ありふれた職業で世界最強(いふっ) ~魔王様の幼馴染~ 作:アリアンロッド=アバター
ハジメたちが異世界トータスに召喚されてから、二週間が経過した。
この二週間何をしていたのかといえば、ひたすらに訓練と座学を繰り返していた。朝起きてご飯を食べたら座学の時間。それが終わったら休憩を挟んで昼の訓練。その後、昼食を挟んでまた訓練と、中々にハードなスケジュールを送っている。
もっとも、戦闘能力の無いハジメとミオは、身体づくりを中心に、後は比較的簡単なナイフの扱いを学ぶくらいで、他の戦闘職の生徒たちに比べればだいぶ緩い訓練をしていた。これは、訓練初日に二人からメルド団長に言って頼んだもので、その時の説得の言葉がこうだ。
「メルド団長。僕たちには戦う力がありません。ですが、このまま何もできないのは嫌なので、知識面を鍛えようと思うんです。魔物の生態や、土地に関しての情報とか、絶対に必要になると思うんですよ。なので、訓練は最低限のモノにしてもらえませんか? 其の空いた時間を座学に当てたいんです」
「あと、自分の技能を磨く訓練をしたいな。ハジメだったら鉱石とかを使うだろうし、国お抱えの錬成師の人とかに教えてもらえばいいと思うんだ。あと、わたしのって情報が全く無い天職でしょ? だから、手探りで何ができるのかを見つけていかないといけない。そのために時間を使いたいんだ」
ハジメとミオの真摯な訴え(笑)に、メルド団長は感涙したらしい。
「偉いぞお前たち! 戦う力が無いことを嘆くことなく、自分のできることを見つけようとするその姿勢、素晴らしい! よぉし、待ってろよ。すぐに上に掛け合ってお前らの要望を通してやる!」
と、滅茶苦茶張り切っていた。しかも、その張り切りようのまま、次の日にはハジメが国の練成師から錬成を教わることになり、ミオは取り合えず技能『人形製作』に必要そうなモノを取り揃えてくれた。訓練の方も、軽い体力づくりとナイフ術の訓練だけになり、訓練時間は他の生徒の半分もないくらいまで減らしていた。ちなみに、ハジメたちと同じく非戦闘職であり、国の食料事情を一変してしまうかもしれないほどの力を持つ『作農師』の天職をえた愛子先生も、ハジメたちと同じメニューで訓練をしている。
さらに、二人は二日目からの空いた時間を使って、座学の時間に教わることを全て予習し、まとめたものを教師役の人に渡すことで、座学の時間すら免除になった。
この時に役に立ったのが、二人が共通して持つ技能『集中』である。
これは、物事を行う時に一定ラインまで集中が高まると、やっていることだけに没頭するようになるという技能である。没頭しているときは、記憶力や作業効率、習得速度なども上昇するようで、座学の内容をまとめる時だけでなく、錬成師の修行や人形作りにも重宝していた。
「(ふむふむ、東の樹海に住む亜人族には、獣の耳を持つ者や、耳が長く長寿な者がいる……と。これってケモ耳とエルフだよね? テンプレキター、後でミオにも教えよっと。次は……ほうほう、海人族? もしかしてマーメイドかな? 男のロマンだよなぁ……)」
と、男の性全開の思考を働かしているハジメは、王城の近くにある図書館に来ていた。王都にある図書館ということで、書物の数はかなりのモノである。
今読んでいるのは大陸に住まう種族についての本。人間族と敵対している魔人族について調べようとしているのだが、『邪悪で狡猾』とか『神敵である』といった曖昧な情報しかなかったので、こうして別種族のことに移行したというわけである。
「(それにしても、人間族は亜人族を蔑んで迫害しているんだよね。じゃあ、樹海までいかないと亜人族を見ることはできないってことか。もしくは……奴隷? ……いかん。そのワードには心惹かれるものがあるけど、流石にアウトだな)」
ハジメも年頃の男の子。美少女でケモ耳やエルフの奴隷に興味が無いといったら嘘になる。だが、そんなことを外部に漏らそうものなら、ミオに散々からかわれ、香織が恐ろしいオーラを出し、雫に冷たい目で見られることが確定する。精神的に瀕死になりそうなので、このことは絶対に口にしないようにしよう、と心に決めたハジメだった。
