ライゼの仕事   作:中奈加奈

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いつもは一人称なんですが、今回はリハビリがてら三人称で書いてみました。
何かおかしいところがあったら連絡ください。

思っていたキャラクター性じゃないかもしれないので、注意してください。




 一人の男がバベルの街中をゆっくりと歩いている。

 時刻は既に太陽が役目を終え沈みゆく頃。中層、上層であれば子ども一人で歩くことも構わない時間帯だ。

 

 しかし、男が歩くのはバベルの下層。民度が低く、大の大人であってもこれからの時間帯は出歩くのを拒む程。

 出歩くにしても、護身用の武器を持っているに越したことはない。

 

 男も当然のように武器を持っていはいた、けれど一風も二風も変わったその武器に、僅かばかりに通り過ぎる人々が立ち止まり、不思議そうな瞳を向けては、早々に去っていった。

 

 流石の下層とはいえ、目に見える面倒ごとに自分から突っ込んでいくような馬鹿は少ない。

 《万屋のライゼ》、それがハンターという職につく彼の通り名だった。

 

 緑色を好んでいるのか、全体的に緑色の装飾が入った服装を着用しており、女性のように長い脚に似合う黒のズボンに足を通している。

 

 耳には銀のピアス、そして先ほどから目を引いているのが、彼が左手に持つ銀のランタンのような形をした武器だった。

 

 ハンターとは基本、アークから発掘された超常的な力を秘めた武器を装備しているが、ライゼの獲物はこのランタンなのだ。下げるように持ったそれを、チリンチリンと特有の金属音と鳴らしながら目的地へ向かう。

 

 と、ここまでそのランタンが最も目につくよう表現したが、それよりも目立つモノがライゼにはある。

 それは、額に刻み込まれた稲妻の如く駆ける傷跡。一体どうすればこのような傷跡が残るのかと不思議に思うが、それは別の話だろう。

 

「さて……、今回の依頼は何かな?」

 

 ライゼは歩調を崩さず目的地へと到着した。

 いくつものパイプが壁を這う中、その手前に鎮座する、鍵穴のついた小さなポストのようなもの。

 

 その正面に立ったライゼは瞳を細めてそう呟くと、ズボンのポケットから小さな鍵を取り出す。

 屈みながら鍵をポストの裏側についていた鍵穴にさし、背面を開くと中の内容を確かめる。

 

 ポストの中には一枚の封筒に包まれた手紙が存在し、数回頷いた後に手に取る。

 ライゼはポストの背面を閉め、鍵をかけ直すと、立ち上がりながらポケットに鍵を戻す。

 左手にはランタンを持ったまま、右手に封筒を持ちながら、再び下層の街を歩き始める。

 

「しかし、一枚か……。」

 

 ライゼは歩きながらぼやく。

 普段中層で万屋の仕事をしているはずの彼が、何故下層で依頼を募ったのか、それには理由があった。

 

 ……単純にそれが《依頼》だったのだ。

 昨日、依頼を終えて中層の自宅に帰り、ついでに先ほどと同じような動作でポストから依頼を確認する。

 

 何通も依頼が入っていたが、気になったのはその内の一通だった。封筒にいささか過剰過ぎる装飾の成されたもので、否が応でも目に入る。

 

 その内容を要約すると、下層であまりお金の無い方々のために、一度だけ無償で依頼を受けてください。というもの。その封筒に添えられるように、三日間程は仕事を休んでも良くなる程のお金が封入されていた。

 おおよそ上層の貴族のお嬢様が、偽善に依頼を送ったのだろうと察したが、前金を受け取った以上は仕方がなかった。

 

 最近は中層でも依頼が多かったライゼだが、下層での依頼も過去には何度か行っていた。実際に荒事が多かった記憶が多い。

 過去の依頼を思い出し、苦笑いを浮かべながら、中層の自宅に帰宅する。

 

 それからソファにどっかと腰を下ろし、丁寧にその封筒を開封した。

 中から出てきたのは綺麗に折られた一枚の紙、取り出しては内容をすらすらと黙読していく。

 

 

 手紙の内容は、病気の弟を持つという人物からの手紙だった。

 

[単刀直入に書くけど、弟の病気を治してほしいの。

住所は下層三丁目221-3-2。

治療に必要な薬をここまで届けて。

大体の素材は何とか揃えられた。だけど風の結晶だけが集まらないの。

拳くらいのサイズのを一つ、お願い。

最後に、……タダで依頼を受けるなんて

いつもならこんな都合の良いこと無視するけど

今回はアナタを頼らせて。]

