ありふれた職業で世界最強(いふっ) ~魔王様の幼馴染~ 作:アリアンロッド=アバター
それは、なつかしい思い出の記憶。
まだ小学生になりたてくらいの幼い少女と、同い年くらいの男の子が向かい合って立っている。男の子はちょっと困ったように笑いながら、少女に声をかける。
「え、えっと……。初めまして、南雲ハジメです」
「南雲ハジメ……うん、じゃあ、ハジメって呼んでもいいかい?」
少女は少年の名前を聞くと、距離感とかそういったものをどこかに放り出して、フレンドリーに問いかけた。そんな少女に、少年――ハジメはちょっと引いた感じで答える。
「い、いきなり呼び捨て? まぁ、いいけど……」
「本当かい? じゃあ決まりだね。これからよろしく、ハジメ!」
「うん、よろしく……って、僕は自己紹介したのに、君はしてくれないの?」
名前を聞くだけ聞いて、自分は名乗る様子の無い少女にハジメは不満げな視線を向けた。少女はそんなハジメの視線を受けても微塵も動じていない。
「おっと、そうだったね。すまない、すっかり忘れていたよ」
「えっ、忘れてたの!?」
「あはは、まぁ、そういうこともたまにはあるってことだね」
自由奔放にふるまう少女へ、少年は呆れたような笑みを見せた。
「え~、何それ……」
「まぁ、細かいことは良いじゃないか! それより、自己紹介だよ!」
「……ああ、うん。そうだね」
なんとなく少女のことが分かった少年が、乾いた笑みを浮かべた。――――この子、人の話を聞かない子なんだな、と。
そんな少年の様子には気づかずに、少女は満面の笑みを見せた。
「わたしはミオ。東風ミオ! よろしくだよ、ハジメ!」
――――これが、後に神殺しの魔王となる南雲ハジメと東風ミオの出会い。
そしてそれは、物語の幕開けでもあった。
# # # # #
月曜日、それは一週間の中で最も憂鬱な始まりの日。きっと多くの人がこれから始まる地獄にため息を吐き、昨日までの天国を惜しむだろう。
ベッドに寝転がり、今しがたまで大音量をかき鳴らしていた目覚まし時計を手にした高校生くらいの青年―――南雲ハジメは、そんなことを考えながらのそりと体を起こし、ふわぁ……とあくびを一つ。昨日も遅くまでゲームやらなんやらをやっていたハジメは、今日も今日とで寝不足だった。
ハジメが寝ぼけたままベッドから立ち上がろうとしたその時、バンッ! と大きな音を立ててハジメの部屋の扉が開かれた。
「うわッ!?」
その音に驚いて、ハジメはベッドから転げ落ちてしまう。背中から床に落ちて、バンッと思いっきりそこを打ち付けてしまった。痛みに悶え、「~~~~~ッ!」と声にならない声を上げるハジメ。
「ハジメ―! 起きろー! ………って、ハジメ? いったいぜったい、そんなところで何をしてるんだい?」
「いたた……。ミ、ミオがいきなり入ってくるから、驚いて落ちたんだよ! …………って、おわッ!?」
痛みに閉じていた目を開けたとたん、ハジメの視界に飛び込んできたのは……スカートの中にある、飾りっ気のない純白の三角形。そっと添えられた赤いリボンがワンポイント。やはり清楚な白こそが至高……と、そこまで考えたところでハジメの思考は現実に引き戻され、慌てて見てしまったそれから視線を逸らした。
「ぬ? どうかしたのかい、ハジメ?」
「な、何でもないよ! なんでも!」
「本当かい? ずいぶんと慌ててるようだけど……ぶつけたところが痛むのかい?」
「だ、大丈夫だよ! こんなのへっちゃらさ!」
「それならいいけど……。ちなみに、今日のわたしの下着の色は?」
「え、白だけど……あ゛」
なんたる失言。というか、下着を見たことはバレバレだったようだ。ハジメは「まずい」という顔いなり、すぐに起き上がり……その場に、土下座した。
「も、申し訳ありませんでした!」
五体投地で謝るハジメを、下着を見られた張本人―――ミオはじーっと見つめ、「うん」とうなずきを一つ。
「うん、許して遣わす」
「ははー、ありがたき幸せ」
芝居がかったやり取りで許しを貰ったハジメは、土下座の体勢から起き上がり、目の前の人物へ視線を向けた。
東風ミオ。艶やかな黒髪をツーサイドアップという髪型にした、ちょっと普通ではお目にかかれないレベルの美少女だ。つり目がちな瞳、悪戯っぽい笑みを浮かべた蠱惑的な唇。肌はシミや日焼けとは無縁の白さを誇る。体型は小柄で肉付きも薄いが、貧相という感じは皆無。まさしくスレンダー美少女というヤツだ。
ハジメは思う。何も大きく豊かなことだけが女性の魅力ではない。慎ましい体型にはまた違った魅力がある、と。
そして、ミオはハジメの幼馴染でもある。美少女で幼馴染でこうして朝に起こしに来てくれる。なんたるテンプレ。ハジメは爆発した方がいい。
小学校に上がってすぐ位に家の隣に引っ越してきたのがミオだったのだ。そんな二人は、出会ってすぐに仲良くなり、その付き合いは高校生になった今も続いている。小、中、高と同じ学校に通い、長い時間を一緒に過ごしてきた二人の間柄は、もはや家族同然と言っても過言ではない。
幼馴染とは言え、十人とすれ違えば十人全員が振り返るであろうミオと、十人並みという言葉がよく似合うハジメの二人がここまで仲が良いのには、ある理由があった。
