ありふれた職業で世界最強(いふっ) ~魔王様の幼馴染~ 作:アリアンロッド=アバター
それはそれとして、オリキャラってミオちゃん以外にも出していいものかね? 例えば……光輝の正ヒロインとか? うわぁ、何それ誰得だよ。
HRが終わり、授業が始まる。ハジメとミオはというと、二人仲良く机に突っ伏して眠っている。あまりに堂々とした居眠りに、教室に入って来た現国の教師が注意をしようとするが、寝ているのがいつもの二人だと気づくと、あきれたようにため息を吐くだけで早々に授業を開始した。
そんな二人に、香織は微笑み、光輝はむっとした視線を向け、雫は苦笑する。そして、そのほかの生徒たちは苛立ちと軽蔑の視線をぐっさぐさと送った。もっとも、張本人たちはそれらに一切気付かず、とても安らかに眠っているのだが。
そうしているうちに時間は過ぎ、あっという間に昼休みに突入した。ハジメは四限終了のチャイムで、実にタイミングよく目覚め、いまだに寝こけているミオの肩をゆすぶった。
「ミオ、もう昼休みだよ。ほら、起きて昼ご飯にしよう?」
「ん~……ふわぁ……んぅ……おはよぅ、ハジメぇ……」
寝ぼけまなこをこすりながら起き上がったミオに苦笑しながら、ハジメは鞄から弁当箱を取り出した。ミオも半分無意識の状態で鞄をあさり、ハジメのと同じ弁当箱を取りだす。この弁当はミオの母親である灯が作ったものである。ほっとくと昼ご飯を十秒でチャージできるゼリー飲料で済ませようとするハジメたちを見かねて、毎日作ってくれているのだ。パカリと弁当箱のふたを開ければ、色とりどりのおかずがところ狭しと詰まっている。料理が趣味な灯の弁当はいつも手が込んでおり、味も一級品。ハジメは嬉しく思いつつも、毎日こんな風に手の込んだものを作ってくれる灯に、申し訳なく思っていた。
「灯さんの作ったお弁当、今日も美味しそうだね」
「お母さんは凝り性だからねぇ。いただきます」
「いただきますっと」
食前の挨拶をすませれば、後は美味しく食べるだけ。ハジメもミオも、灯の弁当に舌鼓を打ち、「うまい!」と感想を言い合った。
そんな二人のもとに、弁当箱を持参した女神が君臨する。ミオの視線がスゥと細められ、ハジメの肩がビクっとはねた。
「南雲君、私も一緒に食べていいかな?」
笑顔でそんなことを言う香織。ざわりと教室内にざわめきが広がった。特に男子たちがハジメに向ける視線がヤバい。どのくらいヤバいかというと、いきなり殺気立った男子たちに、教室に残っていた四限目の社会科教師である畑山愛子先生(二十五歳)が、「ひゃうっ!?」と可愛らしい悲鳴を上げるくらいにヤバかった。
クラス中の男子の殺意の眼差しを一身に受けたハジメの脳が警鐘を鳴らす。これ以上香織と親しくしているところを見せたら、マジで殺される! と。
「えっと、白崎さん。僕なんかと食べるより、天之河君たちと一緒の方が……」
脳内で鳴り響く警鐘に従って、やんわりとした断りの言葉を告げるハジメ。そんなハジメに、今度は女子生徒たちから「何キモオタのくせに白崎さんの申し出を断ってるの? 死ぬの?」という視線が突き刺さる! もうどうすりゃいいんだよ! と内心で吠えるハジメ。しかし、ここでハジメが香織を受け入れれば、ハジメはこの昼休みを針の筵状態で過ごすことになり、放課後には間違いなく体育館裏に連行だ。それに加え、隣の幼馴染の機嫌が悪くなるのは確定事項。それらを思えば、ハジメに香織の申し出を受け入れるという選択肢は無いのだが……。
「南雲君。私と一緒にお弁当食べるの……嫌、かな?」
悲しそうに瞳をうるうるさせ、上目遣い気味でハジメを見やる香織。そんな表情でそんなこと言われたら、ハジメが取れる選択肢など一つしか残らないわけで……。
「……い、嫌じゃないよ! 全然! うん、僕も白崎さんと一緒にお弁当食べたいなぁ!」
「本当? 南雲君、ありがとう!」
ヤケクソ気味に言うハジメに、香織は先ほどの悲しそうな表情は何だったのかと問いたくなるほど嬉しそうな笑顔を見せ、近くの机から誰も使っていない椅子を持ってきて、ハジメの机を挟んだ対面に座った。女神の前で、オタク野郎はどこまでも無力だった。
しかし、ここで女神香織に対抗できるだけの力を持つ存在が、ハジメを守るべく立ち上がった。
「うわぁ、何この人、めっちゃ図々しい。それに腹黒だよ。これじゃあ、白崎さんじゃなくて黒崎さんだよ」
「……どういう意味かな、ミオ?」