そうしているうちに、訓練の時間が近づいてくる。ハジメは読んでいた本を片付け、すっかり顔なじみになってしまった司書に挨拶をした後、図書館を出た。
「さてと、ミオを迎えに行かないと……」
そうつぶやいたハジメが向かった先は、聖教教会が行っている慈善事業の一つである孤児院だった。その建物の広い庭には人だかりだできており、その中心にいるのがミオだった。孤児院の子供たちに囲まれたミオの足元では、人の形を模したぬいぐるみがまるで生きているかのように動いていた。
「――――大いなる敵を前にして、二人は手を取り合い、こう唱えました。……『バ〇ス』。それは、天空の城に滅びをもたらす呪文です。二人の重なり合った手から閃光があふれ出し、大いなる敵の目を焼きました。大いなる敵は『目が、目がぁ~』と両目を抑えながら……」
なんか、とても聞き覚えのあるお話だった。足元で動いているぬいぐるみにも、見覚えがある。三分間なら待ってくれる王様気取りの大佐と、それに向かい合う空から降って来た女の子と彼女を受け止めた少年。それは間違いなく、毎年夏になると、必ずと言っていいほど放送される某国民的アニメであった。
ハジメが図書館で調べものや勉強をしている間、ミオは人形師の訓練として、こうして孤児院の子供たちに人形劇を見せているのだ。ミオの技能である『操糸術』は、魔力を流した糸を操ることができ、その糸を人形につなぐことで人形を操作することもできる。操っているぬいぐるみは『人形製作』で作ったものだ。
ハジメは、「なぜにジ〇リ!?」とツッコみたいのを全力で抑えながら、ミオが話し終わるのを待った。やがて、「めでたしめでたし」というミオの声と共に、子供たちが歓声を上げながら拍手をする。
そんな子供たちに、ミオは手のひらを胸に当て、もう片方の手は水平に伸ばし、一礼。足元のぬいぐるみも同じ動きをする。子供たちの歓声と拍手はさらに大きくなった。
「ミオお姉ちゃん! すごーーいっ!」
「今日もお話面白かったよー!」
「ねぇねぇ、もっとお話ししてよー!」
「にゃはは、ごめんねー皆。お姉ちゃんはもう行かなくちゃいけないんだよ。ほら、お迎えもきたし」
子供たちに群がられているミオが、遠目に覗いていたハジメの方を指さす。すると、子供たちはハジメを見て、「むぅ」と頬を膨らました。苦笑しつつもハジメが手を振るが、子供たちはそっぽを向いた。お話とお人形のお姉ちゃんであるミオを、いつも連れて行ってしまうハジメのことを、子供たちはあまりよく思っていないようだ。
そんな子供たちの態度に、肩を落としながらも近づいていくハジメに、ミオは困ったように笑いかけた。
「もう、時間?」
「残念ながらね。というか、ミオ。なぜにラ〇ュタ……?」
「え、名作でしょ?」
「名作だけれども……まぁいいや。これ以上は本当に遅れちゃうから、行くよ」
「うん。じゃあ、皆! また明日ねー!」
「「「「ミオお姉ちゃん、また来てねー!」」」」
「うん、約束だよ」
「「「「ハジメお兄ちゃんは来なくてもいいよー」」」」
「ひどくない!?」
ガックリと肩を落として悲しそうにため息を吐くハジメに、ミオと子供たちは顔を見合わせて笑い合うのだった。
# # # # #
「じゃあ、さっさとメニューをこなしちゃおうか」
「そだね。今日は新しい人形を作りたいし、『操糸術』の方も練習したいしさ」
時間をずらしているので未だに誰もいない訓練場の隅の方で、ハジメとミオは訓練を始める。内容は、走り込みと筋トレに加え、ナイフの型をなぞり、その後は二人で模擬戦のようなことをする。
地味な訓練とはいえ、これが以後自分たちの命を救うかもしれないと考えると、真面目にやる気にもなる。二人とも『集中』を発動させるまでに集中力を高め、黙々と訓練メニューをこなしていく。才能が無い分を『集中』による習得速度上昇で補っているといった感じだ。
「ハッ! ヤっ!」
「そりゃッ! とうっ!」
