白物語   作:ネコ

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85 雲隠れの里?

 雷の国。そこは、砂隠れの里と似たような風景が広がる場所だった。違う点は、空気が乾燥しておらず、水気が多いことだろう。湖がところどころに点在している。

 

 雲隠れの里は、天然の要塞のようになっており、岩自体が壁の役割を果たしている。入口には分厚く大きな門が設置されている。おかしいところは、門があるにも関わらず、扉が無いことだろう、しかも、門の壁の厚さは、簡単には壊せそうにないほどの厚みを帯びていた。まるで、誰かを逃さぬように壁を厚く作ったはいいが、壁よりも薄い扉の方を破壊して外に出られてしまったかのようだ。その証に、門に扉が付いていた形跡が見て取れる。

 

 何事も無いかのように中へと入るが、色々と白は目立ってしまっていた。夏場と言うこともあり、太陽光を遮るべく、完全フル装備で雲隠れの里に来ていたのである。ただ、以前のように服だけではなく、薄手のコートなどを羽織っているあたり、まだ意識していると見ていいだろう。ただ、周囲にいる人たちは、雲隠れ独特の服装をしており、夏場と言うこともあって誰もコートなど着ていないため、さして意味はなかったが……。

 

 雲隠れの里の中に入ったはいいが、特に誰かに止められるわけでもなく、白は簡単に入ることができた。

 

(なんでだ? 他の里だと普通に呼び止められるのに……。もしかして罠かなにかか? 人の数がやけに少ない)

 

 白は、周囲にいる人たちへ分からぬように警戒心を高めつつ、雲隠れの里の奥へ向かって歩いていく。

 

 奥へ進むと更に人気が無くなって行き、道もある程度細くなったところで、3人の忍びと思われる者たちが、道を塞ぐような形で立っているのが見えた。

 

 その道を塞いでいる者たちとは、サムイ、オモイ、カルイの3人である。

 

 3人は、明らかに白を見ており、まるで獲物を見つけたように、白にも分かるほどの殺気を漲らせ始めていた。サムイに関しては表情に変化は無いが、雰囲気で分かる。他のオモイとカルイは、明らかに白を睨みつけていた。

 

(なぜだ? 数人だが、俺の前を一般人も通ったはず。俺だけに殺気を放つ理由が分からない……。何かした覚えは無いんだが……? やはりこの恰好がそんなに怪しいのか? 服装が分からないようにコートで隠しているんだが、それでもだめだったのか? それともこのターバンみたいなのが駄目だったのか? 雷の国に入った時に売れ筋ナンバー1とか言われたから買ったんだが……騙されたか……)

 

 雷の国に入ったところで、流石に日笠は目立つだろうと、近くの街で買い物をする際に購入したが、いざ雲隠れの里に入ると誰もそのような物をしている者などいなかった。

 

 ただ、ここで後戻りなどしては余計に不信感を募らせるだけであり、特に何もしていないことから、白は歩みを止めずにそのまま進んでいく。

 

 3人の内2人は、自分たちの元へと更に近付いてくる白を見ると、言い争いを始めていた。近付くにつれてその内容も白の耳へと入ってきた。

 

「あれは私の獲物だ! お前は他をあたれ!」

「きっとあの人は俺を選ぶしかない……可哀想なことだが……。それは、特にカルイだとあの人は死んでしまうからだ。それだと怒られてしまう……カルイが」

「私だけかよ! つーかお前が引っ込んでればいいだろ! なんでここにいるんだよ! ここは私の場所だ! お前はどっかに行け!」

 

 会話の内容から、白は自分が狙われていることを悟り、相手の実力の把握に努めていた。

 

(スリーマンセルを組んでいるということは下忍か? ……というか、実力的にこの3人だけなら勝てるけど、その後が厄介になりそうだな……。取り敢えず、相手が襲ってきたら撃退する方向にしよう。正当防衛ってことで……。俺まだ悪いことしてないし……)

 

 白は、コートの中で片手を雷刀・牙に、もう片方はいつでも印が結べるよう準備をし、チャクラだけを練り込んでいく。

 