「マジでドン引きです!」という表情で香織を見て、大げさに体を震わせて見せるミオ。香織の顔ににっこりとした笑みが張り付けられる。ただし、目は笑っていない。
「どういう意味かなんて、説明しなくても分かるんじゃないかにゃー? 腹黒黒崎ちゃん?」
「私は、白崎だよ! それに、腹黒なんかじゃないもん!」
「……無自覚って恐ろしいね。黒ちゃん、可哀想」
「ミ~オ~!」
そして始まるキャットファイト。朝の焼き増しのようにハジメを挟んでいがみ合っているのかじゃれているのか判断の付きにくい言い争いをするミオと香織。
ハジメは思う。なんかもう、この二人のやり取りは、見て楽しむくらいが己の精神衛生上良いんじゃないか、と。
遠い目をするハジメ。言い争いを続けるミオと香織。そこに「香織が虐められてる! 何とかしなくては!」と無駄に正義感を滾らせた光輝が乱入し、ミオとハジメにスルーされ、そんな彼をいさめるために雫がため息を吐きながら近づき、龍太郎がなんとなくついてくる。結局、ハジメとミオの席に学校で有名な四人が集まってしまい、他の生徒たちからの視線の圧力は強まるばかりだ。
そんな、いつも通りのありふれた光景は、次の瞬間には崩れ去ってしまう。
ハジメたちの足元……教室の床に、いきなり光の線が浮かび上がり、複雑な幾何学模様を描き始めた。唐突過ぎる異常事態に、教室中の誰もが硬直し、驚愕の表情を浮かべた。その幾何学模様を見て、ハジメはこう思っただろう。――――まるで、漫画やゲームに出てくる魔法陣のようだ、と。
魔法陣は光り輝き、教室中を閃光で埋め尽くそうとする。その時になってやっと動き出した生徒たちが、我先に逃げ出そうとする。愛子先生が「早く! 教室の外に出てください!」と叫ぶが、時すでに遅し。
その場にいた全員の視界が白に埋め尽くされた。
そこから、どのくらいの時間が経ったのか。数秒か数分後に閃光が晴れると、教室にいたはずの生徒たちは全員消え去っていた。残されたのは、彼らの所持品や食べ掛けのお弁当など。それはまるで、かの有名はメアリー・セレスト号事件のようで……。
この事件は、白昼の集団失踪事件として世間を騒がせるのだが、それはまた別の話。
# # # # #
閃光に視界を焼かれ、目を閉じていたハジメは、視力が回復するのを待ってから、目を開いた。隣には、目に掌を当てながら「目が、目が~」とうめいているミオの姿があった。お前はどこの大佐だ、とツッコミたくなるのをぐっと我慢して、辺りを見渡す。
そこは、先程までいた教室ではなかった。ハジメの目にまず飛び込んできたのは、巨大な壁画。そこには、後光を背負う中性的な顔立ちをした長い金髪の人物が、自然に囲まれているという絵が描かれていた。美術品には詳しくないハジメでも、素晴らしいと思えるような一品だが、金髪の人物を眺めていると発生源の分からない嫌な予感に襲われ、すぐさま目を逸らした。
そのまま周囲を見てみると、どうやらハジメたちは大きな広間にいるらしい。大理石のような、美しい光沢を放つ素材で造られた建築物のようで、美しい彫刻の彫られた柱が立ち並んでいた。天井はドーム状で、大聖堂という言葉が自然と浮かんでくるような場所だった。
ハジメたちは、その部屋の奥。台座のようなところにいる。あの時教室内にいた全員がこの場にいるようで、ハジメの近くには香織たちがへたり込んでいた。
とりあえずハジメは、いまだに大佐の真似をしているミオの頭をぺしっとした。異常事態にも変わらない姿を見せるミオの精神力には素直に賞賛を贈るが、今はそれどころではない。
「ミオ、今はふざけてる場合じゃないよ」
「むぅ、わたしの渾身のボケにツッコまないどころか、頭をはたくとは何事…………って、何事!?」
やっと、自分たちの置かれた状況に気が付いたミオが、辺りを見渡してぎょっとした表情を浮かべた。
「え、ナニコレ。夢? いきなりドリーム?」
「うん、落ち着いて。夢でも何でもないから…………たぶん」
「わたしたち、さっきまで教室にいたはずだよね……? って、白ちゃんたちは!?」
ミオが慌てたように視線をうごめかせ、近くでへたり込んでいるものの、無事な様子の香織や雫を見て、「良かった……」と胸をなでおろした。いつもが言い争ってばかりだが、こういう時は真っ先に香織の心配をするあたり、ミオの心情が透けて見える。最も、本人に言ったところで顔を真っ赤にして否定されるだけだろうが。光輝? 視界にすら入っていませんが何か?
