球磨川君が武装少女達の学園に視察に行くようです。 作:ゼロん
どうしても書きたかったのです……! かっこいい裸エプロン先輩を(殴)
前編はちょっと長めです。大長編って感じで読んでやってくださいな。
ーー今、僕は知らない女の子に刀を向けられています。
『えーと……きっと何かの間違いだと思うんだけど……』
「貴様は
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時は少し前に
黒学ラン、黒髪が特徴の高校生、
今日も彼は
現在、生徒室には球磨川を含め二人だけだ。
『ねぇねぇ善吉ちゃん。この仕事の件なんだけど……』
「言っとくけど拒否権なんて無いっすよ、球磨川先輩。先輩がこの仕事がいいって言ったんじゃないですか」
『えぇ〜……僕今日ジャンプ買いに行きたいんだけど……』
「近くのコンビニで買えばいいじゃないですか……それに先輩の仕事は他校の視察ですよ? 行き道中、買いにでも行けるでしょうに」
生徒会メンバーの一人でもあり、球磨川の後輩でもある生徒会庶務、
『ちぇ〜……最低の
「それとこれとは話が別だろ。早く行ってこいよ。めだかちゃんが今いないからって好き勝手できると思うなよ?」
球磨川は渋々と紙を受け取り、自分のファイルにキチンと収納する。
何かを閃いたのか、球磨川はポケットから携帯を取り出し始める。
しかし手に持った携帯を善吉にはたき落とされてしまう。
「
『!!』
「バレたみたいな顔してんじゃねぇよ! ……かっ! ったく、改心しても最低なところは相変わらずだな」
善吉に球磨川は『ふっ』と普段通りの不敵な笑みを浮かべる。
『何を行ってるの? 善吉ちゃん。腐っても僕はマイナスだぜ? サボり、無断欠席、ジャンプは毎週逃さないのは当たり前さ』
「最後はおいておいて、サボりは許さねぇぞ」
『……めんどくさい』
「ついに本音を出しやがった!」
善吉は「チッ仕方ない」と椅子から立ち上がり、手元にあったファイルを開く。開くとそこには学校の校舎の写真があった。
「……球磨川、お前が行く『
『うん、だから嫌なんだよ。お嬢様ってことはそいつら
「いや、まだ大人しい
善吉は球磨川を説得しようと額に手を当てて考える。
「まぁ考えてみろよ。球磨川先輩も顔は良いんだから、きっとモテモテだぜ?」
『モテモテ』その言葉に反応し、球磨川の肩がピクリと震える。
『……その手には乗らないよ善吉ちゃん。どうせ僕が行ってもろくな目に遭わないに……』
「ちなみにこの子達がこの学校の代表だ。行けばきっと会えるぞ」
善吉はファイルから一枚の写真を取り出す。
そこには『超』とついてもおかしくない美少女達が五人写っていた。……一人、
『何してるの善吉ちゃん!? 早く資料を渡して!』
それでも球磨川にやる気を出させるには充分だったようだ。ちょろい。
球磨川は学ランを見栄え良く見せるために着直し、せっせと自分のバッグに荷物を詰め込む。
「あ、あぁ。視察だって事と他校との
『よしてよ。僕は世界で一番弱い生き物なんだぜ? そんな僕がか弱い女子相手に何をするっていうのさ』
「お前、中学時代にめだかちゃんにしたこと忘れてねぇか?」
そう。この男、球磨川禊は今では改心? してはいるものの、過去に何人もの生徒を
『めだかちゃんをか弱い女子にカテゴライズできるはずがないでしょ?』
「
『……』
当然、善吉達の通っていた中学校も例外ではない。……結果的にこうして和解はしたのだが。
「とにかく! もう変なことはすんじゃねぇぞ。そういう俺もあんまり過去のことは気にしちゃいねぇからよ」
善吉は球磨川に呆れつつ、ファイルを棚に戻す。
「そうだ、球磨川先輩。気をつけろよ、その学校では……っていねぇし!」
善吉が振り返った時にはすでに球磨川は生徒会室にはいなかった。
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『いやぁ〜楽しみだなぁ! あんな美少女達がいる学園なんて! 善吉ちゃんも早く言ってくれればいいのに!』
球磨川はホップステップと駆け足で視察先の学校へ向かう。その途中で他の箱庭学園の生徒とも会ったが、『ハーレムを作りに行ってくる!』と色々
「球磨川がハーレム作りに? まぁ終わってるアイツのことだ。普通普通」と呆れつつみんな最終的に納得するのだが。
全員「また負けて帰ってくるだろう」と信じて疑わないのだ。
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『……みんなには本当に悪いことをしたな』
人が誰もいなくなった道ばたで
『今まで色んな学校に転校したけど、こんな僕をここまで受け入れてくれる学校は無かったよ……』
善吉に言われた話の内容を球磨川は真剣に
仲間と共にめだか達の生徒会と戦い、キチンと負けた今の球磨川は善吉達にも罪悪感を覚えている。
『……この球磨川禊ともあろうものがしんみりムードなんてらしくないね』
だが今まで散々な目に遭わせてきた善吉達は、こんな最低な自分を許し、仲間になれと言ってくれたのだ。
箱庭学園の生徒も
故に自分は善吉達の期待に応え、世界中の
『絶対に彼女をゲットしてみせるって……!』
そう、完全に私情混同していて、真剣に聞いたらガッカリするような想いを胸に秘め、球磨川は『
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ーー人に四端あり。『仁』『義』『礼』『智』
四端に『信』を、加えて五徳。
我らこれを守り、
「みんな、揃ったようだな」
共生の道を貫く刃なり!
ーー帯刀を許されたこの五人こそが、この愛地共生学園の武装女子のトップ5!
「今回、名門中の名門である
「会議中に失礼しますの!! 大変です!」
般若の面の少女が振り向いた先にいたのは、おかめの髪飾りが特徴の少女。
「のの、どうした? 今は五剣会議の最中だぞ。何があった?」
「こ、こここ校門に、男が! 怪しい男がうちの生徒達を襲っているのですぅ!」
「なにぃ!?」
ーー!!
