驚く。
「ようするにバレンタインデーみたいなものね」
「あ。バレンタインデーはあるんだ」
「分かったわ。その案でいきましょう」
女忍者が頷き納得したところで、それまで黙っていたハナビが白に声を掛けてきた。
「先生」
「ん? 何?」
「あの……任務が完了したと言うことは……木の葉に帰るんでしょうか?」
ハナビは不安そうな表情をしながら白を見詰めてくる。やっと慣れ始めた生活―――居場所が終わりを迎えようとしていることに対してのものだろう。
「いや。このままここに居ようと思ってるけど? そろそろ長期休暇を貰ってもいいと思うんだよね。伝説の3忍である自来也って人も、任務が終わってから数年間だけど、自己判断で里に帰らなかったみたいだし」
「……そうですか」
木の葉の里へは帰らないという言葉に、ホッと一安心したハナビはそれも一瞬のことで、表情を引き締めると更に白へと質問していく。
「木の葉の里と砂隠れの里の戦争と言うことでしたが、被害はどのくらい出ているのでしょう?」
「大きなところでは火影の死亡。これは大蛇丸にやられてる。後は、木の葉の里の建物が結構損壊してるけど、住民の避難は無事終えてるからそちらは被害なし。但し、忍びは結構な数やられてる」
「火影が死んだのは聞いてたけど、犯人があの伝説の3忍とはね……」
初めて聞いた話だったのだろう。ハナビはショックを隠せずにいた。女忍者は情報を手に入れていたのか特に火影の死に関して驚きはなく、その犯人が大蛇丸であることの方に驚いているようだった。
その後、記念日をクリスマスとして名づけ、数日後に開催するべく計画を練っていくが、その間もハナビは俯いたまま何も喋ることはなかった。
数日後。クリスマスという名のイベントを波の国全体で行った。
祝い事に未だ貧しさの名残を残している波の国の人たちが、お金を出すのかと言う不安はあったが、いつもより遥かに安いと言うことと、祝うための品物を抱き合わせ商法で出すことにより、意外と好調な売り出しをしている。
また、期間を1日とは定めずに1週間程を予定しているため、ひとつひとつの利益は薄いが、数を売ることで少々の損など度外視していいほどの状態になっていた。
「まさか1週間でここまで売り上げが出るとは思わなかったわ!」
「はいはい、良かったですね」
朝からハイテンションで喜ぶ女忍者を尻目に、白は未だに起きてこないハナビの事を思っていた。
(いつもなら起きてきていてもおかしくないんだけど……?)
それからしばらくしてから、部屋の扉が開く。そこから現れたのはハナビだった。ハナビは片手にチャクラ刀を持って顔を俯かせたままゆっくりと入ってくる。
女忍者は不審に思ったのか、椅子から立ち上がりハナビに対して警戒し始めた。それを白は片手を上げて止める。それに疑問を抱いたのか女忍者は後ろに下がるのみで、白とハナビの様子を窺うことに決めたようだ。
入ってきたハナビはおもむろに白へと話しだした。
「先生……数日前にサンタについてお話を受けたと思うのですが……」
「したね。見たところ、そのチャクラ刀がサンタからのプレゼントだったんだろ? サンタは良い子にはプレゼントを贈る物なんだよ(何が欲しいかよく分からなかったから、取り敢えずチャクラ刀にしてみたんだが……)」
ハナビの枕元へとチャクラ刀を置いた犯人は白であった。ハナビを起こさないように隠遁を使い、ゆっくりと音を立てずに近付いてプレゼントを置いていったのである。
「そのサンタと名乗る者が近づいたにも関わらず、気付けませんでした……しかも、置かれていたのはこのチャクラ刀です。……これはいつでも寝首を掻けるぞと言うことでしょうか? 確かあの時、そのようなことを言っていたと思うのですが……」
ハナビはここ最近暗い表情をしていたが、そこへ更に不安が混ざったような顔をしている。
「違うから……っていうか、もういいか……それ置いたの俺だから。クリスマスプレゼントってことで、ハナビが何が欲しいのかよく分からなかったからチャクラ刀にしといたんだけど」
「……そうだったんですか……」
ハナビの顔からは不安は取り除かれたようだが、未だに暗い表情なのは変わりはなかった。その理由を聞こうとしたところで、女忍者が割り込んでくる。
「あんたね。女の子になんてもの贈ってるのよ!」
「いや、自分の身を護れる武器くらい持ってた方がいいかなと思ったんだけど……」
女忍者の剣幕は、白を少し後ろへ下がらせるほどのものだった。
「まず、見た目がいけないのよね。特にそのサングラス! そんな見た目だと女の子に見えないわ! 今日から私が指導してあげます」
ハナビの服装は最初に買った物ではなく、今は動きやすさを重視した服を着ており、その服にサングラスという、あまり合わない恰好なのは間違いなかった。
「仕事があるからそんな時間ないでしょ」
「時間なんて、なければ作ればいいのよ!」
「名言ですね」
他人事のように話していたのだが、次の言葉でそれが他人事ではないことに気付かされる。
「と言うわけで、白。あんたが私の代わりを含めてやっとくのよ。期間は未定。以上」
「……そんなの承諾するわけないでしょ! なんで俺が1人でやらないといけないんだよ!」
「あんた。勝手に居なくなったわよね? 罪悪感とかないわけ? それにここで働く以上一番偉いのは再不斬様だけど、次いで偉いのは、わ・た・し、なのよ? そこのところ分かってる? まあ、安心しなさい、この子は私が立派な淑女に育て上げて見せるから、それまでの辛抱よ」
「……ハナビ……頑張ってきてくれ……」
「えっ? あの? どういうことでしょうか?」
話の展開に付いていけていないハナビは困惑して、白と女忍者を見比べている。自分がこれから何かをするのは理解できるが、実際に何をするのか内容が分からないためだろう。そんなことは気にしないとばかりに、女忍者はハナビに近付き、腕を取るとそのまま部屋を出て行ってしまった。
白はこれからの仕事の事を考えつつも、先ほど言いかけた内容を思い出す。
(まあ、これで暗くなってる暇なんて無くなるだろう。あの女かなり強引だからな……。それにしてもなんでハナビはあんなに元気がないんだ?)
そこから冬が越す頃まで、白1人で仕事をこなすことになったのだった。
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