「白ちゃん、八重ちゃん、大丈夫? どこにもおかしなところとか無い?」
「う、うん。ミオは……大丈夫そうだね。ネタに走る余裕もあるみたいだし」
「その芸人根性はどこから来るのかと聞きたいところだけど……、今は、そんなことをしている場合ではないようね。ここは、一体……」
「わたしも分かんない。分かんないけど……ハジメ、この状況、何か見覚えない?」
ミオの言葉に、ハジメは今起きた出来事を思い返していく。
「……教室にいきなり現れた魔法陣。光に飲み込まれたと思ったら、さっきとはまるで違う場所にいた……うん、この状況は、アレだね」
「ハジメが中学のころ書いてた小説の冒頭だね」
「ちょっと待って。どうしてミオがアレのことを知ってるの!? 誰にも見せたことないのに……」
「菫さんが見せてくれました。確かタイトルは、『覇刃天剣の……」
「ストップ。マジでストップ。許してくださいお願いします! なんでもしますからっ!」
ハジメさんのブラックヒストリーが今まさに明かされようとした瞬間、ミオに縋りつくようにしてそれを阻止するハジメ。その最後のセリフに「「え、今なんでもするって言った?」」と声が重なる。誰の声かを言う必要はないだろう。またもやキャットファイトが始まるかと思われたその時、「二人とも、状況を考えて行動しましょうね?」という雫の言葉とやけににっこりした笑顔。「はぃ……」と消え入りそうな返事をした。
そんな、この異常事態にあってもいつも通りなやり取りを見て、ハジメは自分の中に生まれていた少なくない動揺が消えていくのを感じていた。こういった状況で一番恐ろしいのは、パニックに陥って何も分からないままに事態が進んでいってしまうこと。冷静さを失ってしまえば、何か取り返しのつかないことをしてしまうかもしれない。
ハジメは、ミオに笑顔で「ありがとう」とお礼を言った。何のことかよく分かっていないミオが「どういたしまして?」と首を傾げた。
ハジメはその時になって、この場に自分たち以外の人物がいることに気が付いた。
生徒たち以外の、最初からこの場にいたであろう者たち。全員が、白地に金糸で刺繍が施されたお揃いの法衣に身を包み、台座に乗っている者たちに向かって跪き、胸の前で手を組み何か熱心に祈っている。
その中から一歩踏み出たのは、集団の中でもっとも煌びやかな衣装に身を纏い、三十センチくらいの高さがある烏帽子のようなモノをかぶった七十歳くらいの老人だった。もっとも、老人というには弱々しさが皆無で、鋭い眼光や纏う雰囲気は覇気と言っても過言ではないモノ。
そんな彼は、手にした錫杖を鳴らしながらハジメたちの前に立つと、落ち着いた声音で話しかけてきた。
「ようこそトータスへ。勇者様、そして御同胞の皆さま。歓迎いたしますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
イシュタルと名乗った老人は、そう言って好々爺然とした微笑みを浮かべた。
ミオは、イシュタルのセリフを聞いて、ハジメの耳に口を寄せた。
「ねぇ、ハジメ。これってやっぱり……」
「……うん、多分ね。現実だとしたらこれは……」
「「異世界召喚」」
ハジメとミオの声が重なった。どうやら自分たちは、異世界に来てしまったようだ、と。その場で確信とまではいかなくとも、それにほど近い結論を出す。
「ど、どうしよう。ハジメ……」
「今はとにかく、あのイシュタルって人が状況を説明してくれるのを待つしかない……かな」
「そうだね……。それにしても、お弁当食べてる途中で召喚するとか、空気読めない人たちだね。KYは嫌われるよ」
「……多分、今一番
本当にぶれないミオに、ついに感心よりも呆れが優るハジメだった。
ミオのキャラが書いててめっちゃ楽しい。けど、天職とか何にするかはまだ考え中である。