「にしてもハジメ、随分と眠そうだね。昨日も遅くまで『デーモンスピリット』やってたの?」
「そうだけど……あれ? ミオはやってないの? 最近はずっと徹夜しっぱなしのはずだよね? それにしては元気すぎるような……」
「ふっ、甘いねハジメ。このわたしが新作のゲームをやらずに夜を過ごすとでも? きっちり朝までノンストップだったぜ!」
「なるほど、その妙はハイテンションは徹夜明けのテンションってことね」
ビシッ、と親指を立てるミオに、ハジメは「ははは……」と乾いた笑みをこぼした。
ハジメもミオも、共通の趣味を持っている。漫画やラノベ、アニメにゲームなど、俗にいうオタク趣味というヤツだ。そもそも、二人が出会ってすぐに仲良くなれたのも、このオタク趣味のおかげだったりする。
父親がゲームクリエイターで母親が少女漫画家。そんな二人に育てられたハジメは、それはもうどっぷりとオタクの世界にのめりこんでいた。ミオと出会うころにはすでに、ゲームや漫画をこよなく愛する今のハジメが出来上がっていたくらいである。
そして、幼少期は両親共に忙しく、家でひとり過ごすことが多かったミオも、自然とそっちの世界に足を踏み入れることに。といっても、ミオの場合は親の持っていた少しの漫画と、夕方にやっているアニメを見るくらいで、ハジメほどどっぷりと沼に浸かっていたわけではない。ミオが完全なオタクと化したのは、ハジメと出会ってから。ハジメと仲良くするうちに、様々なサブカルチャー作品に触れ、その魅力に引きずり込まれていったのだ。そして、気が付けば女版のハジメのような存在が出来上がっていたのである。
「まぁ、それは置いといて。ハジメ、そろそろ起きないと遅刻するよ?」
「え? って、もうこんな時間!? ヤバい……というか、こんな時間になったのって、半分くらいミオのせいじゃ……」
「えー? にゃんのことかにゃー? わたし、わかんにゃーい」
そう、猫語でふざけるミオに、ハジメがイラッとした視線を向け、すぐにいつものことだとため息を吐いた。この幼馴染様はハジメをからかうのが何よりも好きなのである。
「ハジメ。わたしは下で待ってるから。はやく着替えてくるんだよ? あ、着替え手伝ってあげようか?」
「結構です!」
パジャマのボタンに伸ばされた手をぺしっとして、「これ以上は怒るからね?」という視線をミオに送る。視線を受けたミオは、すぐに「ごめんごめん。じゃ、急ぐんだよ?」と言い残して、開け放った扉を閉めながら部屋を出ていった。
ミオの背中を見送ったハジメは即座にパジャマを脱ぎ捨て、壁に掛けてあった制服に着替え始めた。着替えながら、幼馴染の相変わらずな自由奔放さに、もう一度ため息を吐く。
「まったくミオは……」
そうは言っているものの、ハジメの表情に負の感情は無く、「しょうがないなぁ」みたいな笑みが浮かんでいるだけ。
ミオがハジメをからかって、ハジメはそれに憮然としたり怒ったりする。そんなやり取りは、もう数えきれないほど行われてきたことだ。日常の一部と言ってもいい。煩わしさを感じないわけではないが、もしミオがからかうことをやめれば、寂しさを感じてしまうだろう。こればかりは一生変わらないんだろうなぁ、と着替え終わったハジメは苦笑いを浮かべた。
「……………それにしても、白かぁ……って、何を考えてるんだ僕は!? こんなこと、ミオに聞かれでもしたら……ハッ!」
視線を感じるっ! ハジメは慌てて扉の方を振り返った!
閉まっていたはずの扉。それがわずかに開いている。その隙間から除く瞳は、間違いなく彼の幼馴染のもので……。
次の瞬間、ドタドタッと廊下をかける音と、ダダダッと階段を降る音。そして、「菫さ~ん! ハジメがですねー!」というミオの声がハジメの耳に届いた。ちなみに、菫さんとはハジメの母親である南雲菫のことである。
「ちょっ! ミオォオオオオオオ! やめてくれぇえええええええええッ!!」
ハジメも急いで部屋から出て、ミオが向かったであろう自宅のリビングを目指すが、時すでに遅し。
バンッ! とリビングへと続く扉を開けたハジメを出迎えたのは、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた母親と、満面の笑みでビシッとサムズアップするミオ。
「むふふー、ハジメのスケベー。今日のオカズには困らないわねー?」
「母さん!? 待って! それは誤解で……」
「んー? 誤解も何も、ハジメがわたしのパンツを見たのは事実だよ?」
「ミオォオオオオオオ! これ以上火に油を注ぐのはやめろォオオオオオオ!!」
全力で息子をからかい始めた母親と、幼馴染を追いつめることに余念がないミオに、ついにハジメが吼えた。しかし、ハジメ渾身の怒号を受けても、二人はちっとも応えていない。それどころか、仲良く抱き合って、実にわざとらしく「きゃー、こわーい」などといい始める始末。母親にも幼馴染にも敵わないハジメは、ガックリと膝をついてうなだれるのだった。
南雲家は今日も平和である。
オリ主ってタグ付けたけど、主人公は相変わらずハジメさんだよな。