球磨川君が武装少女達の学園に視察に行くようです。   作:ゼロん

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我慢しきれなくて早めに出しちまったよ。


マキャヴェリズム:どんな手段や非人道的行為であろうと、結果として国家の利益を増進させるのならば許されるという考えである。





後編 ー最終層 『GOOD LOSER GOOD LUCK』!!

「なぁ球磨川(くまがわ)。お前の「大嘘憑き(オールフィクション)」は……現実(すべて)を無かったことにする能力……だったよな?」

 

『うん、そうだよ。今更何か聞きたいことがあるの?』

 

「さとりに脅された時……その『大嘘憑き(オールフィクション)』で写真自体を消すことはできなかったのか?」

 

 球磨川は歩く足を止め、進路を変える。

 

「……球磨川?」

 

(りん)ちゃん、帰る前に……ちょっと寄り道してもいい?』

 

 

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 球磨川は寄り道の際に自身の能力の弱点について全てを伝えた。

 

「そうか、お前の能力は……万能というわけではないんだな」

 

『もちろんだよ。『なんでも無かったこと』にできるとかどんなチートだよ、それ』

 

「人を生き返らせるだけでも十分反則級(チート)だがな」

 

 球磨川曰く、彼の能力は()()()()()()()()()()しか無かったことにできないらしい。

 

 最初、彼は確認のため鬼瓦(おにがわら)と一線を超えたという()()を無かったことにしようとしたのだ。

 

『その事実が無くなれば写真もデータも全部無駄になるしね。僕、テトリスは一気に三、四列同時に消したい派なんだ』

 

「無かったことにできなかったから……か。じゃあ()()()()()写真を消せば……」

 

『まぁ当然の疑問だよね。輪ちゃん、あの時にさとり……いや「ミソギ」ちゃんが持っている写真を消しても、実は根本的解決にならなかったんだ』

 

「え? ……あ、まさか」

 

 球磨川は歩きながら薄ら笑いを浮かべ、鬼瓦の方を振り返る。

 

『そう、あの慎重で謀略家の「ミソギ」が画像のバックアップデータを残していないわけがないんだ』

 

 鬼瓦は手を口元に当て納得する素振りを見せる。

 

「写真一枚を消されたところで、データさえあればいくらでも刷れるし痛くも痒くもない……か」

 

『そう、それに僕の「大嘘憑き(オールフィクション)」……もとい「劣化大嘘憑き(マイナスオールフィクション)」は非常に不安定(マイナス)過負荷(マイナス)だ。乱発はできないし、最悪()()()()()()を無かったことにしちゃうからね』

 

「ーーっ!?」

 

 ーー世界を消しかける程の危険すぎる力。この男は一体、心にどんな闇を抱えて生きているのだ……!?

 

『かといって、放っておいてインチキエロ画像をネットにばら撒かれても厄介だからね。ご機嫌をとっておいて、隙を突こうと思ったんだ。けど……たぶんあれ以上はもたなかったと思うなぁ』

 

 球磨川が根を上げそうになるほどの拷問。一体どんな事をされたのか。それを知るのは今となっては「ミソギ」と(拷問をうけた本人)だけだ。

 

『そう言ってる間に着いたね』

 

「ここは……病棟? 誰に会いに行くんだ?」

 

『決まってるじゃないか。眠目(たまば)姉妹、さ』

 

 

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「……帰ってくれる〜?」

 

 さとりは表情を隠しながら薄ら笑いを浮かべている。ミソギは……さとりの病室にはいない。

 

『あらら、嫌われたもんだね』

 

「いや、嫌われてもおかしくない事をしたと思うんだが……まぁ今回はどっちもどっちか」

 

 さとりは乾いた笑みを浮かべ、二人のやりとりを見つめる。

 

 今の彼女の瞳には、一週間前のような爛々(らんらん)とした狂気も、生気の欠片も感じられなかった。

 

「……ごめんね〜。こんな時にどういう顔をすればいいのか〜……ねぇ、球磨川くん。今さとりはどんな顔をすればいいのかなぁ〜……」

 

『……さぁ? 別にしたいようにすれば良いと思うよ?』

 

「え?」

 

『あ、帰ってきた。ミーちゃ〜ん!』

 

 さとりの病室の外から足音が聞こえる。お茶を持ってミソギがやってきたようだ。

 

「球磨川さん、鬼瓦(おにがわら)さん。いらっしゃい。二人が来ると聞いて、急いでお茶を持ってきました! 冷めないうちにどうぞ!」

 

