ありふれた職業で世界最強(いふっ) ~魔王様の幼馴染~   作:アリアンロッド=アバター

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ステータスプレート

 召喚された翌日には、訓練と座学が始まった。

 生徒たちはまず訓練場に集められ、そこで銀色のプレートが配られた。大きさは十二×七センチほど。配られたプレートを不思議そうに見る生徒たちに、騎士団長であるメルド・ロギンスから直々に説明がなされた。

 騎士団長が訓練につきっきりになってもいいのかとハジメは思ったが、『神の使徒』である生徒たちに半端なものを付けるわけにはいかないという判断だろう、ということで納得した。隣で、「騎士団長って案外暇なのかな?」と言った幼馴染には愛の鉄拳を叩き込んでおいた。この世界に来てから、ミオをはたく頻度が上がったなぁと思うハジメである。

 メルド団長本人も、「むしろ面倒な仕事(書類仕事)を副団長に押し付ける口実ができて助かった!」と豪快に笑っていたので大丈夫なのだろう。もっとも、副団長は全く持って大丈夫ではないだろう。今ごろ騎士団の執務室で書類と格闘しながら団長への恨み言をブツブツ呟いているに違いない。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 『神の使徒』に前にして、非常に気楽で砕けた話し方をするメルド団長。彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になるのに、固っ苦しい話し方なんてできるか!」と、新米の騎士にすら言うらしい。

 召喚されてからというもの、やけに丁寧に扱われ過ぎて居心地の悪さが半端じゃなかったハジメは、そんなメルド団長の態度にほっとしていた。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 “ステータスオープン”と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「はいはーい! メルドだんちょー、アーティファクトって何ですか?」

 

 飛び出してきたファンタジー用語に思いっきり食いついたミオが、手を上げながらそう聞いた。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

「なるほど、つまり……よく分かんないけど、すげぇアイテムってことですね」

「おう! そういうこった!」

「いや、それでいいのかよ」

 

 ミオのあまりにざっくりとした認識と、それを良しとしたメルド団長に、ハジメが思わずツッコミを入れる。ツッコまれたミオはケラケラと、メルド団長はハッハッハ! と豪快に笑いそれを受け流した。

 説明を受けた生徒たちはなるほどとうなずき、配られた針で指先をちょんとして滲ませた血を、ステータスプレートにこすりつける。ハジメとミオも、同じように血をこすりつけて表を見る。

 すると……。

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

 

天職:錬成師

 

筋力:10

 

体力:10

 

耐性:10

 

敏捷:10

 

魔力:10

 

魔耐:10

 

技能:錬成・集中・言語理解

 

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東風ミオ 16歳 女 レベル:1

 

天職:人形師

 

筋力:10

 

体力:10

 

耐性:10

 

敏捷:10

 

魔力:20

 

魔耐:15

 

技能:操糸術・人形製作・集中・言語理解

 

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 まるでゲームのステータスのようなそれを眺めるハジメとミオ。他の生徒たちもへぇ~という感じで自分のステータスを確認している。

 

「ハジメのステータス、なんかデフォルトキャラみたいだよね」

「ほっとけ。というか、ミオも魔力以外はあんまり変わらないだろ?」

 

 そんなことを話していると、メルド団長からステータスに関しての説明があった。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に“レベル”があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

 どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後で、お前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。何せ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」

 

 メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。

 

「次に“天職”ってのがあるだろう? それは言うなれば“才能”だ。末尾にある“技能”と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

 ハジメは『錬成師』、ミオは『人形師』と言うのが天職なのだろう。ハジメは『錬成』と『集中』に才能があり、ミオは『操糸術』と『人形製作』、そして『集中』に才能があるらしい。

 まるでゲームのキャラにでもなったような感覚に、オタクな二人がテンションを上げないはずもなく、ニヤニヤとした笑みでステータスプレートを見つめていた。

 だが、メルド団長の次の言葉で二人のニヤニヤ笑いは、瞬時に真顔になる。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

 この世界のステータスの平均はレベル1で10くらいらしい。ハジメとミオは自分のステータスをもう一度確認する。……どっからどう見ても平均値。ミオの魔力がかろうじてという感じだった。

 

「おかしいね、一応わたしたちはチートな存在じゃなかったのかな。あのクソ老人、そんなこと言ってなかったっけ?」

「言ってたはず……けど、これどう見ても平均値だよね……」

「うん……まぁ、どうでもいいか。戦う気のないわたしたちにとって、妙な力は邪魔にしかならないよ。力があるんだから戦えなんて言われるかもしれないし。それに、戦う力がない分、情報収集とかに使う時間がとれるかもしれない」

「ふむ……それもそうか」

 

 ショックを受けたのは一瞬、すぐに「まぁ、大丈夫か」と結論付ける。相変わらずのメンタルの強さだった。ミオなど、すぐさま香織の方に飛んでいき、「白ちゃーん、見てこれ、わたしめっちゃ雑魚いよ!」と報告しているくらいである。