片目が髪で隠れたおかめの髪飾りの少女、
「わかった。五剣筆頭である私が行こう。会議はひとまず中断だ。みんなは各自の持ち場に戻ってくれ。これは緊急事態だ」
般若の面を被った黒セーラー服の少女が冷静に的確な指示を他の四人に出していく。
全員黙ってそれに従う。四人はそれぞれの刀剣を持ち、会議室を後にし始める。
「のの、その変態の所に私を案内してくれ! そいつは天下五剣 筆頭、
「は、はいなのですぅ!!」
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『お願いします! 僕の彼女になってください!』
「きゃああああっ!」「変態っーーー!!」
その頃、球磨川は出会った女子生徒全員に声をかけていた。
『くっ……! 何故だ……前に
教わる相手も、教わった内容の使い方も間違っている。今の
『……もうやめよっかな……いや。僕は諦めない! ここで必ず他の女子と仲良くなって、めだかちゃんにあっと言わせてやろう!』
『今度こそ勝つんだ!』と意気込んでいる球磨川だが、もう既に色んな意味で負けていることに彼は気づいていなかった。
「おい貴様!! 止まれ!!」
『ん?』
球磨川は後ろから確かな殺気を感じ、後ろを振り向く。そこには写真で見た五人の美少女の一人が立っていた。
「貴様が不審者か。貴様が会った女子生徒を片っ端から襲っているとの報告が入った」
凛とした声。顔を覆う般若の面、
学生服の
鬼の面を被っていても、そうとうな美少女ということが一目でわかる。
『……やだなぁ。僕はただ、会った人に
「嘘をつくな!! 世界のどこに出会った女子全員に『彼女になれ』と声をかける馬鹿がいるんだ!!」
『とんでもない、ろくでなしとか?』
「それはお前の事だろう!」
『おおっと!』
球磨川は目の前から突然刀を振るわれるが、ヒラリと避ける。
『駄目だよ女の子がそんな危ないモノを振り回しちゃあ!』
「貴様のような
鬼面の少女は止まらず、球磨川に斬りつけ続ける。それを球磨川は避け続ける。
「ほう、やるな。私の刃を避け続けるとはな。貴様一体何者だ?」
『僕は
「視察? 嘘をつくな。超名門校である箱庭学園の視察係がお前みたいなクズなわけがないだろう」
『えぇ〜……』
「そうか、貴様は転校生だな? ちょうど箱庭から使者が来ると聞きつけ、
ふん、と鬼面の少女は不満気に鼻を鳴らす。
……はっきり言って疑われたのは全部球磨川のせいである。
『えーと……きっと何かの間違いだと思うんだけど……』
「黙れ。ここに来たからにはお前も矯正対象。貴様は
ーー問答無用ってことか。
『聞いちゃいないよこの子。……まぁいいや。言われもない暴力や迫害は慣れっこだしね』
球磨川は観念したのかどこからともなく
「……変わった
ーーそれにしては大きすぎる。人の両手に収まるサイズなんて……
『そう、僕の
「ほう、面白い。ならその螺子で私の
『うわぁお、かっくいいー」
「ぁーーーー……うんっっっ!!」
鬼瓦は一呼吸をしつつ、球磨川の首をめがけて突きを繰り出す。
『おっと』
球磨川は片手に持った
『背中が隙だらけだよ』
「なにっーー」
鬼瓦の追撃よりも早く後ろに回り込み、もう片手で持った螺子で反撃。
「くっ……」
紙一重で球磨川の攻撃をかわすが、鬼瓦に攻撃のチャンスは与えられなかった。
「なっーー」
『どうしたのかな? 急に動きが鈍くなった……よっ!』
すかさず両手の螺子で絶えず攻撃を繰り出す球磨川。鬼瓦はすんでのところで受け流すも、球磨川は攻撃の手を決して緩めない。
ーーこれは……!?
球磨川の攻撃はただ、無闇やたらに放たれているわけではない。鬼瓦の剣技の弱点や隙を寸分の狂いなくピンポイントで、狙ってくるのだ。
『右肩!』
「ーー!」
『お次はまた背中!』
「なっーー!!」
ーー攻撃が……途切れない!?
『膝、左肩、首、頭、右足、胸、手の甲、両手の手首、両目。疲れて全部、隙だらけだよ』
球磨川は尋常じゃないスピードで鬼瓦の体の部位を螺子で突く。それを同等のスピードで鬼瓦は処理していく。
「はぁ……はぁ……貴様ぁ……!!」
『へぇ……すごいや。感動したよ』
ーーこいつ……!! これだけの攻撃を息切れもせず……!?
