ガーディアンズ   作:龍の骨

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ジャンボ「ぬりかべの荒魂、ジャンボウォールでゴス! 鉄壁の防御力でどんな攻撃をもはじき返すでゴス!!」

沙耶香「……大きい」


四話 イグナイトとの約束

 雑木林にて、ラジコンヘリを持ったジェットがウシガエル型の荒魂とイグナイトがいる場所から離れてから数分後、彼らは戦いを始めていた。

 ジェットがここから離れたのは、イグナイトにラジコンヘリを守ってエイティに連絡しろと頼まれたからだ。

 ウシガエルの荒魂は右腕から鋭い針を飛ばす。それを素早い反応速度を活かすようなフットワークでかわし、顔面にストレートパンチを叩き込む。今の一撃で怯むように後ずさるウシガエルの荒魂。

 これは好機だと追撃しようとすると、ウシガエルの荒魂の舌が胴体に当たり、その勢いで吹き飛ぶ。地面に落ちる前に空中で受け身を取り、着地する。

 

「プールで腹から飛び込んだ時のヒリヒリ感がするぜ……」

 

 ウシガエルの荒魂の舌の先端は鉄球のような重さと威力があり、普通の人がこれを喰らえばタダで済まない。だからこそ、刀使はこんなのと戦ってるんだなと思い出す。

 

「くっ! こんな所だから、火はあんまり使えないんだよなぁ」

 

 まるで苦い物を食べたように距離を取るイグナイト。

 燃えやすい木がある雑木林で無闇に火を出すと火災が起きてしまう場所であるからだ。

 ウシガエルの荒魂はボクシングのように舌で攻撃し、それをイグナイトはかわす。かわしきれない時には両腕で防ぐ。腕に強烈な痛みを感じながらも、それを表に出さない様に耐える。

 時間稼ぎに集中しているとはいえ、追い詰められている状況。ウシガエルの荒魂の攻撃を防ぎ切れるかどうか解らない。

 一気に畳みかけようとウシガエルの荒魂は鉄球を飛ばすように舌を伸ばす。イグナイトは左脚で地面を力強く踏み込み、右腕を引いて構える。

 

「爆裂パンチ!!」

 

 腰を前へ捻ると同時に右ストレートを舌の先端に叩く。それから目にも止まらぬ速さで叩き込み、アッパーで上へ打ち上げる。

 その勢いで鉄球の舌は飛ぶように千切れてしまい、ウシガエルの荒魂は悲痛な叫びを上げる。

 

「よし……この技も鈍ってねぇな」

 

 イグナイトは自分の拳を少し嬉しそうな顔で見た後、ウシガエルの荒魂に目を向ける。

 

「とはいえ、さっきのでノロが何処かにかかっちまった。回収する人達には申し訳ねぇ!」

 

 そう言ってイグナイトは走り出す。ウシガエルの荒魂は舌を奪った怒りを表すように両腕から多くの針を飛ばす。彼はそれを臆する事無くかわし、一気に距離を詰め、懐に入って胴体に強烈なボディブローを数発叩き込み、右脚で顎を蹴り上げると同時に片足で後へ宙返りして距離を取る。

 ウシガエルの荒魂は怒りで我を忘れ、薙ぎ払おうと右腕と左腕を交互に振るう。構えを崩さず体捌きでかわし、それと同時に跳んで踵落としを頭に叩き込むイグナイト。ウシガエルの荒魂は、今の衝撃で潰れるような感じで突っ伏した。

 

「どうだ!!」

 

 上手く着地し、突っ伏しているウシガエルの荒魂を見る。

 踵落としを頭に叩き込んだとはいえ、まだ動けるくらいの力が残ってるかもしれない。

 しかし、ウシガエルの荒魂は全く動く様子が無く、イグナイトは緊張が解けたようにため息をつく。

 

「時間稼ぎのつもりが、倒しちまったな。さ~て、連絡しねぇとな」

 

 そう言って懐からトランシーバーを出し、スイッチを入れる。

 

「ジェット。俺だ」

『イグナイトか!』

 

 トランシーバーからジェットの声が聞こえ、笑みを浮かべる。

 

「荒魂の方は片付いた」

『片付けた!? エイティと一緒か?』

「いや、ここにはいない。一人で倒した」

『一人で倒した!? あんな馬鹿デカい蛙だぞ!?』

 

 火があまり使えないこの雑木林で一人で戦い、倒したと聞いてジェットは驚いている。

 

