白物語   作:ネコ

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96 口寄せ?

 カツユを肩に乗せた白は、地獄道の倒された場所へカツユの案内のもと向かっていた。

 

 その場所では、地獄道の近くにエビスが座り込んでおり、木の葉丸が傍に立ってエビスと会話していた。

 

「何とか……倒せたようですね。木の葉丸君……」

「当たり前だこれ! ナルト兄ちゃん直伝の螺旋丸だこれ!」

「螺旋丸……ですか……。超高等忍術を……会得するとは……流石です」

 

 エビスは、木の葉丸が螺旋丸を習得していることを知らなかったようで、驚きと共に、木の葉丸を褒め称える。

 

 ただ、エビスはかなりの負傷をしているのだろう、言葉を途切れ途切れにしながら、木の葉丸に応えていた。木の葉丸は倒したことで興奮状態になっており、エビスの状態に気付いていない。と言うよりも忘れているといった方がいいだろう。

 

 その姿を見た白は、エビスの傍に移動すると、肩に乗せたカツユをエビスへと移動させる。急に現れた白に対して驚愕した木の葉丸は、すぐに後退して距離を開けると白に指を突きつけてきた。

 

「何だお前! エビス先生から離れろ!」

 

 木の葉丸は残りのチャクラが少ない中、更に影分身を使用して螺旋丸を作り始める。敵として見てしまった理由は、木の葉の忍装束や額当てをしていない上に、里内で見たことが無いため、白を敵と勘違いしているからだった。

 

 白は溜め息をつくと、螺旋丸が完成する前に瞬身の術で木の葉丸の後ろへと移動し、木の葉丸の1人に当て身を喰らわせる。それにより作りかけだった螺旋丸は突風に姿を変えて荒れ狂った。

 

 当て身を喰らわせた方は影分身だったようですぐさま消えてしまう。それに合わせて、木の葉丸も力尽きたように片膝を突き息を荒げる。

 

「木の葉丸君おやめなさい! その人はおそらく敵ではありません!」

「そうですよ! 波の国から、援軍として今回加わっていただいています! 名前は白さんと言うそうです」

 

 エビスとカツユからの言葉で警戒心が解けたことにより、木の葉丸はそのまま後ろに大の字となって倒れ込んだ。

 

「取り敢えず、ある程度回復したら、こいつを連れて里の端に移動してください」

「あなたはどうするのです?」

「あれを処理したら、他の奴に向かいます」

 

 白は倒された地獄道を指差してみせる。それに対して不審顔をしていたエビスにカツユが説明し始めた。

 

 白はその間に、地獄道を封印するべく足を運ぶ。そして、再起不能にするために雷刀を構えたところで、地獄道が煙と共にその場から消え失せてしまった。

 

(あれ? ……げっ!? 口寄せのこと忘れてた……。今どこに……)

 

 感知結界を広げたところ、火影のいる近くに口寄せされたことが分かり、白は慌てて再不斬の元に移動する。

 

「すぐに里の端に移動しろ!」

 

 エビスへと言い捨てて、白はその場を後にした。

 

 

 

 口寄せ動物との戦いは残すところ、大型の犬のみとなっていた。それでも増え続けた結果、その数は数十匹にまで膨らんでおり、木の葉の戦力のほとんどがその場に集中している。

 

「再不斬さん! そろそろ不味いです! 里の端に移動しないと巻き添え食らいますよ!」

「……確かに、そろそろこいつの相手も飽きてきたところだ。移動するか……」

 

 首切り包丁を振り回しながら、緊張感のない声で返す再不斬に、白は再度忠告をしようとしたところで、上空に異常な量で増えていくチャクラを感じる。

 

 嫌な予感と共に白が上空を仰ぎ見ると、そこには両手を上に向けて浮かんでいるペインの姿があった。

 

「再不斬さん……。今から奇襲をかけますが、失敗したら逃げるんで後はよろしくお願いします」

 

 白は一旦ペインを見つめてから、更に上空へと視線を向ける。

 

(―――氷遁秘術・魔鏡氷晶―――)

 

 ペイン天道の更に上空へと移動した白は、落下しながらすぐに次の術を発動した。

 

(―――氷遁秘術・千殺氷翔―――)

 

 白の周りに氷でできた千本が無数に現れ、一斉に天道に向けて放たれる。

 

 術を放った後に、白は雷刀を構えるが、他のペインに見られていたのだろう、天道は今まで下に向けていた顔を上に向けた。

 

「お前か……先程から邪魔をしているのは。神羅天征」

 