『……なんで僕なんかに押されているのか、わからないって顔だね。
「くそっ……!!」
『ただ一つあるとすれば……僕は「
「!? 何を言っているんだ……? お前は……」
肩で息をし始めた鬼瓦を見て、球磨川は距離をおいて攻撃の手を止める。
「はぁ……はぁ、なんのつもりだ……貴様? まだ……まだ私は戦えるぞ!」
『いいや、勝負はもうついているよ……輪ちゃん』
「ち、ちゃちゃちゃちゃ……ちゃん!?」
突然のちゃん呼びに動揺し、驚きの声を上げてしまう。
鬼瓦が動じている間も球磨川は不気味な笑みを浮かべ、淡々と語り始める。
『輪ちゃんがそんな重い日本刀を片手で軽々と振れるのは……その呼吸のおかげなんでしょ?』
「なっ……!!」
自分の長い鍛錬の成果をたった十数分での戦いで見破られ、さらに動揺する鬼瓦。
「なぜ、私の『
『へー、
『筋肉など邪魔』
鬼瓦が『
呼吸操作で内筋をコントロールすることによって軽々と片手でも強烈な斬撃を相手に喰らわす。
その一撃は天下五剣随一を誇る、まさに筆頭である彼女にふさわしい技。
『ん〜僕、剣術系は「るろうに〇心」しか読んだことないから詳しくは知らないけどさぁ、要するに特殊な呼吸法でパワーアップするってことでしょ? 初期の「ジ○ジ○」を思い出すなぁ』
しかし、この男は球磨川禊。弱すぎるがゆえにこの世のあらゆる弱さを知り尽くした男。
鬼瓦の真骨頂であり、最大の弱点である『阿吽の呼吸法』を球磨川は看破した。
一切の反撃を許さず、呼吸を絶対に許さなかったのだ。
剣の勝負は攻めと守りの連続。しかし球磨川がそんなルールに従う理由はない。
一撃でも受けたらダメなら、一撃も打たせなきゃいい。
「……ば、馬鹿な……!!」
その結果、防戦で疲れ切った彼女の呼吸は完全に乱れた。……いや、乱された。
『やれやれ、人をダメにさせることにおいて僕の右に出る者はいないんだぜ。
「ま、まだだ!! お前なんかに……貴様のような変態に私がやられてたまるものか!!」
『まだやるの〜?』
『いい加減にしてよ』と球磨川は嫌そうな顔を浮かべる。鬼瓦を余計に刺激したのは言うまでもない。
『もうやーめた。なんか飽きちゃったよ。そもそも欠点を消して戦うなんて、僕らしくない。みんなは何でこんなワンサイドゲームが楽しいんだろう』
「ま、待て!!」
球磨川は『じゃあね』と片手を振って背を向ける。完全に冷静さを失った鬼瓦は球磨川の背に向かって斬りかかる。
ーー逃さない。このままでは絶対に逃さない。
事態を深刻に見た百舌鳥野は、つい鬼瓦に声をかけてしまう。
「り、輪お姉さま! さ、殺人は不味いのですぅ!! 刀を下ろしてくださいっっ!!」
「うああああぁああッッ!!」
もう遅い。
『……「
鬼瓦の振った刀は球磨川に直撃。球磨川の首がくるくると宙を舞い、血の噴水が出来上がり。
球磨川の首が地に落ち、頭部を失った体は血を吹き出しながらその場に崩れ落ちる。
鮮血を顔に浴びて鬼瓦は呆然とする。鬼瓦は球磨川を斬り殺すつもりではなかったのだ。
「ぁ……あ、あぁ……!」
ただ背中を急所を外しつつ斬りつけるだけのつもりだったのだ。しかし、彼女は最後の最後で冷静さを失い、完全に手元が狂い、刃の軌道がそれて球磨川の首に当たってしまったのだ。
「お、おねぇ様……!!」
「ち、違う……私は……こんなつもりじゃ……!」
ーーのだが。
『も〜! ダメだよ輪ちゃん。人の首を
「!?」
「…………!?」
ーーど、どうなっているんだ……!? 私は、確かに……いや、幻だ。そんなことがあるわけが……
仮面の目の部分についたであろう血を拭おうと鬼瓦は手を顔に当てる。
「……え?」
『「僕なんか相手にならない」、そう思った君の甘さこそが最大の弱点さ』
しかし、そこには仮面は無かった。
『君のお面を、「
鬼瓦は驚きのあまり、自分のもう既にそこにはない鬼面を触る。無いという現実から逃れたいがために。
「あ……あ……あぁ……!!」
『!?』
鬼瓦はとち狂ったように自分の顔を触りつづける。一心腐乱に無くなった仮面を探すその姿に流石の球磨川も動揺した。
「う……うあああああああああぁああッッ!! み、見るな、見るな見るな、みるななぁあああ!!」
『!! 輪ちゃん!?』
「ぁああああああっっ!!」
普段の鬼瓦であれば、敵の前でここまで心中を乱されることは決してなかっただろう。
しかし彼女は球磨川によって積み上げてきたプライドはズダボロにされ、彼女は人殺しをしてしまったのだ。
球磨川は死んだことを『無かったことにした』とはいえ、彼女が自分を殺したことを『無かったことにした』わけではない。
そして、戦いをやめない彼女に球磨川はトドメを刺してしまった。
「う……うぅ……うう、ああああっっ!」
鬼瓦の最大の
完全に我を忘れ発狂する鬼瓦に球磨川は駆け寄る。
『や、やりすぎた。すごい自分の顔にコンプレックスを抱いてるみたいだから「綺麗な顔だね」って褒めようと思ったんだけど……!!』
完全に逆効果だった。
鬼瓦は近づいてくる球磨川に反応し、その場に崩れ落ち、近づかせまいと一心不乱に片手を振り回す。
「ぅぅ……来るな! 向こうへ行けぇ!!」
『落ち着いて輪ちゃん。お面ならここに……』
「輪お姉さまを……お姉様を離せなのですぅ!!」
『!!』
殴られた球磨川はそのまま鬼瓦の方へ仰向けにぶっ倒れーー
「ののっっ!?」
「「ーーッッッッ!!!??」」
二人は不本意なキスをした。
「……(がくっ)」
「お、おねぇ様!? ご、ごめんなさいぃっっーー!!」
『……ま、また勝てなかった(ガクッ)』
勝負結果:二人同時ノックアウト。
……引き分け?
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球磨川が目を覚ましたのはベッドの上だった。
ふかふかの枕の感触が頭から伝わる。
「あ、アンタ、ようやく起きたのね!」
……そんな心地よい感触も目の前の厚化粧のオカマ(おデブさん)の所為で台無しだが。
『……。この学園の大仏様は動くのかい? 色々すごいなぁ共生学園。美少女とキスして気分最高だったのに、ほんと目覚め最悪だぜ』
「悪かったわね!! それに大仏なら講堂にあるわよ。こんなのよりちゃーーんとしたのがね!」
『あ、普通のオカマなんだ。化粧が似合わなすぎて……いや、不気味すぎて人間だと思わなかったよ』
「言い直せてねぇよ!! 不気味なアンタに言われたくないわよ!」
『よっと』と言って、球磨川はベッドから立ち上がる。
『僕の名前は球磨川禊。えっと……。運んでくれてありがとね。ブサ……妖怪さん』
「悪化してんじゃねぇか!!