『ん、ありがと』

 

「ああ、かたじけない」

 

 球磨川と鬼瓦は丁寧にお茶を受け取る。湯気が立っているところから、いれたばかりのようだ。

 

「あ、さとりの分も」

 

「……ありがと」

 

 さとりは右手を骨折しているため、左手でお茶を受け取る。笑顔でお茶を差し出してくる姉に対して、彼女は若干戸惑っている。

 

『結局、名前は元に戻さずそのままにしたんだね』

 

「そうみたいだな」

 

 球磨川達は微笑んで姉妹を見つめる。

 さとりはまだ心の整理がついていないらしく、まだ姉との接し方について当惑しているようだ。

 

「あの……おね」

 

「いいの。無理しないで?」

 

 ミソギはさとりの手を握り、優しく諭す。

 

「誰にだってあるの。どう感情を表に出したらいいのかわからなくなる時が」

 

「そう、な……の? わからない、わからないや……」

 

「だから……ゆっくり、ゆっくりでいいの。またやり直しましょう?」

 

「あ……」

 

「ごめんね、『ミソギ』。ずっと……独りにして。でも、あなたはもう一人じゃない。……私がいるもの」

 

『ミソギ』は自分の手のひらに落ちるものに気づいていなかった。『さとり』が優しく語りかける度に目から出てくる熱いものの正体がわからなかったのだ。

 

「けど……ボクは、ボクはーー」

 

「あなたは感情がない化け物なんかじゃないわ。ただ感情が表に出にくいだけなの」

 

「……わ、わからない。ボクは……もうミソギなのか……さとりなのか……わから、わからーー」

 

『さとり』は『ミソギ』の左腕にもう片方の手を乗せる。『さとり』は妹を安心させるように優しく微笑んだ。

 

「あなたは私の……世界でたった一人の妹よ」

 

「……!!」

 

「あなたは人間よ。化け物なんかじゃない。私は……あなたを愛してる。大好きよ」

 

 その日、『ミソギ』は生まれて初めて泣いた。他人がいるにもかかわらず、みっともなく泣いた。

 

 ただ……その時に『ミソギ』が感じたものは今まで見たものよりもはるかに暖かかったという。

 

 数分で泣き止んだ後、さとりはミソギから離れ球磨川達に向き直る。

 

「あっ……ごめんね〜。球磨川くん、せっかく来てくれたのに〜、ちょっと……ボク、何を君たちにしたらいいのか……」

 

「焦らなくていいんだぞ。そうだ球磨川。お前、携帯持っていただろ? 連絡先を交換しておいたらどうだ?」

 

『……』

 

「球磨川?」

 

 少し考える素ぶりをした後、決心をしたかのように球磨川はさとりに声をかける。

 

『……眠目ちゃん! 今度一緒にカラオケに遊びに行かない? 今、ケータイ持ってる?』

 

「うん、あるよ〜!」

 

「……」

 

 

 

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 さとりが鬼瓦と部屋で今後についての相談をしている最中、球磨川は病室の外でミソギと一緒に彼女らの話が終わるのを待っていた。

 

『けど、ミーちゃん。本当に良かったのかい?』

 

「何がです?」

 

『君の妹は文字通り、君の全てを奪った相手だけど……()()()彼女を許していいの?』

 

 球磨川は整った舞台を再び台無しにしようと、甘い言葉でミソギを誘惑する。

 

『僕ほどではないにしてもさぁ、名前も、姉という立場も全て奪われた挙句に彼女にこっぴどくこき使われていじめられたんでしょ? 妹を見下していたかつての君の罪悪感を利用してさ。そんな狡猾で残酷な彼女を……本当に愛せるのかなぁ?』

 

 球磨川はミソギの身を案じるかのように優しく諭す。それが過負荷(マイナス)に導く誘いだと気づかぬように。

 

『僕はそうは思えないなぁ。愛してるだなんて言ってたけど……。本当はそうじゃないんじゃないの?』

 

「球磨川さん……?」

 

『本当に君がしたいのは……「愛」なんて美しい言葉で妹を「()()()()」ことなんじゃないのかい? ……()()()()()()()

 

 球磨川はミソギから拷問の時に全て彼らに関する話を聞き出していた。過去に彼女が妹を高いところから見下ろし、彼女を嘲笑っていたことを。

 

「……」

 

 独占欲、支配欲が特に強かった姉は妹が自分と同じ位置に立つことを許せなかったことを。

 

