問一、あなたの回復力はどの程度か、できるだけ詳しく書きなさい。例、心臓を刺されても回復するが、うなじは回復しない。
「……」
ちょっとこの文章の意味わからないんですけど。
え、いや待って。本当に分からないんだけど。いや本当に全然分からない。
うん。文章の意味はわかる、わかるよ。回復力について聞いてるんだよね。そして例として巨人を挙げてるんだよね。それは分かるんだよ。分かる分かる。見た瞬間読んだ瞬間に分かった。それは分かる……んだけど。
今私は座学のテストを受けているんだけど。
アンケートとかそういうんじゃなくてテスト。しかも調査兵団に入るための試験。
いや待て。もしかしたらこれは正しい記憶じゃないかもしれない。頭ぐちゃぐちゃにしたら記憶は消せるし。それを確かめるためにも少し過去を振り返ろう。
まずメガネくんと話した後、リヴァイ兵長の所へ戻り、馬で古城まで移動した。ついでに馬術の試験を兼ねての移動。私は座学のノートを見て復習しながらも、無事馬術の試験は合格して、古城に着く。馬の世話を一通りして、古城に入るとハンジ分隊長がいて、とある教室に連れていかれる。その教室で、ハンジ分隊長から軽く説明を受けて、座学のテストを開始…。
どうしよう、抜けてる記憶が無い。完璧に鮮明に記憶がハッキリしてる。もしも抜けてる記憶があったら試験ではなく、アンケート調査をしていると納得できる可能性があったのに…。
うーー…うじうじ考えても仕方ない。記憶がはっきりしていた、それだけのことだ。そもそも私が理由もなく記憶を消すとは思えないし…。
とにかくこの問題…であろう文の解答欄を埋めないと…。一応座学の試験なわけだし。
えーとー…。とりあえず不死身だし、全部怪我は治るっと。
よし、次の問題は――
問二、あなたは日光がどの程度必要か、時間単位で書きなさい。
マタカヨ…。
何? この問題用紙って、全部アンケートで出来てるの? こんな訳わかんない質問で埋められてるの? いや、いやいや、そんなはずない。だって調査兵団に入るための試験だよ? 調査兵団に入れれるかどうかの見切りをつけるテストだよ? それをアンケートで済ますか? 調査兵団は少し変人が多いとは聞いていたけど、さすがに常識外れ過ぎない?
……他の問題も見てみるか。
問十、巨人との意思疎通をはかれたことについての考察を、具体的にに書きなさい。
問四十五、あなたはハンジ・ゾエの実験についてどの程度忠実に行うつもりか、次のアからエから選びなさい。
問六十五、あなたの運動神経について、箇条書きにして例を上げなさい。
ここまで軽く流しながら読んでるけど、まだ三分の二しか読んでないんだよね。
残りの三分の一も、アンケート、なのかな? それとこのままいくと、百個も問題があるってことになるけど、それでいいのかな? なんで、大事な試験でアンケート、なのかな?
ああそうか。きっと調査兵団での試験とかテストっていうのは、アンケートをするんだ。訓練所での小テストは巨人の生態とか、立体機動装置の部品についてとか書いてあったけど、試験では違うんだ。考えてみれば、ハンジ分隊長からの説明の時、制限時間があるなんて、一言も言ってなかったしね。
もう、そうとしか考えられないや。(考えることを放棄しただけ)
まぁそういうことなら、早速解答欄を埋めよう。まずは――
と、大量の問題を目の前に取り掛かり始めた。最初はスラスラ書けたけれど、だんだん疲れが出始めて、たまに適当に書いてしまうのもあった。まぁ多分後々それほど影響はないだろう。どうせアンケートだから点数とかないし。それにしてもやりながら思う。
ハンジ分隊長、一つぐらい問題作ってくださいよ。馬術の試験中に勉強した意味なかったじゃないですか。まぁやることなんてなかったですけど。
それともう一つ。ハンジ分隊長、よくもまぁ百個も質問が思いつきましたね。驚きですよ。何一つ質問がかぶってないし似てすらない。尊敬に値するくらいです。
そんなこんなで、結局百問目、最終問題に突入できたのは三時間後である。
ぜぇー…はぁー…ぜぇー…はぁー…。やっと終わる…。次の質問でやっと…。
ここまで来るのに、様々は試練を乗り越えた。時々解答するのに難しい質問があったり。途中で右手が悲鳴をあげ、左手に切り替えたり。椅子が硬くてお尻がもう座りたくないと言うので空気椅子をしたり。睡魔が取り付いてきたり…。っていうか本当に危なかったよ! 寝たらハンジ分隊長殺しちゃうじゃん!
と、とにかく、今思えば、これこそ試験だったのかもしれない。でも、それももうこれで終わり。この問題を解いて、私は調査兵団に入るんだ。
さあ、どんな質問でもかかってこい! なんだろうが答えてやる!
百問目、あなたはなぜ巨人や人間と似つかぬ存在として生まれたのかを述べなさい。
「……え?」
なに…その質問…。私が…吸血鬼として生まれた理由…? それは…
今まで、気付きもしなかった。常識になりすぎていて、それが当たり前だと思い込んでいた。なんで私だけが吸血鬼として生まれたのか。なぜ生まれてしまったのか。なぜ人間として生まれることが出来なかったのか。そんな疑問を感じずに、淡々と吸血鬼を受け入れてきた。
そうだよ…。普通に考えてみれば、人間から吸血鬼が生まれるなんておかしいよ…。お母さんとお父さんが吸血鬼だった…とは考えにくい…。
『なんでお前は死なないんだ!』
『あんたなんか生まれて来なければ良かったのに!』
あれが演技だと思えないし。演技だったら…それは嫌だな。お母さんとお父さんが吸血鬼だとして、同じ吸血鬼なのにそんなこと、言われたくない。
……。
話がそれちゃったや。私が吸血鬼として産まれた理由って…一体なんだろう。そもそも、私は生まれた時から吸血鬼になったのだろうか。お姉ちゃんを食べる直前、突然吸血鬼になったのかもしれないし、あるいはその前の日になったのかもしれない。こういうの、突然変異って言うんだっけ……どうでもいい。そんなことより、アンケート関係なしで考えよう。
うーん…十分くらい考えたけど、やっぱり分からない。なんで私は吸血鬼なのか、分からない。考えても考えても、答えが出てこないよ。
なんで私なの? どうして私なの? される理由が分からない。された理由も分からない。心当たりなんてまるでないし…。
でも…もしも私を吸血鬼にした人がいるのなら、許さない。理由はどうあれ、私を吸血鬼にしたんだから。不死身で、人を食べる、生命の種類の中で孤立された存在にしたのだから。
吸血鬼になったせいで、私は死ぬこともできず、寝ることもできず、仲間が誰一人いない、孤独な人生を送ってきた。両親からは愛されずに生きてきた。おねぇさん以外、人間の前では嘘をつき、バレないかどうかのリスクを背負って、偽りな自分を見せている。
何より、巨人からも、人間として扱ってくれなかった。それは…人間をやめているということ。人間ではないという証拠があり、実は人間だったという可能性がないということ。
吸血鬼なんて誰からも認めてくれない、誰からも酷い扱いを受ける、そんな存在。
おねぇさんだけしか、私を、受け入れてくれない。
おねぇさん、教えて、なんで私は、吸血鬼になったの?
解答:私が知りたいです。