ありふれた職業で世界最強(いふっ) ~魔王様の幼馴染~   作:アリアンロッド=アバター

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ちと短めです。


勇者(笑)

「確かに檜山君たちがやったことは、許されることじゃないわ。けど……東風さん。貴女も、アレはやりすぎよ。下手したらあの四人、部屋に引きこもって出てこなくなるわよ?」

「……はい」

「それに……流石にないと思いたいけど、報復に会う可能性も考えられる。そういうことを、しっかりと考えてから行動すること」

「……はい、おっしゃる通りです」

「ちゃんと、分かったかしら?」

「……はい、すみませんでした」

 

 ミオは、雫から説教を受けていた。気持ちは分かるけどやりすぎだと、もっと考えて行動しなさいという雫に、何の反論もできないミオ。粛々と雫の言葉を受け入れていた。聞く姿勢もしっかりと正座である。

 

「……なんというか、八重樫さんって……」

「あはは……お母さんっぽい?」

「う、うん。そんな感じはするかなぁ……って」

「……南雲君? 聞こえているのだけど? というか香織! あなたも変なことを言わない!」

「「は、はいッ!?」」

 

 オカン扱いされた雫が、こそこそと話すハジメと香織をキッと睨んだ。その迫力に思わず二人は直立不動になった。オカンには誰も逆らえない!

 

「あぅ……ハジメぇ……。八重ちゃんめっちゃ怖かったよぅ……」

「まぁ……ミオのことを思っていってくれてるんだし、ちゃんと反省しなきゃね」

「うん、それはまぁ、分かってるよ。けど、説教中の八重ちゃんって、妙な威圧感があるんだよね……」

「ああ、うん。横から見てたけど、それはなんか分かる」

 

 こってり絞られたミオが、ハジメにもたれかかる。ぐでーっとしているところを見ると、相当堪えたらしい。傍若無人、自由奔放を地でいくミオにここまでダメージを与えた雫に、ハジメは密かに戦慄した。

 

「でも、南雲くんが無事でよかったよ」

「そうね……って、いけない。もう訓練が始まってる時間じゃない。はやく戻らないと」

 

 訓練に戻らなくては……というところで、余計なことを言いだす者が一人。

 

「待ってくれ。東風さんと南雲には話があるんだ」

 

 もちろん、勇者(笑)である。途端に嫌そうな顔をするミオ。だが、光輝はそれに構わず話始める。その瞳には相変わらずの正義感が迸っていた。

 

「二人とも、協調性が無さすぎるんだ。皆と同じ行動をとらないし、勝手なことばかりしている。訓練だって、皆は真面目にやっているのに、二人はすぐにやめてどこかに行ってしまう。皆も迷惑に思ってる。これじゃ、この世界を救えないじゃないか。二人とも、もっと真面目にやってくれ。さっきの檜山たちだって、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろう?」

 

 どう解釈すればそうなるのか。それを聞いたハジメは、真剣に光輝の頭が心配になった。確かに、言っていることは間違いではない。ただそれは、物事のうわべだけを見て判断し、光輝の基準に合わせた正しさであり、ハジメやミオからしたら「何言ってんだこいつ」と正気を疑うレベルで頓珍漢なことだった。

 ハジメとミオが訓練に参加する時間が短いのは、他にやることがあるから。他のクラスメイトと違う行動をとるのだって、戦闘職と非戦闘職が同じことをやって成長できるはずがないからだ。

 光輝は、二人の「訓練に積極的じゃない」、「協調性のある行動をとらない」という部分だけを見て、ハジメとミオを間違っていると断じているのだ。光輝の視点から見ればそうなるのかもしれないが……それにしても、最後に言ったことは、真剣に意味が分からない。どうして不真面目さを直すためにリンチをする必要があるのか。

 光輝の思考回路は、自分の正義感が大前提にあるため、それ以外を認められない……いや、認めようとしないのだ。そして、光輝の正義感には行きすぎた性善説が含まれており、人はそう簡単に悪いことをしないと考えている。だから、檜山たちの行動も、原因はハジメにあるのではないかと考えたわけだ。

 

「…………は?」

 

 そんなことを言われて、ミオが怒らないはずがなかった。ミオから思わずゾっとしてしまいそうなほどの殺気が放たれた。その手はそっとナイフの鞘に向かっている。

 ミオは知っている。この世界来る前から、ハジメはハジメの人生を真面目に生きていることを。万人からの理解が得られる生き方では無いのかもしれない。それでも、ハジメはそれに真剣だったのだ。それは、こっちの世界に来てからも一緒で、自分にできることを探して、それを一生懸命頑張っていた。光輝の言葉は、その努力すべてを否定するものでしかない。