『僕はこういった相手の負の感情を見抜くのが得意でね。君の薄っぺらい笑顔の下も、取り繕った偽善の仮面の下も全部……ね』

 

 そして……妹に底辺に突き落とされ、初めて見下ろされる者の気持ちがわかったことを。

 

『……あまり過負荷(マイナス)を舐めるなよ?』

 

『お前の支配欲はまだ潰えていないのではないか』『また支配したくないのか?』と球磨川は誘惑しているのだ。

 

『いいんだよ、ミーちゃん。ありのままの自分をさらけ出して、全部奪い返しちゃえばいいじゃない。君はそれだけ酷い仕打ちを受けたんだ。本当は……()()()()()()()()()()()()()()()()んだろう? 君の言う「愛」って言うのは「憎しみ(合い)」ってやつさ』

 

 甘く、腐っていて、それでいて楽で。不幸で最低な方へと。

 

「違います」

 

 ミソギは強い意志を持った目で真っ直ぐ球磨川の闇色の瞳を見据える。

 

「私は妹にありのまま、自分のまま生きてほしい。そう思っているだけです」

 

『本当にそうかな? 君は心の底では怒っているはずだよ。まだ恨んでいるはずだよ。全てを奪った妹のことを』

 

 ミソギは球磨川の声がかつての自分の声……いや、今の自分の負の面そのもののように思えた。

 

 この声を受け入れれば楽になれる。君は悪くない。悪いのは全て妹なのだと。

 

「えぇ。恨みも怒りもまだ私の中にあります。けど……その感情が向いているのは妹ではなく、私自身です。妹を孤独にさせ、歪ませてしまったのは……私にも責任があります」

 

『……そうだね。その結果、君の妹は異常(プラス)ではなく過負荷(マイナス)に近くなってしまった。手段を問わず自分の居場所を求め続ける哀れな子供として、マキャベリズムの体現者となったんだ』

 

「それでも……私は妹を助けたいです」

 

『……』

 

「あの子はどんなになっても、私の大切な妹ですから」

 

 いくら甘い囁きを言われようとも全く揺らがないミソギを見て、球磨川は満足げにやれやれと困った素振りを見せる。

 

『はぁ……動揺もしないなんてね。揺さぶりがいがないなぁ』

 

「……試したんですね。球磨川さん」

 

『それも一つだけどね。ミーちゃん、忠告しておくよ。君の妹の抱える過負荷(マイナス)。君が思うほど甘くもないし軽くもないよ?』

 

「わかっています。私も彼女の過負荷(マイナス)に屈服した身です」

 

『……。ならいいんだ。けど、絶対に油断しないでね? その隙をついて、僕は君の妹を完全に過負荷側(こちらがわ)に喜んで迎え入れるから』

 

 球磨川はニタニタと意地悪く笑う。

 

 ーー楽な方へ楽な方へ。考えなくてもいい、どんなにダメでもいいんだ。堕落を受け入れ、どこまでも落ちていくのが過負荷(マイナス)なのだから。

 

「……素直でない方ですね」

 

『何言ってるの? 僕は腐っても過負荷(マイナス)だ。一緒に仲良く誰かとどこまでも堕落したい。どこまでも怠惰(マイナス)最低(マイナス)人種(マイナス)さ』

 

「ふふ、わかりました。球磨川さん、警告ありがとうございます。けど……妹をあまり舐めないでください」

 

『ん?』

 

「私の妹は凄いんです。あなたも覚悟してくださいね。きっとあなたの悪意なんて……彼女は笑って跳ね返しちゃいますから」

 

 ふふっと得意げにミソギは笑う。妹の側にずっといたからこその信頼。彼女の強さへの信頼。たった一時の言葉程度では……彼女の妹への信頼(プラス)は崩せない。

 

 そのことを悟った球磨川は敗北を確信する。

 

『……参ったな、完敗だよ。……僕の負けだ』

 

「何を言ってるんですか。私は妹を失うことが一番怖いことを、妹にどんな仕打ちを受けても、彼女を家族として愛していることを……どんな形であれ、教えてくれたのはあなたじゃないですか」

 

余計(マイナス)なことをしたもんだね僕も。だから僕は勝てないんだ』

 

 球磨川は近くの椅子に腰掛け、ため息を吐く。

 

『また勝てなかった』

 

 

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『球磨川君、また遊ぼうね〜!』と球磨川達は眠目(たまば)姉妹との短い別れの挨拶を交わし、病棟を後にした。

 

『はは、参ったなぁ。またあんな遊びだったらもうこりごりだよ』

 

