白物語   作:ネコ

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84 名残り?

 夏も近付いてきた頃に、木の葉の里に新たな火影が就任したという情報が入ってきた。

 

(火影は綱手姫で確定かな? 女の人って話みたいだし……)

 

 火影が決まれば、里の方針などを進めていくことができるので、これから木の葉の里は復興へ向けて一気に進んでいくだろう。

 

 木の葉の里へは、波の国……というよりも、ガトーカンパニーからの援助と言うことで、多少なりとも資金や資材を出している。その理由と言うのが、ハナビのためであった。ハナビの元気が無いのは、里のことを心配してのことだったようで、それを聞き出したナナが今回の件を言い出し実行したのである。

 

 霧隠れの里との同盟を結んでいるため、隣国の事だとしても波の国にほとんどメリットが無い。そのことを白はナナに対して何度も言ったのだが、止まることがなかった。

 

「だから、何度も言うけど、今は他国よりもこの国のことでしょう?」

「あんたはなんて薄情なの? 仮にもあんたが居た里のことでしょ? それにね、被害にあった国や里への援助を惜しんでは、後々この波の国が困った時に助けてもらえないわよ? こういう時は持ちつ持たれつってやつね」

「だから、そのために霧隠れの里と同盟を結んでるんじゃないか」

「霧隠れの里とは海を隔ててるんだから、到着するまでに時間はかかるわ。それに比べて木の葉の里は陸続き……しかも隣国なんだから、恩を売っても損は無いわよ。……たぶん無いでしょうけど、火の国が波の国へ攻め込まれる懸念を払拭できるわ。これだけでも、十分こちらへのメリットになる」

「火の国と言うか木の葉の里に、他国に攻め込むような考えの奴は……(ダンゾウってどうなんだろ?)」

「いる訳ね!? はい、この案は可決されました。ハナビちゃんこれで安心していいわよ。じゃんじゃん情報も手に入れてくるから」

「はい! あの、ありがとうございます!」

「…………」

 

 ナナは白が途中で言い留まって考えたのをいいことに、自分の都合の良い方向へと進めていく。実際に可能性として否定できない白は、何とも言えなかった。

 

 そのような事情があり、木の葉の里の情報を持ち帰ることで、ハナビを安心させていたのだった。その甲斐あって、ハナビは元の状態にまで戻っていた。例え里を抜けていたとしても、今まで暮らしてきた場所の心配はするもののようで、今も木の葉の里からの情報が記された紙を真剣に読んでいる。

 

(ハナビが元気になったのはいいが、金にうるさいこの女がよく実行したな……)

 

 ハナビを連れて行って教育を施してからというもの、ナナはハナビに対してかなり甘くなっていた。傍から見ると、まるで自分の子供を可愛がる親馬鹿のようだ。仕事の時は普通の態度で接するのだが、今回のように再不斬関連以外での出費を決断したことに、白は未だに信じられなかった。

 

 実際には、指導をしている過程で、ハナビがあまりにも性格が真っ直ぐな上に純粋だったため、ナナの母性本能に触れてしまい、自分の娘と思い込めるほどにまで情が傾いていた。また、それに拍車をかけるように、ハナビも素直にナナの言うことを聞いてしまったのも原因のひとつであった。

 

 そして、白がその事を知ったのは、少し後のことだった。

 

 

 

 夏の暑い時期に、白は太陽の光を木の陰で防ぎながら、波の国の海沿いを駆け抜けていた。

 

 今回の目的地は雷の国である。中忍試験のヒナタ治療時に現れたカブトとの約束――――取り引きをしているため、それを果たさねばならないが、取り引き内容としては、これで最後となる。

 

 取り引き内容は、霧隠れの里から歴代水影と、過去に忍び刀を持った者の遺体の一部及び、忍び刀。そして、雲隠れの里からも、歴代雷影の遺体の一部を渡すことだ。最低でも、どの代でもいいので5影の肉体の一部を確保せねばならない。

 

 どの里も、歴代の5影については丁寧に石碑を立ててある。そのため、その墓を暴くだけでいいと、カブトには言われていた。

 

 霧隠れの里については、水影と忍び刀と思わしき遺体の1部を回収したものを、送り届けたことで完了しているため、残すところ雲隠れの里だけである。

 

 忍び刀の名前がリストアップされていたのに白は驚いたが、カブトは色々な国や里にスパイとして潜り込んでいたことを考えると、納得できるものだ。

 