『まぁまぁそんなに怒らないで。それよりここはどこだか教えてもらえるかい? 増子さん』
はぁ……とため息を吐き、増子寺は近くの椅子に座る。
「……ここは男子寮よ。アンタ、転校初日で随分とやらかしてくれたわね」
『僕は転校生じゃないけどね。ま、いっか。たぶんこれが人生最後の転校だ。……増子さん』
「何よ? 言っとくけど、天下五剣に逆らった以上はタダでは済まないのよアンタ」
『そんなに偉いの? 彼ら』
球磨川は惚けた顔をしながら首を横に傾げる。
「トップよ! この学校の支配者にして管理者! よりによってアンタが手を出したのは天下五剣の筆頭よ!?」
『ふーん……』
ーーあれがトップかぁ……ただの普通にしか見えなかったけど。まぁ、めだかちゃん基準で考えるのはあんまりよろしくない、か。
『増子ちゃん。男子寮があるってことは女子寮もあるんだよねー?』
「あぁそれなら……」
増子寺は先輩風を吹かせ、球磨川に女子寮の場所を教える。学園敷地内南東の端のようだ。
「アンタ……まさか忍び込む気じゃないでしょうね」
『まさかぁ。僕はそんなセコいことしないよ』
安堵し胸をなでおろす増子寺。彼の横で球磨川はニッコリと笑う。
『もちろん、僕は堂々と表から入るよ』
球磨川の言葉を聞いた瞬間、増子寺の顔が絵の具を塗ったかのように一気に青ざめる。
「やめてよ! 連帯責任でアタシ達までしょっぴかれるのよ!?」
球磨川は歩みを止め、横顔を増子寺の方に向ける。
『「連帯責任」、「みんな反省しなさい」……いい響きだね。僕が受け入れた中で……一番「嫌いな」言葉だ』
球磨川は床に二本の長い
『僕は悪くない。』
『間違えて手を出したのは彼らだ。罰を受けるべきなのは彼らだよ。
ヘラヘラと笑いながら球磨川は
「ちょっとアンタ、いい加減に……」
『邪魔。』
増子寺は一瞬で球磨川に腕に螺子を打ちつけられ、床に固定されてしまう。
「あ……」
『そうだ、増子ちゃん。今週のジャンプはどこで手に入るかな? ……その体型で嗜好品が手に入らないわけないだろう?』
====================
「いいお湯だったねー。
「……気持ちよかったような」
風呂から上がった寝間着姿の女子生徒二人は自分の部屋に戻ろうと歩いていた。
「……サッキー、なんだろ。アレ?」
「……え?」
右井と呼ばれた少女が横にいた女子生徒、
『ーーーー白と紫』
「!?」
何か黒い人影が尋常じゃないスピードで自分たちの横を通り過ぎていった。とても信じられない光景に
「今のって……」
「……転校生のような。さっき私とサッキーのパンツの色、言ってた」
「えぇっ!? い、いやあああああっ!!」
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『移動する際の音』と『鬼瓦の部屋までに行く時間』を無かったことにした球磨川だが、結局発見され、女子寮は大騒ぎである。
『あーあ。途中で「無かったことにならなくなる」なんて、やっぱり「
今の球磨川には「無くしたものは二度と戻らない」過去の「
今使えるのは即席で作ったでっち上げの紛い物。
だがこれも宿敵、黒髪めだかとキッチリ決着をつけるために得た代償。本来、球磨川にあるべきだった『はじまりの過負荷』を取り戻すために必要な代償だった。
『それよりも
球磨川はカーペットの敷かれた廊下を歩きながら
『これはもう女子寮っていうか高級ホテルだよね? 最近共学になったって聞いたけど、男子の扱いが酷すぎるなぁ』
女子寮と比べ、男子寮の見た目は完全にボロアパート。部屋は二人部屋なのにベッドと机しか入らない。扱いの差が見てとれる。
「そこのあなた! ……動かないでもらえまして?」
『!! フェンシング……?』
突然正面に現れた金髪の女子学生にレイピアを突き立てられる。球磨川の腹から出た血が制服に
『酷いなぁ。不意打ちなんて卑怯者のすることだよ?』
「
『……ふふ。「コション」って何のことかわかんねーけど、けなされてるってことはわかるんだぜ?』
「あら、よろしければ和訳してさしあげますわ」
球磨川が
『がっーーッ!』
「『ブタ野郎』、でしてよ」
たまらず球磨川はカーペットとキスをする羽目になる。金髪少女は倒れ伏した彼を心の底から見下し、嘲笑する。
「
『過負荷に期待なんかされても困っちゃうよ。
「!? それにあたくしの名前を……!?」
『こう見えても記憶力はいい方なんだ。特に女子の名前だったら見聞きしただけで覚えちゃうよ』
ーー天下五剣の名前は企画書の方にも書いてあったしね。一つだけ下の名前がカタカナだったから見てすぐにわかったぜ。
「……
腰まで伸ばしたブロンドのロングヘアーに、青水晶のような瞳。
外見と日本語とフランス語を喋れるところから、おそらくはフランス人と日本人のハーフなのだろう。
学生服を着てはいるものの、お嬢様然とした雰囲気から良い家柄だとすぐにわかる。高校生にしては良すぎるスタイルだ。
『うん、やっぱりね』
ぬらり、と球磨川は何事も無かったかのように起き上がる。その様子に
「う、うそ……あれだけの怪我を負って立ち上がるなんて! ……なら、もっと痛みを与えてやりましてよ!!」
亀鶴城は立ち上がった球磨川に容赦なく、攻撃する。しかも攻撃する部位は全て神経の集中する箇所ばかり。一撃、一撃が常人には耐えられないほどの激痛。
ーーあなたは抵抗できず、ダメージが蓄積するばかり……痛みは心を折る。これに屈しない男など……いない!!