「そうか、眠目には存分にお前と遊ぶように伝えておくよ……!」

 

 鬼瓦は不満気な表情で球磨川から顔を背ける。自分を差し置き目の前で別の美少女に『遊ばなーい?』などと声をかける。女としてイラつかないはずがない。

 

『ええと……輪ちゃん? なんで怒ってるの?』

 

「さぁな。自分で考えろ」

 

 ーー自分でもこの感情の正体がわからないんだ。そんなものをどう口で説明すればいいんだよ……

 

 鬼瓦は不機嫌そうに返事をする。

 

『え〜……僕どうしたら……』

 

 球磨川は突然の彼女の態度に困惑してしまう。人の悪感情には鋭い癖に、女心には鈍い彼であった。

 

「おぉ! 鬼姫(おにひめ)と……げっ、球磨川(くまがわ)……」

 

 共生学園出口の方へ向かい二人が歩いていると、見慣れた黄髪が目に入る。花酒(はなさか)とキョーボーだ。

 

『やぁ、花酒ちゃん! あの子熊(ドーモー)は元気かな?』

 

「グルルルル……ガアァウゥ!!」

 

「どの口が言いおるか……。貴様の方も、随分と鬼姫と仲睦まじいことだのぅ?」

 

 花酒は顔を引きつらせながら憎まれ口を叩く。突然の花酒の言葉に鬼瓦は動転する。

 

「なっ!?」

 

『もちろん! 僕と輪ちゃんはすでに将来を約束した仲だからね!』

 

「ばばばっばば、馬鹿者! 何を言っているんだ、お前は!? 違うぞ花酒! 私とこいつはまだそんな関係じゃ……あっ!!」

 

「ほぅ……()()、のぅ。ひょひょひょ、これは楽しみじゃのぅ?」

 

 羞恥心が限界を超え、鬼瓦は刀を抜く。彼女の豹変に花酒は愕然として青くなる。

 

「こ、このぉ……!! 待てぇ花酒ぁあああああっっ!!」

 

「ひぃ……っ!! ひょ……ひょ〜ひょひょひょっ!! じゃあの! 球磨川!! 二度とその面、(わらわ)の前に見せるでないぞ! ひょ〜ひょひょ!」

 

「ガァウーー!!」

 

 花酒はキョーボーに乗ってどこかへ去る。花酒達を追って、鬼瓦はその場から熊以上のスピードで走り去って行った。

 

「はぁ〜なぁ〜さぁ〜かあああぁっっーーー!!」

 

「ひぃぃぃっっ!! キョーボーっっ!! もっと! もっと速く! もっと速く走ってくれぇ!!」

 

『やれやれだぜ』

 

 怒った鬼瓦は五剣最年長の花酒でさえ、手に負えるものではなかったようだ。さすが五剣 現筆頭。

 

(わらび)さんったら……しんみりした別れ方が嫌だからって輪さんを怒らせる必要はなかったでしょうに……」

 

「挨拶すらまともに済ませられないなんて……ガッカリです」

 

亀鶴城(きかくじょう)さん、月夜(つくよ)ちゃん……』

 

 球磨川が後ろを振り返ると、亀鶴城と月夜が立っていた。迎えに来てくれたのだろう。

 

「それはそうと……球磨川さん。喜界島(きかいじま)……もがなさんを紹介してくださって、ありがとうございます」

 

『喜界島さんも喜んでたよ? 「月夜ちゃん、妹みたいで可愛い」って』

 

「い、妹……ですか。わ、悪くないかもしれませんね……それはそうとして」

 

 月夜は片手に持っていた週刊紙を球磨川に投げ渡す。

 

「……忘れ物です」

 

『あぁ、これはどうも。……やった! このジャンプ、最新号だ!』

 

「それはほんのお礼です。次に来た時にまた騒ぎを起こしたら……本当に斬りますからね」

 

 月夜は球磨川に背を向け、歩き去っていく。

 

 球磨川が嬉々として表紙を開くと、ジャンプが一瞬のうちに細切れになった。『チンッ』と月夜の刀が鞘に収まる音が周りに響く。

 

『うわあああああぁ!! ジャンプが! 風になって、千の風になって飛んでいく! 急いで「大嘘憑き(オールフィクション)」!』

 

 散り散りになったジャンプが『大嘘憑き(オールフィクション)』で再び一つの週刊紙に戻す。

 

『ふぅ……。なんてことをするんだ。「友情、努力、勝利」の代名詞を斬り捨てるだなんて……』

 