 これがあるから、ミオは光輝のことを唾棄のごとく嫌っているのだ。ハジメのことなど何も知らないのに、ハジメを陥れる彼のことを。

 気に入らないなら視界に入れなければいいのだ。気にするから嫌悪感が生まれ、それをどうにかしようなどと考えるのだ。

 ミオが光輝をずっと無視していたのはそのためだ。ハジメの何が気に食わないのか、ミオには(・・・・)まるで分からないが、ずっとハジメに一方的な『正しさ』を押し付けようとする光輝を、少しでも気にしてしまえば……。

 

 ――――殺してしまいそうだったから。

 

 ミオから溢れ出した殺気は、その場にいた全員の背筋を凍らせるほどに冷たく、無性に腕を掻き毟りたくなるほどに不気味だった。これと比べてしまえば、檜山たちに向けていたものなど児戯に等しい。

 

「……どこまで……わたしを怒らせれば……! ハジメを……バカにすれば……ッ! 天之河ぁ……ッ!」

「お、落ち着いて、ミオ! 僕は全く気にしてないからっ! 大丈夫だからっ!」

「……放して、ハジメ。そいつ殺せない」

「こんな時までネタに走るな!」

 

 真面目に起こっているのか、実は余裕があるのか分からないミオを、必死に止めるハジメ。そこに、ため息を吐く雫が着て、二人に謝罪する。

 

「光輝……はぁ。ごめんなさい、東風さん。光輝だって、悪気はないのよ」

「八重ちゃん、それ一番たちが悪いやつだから。それに、悪気が無かろうと、あいつが言ったことは許されることじゃない」

「……それもそうね。今のは流石に言いがかりだわ。光輝、ちゃんと南雲君と東風さんに謝りなさい」

 

 光輝の言動になれている雫から見ても、先ほどに光輝の発言は「無い」ものだったらしく、二人への謝罪を求めた。だが、光輝はそれに納得できなかったらしい。

 

「なっ……、どうして俺が謝らないといけないんだ! 間違ってるのはその二人の方じゃないか!」

「……あー、うん。本当にごめんなさい」

「八重ちゃんが謝ることは無いよ。そうだよね、ハジメ」

「うん、八重樫さんは、気にしないでいいから」

「そう……ありがとう、二人とも」

 

 これはもうどうしようもねぇわ、と思ったのか、ミオも殺気を出すのをやめた。雫は物分かりの悪い幼馴染に『頭痛が痛い』という状態であり、そんな雫にミオとハジメは優しい言葉をかけた。オカンの胃痛がマッハでヤバい。

 そんな三人を見て、光輝は歯噛みする。自分は正しいことを言っているはずなのに、自分の言っていることは間違っていないのに。そんな思いが胸中に渦巻くが、光輝はそれを伝えることができなかった。幼馴染である雫さえも、光輝のことを間違っていると断じたのだ。それは、光輝の中で名状しがたき感情へと変わっていき、心の奥底に溜まっていく。その感情の正体が何なのか、本人すら気づかぬままに……。

 

「ま、勇者(笑)のいうことに反応するのも馬鹿らしいし、そろそろいこっか、ハジメ」

「またそうやって煽る……。はいはい、この後は『操糸術』の訓練だったっけ?」

「そだよ。ハジメは?」

「うーん、特にやることがあるわけじゃないけど……。いつも通り、『錬成』の訓練かな?」

「おっけー、じゃあハジメの部屋でやろっと」

「どうしてそうなるの……? まぁいいけどさ……」

「はい決定。というわけで、白ちゃんと八重ちゃん、またねー」

 

 そう言って去って行くミオとハジメ。すでに二人の眼中に光輝の姿はない。そんな二人にまたもや声をかけようとした光輝だったが、突然隣から噴き出た威圧感に、その身を竦ませてしまう。

 とっさにそちらを見た光輝。だが、そこにはいつもと変わらぬ笑みを浮かべる香織がいるだけだった。

 

「光輝くん? どうしたのかな?」

「あ……いや、何でもない。気のせいだったみたいだ」

「そうなの? じゃあ、私たちも訓練に戻ろっか。南雲くんたちも頑張ってるみたいだし、私たちも頑張らなきゃ。いこう、雫ちゃん」

「そうね、今日も頑張りましょう」

 

 香織と雫は、肩を並べて訓練場の方に向かった。出遅れた光輝が、少しその場で立ちすくむ。

 ハジメとミオ、香織と雫。別々の方向に去って行く二人組が一つ。その中央で立ちすくむ光輝は……なぜか、途方もない孤独を感じたのだった。




うちのハジメ君は、原作のハジメ君に比べ、悪意に対して抵抗することにためらいがありません。幼いころからミオと一緒に育った影響というわけです。

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