互いに刃渡りニ十センチほどのブレードナイフを構え、それなりに本気で戦う二人。その動きはまだまだ未熟だが、様にはなっていた。
最後は、互いが互いの首筋にナイフの切っ先を突き付けたことで終了となった。
「ふぅ、お疲れ様」
「お疲れー。なんか、結構様になってきたねー」
「まぁね。それじゃあ、恒例のステータスチェックと行きますか」
「行きましょう!」
ナイフを鞘にしまった二人は、懐から取り出したステータスプレートを起動させる。そこには、こう表示されていた。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:3
天職:錬成師
筋力:16
体力:16
耐性:16
敏捷:16
魔力:20
魔耐:20
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成]・集中[+記憶力上昇]・言語理解
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東風ミオ 16歳 女 レベル:3
天職:人形師
筋力:15
体力:15
耐性:15
敏捷:15
魔力:40
魔耐:25
技能:操糸術・人形製作[+作業効率上昇]・集中[+記憶力上昇]・言語理解
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ハジメもミオも、相変わらずステータスは低いが、後天的な技能である派生技能をいくつか習得していた。
ハジメは『錬成』で[+鉱物系鑑定]と[+精密錬成]を習得している。[+鉱物系鑑定]は国の錬成師たちから散々鉱物に関する情報を教えられ、実際に見て触って戯れて匂いを嗅いで……そんなことをしているうちに覚えていた。[+精密錬成]は、ミオにせがまれて金属製の糸を作る時の入手したものだ。細く、それでいて頑丈な糸を作るという作業は、恐ろしいほどに緻密で、駆け出しのハジメには困難極まりないものだった。それでも、幼馴染の頼みということで、徹夜で練習を重ねた結果、[+精密錬成]の習得と共に金属糸は完成したのだった。
ミオは、『人形製作』でぬいぐるみやらフィギュアなどを作りまくったおかげか[+作業効率上昇]を習得している。
そして、大活躍の『集中』先生は、パッシブで記憶力がよくなる[+記憶力上昇]が派生している。全てにおいて活用できる汎用性の高い技能に、ハジメもミオもにっこりである。
ステータスの確認が終わったハジメとミオは、訓練場に植えられている木の陰で休憩することに。だが、ここでハジメが忘れ物に気づく。
「あっ、しまった。飲み物持ってくるの忘れちゃった。ごめん、取りに言ってもいいかな?」
「いいよー、待ってるから。行っておいでー」
そういって訓練場から出ていくハジメを見送ったミオは、木陰に腰掛けながら手首に巻き付けた糸をにょろにょろと動かす。だいぶスムーズに動くようになったなー、なんてことを考えていると、ハジメと入れ替わるように生徒たちが訓練場に入って来た。どうやら、これから訓練を始めるらしい。
「……ちっ、なんでいるんだよ、『不明』のヤツ」
「ってことは、『無能』もどっかにいんのか? 最悪だ……」
「早く帰ってくれないかしら……」
生徒たちは、木陰で休んでいるミオの姿を見つけると、そろって嫌そうな顔をした。もともと気に入らないことが多かったミオが、自分たちのことを考えなしの馬鹿だと断じ、人殺しだのと言われたことで好感度は最低まで落ち込んだらしい。さらに、ミオとハジメだけ別の訓練を受けていたり、座学を免除されたりすることも、二人に対する不快感につながっている。
彼らが口にした『不明』と『無能』とは、ミオとハジメのことだ。何がしたいのか、何を考えているのか理解出来ず、天職もよく分からないモノであるミオが『不明』。非戦闘職なので戦う力が無く、足手まといであるハジメが『無能』である。誰が言い出したのかは分からないが、その蔑称はあっという間に生徒たちへと広がっていった。