『ヘぇ〜素晴らしいよ。全部急所の部分に刺さってるね』
「あなた……どれだけしつこいんですの!?」
球磨川には意味のない話だった。
『けど……甘いなぁ。刺すのならーー』
「!?」
球磨川は螺子を取り出し、自分の心臓部分に
『こうやって
亀鶴城は目の前の男の行動が理解できず、つい両手で自分の口を抑えてしまう。
「
『まぁ実際、今さっき一度死んだからね』
「!!?? なっ……」
ーーいや、見間違いだ。そんなことがあり得るはずがない。
亀鶴城は首を横に振り、球磨川を再び見据える。
『ねぇ亀鶴城さん。
「あの恥さらし者のことですの? ええ知っていましてよ。あなたごときに手こずった挙句に、戦っている最中に泣き叫んでしまうなんて……天下五剣の面汚しですわ」
『面汚し』『恥さらし』。それらの言葉を耳にした瞬間、球磨川の肩がピクリと震える。
『……亀鶴城さん。君は何で僕と戦おうとするんだい?』
「簡単な話ですわ。鬼瓦さんを倒したあなたを再起不能にしなければ、天下五剣の名が汚れますわ。なによりあなたをあたくしが倒せば、筆頭になれる可能性もでてきますもの」
『……あっそ』
ーー結局、君は自分のためなんだね。輪ちゃんはあくまで生徒の安全を守る為に
そもそも
『……ちょ〜〜っと、不愉快かな』
球磨川は普段の表情からは予想できないほど顔を歪ませ、不快感を露わにする。
「何か言いました? 小声で喋られるのは死ぬほど不愉快ですわ」
何事もなかったようにのほほんとした表情に戻る球磨川。
『いやなにも……それより
「……鬼瓦さんへの評価のこと? あれは訂正しようもない事実ですわ。あなたが口を出せることではなくってよ」
『そう……じゃあもういいよ』
ーー戦意を削いで輪ちゃんの部屋の場所を聞き出そうと思ったけど……気が変わった。
『かかってきなよ、亀鶴城さん。僕も本気でやって……そのたわわな胸に顔をうずめさせてもらうからさ』
「ぶち殺してさしあげましてよ!!」
球磨川の挑発を亀鶴城は侮辱と受け取り、その美しい顔に不快の二文字が浮かぶ。
球磨川が手に持った一本のマイナス
そんなことは気にせず、突っ込んでくる球磨川に対し
『こんなに近づかれて刺突武器なんか使えるのかな〜?』
「距離が近い突き方もありましてよ!!」
球磨川の下腹にレイピアが迫る。
『
正確には『トゥシュ・パール・ドゥスゥ』。
少ししゃがんだ体勢での下からの突き上げ。
……決して「るろうに剣〇」で出てくるあの技ではない。
『あ、ぐっ……!!』
「
球磨川に先程言われた挑発に亀鶴城は激昂し、彼にトドメの一撃を喰らわそうとするーー
『……「
……がその一撃は通らなかった。
先程伸びたマイナス
『最後の最後で冷静さを失った。それが君の敗因だぜ。
ビシッと指をさし、決めポーズを決めることも忘れない。
「なっ……なに……? こ、れ……?」
亀鶴城は球磨川の一撃によって吹き飛ばされ、壁に文字通り「釘付け」になる。
『「
そう、この過負荷こそ球磨川の「
つまりは最弱になってしまう
それこそが……『
「あ、あなたみたいな
亀鶴城メアリの美しく伸びたブロンドの髪は、今では白く染まり、手足も力が抜け、脱力している。
もう戦闘どころか動くことすらできやしない。
『……
「……! あなた、まさかあたくしの
『別に何もしてないけど?』
「え……?」
球磨川の質問の意図が読み取れず、愕然とする亀鶴城。それを見る球磨川は……邪悪な笑みを浮かべていた。
『けど、ふぅ〜〜ん。君の大事な人の名前は
「ま、待って!」
亀鶴城は妹分の身を案じ、手を出させまいと必死に足掻く。懸命に手を伸ばし、去っていこうとする球磨川を押しとどめようとする。
「お願い……蝶花は……蝶花は私の妹分なのよ……だから、だから……」
『そうなんだ、そんなに大切な人なんだ。ところで亀鶴城さん……いいかげん
「……!! 誰が……」
『あっそ、じゃあいいよ。君には酷いことをしちゃったし、君が僕にしたことは気にしてないから』
『その拘束は後でちゃんと解いてあげるよ』と呟き、亀鶴城は球磨川があっさり引き下がったことに安堵する。
『輪ちゃんの部屋のことは……君の愛しの
そして絶望した。
「なんで……拷問ならあたくしになさい!! 蝶花は何も関係ないわ!!」
『関係ないなんて冷たいなぁ。君の大切な友達だろう?』『差別するなよ。』
「この……卑怯者!!」
『あ、そうだ。中学時代に
『亀鶴城さん、そもそも君が蝶花ちゃんのことを教えてくれたんだよ?