 天道が呟いた一言で、白は行使した氷遁もろとも弾き飛ばされる。しかも、白に関しては真上からの強襲だったため、そのまま上空へと飛ばされた後、同じ軌道で落下していく。

 

(ペインの視界……そう言えば全部潰してなかったな……ここまでみたいです。再不斬さん)

 

 再度天道に向けて落下してくる白に向けて、神羅天征が放たれる。

 

 その後、何事もなかったかのように、天道は上空へ再度両手を向け直しチャクラを溜め始める。

 

 チャクラの増大に伴って、危険と判断した者たちは、天道から離れるようにして移動していく。チャクラの感知ができない者たちでも、その威圧感を感じることができるほどのチャクラが練り上げられていた。

 

 あまりにも上空にいるため、術が届かないことと、再不斬から離れるようにカツユ経由で警告を受けたため、天道から離れるのも早かった。

 

 しばらくして、天道は挙げていた手を下に下ろし呟く。

 

「ここより世界に痛みを……神羅天征」

 

 この術により、木の葉の里は壊滅的打撃を受けた。

 

 

 波の国の診療所にいた影分身も、時を同じくして消え去っていた。

 

「めっちゃ痛い……」

 

 影分身が消え去り、そこの診療所のベッドに腰かけていたのは、先程まで木の葉の里でペインと戦っていた白だった。

 

 痛みに対して鈍感な白が痛みを感じていることから、神羅天征によるダメージがかなり酷いことが分かる。

 

 あの場で奇襲の失敗を悟った白は、神羅天征を喰らった後に波の国の影分身に連絡を取り、2発目の神羅天征を受ける前に逆口寄せで、波の国へと逃れていた。

 

 着いて早々、ボロボロの身体を回復させるためにすぐさま影分身を解き、掌仙術を使用するため服を脱いだところで、凍り付く。

 

「あぶないところでしたね。それにしても、ここはどこですか?」

 

 服の中に小さなカツユが居たのである。これを見て、白は凍りついたのだった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 カツユの気遣うような声で我にかえった白は、混乱している自分の頭を整理するためにも、カツユに質問する。

 

「なんでここにいるの?」

「それはもちろん、情報を迅速にお伝えするためです」

「いやいや。俺は確かあの時、倒れてる眼鏡の人を回復するために渡したはずだよね? その後、連れて行った記憶がないんだけど?」

 

 地獄道との戦いで負傷したエビスに、渡したはずのカツユが、何故か白の服の裏についていたことに疑問を持つ。その後に連れて行った記憶もなければ、それ以前に渡して以降触った記憶すらない。

 

 そのため混乱していたのだが、カツユの次の言葉で謎が解ける。

 

「はい。あの時分裂しておきました。回復のためのチャクラについては、ほとんど向こうに渡しましたが、やはり、未知数の敵と戦うのであれば、情報は大切ですので」

「…………」

 

 当然のことです、という空気を出すカツユに、白は再び凍りついたのだった。

 

「あっ。安心してください。無事であることは伝えてあります」

「余計なことをぉぉおおお!」

「えっ!?」

 

 突如として大きな声をあげた白に、カツユは驚いて角を引っ込める。突如として消えた白―――しかも、ペインを数名倒したという話を、カツユは聞いていたので、木の葉の里の者たちが不安にならないよう、そして、同じ波の国から来たという再不斬に無事であることを知らせるために、先に報告したのだった。

 

 白にとっては、これでまた死んだことにできるかも、と目論んでいた。上空から地上を見たときに、忍のほとんどが、里の端に移動していたことも、理由に含まれる。

 

 そうとは知らないカツユは、引っ込めていた角を出すと、困惑したように白に訊ねる。

 

「なにか不味かったでしょうか?」

「取り敢えず、こちらからこれ以上連絡するのは禁止。絶対禁止」

「理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「よろしくない……。もう伝えたことは諦めるけど……向こうの状況は分かる?」

 

 白は気落ちしながらも、木の葉の状況の確認を行う。それによっては、この波の国を出なければならない。

 

 カツユは納得できないながらも、白の質問に答える。

 

「一般人の被害は、避難が早急に完了したためにほとんど出ていませんが、今回の戦いで忍の方に死傷者が多数出ています。それと、最後にペインから放たれた術についてですが、里の建物はほぼ全壊しています。しかし、人的被害はほとんどないようです」

 

 カツユの報告にひと安心した白は、答えを返さずに自分の治療に集中する。それを見たカツユは、なにも言わずに見守った。医療忍術の難しさを理解しているため、白の集中を妨げないという配慮のためだ。

 