「あら、表面ではあの態度でも月夜さんや花酒さんも、『この一週間あなたといて死ぬほど退屈しなかった』とお礼を言っておりましたわよ?」

 

『ほんと?』

 

「さぁ? ご想像にお任せしますわ」

 

『ぐぁ〜意地悪ぅ〜』

 

「あなたほどではなくってよ」

 

 亀鶴城は得意げに口元に手を当てて笑う。

 

「……本当に楽しかったですわ。色々ありましたけども……球磨川さん、ありがとう」

 

『……。お礼を言うのはこっちだよ亀鶴城さん』

 

「え?」

 

 亀鶴城は球磨川を見て一驚する。

 

「あなたがあたくしにお礼を言うだなんて……翌日は隕石が落ちてきますわね」

 

『……僕だからいくら悪口を言ってもいいってわけじゃないんだぜ?』

 

「冗談ですわ」

 

 亀鶴城は球磨川をからかい静かに笑う。

 

『……そうやって憎まれ口を叩きながら、輪ちゃんを支えてくれたんだね』

 

 亀鶴城は納得できない素振りを球磨川に見せる。

 

「はぁ……やっぱり解せないですわね。どうしてあなたは輪さんのことをそこまで気に入ったんですの?」

 

『ん?』

 

「あなたは輪さんのことが……()()()()()なのではなくて?」

 

 亀鶴城は真剣な表情で球磨川を問い詰める。対する球磨川は相変わらずのほほんとしている。

 

『……どうしてそう思うんだい?』

 

「輪さんは……あなたと真逆の性格ですもの。お硬くて真面目で努力家な彼女。いつもヘラヘラしていて努力嫌いなあなた。不幸者(マイナス)幸せ者(プラス)とでは死ぬほどソリが合わないと思いましてよ」

 

『はっはっは、そうだね。確かに僕は本音では輪ちゃんと自分との正反対の部分が嫌いで、羨ましいと思っているのかもね』

 

「……認めるのですね」

 

『うん、僕は彼女が嫌いになっていたのかもしれない。もし彼女が……本当に()()()()()()()()()()()ね』

 

「……」

 

 球磨川の返答に納得した亀鶴城を見て、球磨川は目元を(ほころ)ばせる。

 

『もし……輪ちゃんが仲間を軽んじていて、少年ジャンプが大嫌いで、いつも人を見下す自分大好きな可愛い女の子だったら、多分嫌いになってた』

 

「あたくしはその内の二つが該当していましたが?」

 

『いやぁ、君のはあくまで表面上、建前ってやつでしょ? 亀鶴城さんは根はそんな悪い人じゃないと思うよ。そしてあの子も……違った』

 

 球磨川の言葉に過剰に反応し、亀鶴城の耳が赤くなってしまう。

 

『彼女は……自分の過負荷(トラウマ)から目を背けて逃げようとしていたけれど……彼女は仲間のためなら命がけで戦えた。ジャンプを好きになってくれた。気持ち悪い僕の話を聞こうと懸命に努力してくれた』

 

 球磨川は思い出すように少し遠くを見て、再び亀鶴城の方を見る。

 

「そんな彼女の一生懸命な部分が、僕は本当に大好きなんだ」

 

 球磨川は恥ずかしがることなく、穏やかな笑みを浮かべた。

 

『輪ちゃんは……ああ見えて僕と根っこの部分は同じだと思うんだ。仲間思いで、負けず嫌いで、とても……優しい子だって』

 

「球磨川さん……」

 

「けど……あの子は僕みたいに極端に弱くもないし、まだ強くもない。だから亀鶴城さん。これからも……彼女を支えてあげてね。彼女が僕みたいな過負荷(マイナス)にならないように、しっかりと、ね?」

 

「あなた……また括弧(かっこ)が……」

 

『括弧、はてなんのことだい? 僕はいつも、格好(かっこう)つけてるだけだぜ?』

 

オルボワール(さよなら)、亀鶴城さん。フランス語の挨拶なら、僕でも知っているんだぜ?』と別れを言い、颯爽(さっそう)と去っていく球磨川を亀鶴城は穏やかに笑い見送る。

 

ア、ビアント(また会いましょう)、球磨川さん。あなたのこと……絶対に忘れませんわ」

 

 亀鶴城は恥ずかしげに頰を赤らめ、颯爽と去っていく球磨川を見届けたのであった。

 

 

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「すまないな。少し所用ができてしまって……」

 