完全に心が折れ、絶望しきった亀鶴城はその場で泣き崩れる。球磨川は不気味な笑みを浮かべながら、それを見つめる。
『安心して亀鶴城さん、君の妹分にはちゃんと伝えておくから。君の姉は立派に、勇ましく……
「ーー!! ……ごめんなさい、許して……もう、あたくしのことはいくらでも罵ってもいい……だから……だから
『…………!』
「お願いします……! お願いします……!」
====================
ふと、僕はめだかちゃんに完敗した時のことを思い出した。一緒に戦った仲間達のことを。
ーー「ごめんねみんな。マイナス十三組のみんなは僕が……身を挺してでも守るから」
「球磨川さんはそんなことずっとやってきたじゃねぇか。だから……今度はあたし達があんたを守る番だ」
「……困ったものですよ。あなたが改心できるってことが判明した以上、私達がしないわけにはいかないじゃないですか」
「ま、いきなり変わるとか無理だけどさ、あたし達も負けたり勝ったりしながら、ちょっとずつ変わっていこうぜ」
「ーー今までありがとうございました、球磨川さん。どういう意図があったとしても、あなたが私に優しくしてくれたことは忘れません」
僕は……
====================
「……ごめん、
「え……?」
「君は……本当は仲間のことを思いやれる人だったんだね」
「なぜ……あなたはわたくしを助けましたの……? もう勝負は決まっていたはずなのに……」
「あぁ、僕の負けだ。こんな最低な勝ち、いらないよ」
球磨川は亀鶴城の目元についていた涙を、自分のポケットから取り出したハンカチで拭く。
悲しそうな顔をした球磨川を亀鶴城もまた、見つめる。
「ただ僕は……君に教えてあげたかったんだ。仲間の失敗を侮辱して嘲笑うだなんて、
「……!」
球磨川は亀鶴城から距離をおき、振り向かずに去っていく。
「僕は行くよ。
「あなたは……」
亀鶴城は申し訳なさそうに曲がり角に消えて行く球磨川をじっと眺めていた。
「わたくしの……負けでしてよ」
亀鶴城はふっと乾いた笑みを浮かべ、その場にじっと佇んでいた……
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『ひどいなぁ。せっかく手に入れたジャンプに大穴が空いちゃったじゃない』
球磨川は腹から週刊誌を取り出し、穴の空いた週刊誌に『
そして、ある一部屋にわかりやすく
『多分ここかな? ……不思議だなぁ。
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私こと、鬼瓦 輪は極々普通の家庭に一人娘として生をうけた。
「輪、今日の夜ご飯は何がいい? お母さんも料理がんばるから、好きなものを言って?」
「えっと……」
「母さん、急に言っても決めにくいかもしれないぞ? 輪、いいよ。ゆっくりと好きな時に言ったらいい。お父さんもお前の好きなものを食べたいから」
父も母も私に優しくしてくれたし、世界一幸せな家族だったと今でも思う。
「そうね、あなた。輪、ごめんね。いいのよ焦らなくて」
「うん!」
暖かった。もし今でもこの関係が続いていたなら、間違いなく両親を守る為に、私は剣を迷いなく振るうだろう。
……そう、今でも続いていたら。
最後に父を見たのは……知らない女の人と一緒にいる姿だった。
その後、父は書き置きもなしに家から出た。
愛人と蒸発したのだろう。
その時の母の顔は……とても見ていられるものではなかった。
「……お母さん?」
「輪、あなたは今からこのお面をつけるのよ?」
「これ……可愛くない」
鬼の仮面をつけることを拒否した私に、母はそれこそ鬼神のように怒鳴りつけた。
「ーーいいからっっ!! つけろって言ってんのよ!!!」
「!!?? おかあさん!? やめて! 痛いよぉ!」
母は私を押し倒し、無理やり私に
「二度とあの人の顔を私に見せるな!! この忌子めぇっっ!!!」
ーーもう、私の知る優しいお母さんはそこにはいなかった。
それ以降、私は人前で鬼の仮面を外すことを恐れた。小学校、中学校、そして高校である今でもそうだ。
人前で仮面を外すことが恥ずかしい。
仮面をつけている時だけが、優しいお母さんが戻ってきてくれる、許されたと思える。
そう、安らげるのだから……
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「……そうか、自分は気を失っていたのだな」
「ごめんなさいです……おねぇ様」
「いや、ののは悪くないぞ? ……思い出したくもないが、あの転校生は?」
「あいつなら、男子達が寮に運んでいったのです」
『そうか』と鬼瓦は再びベッドに横になる。
もちろん、仮面がないため手で顔を隠しながらだ。
「自分は……情けない。天下五剣の筆頭が来たばかりの転校生なんかに……」
ーー完敗だった。こんな屈辱は生まれて初めてだ。長く
「おねぇ様……あ、今から寮母長から食事を受け取ってきますの! おねぇ様、何かご希望はありますか?」
「そうだな……何か手間のかかる物を頼む」
「……? わかりましたの」
百舌鳥野はそそくさと鬼瓦の部屋から出て、ドアを開けて出て行く。
「……行ったぞ? そろそろ出てきたらどうだ?」
鬼瓦は目前にある大きなクローゼットを睨みつける。
『じゃーんっ! ドッキリだーいせーいこーう!』
球磨川は「待ってました」とばかりにクローゼットから飛び出す。
「……用が済んだらさっさと出て行け。他の五剣は優しくはないぞ?」
仮面を外した今の鬼瓦の素顔は……見紛うことのなき美少女だった。
首元で切り揃えた短く綺麗な黒髪。吸い込まれるような紫色の瞳。整った顔立ちは一瞬人形かと思うほどに美しい。
『んもー。せっかくお見舞いに来たのにそんなムッツリ顔しないでスマイルスマイル! 過負荷はどんな辛い時でもヘラヘラ笑うんだぜ?』
クローゼットから飛び出した球磨川を鬼瓦は顔を片手で隠しながら苛立たしげに見つめる。