 

 全てを読み終えてから、ライゼは癖のように顎を撫でる。

 一度ソファに座り直しふっと息を吐いた。

 

 ライゼは最近、風の噂で伝染病が流行っていることを耳にしたことがあった。治療には手紙の通り様々な素材と、風の結晶が必要ということも。

 悩んでいる雰囲気を出すライゼだが、別段風の結晶を回収することは容易い。

 

 結晶自体数種類存在する宝石のようなもので、今回要求されたのは風の結晶。マテリアとして使用すれば、身体能力の向上、体力の上昇が見込めるものだ。それに薬の素材としても需要がある。──ちなみにマテリアとは、結晶の力を武器に込めることによりさらに性能を向上させたものだ。

 

 マテリアの採掘クエストなどは駆け出しのハンターでも可能な仕事だ。されどライゼが頭を悩ませる理由は難易度のせいではなく、他にあった。

 万屋として仕事していると、情報を受け取る機会も増える。──実質ライゼが万屋を営んでいる理由がそれなのだが、それもまた別の話だろう。

 

 ライゼが思い出していたのは数日前、仕事を終えて依頼人に完了の報告を済ましていた場面。

 お得意様でもあったその人物と、酒場で談笑を交えつつ話していると、その人物がとある話題を持ち出した。

 

『なぁライゼ、こんな話知ってるか?』

『ん?』

 

『何でも上層で伝染病が流行ってるらしいぜ。』

『伝染病? それに上層なのか……。被害は?』

 

『そこんとこは安心だ。貴族サマお得意の金の力で死者はいねぇらしいんだが……。』

『だが……どうした?』

 

『貴族サマが焦ったのか、緊急でマテリアの依頼を出しまくっちまったせいでよ、しばらくマテリアの採掘が制限されるって話だ。』

『制限、か。……ああ、ありがたい情報だ。感謝する。』

 

『気にすんなよライゼ。じゃ、また依頼の時には頼むぜっ。』

 

────

──

 

「たしか、まだマテリアの採掘は制限されているんだったな……。」

 

 思い出すようにライゼの独り言が部屋に響く。

 病気ということなら、依頼の完了も早い方が良い。

 

 どうにかマテリア採掘の依頼を受けられないものかと唸っていたが、ジッとしていても仕方がないとソファから立ち上がる。

 ──こういう時は酒場で聞き取りをした方がいい。

 そう、ライゼの直感が示していた。 

 

 立ち上がったライゼは、家を出て中層の酒場に急ぎ足で入店する。

 扉を押し開いて中に入ると、そろそろ人が増えてくる頃合いのせいか、いつもより騒がしい。

 

「あ、ライゼだ」「万屋じゃねぇか」「あっ、ライゼ様ーっ♪」「はん、あの細い奴のどこがいいんだか……」「はぁ!? 今アンタライゼ様のこと馬鹿にしたわけっ!?」

 酒場の奥に進むにつれ、自身関連の黄色い騒ぎが起こることに溜息をつく。

 大人の魅力を醸し出す整った容姿を持つが故に、その大きな傷は歴戦の雰囲気を纏う、むしろアドバンテージにすらなっていた。

 ライゼの姿を見た数人の女性が頬を染め俯く、それと対照的に男達の鋭い視線は次々とその体を突き刺した。

  

「ライゼじゃないか。この時間には珍しいね。」

「……ロザリー。」

 

 そんな喧騒に疲れた様子の彼を見ていた、眼帯の似合う勇ましい赤髪の女性ロザリーが、苦笑いを浮かべて声をかける。──彼女は元ハンターだったが、目の傷を切っ掛けに引退、現在はこの酒場の経営している。

 ライゼはロザリーに視線を向けると、名前を口にしながら微かに安心したように頬を緩ませる。

 

「で、今日は飲みに来たのかい?」

「……いや、情報が欲しい。」

 

「そうそう来られても、アンタの傷のことならなんも分かっちゃいないが?」

「今日はそのことじゃない。マテリアの採掘についてだ。」

 

「……マテリアの採掘、ねぇ。」

 

 ロザリーはやれやれと手をあげて質問を先読みするが、しかしそれが外れてしまったことにきょとんとする。

 そこは酒場のマスターの意地か、すぐに表情を切り替えて思わせぶりにそう呟く。

 