『あ、うん。気にしなくていいよ。僕も他の人に挨拶できたし』

 

 少し息を切らしている鬼瓦を見て、球磨川は苦笑する。

 

 ーー花酒ちゃん、一命は取り留めたみたいだね。

 

「バス停が……見えてきたな」

 

『うん、ここでお別れだ』

 

 球磨川は肩にかけた学生カバンを持ち直し、鬼瓦をじっと見つめる。彼女は何かを言いたげにモジモジしている。

 

「球磨川……その……すまなかったっっ!!」

 

 鬼瓦は頭を下げ、膝を地面につける。土下座だ。

 

『!? え、ええと。うん? なんのことかな?』

 

「色々ありすぎて言いきれるものではない! すまなかった球磨川! 今回の視察の不手際にしても、他の五剣の暴走にしても! 全ては自分の……!」

 

『輪ちゃん。頭……上げてくれる?』

 

「……わかったーー!?!?」

 

 球磨川は鬼瓦に頭を上げさせ、彼女の頬を両手でクイッと上に上げ無理やり笑顔を作る。

 

「く、くみゃがわ(球磨川)……!?」

 

『輪ちゃん、スマイルスマイル。せっかく他の五剣もしんみりにならないように工夫してくれたんだから。君がぶち壊しちゃあダメじゃん』

 

 球磨川はパッと鬼瓦の頬から手を離し、後ずさる。鬼瓦は引っ張られた頬をさすり、頬を膨らませる。

 

「お、男に触られたこともなかったのに……」

 

『もうキスしちゃったんだし、それに比べれば……ねぇ?』

 

「ば、ばっばばばばば馬鹿者ぉ!! 今それを思い出させるな!」

 

 鬼瓦は羞恥で赤面する。球磨川が思い出したかのようにポンと手を打つ。

 

『あ、そういえば!』

 

「な、何だ? まだ何かあるのか?」

 

『輪ちゃん、仮面外したんだね。可愛いよ?』

 

「えぇ!? もう一週間前からだぞ!?」

 

『ごめんね、気づかなかった』

 

「馬鹿者……」

 

 球磨川は目に見えるくらいに落ち込んだ彼女を見てケラケラと笑う。

 

『あっははは。やっぱり真面目な人をからかうのは面白いなぁ』

 

「……。最低だ」

 

『あ〜ごめん。スネないでよ。そうだ、これ僕からのプレゼント。大事にしてね』

 

 球磨川はカバンから中ぐらいの箱を取り出し、鬼瓦に手渡す。

 

「これは……」

 

『僕なりの感謝の印さ。箱や中身もこだわって選んだんだから』

 

 球磨川のプレゼントは高校生の男子にしては、かなり凝っていた。シンプルな水色一色の箱には二つの青い花と赤色の綺麗なリボンがつけられていて、中身もそれなりに重かった。

 

『僕の()()()()さ。』

 

「上手いことを。中身は……いや、後で開けるよ」

 

『うん、そうしてくれると嬉しいな。あ、バス来た。じゃあねーー! 輪ちゃん!』

 

「あ……! 待ってくれ、()!!」

 

 ーーどうしても、どうしてもこれだけは伝えないと……!!

 

 球磨川は鬼瓦の声を聞かず、バスの元へ走り去ってしまう。鬼瓦は遠くにいる球磨川に聞こえるように、大きく息を吸う。

 

(みそぎ)ぃっ!! お前を好きになってーー私は幸せだったぞ!!」

 

 一呼吸。そして、鬼瓦からもう一言。

 

「ありがと~~うっっ!!」

 

 

 

「じゃあね、輪ちゃん。また……今度とか。」

 

 

 

 球磨川の乗ったバスは地平線の彼方に消えたのに、聞こえるはずのない彼の声が……鬼瓦には聞こえた気がした。

 

 

 

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 球磨川と別れた後、鬼瓦はダッシュで寮に戻った。球磨川のプレゼントの箱を机の上に乗せる。

 

「あいつのプレゼントは……何だろうな」

 

 鬼瓦は相手は球磨川だとわかってはいるものの、自然と頰が緩みドキドキしてしまう。心臓の音が周りに聞こえてしまうと思うくらい体の中で響いている。

 

「んん!? いやいやいや! あまり期待するな自分! 球磨川のことだ。どうせロクでもないものに……!」

 

 頭をブンブンと振るい、両頬を両手で叩き気合を入れる。覚悟を決め箱を開封する。

 

「……ほら、やっぱり」

 

 中に入っていたのは水色のパンツーー

 