「貴様が気配も無しに部屋に来た時は正直驚いたぞ」
『だって僕の気配はもう「
球磨川の言っていることが全くわからず、鬼瓦は眉をひそめる。
「……貴様、私の仮面に何をした?」
『うーん……僕の過負荷は説明してもなかなか信じてもらえないからさ。……ちょっと見てて』
球磨川は学ランの懐から週刊少年ジャンプを取り出し、鬼瓦の前で跡形もなく消して見せる。
「!? 今、漫画雑誌が……」
『そう、僕の
「……そ、んな……」
鬼瓦は自分の仮面が二度と戻らないことがわかり、
『ごめんね、僕にはこれが精一杯だったよ』
「え……」
球磨川は制服のポケットから「
彼が今手に持っている仮面は、ちょうど片目を隠せるほどの大きさになっている。
「私の仮面! どうして……? もう戻らないのではなかったのか……?」
『今の僕の「
故に仮面の断片が残った。想いの足りない所があり他の部分は「
無いよりはマシと考え、鬼瓦は球磨川の手から仮面をかすめ取り、早速片目部分につける。まるで眼帯だ。
『うん、やっぱり顔が見えてる方がいいよ』
「なっ……あまりこっちを見るな」
鬼瓦は顔を赤くして、球磨川から顔を背ける。
「私の顔は……その……醜い、から」
--母からも憎まれ、叩かれた。彼女の前でお面を外すと容赦なく『醜い顔』と罵られる。
母が言うのだからみんなもそう思うのだろう。鏡で自分の素顔を見てみると目つきも悪いし……きっとこの男も私を醜いと思うに違いない。
『はぁ? ……何言ってんの? 君は世界中の女子を全員敵に回すつもりかい?」
球磨川は心底不愉快そうに顔をしかめる。余りの不愉快さで括弧が外れかかっている。
「え?……お前は何を言ってーー」
『すっっごく綺麗な顔をしているのに、もったいない! 輪ちゃんはもっとその綺麗な素顔を堂々と晒して世界中の男子に夢を与える必要があるんだぜ? それを隠してどうすんの!?』
「え、ええっ!? えっと……その……」
珍しくガチギレしている球磨川の気迫に押され、怯んでしまう鬼瓦。
今の彼女の顔はリンゴのように真っ赤だった。
「そ……そんなことを言われたのは……は、初めて……だ」
『……へぇ〜自覚のない美少女が一番タチが悪いね』
「び、びびびびびびっ!?」
美しいと言われたのも初めてだったようだ。
戦っていた時の凛とした姿とは百八十度違う。今の鬼瓦は恥ずかしがっているただの女の子だ。
我に帰った鬼瓦はごほん、と咳払いをする。まだ若干、頰が赤い。
「と、とにかく! ご苦労だった。お礼と言ってはなんだが……いや、というかお前のせいだったような……」
『いきなり斬りかかってきたのは輪ちゃんのほうじゃん。謝ってよ!』
「その前に生徒を襲っていたのはお前だろうが!!」
鬼瓦は感情に任せてつい叫んでしまったが、最初に球磨川に会った時のような不快感は……もう無かった。
自分にツッコまれながらも笑う球磨川を見て、怒る自分がバカらしくなり呆れながらも自然と鬼瓦も笑ってしまう。
ーーこんなに笑ったのは久しぶりだ。
球磨川は楽しそうに明るく笑う鬼瓦をじっと見つめる。彼の顔に安らかな笑みが浮かぶ。
『……ねぇ、
「ん? なんだ?」
鬼瓦は球磨川の方に振り返り、まっすぐと彼の目を見つめる。
彼女の姿があまりにもまぶしすぎて球磨川の心臓の音がいつもよりも大きくなってしまう。
ーーやれやれ、この球磨川禊ともあろう者が緊張するなんて。
『輪ちゃん、明日デートしない?』
「ーーーー!!??」
鬼瓦は今までにないくらいに取り乱し、ゴロゴロとベッドから転がり落ちた。
「お、お前! 本気で言っているのか!?」
『本気の本気さ。じゃなかったらわざわざ女子寮まで会いに来ないよ』
「……だ、だが、私はともかくとして……学校外に出るには他の天下五剣の許可がいる。他の四人を説得しなければ……」
少しずつ冷静さを取り戻し始める鬼瓦。
もしかしてたらこの男なら他の五剣を力づくでも説得できるのではと。
『なーんだ、じゃあやーめた』
「……え?」
『他の三人と戦わないといけないかもってことなんでしょ? 輪ちゃんが筆頭なんだったらぱっぱとどうにかなるもんじゃないの?』
「馬鹿なことを言うな馬鹿者ぉ!! 逆にトップだからこその責任がある!! 他の五剣の了承が無ければこの話は無しだ!」
球磨川の突然な手のひら返しに「こいつに期待した自分が馬鹿だった」と鬼瓦は意気消沈してしまう。
『そんなガッカリしないで輪ちゃん。……デートは学園の外でしなきゃいけないなんて誰が決めたんだい?』
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球磨川はデートの詳細を話した後、すぐに帰っていった。日が沈み時間帯はもう夜になっている。
「……」
「あの〜
「あ、あぁ! ののか! いや、なんでもないぞ! ほ、ほんとうになんでもないぞ!」
ーーデート、か。
鬼瓦は机の上に置かれた週刊少年ジャンプをチラリと見る。球磨川の未読のジャンプに対する想いは相当に強かったようだ。
五分経ったら自然と元に戻っていた。
『それ、まだ読んでないからちゃんと返してね』
球磨川が残した言葉が鬼瓦の頭の中を
鬼瓦は中身が気になってしまい、つい手にとってパラパラと読みだしてしまう。
ーーやれやれ、逃げないように予防線を張るとは……なかなか慎重な性格なのだな。
「おねぇ様、それは漫画雑誌ですの?」
「あ、あぁこれは……そうだ。私がある生徒から没収したものだ」
「へぇ〜」
鬼瓦が誰もいない部屋で一人で笑うことはないだろう。たぶん自分が部屋から消えた後、こっそりと転校生と話していたのだと。
「な、何がおかしいんだ!? もう寝る!」
鬼瓦はこれ以上の追求を恐れて布団を被る。
百舌鳥野が眠ったタイミングを見計らい、再び続きを読み進める。
するとあるページに紙が挟まっていることに気がついた。でっかく『オススメは次ページ!』と書かれている。