「海外での修行の成果ってヤツだ。アイツはこの為に海外で修行しろって言ったんだと思うぜ」

『そうか……エイティには連絡しておく。その代わり、可奈美達にはちゃんと言っとけよ』

「解ったぜ。それより、ラジコンヘリは無事か?」

『無事だ』

「なら良かった! 俺は可奈美達に知らせた後、お前と合流する。場所はどうする?」

 

 イグナイトがジェットと会話している所、僅かだが、ウシガエルの荒魂の指が動く。更に突っ伏している身体が少しずつ起き上がる。

 さっき受けた攻撃のダメージが残っているものの、立てる位の体力が残っていたようだ。

 背後から歩み寄ってくる音に気付いたイグナイトは、ゆっくり振り向く。

 

『おい、イグナイト。どうした?』

 

 そんな彼に通信越しで尋ねるジェット。

 

「あ~ジェット、今から訂正する」

『は?』

「あの荒魂、まだ生きてたぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 叫びと共にウシガエルの荒魂が振るう腕をかわす。

 

『だと思った。エイティがここへ来るかもしれないから、それまで持ち堪えろ』

「だよな~」

『それと、戦いに熱くなって火とか使う事が無いようにしろよ』

「解ってる! いつもなら一気に決めようと思うけど、今回は長期戦だ!」

 

 トランシーバーのスイッチを切った後に懐に入れ、ウシガエルの荒魂による攻撃をかわす。その隙に距離を詰めて攻撃に入るその時、薙ぎ払うような左手に直撃し、吹き飛んで地面に転がる。

 

「ってぇ~。動きはさっきより鈍くなってるが、パワーは相変わらずだな」

 

 ウシガエルの荒魂から受けた攻撃を身に染みたと感じながらゆっくり立ち上がり、構え直す。

 

(元々俺、長期戦とか向いてねぇんだよな。でも、状況が状況だから仕方ねぇ)

 

 そう思いながら次に来る攻撃をかわす。

 イグナイトは高い攻撃力と必殺技を持っており、火を用いた戦い方と敵の懐に入ってガンガン攻めるのが得意なタイプ。一つでも制限されてしまう場所での長期戦には向いていない。

 全身から炎のオーラを放って身体能力を上げる必殺技である『イグニッション』を使っても木々が燃える事はないが、体力が大幅に削れてしまうリスクを抱えている為、発動するタイミングを間違えると肝心な時に息切れを起こし、逆転されてしまう。

 そんな彼に反撃を許す暇を与えないウシガエルの荒魂は、背中からミサイルの様な形をした棘を飛ばす。イグナイトはそれをかわすが、その時に振り向いて棘が木を貫通する所を見ると、思わず口元が引き攣ってしまう。

 マジかよって感じで驚いているのだろう。

 

「このままじゃ……ホントにやられるな」

 

 すると目の前のウシガエルの荒魂が姿を消し、横から体当たりされ、吹き飛ぶ。

 鈍かった動きから嘘みたいに素早くなったのだ。

 何とか受け身を取り、イグナイトは構え直し、薙ぎ払うような攻撃をかわす。そこから背後を取って攻めに入ろうと跳び上がるが、ウシガエルの荒魂の背中から多数の針が生える。ウシガエルの荒魂は、背中に生えてる針をイグナイトへ飛ばす。

 

「こんなのアリかよ!?」

 

 驚きながらも両拳で目にも止まらぬ速さで飛んで来た針を落とすが、打ち漏らした針が彼の右腕や脇腹をかすり、右脚と左腕に刺さる。

 その痛みで思わず背中から落ちてしまう。彼の右腕と脇腹と左腕と右脚から赤い液体が流れ、ウシガエルの荒魂は振り向いて見下ろす。

 この時イグナイトは、ウシガエルの荒魂はこの為に手加減したんだと気付いた。

 そして、タギツヒメ達と最悪な再会をした日を思い出し、各地で暴れている荒魂は自分達と同じく強くなっているんだと感じた。

 しかし、だからと言ってやられてやる訳にはいかねぇぞと、痛みを堪えてゆっくり立ち上がり、刺さっている針を無理矢理引っこ抜く。

 

「来いよ。俺はまだ立っているぞ!!」

 

 イグナイトの言葉にウシガエルの荒魂は、トドメを刺そうと右腕を振り上げる。

 今まさに、やられてもおかしくない絶体絶命の状況。

 その時、振り上げた右腕が何かに引っ掛かったように動かなくなる。

 どういう事なんだとイグナイトはウシガエルの荒魂の右腕を見ると、白い大きな糸が腕ごと木に張り付いていた。

 

「どうにか間に合ったよ」

 