「……。球磨川のばぁかものぉぉおぉぉ!! 誰が履くかァァァァァッッ!!」

 

 鬼瓦は頭を両手で抑え、感情に身を任せてベッドに飛び込む。何度もベッドの枕をポカポカと殴りつけ八つ当たりをする。

 

 箱のパンツの上に置いてあった書き置きには『輪ちゃんはこのパンツが似合うと思うよ! これをはいていつでも僕を思い出してね!』と変態じみたコメントが書かれていた。

 

「ぅぅぅ……くそぉ。お前らしいといえばお前らしいけど……! 流石にこれはないだろ……ぅぅぅ」

 

 鬼瓦は弱々しい足どりで机に戻り、パンツを棚に蔵おうとする。

 

 箱をさらにのぞいて見ると、中にはもう一つプレゼントがあった。それは……『落ち込め! ネガ倉くん』のコミックス第一巻だった。しかも新品。表紙の(おび)には「アニメ化決定!後は落ちるだけ。」と書かれている。

 

「なんだ、他にもあったのか……(みそぎ)

 

 鬼瓦が本を開くと、ページの隙間から一通の手紙が床に落ちた。

 

「これは……禊の?」

 

 鬼瓦は急いで手紙の封を解き、中身を確認する。そこにはこう書かれていた。

 

『ごめんね! 口で言うのが気恥ずかしくって大事なことは全部手紙に書いちゃった!』

 

『てへぺろ』と舌を出す球磨川の様子が鬼瓦の眼に浮かぶ。しょうがない奴だ、と思いながら鬼瓦は彼からの手紙を読み進めていく。

 

『まず初めに……輪ちゃん。

 君が僕を眠目ちゃんから助けに来てくれた時から……君があの鬼の仮面を外していることに本当は気づいていたんだ。

 

 ようやく君は、自らの過負荷(マイナス)に勇気を出して向き合い始めたんだね。おめでとう』

 

「私の力なんかじゃない……お前や亀鶴城達がいてくれたから……」

 

『ズバリ! 全部仲間や僕のおかげだって、前の行を読んだ君は言うだろうね。君は律儀だもん。そう考えていると思うけど……それは違うんだ』

 

「え……?」

 

 鬼瓦は目を見開いてさらに球磨川の手紙を読み進める。

 

『僕や亀鶴城さんは君にきっかけを与えただけだ。君の過負荷(トラウマ)に向き合えたのは、他でもない君自身の力だ。そこは自信を持っていこうよ!』

 

「みそ……ぎ……ひぃく……ぅぅ」

 

 鬼瓦は自分の目元を手紙を持っている方とは別の片手で抑える。

 

 そこから先は亀鶴城にも語った内容と同じもの、球磨川の鬼瓦に対する本当の想いが綴られていた。

 

『最後に……僕から君への激励(げきれい)だ。

 

 多分、これから君はもっと多くの試練や困難を、理不尽を経験すると思う。

 

 僕の仲間には異常(アブノーマル)優秀(スペシャル)な奴らがたくさんいるけれど、普通(ノーマル)な君は彼らとは違う。

 

 多分努力して何度も何度も挫折するのだろう。努力家(プラス)真面目(プラス)な君ならなおさらだ。

 

 けど、大丈夫。

 君には一緒に悩み、一緒に困難と戦える仲間がいる!

 

 仮面だって、僕たちがキッカケになって外せた。僕も君たちがいたから今もこうして笑っているよ!

 

 一人で全部抱え込まないで。

 

 きっと一人でできないことも、仲間と一緒なら絶対にできるはずだから。

 

 それでもどうにかならない時は、迷わず僕を頼ってね。

 

 僕はいつだって弱いものの味方だから。

 

 ありがとう、輪ちゃん。

 

 僕はこの共生学園(きょうせいがくえん)での一週間と、五剣のみんな

 

 そして君を……絶対に忘れない。無かったことにしないと心から誓うよ。

 

 君の仲間想いで、一生懸命なところ……

 

 甘いけど、嫌いじゃなかったよ。

 

 連絡先 ーー ーーーー ーーーー

 

 メールアドレス 〇〇misogi .co.jp

 

  混沌より這いよる過負荷(マイナス) 

        球磨川 禊より過負荷をこめて』

 

「……ほんと、勝手な奴だよ。お前は。言いたいことだけ言って私の前から消えていくんだからな……!!」

 

 鬼瓦はそっと机の上に手紙を置き、机の引き出しから彼女の携帯と封筒を取り出す。

 