 2人が言い争いをしている間にも、徐々に白と3人の距離は縮まっていた。ここまできては、白も影分身を出すわけにもいかず、先に影分身を先行させなかったことを少々後悔していた。

 

 残り数メートルまで近づいたところで、サムイが前に出てくる。他の2人は未だに言い争いを続けたままだ。

 

 いつでも術を発動できる状態であったが、サムイの言葉でそれが無駄であったと思い知らされる。

 

「あなたはチケットを持ってますか?」

「……えっ?」

「チケットを持っていなければ買ってください」

「え? あの……チケット?」

「はい。チケットです」

 

 サムイから見せられたチケットには、『キラービー主演コンサート』と書かれていた。それを見た白は一気に脱力してしまう。

 

「この奥に行くのであれば必要になります」

「……分かりました。買います」

 

 白がサムイからチケットを購入したところで、他の2人がそのことに気付いたのか、言い争いを中断してサムイを睨みつけつつ駆け寄ってきた。その姿はあたかも獲物を横取りされた猛獣のようである。

 

「サムイずるいぞ! そいつは私のだろ!」

「俺のノルマ全然減らないんだけど……」

「もう遅い。私のノルマはこれで終わったから、この人と一緒に先に行ってる」

「いつの間に!?」

「やばいよ……もう始まっちまうよ……」

 

 手元を見ると、オモイの手元にはチケットの束が十数枚ほど残っていた。カルイの方はと言うと数枚といったところだろうか。2人はこれで人生が終わったかのような顔をしている。

 

 白は後ろを振り返り、この道へと来る人を見てみるが、こちらへ来る人は少ない。しかも、チケットを既に持っている可能性もあるのだ。カルイはまだ、売り切れる希望はあるかもしれないが、オモイに至っては無理だろう。

 

「さあ。案内してあげるから行きましょう」

 

 頭を抱え込んで座り込む2人を置き去りにして、サムイは奥へと歩き出す。白もその後へと付いていく。

 

(もしかして、門番とかいなかったのって、このコンサートを見るためじゃないよな? もしそうなら……いや、仮にも忍びの里だ。そんなことあるわけない……と思いたい……)

 

 途中で階段を昇り、建物の上へと向かって行く。辿り着いた先は、その建物の屋上だった。そこには、かなりの数の観衆がいた。その観衆の前には舞台が設置してあり、真ん中にマイクまで用意してある。下からでは分からなかったが、屋上は観衆のざわめきで意外と煩く、白はサムイの声を聞き逃すところだった。

 

「私の案内はここまでだから、後は楽しんで」

 

 そう言い終えると、サムイは観衆に紛れて何処かへと行ってしまった。残された白は、ここからビーのコンサートが終わる夜遅くまでその場に足止めを喰らうことになったのだった……。

 

 

 

 翌朝。辛うじて昨日の夜に宿をとることに成功した白は、水分身を複数作りだし情報収集に励んでいた。

 

 ここで知る必要のある情報は、雷影の墓、それだけである。そのせいだろうが、直ぐにその所在を掴むことができた。

 

 雲隠れの里の者を装い、雷影の墓へとお参りに見せかけて、警備状況などの配置を調べていく。さすが絆に厚い雲隠れの里と言うべきか、警備体制は尋常ではなく、常に4から5人体制で雷影の墓の近くを警備していた。

 

(死んだ人に対してなんつう警備体制なんだ……。他のとこみたいに、フリーにしてくれればいいのに)

 

 雷影の警備は夜も人数が変わることなく続けられたことで、白は一旦今後の計画を練り直すことにした。

 

(さすがに不意を突けば倒せるかもしれないけど、全員を一気には流石に無理だ。それこそ、増援を呼ばれたら雷影の遺体を手に入れる前にやられてしまう……どうしたものかな……ずっとここに居るだけのお金もないし、なんとかしないと……)

 

 定期的に影分身1体を波の国へと送り出し、波の国にいる影分身を解除して交代しなければならないため、それだけで2体分消費する。残り使える影分身は1体のみ。それをどう使うべきか悩んだが、白は結論を出すことができずにいた。

 

 そして、そのままずるずると結論を先延ばしにした結果――――

 

 

 

「はいっ! いらっしゃい!」

 