 簡単な治療を終えた白はひと息吐くと、服を着ながらカツユに随時里の状況を聞き出す。

 

「ナルトのやつは来た?」

「はい。今は、里の中央でペインと戦っています。戦況はナルト君が押してますね……。ナルト君をご存じなんですか?」

 

 カツユはナルトとの接点について尋ねてくるが、白はその質問を後回しにさせて、更に質問する。

 

「その辺は後でどうせ分かるから、決着がついたら教えて、後綱手姫の状況も」

「決着については構いませんが、契約相手の情報はおいそれとお教えするわけにはいきません」

 

 カツユの口調は、絶対に言わないという決意が込められており、これは言い方が悪かったと反省する。

 

「言い方が悪かったよ。綱手姫の意識の有無を聞きたかったんだ。里の者を助けるのに、だいぶチャクラを消耗してたみたいだからね」

 

 あくまで、綱手姫が心配で尋ねているといった風に装う。

 

 服を着終えた後は、ベッドに横になった。カツユはゆっくりと白の枕元の方へと移動しながら答えた。

 

「分かりました。それでしたら、お伝えできます。チャクラの消耗は激しかったようですが、ナルト君が来てくれたお陰で、今は、十分な休息がとれています」

「つまり、意識はあるんだね?」

「はい。疲れておられますが、意識ははっきりしておられますよ」

 

 それを聞いた白は安心して目をつぶる。しかし、変な違和感を覚えた白は、その方向へと目線を向けると、こちらをみている自来也と目があった。

 

 しばらく、そのまま両者で見つめあったままでいたが、先に口を開いたのは白だった。

 

「盗み聞きはよくないと思うんですが?」

「さっきから話しているのは、木の葉の里で間違いないか?」

 

 質問に質問で返されて、若干不機嫌になりながらも、白は答える。

 

「ええ、そうですよ。どこから聞いていたか分かりませんが、木の葉の里が、ペインに襲撃を受けているところです」

 

 ここで、それまで大人しかったカツユが口を開いた。大人しかったというよりも、隣のベッドからもたらされた聞いたことのある声に、確認しようと移動したところで、寝ている自来也を見て、驚きで固まっていたというのが正しいだろう。

 

「自来也さんが何故ここに!?」

「わしにもよく分からん。確かにペインにやられたはずなんだがのお……。って、そんなことを言っとる場合ではない! ペインをいくら倒しても無駄だ! あれの中に本物はいない! 本物は別の場所でペインたちを操っとる! 早く伝えねば、被害は広がるばかりだぞ! っ!?」

 

 自来也は一気に捲し立てた後に、起き上がろうとしたのだろう。しかし、身体中の痛みでそれができずに、うめき声を漏らして口を閉ざす。

 

「カツユ……分かってると思うけど、木の葉の里に連絡したら、この人殺っちゃうよ」

「えっ!?」

 

 今まさに連絡しようとしたのだろう。白の言葉に驚き、先程交わした内容を思い出す。

 

「しかし、これは大変重要なことなんですよ!? それを伝えないなんて……あなたは一体何がしたいのですか!?」

「まず言っとくけど、この人助けたの俺だから、しかもその代償に、かなり危険な目にあってるんだよね」

「危険を省みずに助けたことは素晴らしいと思いますが、それとなんの関係が……」

 

 印を組み、何らかの術を使おうとした自来也の首に向けて千本が放たれる。自分が人質になっている事態を変えようとしたのだろう。しかし、感知タイプでもある白には、チャクラを高めた段階で、自来也が何かをしようとしているのが分かった。

 

 千本が首に刺さったことにより、自来也の動きが完全に止まる。

 

「そんな……」

 

 絶望したような声を出すカツユに、話を続ける。

 

「仮死状態にしただけだから。話の続きだけど、この件は取り敢えず、木の葉の争いが終わるまで連絡しないこと。理由は争いが終わったら分かるよ」

「聞いたら分かるや、終わったら分かるばかりでは納得できません!」

「この争いで死んだ人たちが、蘇るかもしれないけど、それを阻止したいならお好きにどうぞ」

「詳しく説明してください……」

 

 何故駄目なのか全く理解できないカツユは、困惑しながらも、今にも泣きそうな声で説明を嘆願する。

 

(なんか、俺が苛めてるみたいだ……。泣きたいのはこっちだよ……。予定が色々狂ったし……この人には交渉の材料になってもらうしかないな)

 

 白は自来也へと向けていた顔をカツユに向ける。そして、カツユに他言無用、と再度念押しし、輪廻眼や自分の状況について説明するのだった。

 


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