「『落ち込め! ネガ
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亀鶴城は自室に戻った後、妹分である
「メアリおねぇ様! 一体どういうことですの!? 『今回女子寮に侵入した男子生徒には絶対に手を出すな!』なんて」
「……蝶花。あの生徒に絶対に手を出してはダメよ。みんなも例外ではなくってよ」
「どうして!? おねぇ様があんなモヤシにやられるなんてありえないですわ!」
蝶花は亀鶴城に球磨川の話題が出した時に、彼女の肩が小刻みに震えていることがわかった。
よく見ると顔色もあまり良くない。顔面蒼白だ。
「メアリ……おねぇ様……?」
「誰でも彼に勝つことは簡単よ。おそらく警棒を持った一般の女子生徒でも勝てますわ。けど……その代わりに大切なものを確実に奪われてしまいますわ」
亀鶴城は顔を両手で抑えて、蝶花に泣き顔を見られないようにする。
「わたくしは五剣の一人として恥ずべきことをしましたわ……自分の手柄を考えてばかり。傷つけられた輪さんのことを考えもしなかった……。それどころか輪さんや蝶花、あなたも……下手すれば大きな危険に晒されるところだった」
亀鶴城は初めて、妹分である彼女に泣きついた。
「おねぇ様……」
「蝶花お願い。もう生徒の誰にもわたくしと同じ目に遭ってほしくないの。特に大切な妹分であるあなたには……」
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「ここが講堂だ。ほら、そこにでかい大仏様があるだろう?」
『やっぱりあるんだ……ここって仏教校だったの?』
「さぁな……ってお前何しているんだ!」
球磨川は仏像のあちらこちらを触り、何かを探している。
『いや、どっかにあるスイッチみたいなのを押したら動かないかなぁって』
「動くわけないだろ、馬鹿者!」
鬼瓦は未だ起動スイッチ捜索を続ける球磨川を殴りつける。
『あいてぇ』
翌日、鬼瓦と球磨川は約束通りデートをすることになった。
今はちょうど昼過ぎ、外では日がまだ照っていて暑い。講堂の中の方が日陰がある分、まだ涼しく感じる。
「この学校を私と回りたいとは、お前は本当に変わっているな球磨川」
『名前! 覚えててくれたの!? いやぁ、感動だなぁ』
「言い過ぎだ。自分もお前みたいなやつを忘れることなどできん」
ーー初登校でほとんどの女子生徒にナンパするようなやつなどはな。
講堂を出た後は適当に飲み物を買って、噴水広場で球磨川と鬼瓦は談笑した。
『そういえば輪ちゃん。僕のジャンプは持ってきてくれたかい? 今週のが気になって夜も眠れなかったよ』
「あぁ、あるぞ。読んだおかげで私はぐっすりだ。特にお前のオススメは面白かった」
『やったぁ! 輪ちゃんが「ネガ倉くん」を気に入ってくれてよかったよ! 「抹殺教室」とかどうだった?』
「あぁそれも面白かった。けど、お前のオススメはもっとだったよ。ネガ倉は主人公と彼のストーリーが最高だ」
『落ち込め! ネガ倉くん』はある学園が舞台で、落ちこぼれで負けてばっかりの主人公が特徴的だ。
どうしようもない不幸が毎回彼を襲い、挫折し、そして困難を仲間と共に乗り越える。
最後に主人公は仲間と共に、幸せすぎて歪んだ宿敵『ポジ
『……そっか』
「どうした? 球磨川、そんな顔をするなんて。いつもヘラヘラ笑ってるのがお前なんじゃなかったのか?」
「おかしなやつだな」と鬼瓦は微笑む。
球磨川は一瞬だけ悲しげな顔を鬼瓦に見せた後、安らかに笑う。
『ジャンプは……僕にとっての人生の教科書なんだ。そりゃあ、現実は友情、努力、勝利ばっかじゃあ上手くいかない』
ーー僕は……ネガ倉くんみたいにはなれなかった。いつも仲間が周りにいるわけでもなかったし。僕から見れば、ネガ倉くんはまだ幸せ者だ。
『人は無意味に生きて、無価値に死ぬ。それが真理だと、今でも僕は思っているよ』
次に球磨川が開いた口から出たのは同年代とは思えないくらい、重い言葉と重い想いだった。
『現実はすごく辛くて非情だ。ご都合主義なんてないし、あっさりと人は死ぬし、理不尽なんていくらでもある。僕は今までそれをずっと経験して、受け入れてきたよ」
鬼瓦は不思議と球磨川の口調に張り付いていたメッキが、徐々に剥がれていくのがわかった。
ーーこれが……球磨川の本当の気持ち。
「けど……ジャンプは、特にネガ倉くんは僕に教えてくれたよ。どんな理不尽な目にあっても諦めちゃダメだって。立ち上がれって。その姿がどれだけ醜くてもね」
ーーネガ倉くんからは
「他のジャンプの作品の主人公には正直僕は嫉妬した。結局はいずれの主人公も何かしらの才能を持ってる人達だもん。けど……」
普段の球磨川が浮かべることのない、月明かりのように淡く輝く笑顔を……鬼瓦は見た。
「僕は幼稚園の時から、そんな
ーーそして、他の作品からは信念を。
「彼らもまた……僕に憧れをくれたから。弱い人が本当に困っている時に助けてくれる、甘くて愚かすぎる正直者に理不尽を与える
ーー自らの
「球磨川……お前……」
ーーおっと、つい本音で話してしまった。どうもこの学園に来てから心を揺さぶられっぱなしだ。
ふっといつもの様子に戻った球磨川は噴水の側にあったベンチから立ち上がる。太陽が照っていた昼から、辺りは暗くなりかけてもう夕方になっている。
『今日はありがとう、
「ふふ……じゃあ私のファーストキスを奪った仕返しになったわけか」
『……また勝てなかった。けど、初めた勝負は2勝1敗で僕の一点リードだ』
「随分と負けず嫌いなのだな」
『ウチのおせっかいな生徒会長のせいでね』
笑いあった後、
「……ひょひょひょ。……これはこれは、鬼姫が何かと面白いことをしておるのぉ。なぁキョーボー」
「ルガァアアルルル……」
……そんな甘酸っぱい二人の様子を見ていた人影と……人でない大きな影が二つ。
「へぇ〜。鬼ちゃんって〜、ああいう人が好きなんだ〜」
「……滅」
そしてもう二人。