 もちろん、あの場でヒナタを見捨てるという選択肢をとれば、このような事にはならなかったかもしれないが、白としても、暗部として断れないのをいいことに、任務、任務と続けさせられて嫌になっていた部分もあった。そのため、カブトの言葉に乗ったのである。ただ、それだけではあまりにも白にとってメリットが無さすぎる上に、リスクも高かった。そこで、条件を付けて取り引きへと持ち込んだのである。

 

 最後に付け加えたのは、穢土転生の術を忍び刀七人衆に使うのであれば、忍び刀の一振りが欲しいというものと、完成した際には見せてほしいというものだった。ここで、穢土転生と言う言葉にカブトは反応したのである。ただ、この取り引きを完了させた時点で、カブトの元へと行かねばならない。

 

 本体が行くことにはなっているが、安全対策はしっかりとしてある。写輪眼などの瞳術で、一瞬に勝負を決められない限り白には逃げる算段はあった。それでも行かねばならないことに、憂鬱になりながら白は進んでいく。サスケが大蛇丸を倒すまでの辛抱だと思いながら……。

 

 火の国に入ったところで、宿をとったのだが、思わぬ人物たちを見かけることになった。

 

(なんで、あいつらがここにいる? しかも、同じ宿だと!?)

 

 その人物とは、ヒナタ、キバ、シノの3人。紅班のメンバーである。

 

 この葉の里からだいぶ南に位置するとはいえ、この場に3人がいても不思議では無かった。むしろ、木の葉を建て直すためにも、依頼をどんどんこなしていき、資金を集めなければならないだろう。それに加えて、依頼を達成することで、未だに木の葉の里に力があることをアピールする必要もある。

 

 一度弱味を見せると、他国ばかりではなく、大名たちからも舐められるからだ。そうなると、依頼が減少するばかりではなく、これ幸いにと攻め込まれる恐れがある。5大国の1つだからと言って油断ができるものではなかった。

 

 この感知タイプの揃った班で、今一番要注意なのはヒナタである。

 

 キバについては、匂いを日頃から注意して消臭している。外に出るときなどは特にだ。そのため分かることはないだろう。

 

 シノについても、常に蟲による探索を行っている訳ではない。なので、シノが意識を向けない限り気付かれることなないだろう。

 

 しかし、ヒナタだけは別だ。白眼がある上に、長年一緒に居たこともあって、白が顔を変えているとはいえ、近づけば感づかれる恐れがある。今の技量がどの程度のものなのか分からないが、容易に部屋を出ることが叶わないことだけは分かった。

 

 白は3人に見つかる前に素早く部屋へと戻り、巻物を広げて、周囲へと探知忍術を使用する。ここにあの3人が来ているということは、紅も来ている可能性があるためである。

 

 探知忍術の結果、紅は居なかったが、いつここに来てもおかしくはない。白は溜息を吐きつつ、宿を移るために巻物を片付け、部屋を出ようとしたところで廊下から声が聞こえてきた。

 

「シノもだいぶ接近戦が様になってきたよな」

「うん。シノ君上達が早いよ」

「……慰めはいらない」

「慰めじゃねーって。素直な感想だよ。紅先生も今のお前を見たら、絶対同じことを言うと思うぜ」

「紅先生忙しそうだったね」

「ここに来れないくらい忙しいみたいだな。サスケのやつもいなくなっちまうし」

「キバ君!」

 

 ここで、サスケが既に大蛇丸の元へ行ったことを、白は把握することができた。それと紅がこの場に来れないと言うことも……。その事に少し安堵した白は、ヒナタたちを監視することにした。折角とった宿を移るのもばかばかしく、離れてさえいれば、正体がバレる恐れもほぼないためである。

 

「? ああ。わりぃわりぃ」

「……やはりわざとか……俺を置いていったのは……」

「違うと思うよ。私もその時は行けなかったし……」

 

 シノはキバの言葉に立ち止まってしまったようだ。そんなネガティブ思考に陥りそうになっているシノを、慌てたようにヒナタがフォローする。

 

「怪我が完治していないものを連れて行かないのは当然だ。それに、白のやつがいれば、白も一緒につれて「おいっ! シノ!」……すまない」

「……ううん。……大丈夫だよ。白は死んだわけじゃないんだし。いつか戻ってくるよ」

 

 シノの言葉にヒナタの気落ちしたような声が聞こえてくる。一応白が居なくなったことに対してヒナタは立ち直ってはいるようだが、未だに少し引き摺っているのだろう。自分に言い聞かせるようにして話していた。