 その後、生徒たちはメルド団長に自分のステータスを見せ、誰もが強力なステータスを持っていることを喜ばれていた。特に光輝などステータスオール100、技能数も多いと呆れるほどのチートっぷりだった。

 そして、メルド団長がハジメとミオのところにやってくる。二人は同時にステータスプレートをメルド団長に渡した。これまで見てきた全員が『神の使徒』にふさわしい力を持っていたことにほくほく顔だったメルド団長は、二人のステータスプレートを見て、「ん?」という顔になり、ぶんぶんと振ってみたり裏返してみたり。さらには金属製のプレートなのに光に透かそうとしてみたりといろいろしたが、やがて現実を受け入れたらしく、凄く微妙な表情で二人にステータスプレートを返した。

 

「ああ、なんだ。錬成師ってのは、所謂鍛冶師だな。鍛冶の時に役立つらしいぞ? それと、人形師……スマン、これについてはまるで分からん。聞いたこともない天職だな」

「あはは、ごめんなさい。ご期待に沿えなかったみたいで」

 

 言葉に詰まるメルド団長に、ハジメが苦笑しながらそう言う。ミオは「知られていない天職……! もしかしてレアもの!?」と喜んでいた。

 

「い、いや。そんなことないぞ? 熟練の錬成師が作った武器はアーティファクトに負けないモノもあるし、アーティファクトの整理だってできるぞ? それから……」

 

 なんとかハジメをフォローしようとするメルド団長だが、ハジメは「気にしてませんよ」と言う。こうしてフォローをしてくれるだけで、メルド団長の人の好さは十分に伝わって来た。

 

「(ねぇハジメ、この人は信用してもいいかもね)」

「(そうだね。僕もそう思う)」

 

 小声で言葉を交わした二人は、メルド団長に向かって「ありがとうございます」と笑いかけるのだった。

 

「オイオイ、南雲ォ! お前、鍛冶師とかマジかよ! そんなんでどう戦うんだよ!」

「ギャハハ! マジでウケる! 南雲が作った武器とかぜってぇ使いたくねぇ!」

「天職が雑魚いってことは、ステータスの方は期待してもいいんだよ……って、オイ! 無視してんじゃねぇ!」

 

 案の定、檜山たちが絡んでくるが、めんどくさいのでスルー。というか、ミオに引っ張られて香織や雫のいる場所に連れていかれたので、これ以上ハジメに絡むこともできず、檜山たちは悔し気に歯噛みした。

 

「白ちゃん、八重ちゃん、どうだった?」

「あ、ミオ。私は治療師っていう天職だったよ」

「私は剣士ね。まぁ、打倒といえば打倒かしら?」

「あー、八重ちゃんって確か家が道場なんだっけ? それにしても、白ちゃんがヒーラーねぇ」

「む、何かな?」

「……ま、似合ってるんじゃない?」

「え? あ、ありがと……」

 

 何かしらからかいの言葉をかけようとしたのだろうが、香織の癒し系な雰囲気と容姿が治療師という天職にあまりにも似合っていたため、ミオの口から出たのは存外に素直な言葉だった。またからかわれるのかと身構えていた香織も、想像外のミオからの賛辞に、面食らい、恥ずかしそうに頬を染めて視線を逸らした。

 

「……ねぇ、南雲君。この二人って、実は仲が良かったりするのかしら?」

「あはは……。まぁ、本人たちに言っても否定されるだろうけどね……」

「そうね。ところで、さっき聞こえたんだけど、南雲君の天職って非戦闘職なのよね?」

「そうだね。それに加え、ステータスもオール10。まぁ、自分に何かの才能があるなんて思ってなかったし、言われてしまえば、その通りかなって思うよ」

「……あまり、気にしてないようね。心配して損したじゃない」

「え、心配してくれたの? 八重樫さんが? 僕を?」

 

 信じられないものを見た! とでも言いたげに目を見開き、雫のことをまじまじと見るハジメ。その視線を受けた雫は、どこか不機嫌そうに唇を尖らせた。

 

「何? 南雲君は私がクラスメイトの心配をしないような冷たい人間だとでも言いたいかしら?」

「い、いえ! 心配してくれたありがとうございます!」

「うん、よろしい」

 

 はたから見れば、不真面目なハジメが委員長である雫の怒られていると見えるこの光景。だが、近くでそれを見ていたミオと香織は、二人の間に漂う気の置けない雰囲気を感じ取り、さっと顔を見合わせた。

 

「……なんかさ、この二人って仲良くない? わたしの気のせい?」

「雫ちゃん……もしかして、一番の強敵って……」

「うわー、白ちゃんなら兎も角、八重ちゃんはなー。強敵が過ぎるというか……」

「私なら兎も角ってどういうことかな?」

「ともあれ、八重ちゃんはまだ友達レベルだから、気を抜かないようにしなきゃね」

「無視しないでよ!」

 

 ちょっと仲良くしたかと思ったらこれである。またも喧嘩し始めたミオと香織に、ハジメと雫はそろってため息を吐くのだった。


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