 後ろから声がし、振り向くと、太い木の枝に乗っているエイティの姿が見えた。

 

「エイティ……」

「それと、君が戦ってくれたお陰で援軍が到着したよ」

「援軍?」

 

 エイティの言葉にどういう意味なのかを尋ねようとすると、木に張り付いているウシガエルの荒魂の右腕を可奈美が素早く斬る。その後に横から脇腹を沙耶香が斬り付ける。

 二人の身体は、何かのオーラに包まれてるように光っている。

 この状態は刀使の基本戦術である『写し』。御刀を媒介にして身体全体をエネルギー体に変質させる。この状態で斬られようが撃たれようが実態へのダメージを肩代わり出来るが、それと同時に精神的な疲労と体力が代償となる。また、集中力が切れたりすると、直ぐに解除してしまう。

 

「可奈美、沙耶香……」

「豪炎寺君。いくら荒魂だからって、無茶しちゃダメだよ」

「でも、ここまで長く持ったのは事実……」

 

 イグナイトの前に立ち、ウシガエルの荒魂を前で構える可奈美と沙耶香。

 二人はスペクトラルファインダーという、荒魂を探知するスマホのアプリで反応した荒魂がいる場所へ向かう途中、イグナイトと荒魂が戦う音が聞こえ、足を速めたようだ。

 

「すまねぇ、すまねぇ。だが、これで形勢逆転だぜ。じゃあ、反撃だぁ!」

 

 イグナイトの掛け声と同時に可奈美と沙耶香はその場から瞬間移動するように一気にウシガエルの荒魂に近付く。

 彼女達が行ったのは、刀使の基本である『迅移』。こちらも御刀を媒介にして使う技であり、通常の時間から逸して加速する。

 ウシガエルの荒魂は左腕で薙ぎ払おうとする。それを読んだ可奈美と沙耶香は、同時に跳んでかわす。着地した後、迅移で移動しながら所々斬り付ける。

 これにウシガエルの荒魂は痛みのあまり大きく口を開けて叫び声を上げる。

 

「今だぁぁぁ!!」

 

 その隙にエイティは懐から野球ボールと同じ大きさである緑の葉が纏まったようなボールを思いっ切り投げる。ボールはそのままウシガエルの荒魂に向かっていき、口の中へ入った。ウシガエルの荒魂は口を閉じて、入ったボールを思わず飲み込んでしまう。

 

「よっしゃ!!」

 

 これにエイティは、嬉しさのあまりガッツポーズを取ってしまう。

 

「エイティ! お前、何投げた!?」

「直ぐに解るよ」

 

 笑みを浮かべるエイティに対し、どういう意味なのかとイグナイトはウシガエルの荒魂を見る。

 その時……

 

「■■■■■■っ!?」

 

 ウシガエルの荒魂の腹から大きな爆発音がし、それと同時にウシガエルの荒魂の叫び声が響く。

 

「な、何が起こったの!?」

「解らない……」

 

 可奈美と沙耶香は目の前で起こった光景に困惑している。

 そりゃそうだ、エイティが投げたボールがウシガエルの荒魂の口に入った所を見てなかったからだ。

 

「爆弾を放り込んだのか!?」

「まぁね~」

 

 エイティが投げたのは、荒魂に効果覿面の爆弾である。彼が思い付いて作った武器であり、荒魂にダメージは与えられるが、外から攻撃では火傷程度。しかし、口の中に放り込まれて体内で爆発すれば、多数の兵士達による総攻撃を受けたようダメージを受ける。

 

「実験成功だ。いやぁ~初めて作ったから失敗したらどうしようかと思ったよ~」

「作るのに時間掛かりそうなモンなのに、それが出来ちまうとは……腕を上げたな」

「修行していたのは、イグナイト達だけじゃないからね~」

 

 余裕をかますような顔になってるエイティと話していると、口から煙を出して動きがさっきより大きく鈍っているウシガエルの荒魂が見えた。

 

「でも、これで荒魂が弱くなってるよ」

「可奈美、トドメを刺す……」

「その役は俺に任せろ!」

 

 構える二人の前に庇うように現れるイグナイト。

 

「豪炎寺君!?」

「行くぜ! イグニッション!!」

 

 全身から炎のオーラを放ち、構えを取る。その場から瞬時に真っ直ぐ移動し……

 

「ファイアナックル!!」

 

 炎を纏った拳をウシガエルの荒魂の頭に思いっ切り叩き込む。イグニッションによって強くなったから、ウシガエルの荒魂は、その衝撃でバラバラになり、ノロに戻った。

 荒魂を倒す事が出来るのは御刀を持つ刀使だが、穢れが消えた荒魂の必殺技と強力な攻撃でも倒せる。イグナイトがやった『ファイアナックル』それである。

 