とはいえ、ミオにとってクラスメイトとはひたすらに『どうでもいい他人』でしかない。雫や香織が例外であり、それ以外は等しく無関心なのである。
ミオは訓練場に生徒たちが入って来たのをちらりと一瞥しただけで、それ以降は視線すら向けない。手元の糸に集中してるのだ。相手が自分のことを嫌っているのは分かっている。ならば、無理して付き合う必要なんてない。互いに不可侵が一番だろう、と言うのがミオの持論である。そんなミオのスタンスに薄々気づいているのか、ほとんどの生徒たちは嫌そうな視線を向けるだけで、何かしらのアクションを起こそうとはしない。
そう、『ほとんど』、だ。このクラスには、周りのことなど目もくれず、自分の中にある価値観が絶対だと思っている正義の勇者(笑)がいる。
「東風さん、君は訓練をしないのかい? それに南雲はどこに行ったんだ? 二人とも弱いんだからもっとまじめに訓練をした方がいいと思うよ。聞いた話によると、空いた時間はどこかに出かけたり趣味に没頭していたりするそうじゃないか。俺だったら、皆に追いつくために空いた時間も訓練に当てるよ」
「…………」
「……聞いてるのか? 俺は、君や南雲のことを思って言ってるんだぞ?」
「…………」
無言。完璧な無視。光輝という存在そのものをスルーしているかのようである。
そんなミオの態度に、むっとした表情を浮かべた光輝が、さらに言葉を言いつのろうとすると、いきなりミオがガバリと顔を上げた。やっと話を聞く気になったのか、と光輝は思ったが……。
「あっ、白ちゃんに八重ちゃん!」
立ち上がったミオは、光輝に一瞥すらくれずに彼の横をすり抜け、香織と雫の方に向かっていった。
「な……ッ! 東風さん、話はまだ終わってないぞ!」
「白ちゃ~ん、訓練で疲れたから、回復魔法かけてくれない?」
「う、うん。それは別にいいけど……。あの、ミオ? 光輝くんが……」
「ホントに? 白ちゃん、ありがとー!」
「はぁ……。東風さんは相変わらずね。そんなに光輝が嫌いなのかしら?」
徹底的に無視され続ける幼馴染を哀れに思ったのか、雫がミオにそう問いかける。そんな雫に、ミオはきょとんとした表情を浮かべると、それを一転、輝かんばかりの笑顔に変えた。
「勿論だよ!」
無駄な感情など何一つない、純粋すぎる拒絶。三人の方に向かいかけていた光輝の足が、止まる。
「というかさ、二人はどうしてアレとの付き合いを続けてるの? 疲れるし、嫌じゃない?」
「そ、そんなことないよ」
「……というか東風さん。よくもまぁ、本人とその幼馴染の前でそこまでずけずけと言えるわね。逆に感心するわ」
「わーい、八重ちゃんに褒められたー」
「ミオ……皮肉だよ、それ」
仲良さげに話す三人を、立ち止まった光輝は所在なく見つめていた。
ミオの言葉には、悪意が含まれていない。ただ、純粋な事実として光輝を嫌悪し、無視しているのだ。関わりたくないから関わらない。言葉を交わすのが嫌だから反応をしない。嫌いだから、嫌いと聞かれれば何のためらいもなく肯定する。そもそも、存在を認めているかどうかも怪しかった。
光輝は、その正義感から、ミオの考えを間違っていると思っている。そして、間違いは正さないといけないとも考えていた。しかし、彼の言葉はその一切がミオには届かない。結果、どうしようもなく立ち尽くす勇者が残るだけだった。
「それでねー、今日はラ〇ュタをやったんだけ…………ハジメッ!?」
香織たちに、今日の出来事を話していたミオが、突然ハジメの名前を叫ぶ。
「ミオ? 南雲くんがどうかしたの?」
「……幼馴染の直感が告げている。ハジメが危ないっ!」
「何その直感……って、東風さん!? どこに行くの!?」
何か電波的なモノを受信したのか、ミオは訓練場の外へと走りだした。
「……雫ちゃん、私、ミオを追いかけてくる!」
そして、香織もそれに続いた。
「え、え? ……ああもうっ、何なのよ一体!」
そうすれば、必然的に雫もついていくことになる。
「……ッ」
そんな三人を見た光輝も、その背を追って走り出す。そんな彼の内心がどうなっているかは、本人すら分かっていなかった。