 

「ーーまた会おう、球磨川 禊(くまがわ みそぎ)

 

 

 そして球磨川へのメールに彼女はこう文字を打った。

 

 

GOOD LOSER(くまがわ) GOOD LUCK(元気でやれよ) !!』と。

 

 

 ====================

 

 

 数ヶ月後。

 高校三年生である球磨川は箱庭学園を卒業した。大学にも就職にも全て失敗した状態で。

 

 その後、数人、高校からの知り合いと会ったきり、彼への連絡は全て途絶えた。情報社会の現在に勝ち目のない戦いを挑むように。

 

 球磨川はケータイを全機種揃えていた男だったが……彼が消息を絶った際に彼自身の手で、彼のケータイは全て処分された。

 

 たった一つ、共生学園の生徒の情報が入った物を除いて。

 

 

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 共生学園の校庭で、一人の無刀の剣士、ノムラが外敵に挑み……その力の前に沈んだ。

 

「ぐ……がっはぁ……!!」

 

 女性の手がノムラの腹から引き抜かれ、彼は血を流し力尽きた。

 

「少しは腕を磨いたかと思いきや……この程度だったか」

 

「ノ、ノムラァッッーーー!!」

 

 球磨川が箱庭学園(はこにわがくえん)を卒業してすぐ、共生学園に危機が訪れる。『女帝(じょてい)天羽(あもう)の襲来である。

 

 女子用の学生服を身に纏い、闇のような黒色の長髪に風が当たりはためく。まるで王のマントのように。

 

「さて……次はお前だ、鬼瓦とやら。自慢の五剣とやらも、眠目……やあの盲目の白兎(しろうさぎ)以外は大したことがなかったな?」

 

『女帝』は指を鳴らし、支配下に置いた男子生徒を呼び寄せる。

 

「疲労し切った貴様の相手はこの雑魚どもで十分だ」

 

「り……(りん)……さん」

 

「亀鶴城!? もう動くな! 後は自分がやる!」

 

 亀鶴城は腹を斬られてもなお、体を引きずり鬼瓦の元へ駆けつける。

 

「球磨川……さん……は……?」

 

「……先ほど電話をしたのだが」

 

 鬼瓦は下を向き、諦念の色を顔に浮かべる。

 

「そ、う。 きっとあの人も……忙しんですのね」

 

「あぁかもな……だがもし来たとしても、その時は……『もう終わったよ』とアイツの前で格好をつけてやるさ!!」

 

「その意気……でしてよ……!」

 

 亀鶴城はフラフラと立ち上がり、鬼瓦の横に並ぶ。二人は女帝に剣を構え、高らかに吠える。

 

天下五剣(てんかごけん) 筆頭! 鬼瓦 輪(おにがわら りん)!!」

 

「同じく、天下五剣が一人! 亀鶴城(きかくじょう) メアリ!!」

 

「「学園の秩序を乱すお前達は自分(あたくし)達が矯正する(してやりましてよ)っっ!!」」

 

「はっはっは! 面白い……!! お前たち、迎え撃ーー」

 

 五剣の生き残り二人と女帝一派がぶつかる直前、女帝は後ろを振り向いた。

 

「こ、これは……!? どういうことだ……。この私の僕どもが、全滅……だ、と?」

 

 彼女たちが見たのはーー巨大な螺子が突き刺さり全滅した『女帝』天羽の哀れな部下達だった。

 

「こ、これは……仲間割れ……いや」

 

「……そういうわけではなさそうですわね」

 

『いいや』『相打ちじゃあこうはならないよ』

 

 共生学園校庭に懐かしくも、最低な男の声が響く。

 

『四十人全員が同じように串刺しにされている』『仲間割れだろうとみんな同じ武器で、同じタイミングで互いを刺し殺すなんて不可能だ』

『これは明らかに第三者の仕業に違いない』

『一体どういう目的があってこんな面白半分の惨状を演出したのかはさっぱりわからないけれどーー』

 

「!? 何者だ、お前……!」

 

『おおっと!』『勘違いしないでおくれ』

『僕が来た時にはもうこうなっていたんだよ』

 

『だから』

 

 【混沌より這い寄る過負荷】は再び舞い戻る。

 

 

 

『僕は悪くない』

 

 

 

 ーー勝利の味を覚えて。

 

 

 

「み、みそぎぃぃぃっっ!!」

 

 

 

『輪ちゃん、久しぶりっ』『僕だよ』

 

 

「ああ……! ただいまっ!!」

 

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