「豪炎寺君に美味しい所を持ってかれちゃったな~」

「少し……弁えて欲しい……」

「悪かったって。あぁ、そうだ」

 

 イグナイトは何か思い出したような顔になり、トランシーバーを取り出し、スイッチを入れる。

 

「ジェット。荒魂は片付けた、可奈美達がノロの回収班を呼んでる」

『そうか。今俺は、お前達と話し合った待ち合わせの場所にいる』

「オッケー! 後は俺達が合流して、ツトム君にラジコンヘリを渡せば依頼達成だぜ!」

『守護聖地で話した事、忘れてないよな?』

「大丈夫、大丈夫。今から俺とエイティは、お前と合流しに行くからな~」

『あぁ、待ってるぞ』

 

 トランシーバーのスイッチを切り、懐に入れる。

 

「さ~て、そろそろ俺達はここから撤収って事で……」

「豪炎寺君、八雲君」

 

 ここから立ち去ろうとするイグナイトとエイティだが、可奈美に呼び止められる。

 

「今日は、荒魂の討伐を手伝ってくれてありがとう」

「俺達の方こそ、ありがとな。お陰で、依頼者の笑顔を取り戻せるぜ」

「依頼者?」

 

 イグナイトの言葉に首を傾げる沙耶香。

 

「あ~いやいや、こっちの話だ。それより、俺達が見つけた落とし物だが……」

 

 自分達が見つけた落とし物を思い出し、気まずそうに可奈美と沙耶香に頼もうとする。

 

「それなら、私達の方でやっておくよ」

「なら良かった。俺達はこれから仲間と合流しに行くから、この荒魂を倒したの可奈美達だって事にしてくれる?」

「解った……」

 

 イグナイトの頼み事を可奈美と沙耶香は請け負う。

 荒魂の討伐は刀使が行うのが一般的になっている。ただでさえ風当たりが強い時に荒魂との協力を得て討伐したとなると、更に面倒な展開になってしまう。

 その為、刀剣類管理局や折神家はイグナイト達が荒魂である事を知らない。

 

「んじゃ、後でちゃんと礼はしとくからな~!!」

 

 そう言ってエイティと共に可奈美と沙耶香から走り去った。

 数分後、ノロの回収班が到着し、イグナイトが倒したウシガエルの荒魂のノロは無事、回収された。

 その時に回収班の一人が葉っぱとゴムのような欠片とを見つけたのは、エイティは知らない。

 

 

 イグナイトとエイティがジェットと合流した頃。

 空はオレンジ色になっており、太陽が落ちて来る時間帯になっていた。

 安全な場所で待機しているツトムと合流した後、彼らは守護聖地に戻った。

 

「ツトム君。君のラジコンヘリは、ちゃんと見つけたぞ」

「あ、ありがとう!!」

 

 涙目になりながらもイグナイトからラジコンヘリを受け取り、礼を言うツトム。

 大切な物が戻って嬉しかったのだろう。

 

「もう失くしちゃダメだぞ。それと、俺からの約束だ」

 

 そう言ってイグナイトは腰を低くし、ツトムと目を合わせる。

 

「今日は両親に黙って俺達に依頼したけど、帰ったらちゃんと正直に言う事」

「で、でも……」

 

 嬉しさから一転、沈んだような暗い顔になるツトム。

 イグナイト達は両親に言わないと約束したばかりなのにという気持ちと両親に今日の事を言う恐怖心を抱いてしまったからだ。

 

「確かに俺達は両親に言わないと約束した。でもね、自分の口からちゃんと言わなきゃダメなんだ」

「僕は……」

「言ったら両親に怒られて嫌われてしまうって思う気持ちは解る。ツトム君、君が何も言わずに過ごしていたとしよう。後からこの事を知った両親は、どんな気持ちになるかな?」

「……」

 

 守護聖地に依頼した事を隠し続けて過ごし、後から知った時の両親の顔を思い浮かべてしまったのか、ツトムは黙ってしまう。

 するとドアが開く音と鈴の音が鳴る。

 

「やっぱりそういう事だったんだね」

 

 入って来たのは可奈美と沙耶香である。

 

「もしかして、後を付けてた?」

「ううん。丁度終わったから帰り道に豪炎寺君達の姿を見てね」

 

 可奈美は目の前の光景に、イグナイト達が雑木林で探し物をしている理由が何なのかを察した。

 