 雲隠れの里の飲食店で働いていた。警備が厳重過ぎるあまり、付け入る隙が無い。また、お金も無いので傭兵を雇えるわけもない。無為に過ぎ去っていく時間が、白を追い詰めていき、白は現実から顔を背けていた。

 

 ただ、何もしなかったわけではない。情報収集は水分身に行わせているし、警備の状況も監視している。監視の時に危うく見つかりそうになるが、所詮は水分身であるため、すぐに術を解除して再び監視に付かせるだけだ。

 

 働いているのも、お金が無くては何もできない。それに加えて、せっかく教えてもらったことを不意にするのも勿体ないと、飲食店は飲食店でも中華店を選んでいた。

 

 特にバイトを募集していた訳ではないので、店側としては雇うことを渋ってはいたが、ラーメンを作りその味を認められたことで、雇って貰うことができ、今は厨房にてその腕を振るっている。

 

 そんなことを数週間続けていた時に有力情報を得ることができた。その情報と言うのが、キラービーのコンサートである。キラービーのコンサート時には、色々な場所の警備が手薄になるという話を聞いた白は、そのことについて更なる情報を集めていった。

 

 その結果と言うのが……

 

 

 キラービーの思い付きで決まることが多い。

 

 年に最低4回程度は行われている。

 

 開催される数日前にチケット配布が始まる。

 

 開催されるときは掲示板などに、日時などが記されたポスターが貼られる。

 

 雲隠れの里を襲撃する者がほぼ居ないので、警備をしなくても大丈夫。

 

 雷影によりコンサートが中止になることがある。

 

 コンサートは雨天決行される。

 

 意外と楽しみにしているファンが多い。

 

 必ず屋外で行われる。

 

 下忍はほぼ強制参加させられる。

 

 

 他にも色々と情報があったが、ほとんど役に立たないものが多かった。

 

 ただ、最初に雲隠れの里に来た時の門番が居なかった時のことを白は思い出し、次回のコンサートの日時の情報を得るために、毎日掲示板に張り付いている状態だ。

 

 ラーメンの人気が徐々に広まっていった頃に、待ち望んでいた日が訪れる。白が雲隠れに来てから数ヶ月が経とうとしていた。

 

 その間本体である白は、雲隠れ内で術の鍛錬や医療を行うことができないため、そちらは影分身に任せてラーメンの修行を行っていた。今まではラーメンのみに拘っていたが、そのトッピングである煮卵や、メンマの方にも手を出していたのである。

 

 一楽ではラーメンの素の味で勝負していたので、なかなか手を出しづらいものだったが、ここでは誰も咎める者がいない。そのため、店を閉じた後に研究を重ねていた。店主も、ラーメンに関するものだけは白の自由裁量に任されている。それが売り上げに貢献されているためだ。逆にもっと作ってくれと言われているほどになってきていた。

 

 その待望のコンサート当日。白は影分身と共に雷影の墓の近くに潜んでいた。

 

 以前に集めた情報の通り、コンサートが行われると言うことで警備の者が誰1人としていない。

 

(この里の人たち本当に忍者なのか疑いたくなるレベルだな……。そう言えば、雲隠れの里から何かすることはあっても、他から雲隠れの里へ何かすることはないんだよな……。なんでだ? やっぱり人柱力を2人も抱え込んでるからか? まあ、そのお蔭で警備ゆるゆるだからいいんだけど)

 

 一応、姿は本来のものとは違うとはいえ、見つかってはまずいので、結界を貼って部分的に霧隠れの術を使用してから雷影の墓へと近付く。

 

 雷影の墓には特に結界などは張られていなかった。ただ、代わりにかなり重量のある蓋が置かれていた為に、一時的にではあるが多重影分身で開閉することになった。

 

 雷影の墓を元に戻し、術を解除して宿へと帰る。コンサートの日は働いている中華店も休みになっている。おそらく店主もコンサートに行っていることだろう。白の今回の主な情報源は店主なのだから……。

 

 店の扉の隙間に辞める旨を記載した書を挟み込み、白は門番の居ない門を潜り外へと歩き出した。目的を達成したので、後はカブトから、目的達成後に居るように言われた研究所へと向かうだけである。

 


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