 

(ヒナタはまだ気にしているのか……。それにしてもこいつら、廊下に立ち止まって話してないで、さっさと部屋に戻れよな……)

 

 白は心の中で悪態を付きつつも、3人の声を久しぶりに聞いて懐かしく思うと同時に安心していた。

 

 影分身による変化での監視という名の盗聴のもと分かったのは、滝隠れの里の抜け忍……それも上忍相手に、シノが接近戦で負けたこと。それに伴って3人で特訓を行い、強くなることを目的としていることが分かった。

 

 蟲使いは戦闘を蟲に任せている。しかし、それを操る者が接近戦を挑むと言う行為がそもそも間違っているのだ。これでは何のためのチームなのか分かったものではない。確かに、蟲使い本人が接近戦も強ければ特に言うことはないのだが……。

 

(取り敢えず、あいつらはここで特訓するみたいだし、こっちは早朝にでも出ていきますかね)

 

 少々名残り惜しい気持ちを抑えて、その日は眠りについた。

 

 

 

 翌朝。宿を後にして人気の無い森の中を北上していく。あの3人が起きた時点で影分身が教えてくるようにしているので、解除されていないので、未だ起きていないのだろう。

 

 少し離れたところで、近くに誰か潜んでいることが分かった白は、戦闘態勢に入る。戦闘態勢に入ったのは、その潜んでいる相手の気配が非常に薄かったからだ。しかも、白の進行方向である。白は影分身を先行させて状況を確認させた。

 

 影分身が解除されたことによって分かったことは、男が1人朝食を食べているという事実だった。男の周囲に蜘蛛の糸のような罠が仕掛けてあることを考えると、白を狙ったものではない。そう考えた白は、迂回しようとして昨日のヒナタたちの会話の内容を思い出す。

 

(そう言えば、滝隠れの里の抜け忍は蜘蛛を口寄せしたと言ってたけど、まさか……もしそうなら少し痛い目にあってもらおうか)

 

 白は影分身を再度すると、本体は先に北上していく。そして、残った影分身は朝食を摂っている男へと近付いていった。さすがに上忍だけはあって、蜘蛛の糸に触れていないにも関わらず、誰かが侵入してきたのが分かったようだ。おそらく、蜘蛛の糸で結界を組んでおり、中に人が入れば分かるようにしているのだろう。

 

「誰だ!」

「…………」

「…………」

 

 何も答えずに少しずつ近付いてくる白に、危険を感じ取った男はクナイを手に持ち構えをとる。一呼吸で詰め寄れる場所まで来たところで白は立ち止まった。

 

「滝隠れの里の抜け忍か?」

「!?」

 

 男は驚きつつも、それを合図にしたかのように、白へと向かって行った。

 

 滝隠れの上忍と言われていたので、それなりに警戒していたのだが、白の見た目が子供だったためだろう。それなりに警戒していたようだが、油断している部分が大きかった。何の術も使わずにクナイ片手に来ただけである。

 

 白は呆れながらも、瞬身の術で男の背後へと移動し、冷めた目で男を見ていた。

 

 急に白がいなくなったように見えたのだろう。男は立ち止まり周囲をキョロキョロと見回して、後ろに白が居ることを見て取ると、冷や汗を垂らしながら、今度は見逃すまいと再度構えをとる。

 

 白が動かずにジッとしていると、男は瞬身の術を使用してきた。不意を突いたつもりだったのだろう。しかし、残念ながら白にとってその瞬身の術は、本当に術なのか疑いたくなるレベルの遅い速度だったのである。

 

(あまり通常の速度と変わらないな……これくらいのレベルなら3人掛かりで勝てるんじゃないの?)

 

 白は、瞬身の術を使い、あっさりと男の鳩尾へと攻撃を入れる。あまりの衝撃に男は耐え切れず、クナイを手放し倒れて悶絶し始めた。

 

 白はクナイを回収し、悶絶しているところを素早く気絶させて男の様子をみる。男の所持品は少なく、武器と言えるものは、白の持っているクナイしかない。財布を見たが、お金も少ししか持っていない。そのため野宿だったのだろう。

 

 男の状況は、打撲のみで骨折まではいっていなかった。白としても、衝撃の感触から骨まではいっていないはずと思っていたが、悶絶している姿を見て、やりすぎたかと逆に思ってしまったほどだ。

 

 クナイを没収した白の影分身はそれを隠して処分すると、本体と合流するべく術を解除した。

 


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