「まだ採掘の制限はかかってるよ。これは私の勘だが、あと一週間は続く。」

「……そうか。何処かに前々から採掘の依頼を受けていた奴を知らないか?」

 

 引退してしばらく経つが、ロザリーのハンターとしての勘は鈍っていないことをライゼは重々承知していた。つまりこのまま何もしなければ、依頼が最低一週間達成できないということだ。

 しかし、現状採掘の制限がかかっているが、それよりも前にクエストを受けた人物なら採掘は可能だ。それに同行させてもらえれば、一週間も待たずに依頼を遂行させられる。問題はそんな都合のよい人物がこの酒場にいるかどうか、だが。

 

「……悪いが思い当たらないね、他を当たってくれ。」

「そうか……、邪魔をしたな。何か分かったら連絡を──」

 

 ……しかし、ライゼの希望が砕かれる形で顔を逸らしたロザリーが返事を返す。それから微かにトーンを下げた別れの言葉が二人の間で交わされ始めた。

 最後にライゼがそう言いかけると、ガチャリと酒場の扉が開く。

 二人が音の鳴った方へ反射的に視線を向ける二人。

 

「悪い、少し遅れた。エグリーズ運送のモンなんだが。」

「……ん? あぁ、もうそんな時間だったか。クランプス、荷物はこっちに頼むよ。」

 

 木製の扉が開き現れたのは、白く大きな袋を肩にかけた一人の青年だった。

 ロザリーは謝罪と共に現れた青年──クランプスを見ると、次いで壁に掛けられていた時計に目をやった。

 すると納得したような表情で頷き、背面のカウンター奥を親指で指す。

 

「遅れたこっちも悪いが、まさかアンタも忘れてたんじゃないだろうな?」

「冬場ばかり忙しいそっちと違って、うちは常に忙しいんでね。少しくらい大目にお願いするよ。」

「たくっ……。奥にはオレが運んどく、アンタはこれにサインしといてくれ。」

 

 クランプスと呼ばれた青年は、モコモコとした珍しい服装に身を包んでおり、片目を隠した鋭い目つきが特徴だった。頭を包むフードからは二本の立派な角が装飾されている。

 そして見るからに重そうな荷物を涼し気な顔で運びつつ、さらに重量感のある大きな鐘を装備していた。

 彼の武器であるそれを、器用に肩にかけるとロザリーに近づく。

 

 

「ン……? どこかで見たと思えば万屋か。……ああ、運送届、確かに受け取った。」

「クランプス……。クリスマスの手伝い以来だな。お嬢さんは元気か?」

 

 カウンターの奥から荷物を置いて出てきたクランプスが、ようやくライゼの存在に気付いた。ライゼに視線を向けつつロザリーから運送届を受け取ると、互いに微かに表情を緩め合う。

 

「ああ、元気な癖にミスはするがな……っ。」

「……っ。すまないがクランプス、一つ質問をいいか?」

 

 クランプスはお嬢さんと呼ばれた人物を思い出しながら苦笑する。

 久々の再開に花を咲かせつつも、クランプスの運送業という職業柄に目を付けたライゼがそう問うた。

 

「別に構わないが?」

「拳程のサイズの風の結晶を探しているんだが、そっちで余っていたりしないか?」

 

「風の結晶を? そんなモン、アンタが採掘すれば解決するだろ。」

「それなんだが、今マテリアの採掘が制限されてるんだ。だが、俺は依頼で早急に風の結晶を集めなくちゃならない。」

 

「マテリア採掘の制限、か。……最近は運送がメインでな、ハンターとして活動していなかった。」

「それは仕方ないが……どうだ? 譲ってもらえたりしないだろうか?」

 

 クランプスの本業は先の通り運送業だ。ハンターとしてのマテリアは身近な物だが、しばらく活動を休んでいたクランプスには採掘制限の話が聞こえていなかったのだろう。

 ライゼの言葉に、顎に手を当ててしばらく考え込むクランプス。

 

「……現状なんとも言えないな。幸い今日の運送はこれで終いだ。帰ってオヤジに報告してやるよ。」

「本当か……っ! 助かる……。」

「急いでも連絡は夜になる、しばらく待っていろ。」

「この借りはまた返すよ。」

「借りは何事も上手くことが運んでこそ受けるモンだ。その借りはまだアンタが持っててくれ。」

 

 クランプスはそう言うと、中身の無くなった袋を綺麗に折りたたみ別れを告げる。

 酒場を出たクランプスを見送ったライゼは、連絡を待ちながら酒場で時間を潰した。

 

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