「僕の父さんと母さんは、いつも一緒に仕事へ出掛けているんだ。僕が話しかけようとしても、二人は仕事の話ばかりしてて……ある日、お父さんが行ってる会社の人が『君が寂しいのは解るけど、君が甘えようとするのは仕事の邪魔になる。良い子にしていれば、二人の為になるんだよ』って……」

 

 これを聞いてイグナイトとジェットとディープは、ツトムが親に黙ってて欲しいと言った理由だと納得する。

 ただでさえ両親は忙しいのに、守護聖地にラジコンヘリを探す依頼をしてたと聞けば仕事の邪魔をされたとツトムに怒りをぶつけてしまうだろう。

 

「誕生日に、このラジコンヘリを僕にプレゼントしてくれた気持ちは嬉しかった。でも、一緒に遊んだりご飯を食べたりする日が少なくなって、『疲れてるから』とか、『明日は忙しい』とか言って僕に向いてくれない」

 

 ツトムの脳裏に、仕事から帰ってこない両親の帰りをリビングで一人寂しく待っている夜が浮かぶ。

 彼が高得点を取ったテスト用紙を出しても目もくれず、運動会や授業参観があると言っても来なかった。そして、話しかけた時に怒鳴られた事も。もう自分は、飽きられてしまったのではないかと考え始めるが、父が働いている会社の同僚の言葉で勉強に打ち込むようになり、暇さえあればラジコンヘリで遊ぶ日が増えた。

 

「それで遊んでいる時に無くして、俺達に依頼してきたって訳か」

 

 イグナイトに尋ねられたツトムは、その問いに答えるように頷く。

 すると……

 

「それはちゃんと言わなきゃ、駄目だと思う」

 

 沙耶香の言葉にツトムは顔を上げてしまう。

 

「あなたが寂しい気持ちと両親の邪魔をしちゃいけないという気持ちは解る。でも、隠し事をして苦しんだままじゃ、良くない。それで心が壊れたら、悲しむと思う」

「……」

 

 口外しないで欲しいと頼むのは傷ついたり嫌われたりするのが怖いから目を背けて逃げているだけなんだとツトムは気付く。

 しかし、恐怖心が拭えずどうすれば良いかと悩む彼に、可奈美はそっと肩に手を乗せる。

 

「大丈夫だよ。自分が抱えている思いを伝えれば、解ってくれるよ」

「でも……」

「怖いか? なら、俺達が付き添うぜ」

「え?」

 

 イグナイトの言葉に少し驚いたような顔になるツトム。

 

「どんなに優れてても、強い敵と一人で戦うのは限界がある。だが……」

「二人や三人になって挑めば、勝てない敵はいないよ!」

 

 ジェットとエイティは勇気づけるように言う。

 今のツトムは内に秘めている思いを抑え込み、一人で辛い事を抱え込んでいるような感じだ。

 彼らからすれば、そう見えているのだ。

 

「……解りました。一緒についてくれるなら、ちゃんと言います」

 

 ツトムは決意を固め、覚悟を決めたような表情になる。

 

 その後、彼はイグナイトとジェットとエイティを自宅に招き、仕事から帰ってきた両親と話し合う事になった。

 イグナイト達からラジコンヘリについての事情を聞いたツトムの父は叱り飛ばそうとするが、エイティがそれを抑え、更にイグナイトはツトムがどうして守護聖地に依頼したかを教えると、両親は黙り込んでしまう。

 

「いくら仕事が忙しくてストレス溜まってるからって、子供に当たるなんて何考えてるんだよ! 自分のミスを他人のせいにしてるのと同じだ!」

 

 とジェットが強く言うと、ツトムの父はバツの悪い顔になり、ツトムの母は思い出したのか、顔を両手で抑えて涙を流す。

 そしてツトムは、自分が今まで抱えてきた不満と思いを感情的になって明かすと、両親は彼が寂しい想いをしていた事に気付けなかった事、忙しさのあまり辛く当たってしまった事を謝罪し、ツトムと涙を流して抱き締め合った。

 数分後、両親はラジコンヘリの捜索の報酬を出そうとするが、イグナイト達は家族で過ごす時間を大事にするなら、報酬金はいらないと断り、守護聖地へ戻った。

 

 それから数日後……

 

「おぉ、ラジコンヘリを捜索してくれと頼んだ少年から手紙が来てるぜ」

 

 ディープは手に持っている手紙をイグナイトとジェットと可奈美に見せる。

 

「そういえばあの後、豪炎寺君達は報酬金を受け取らず帰って来てマスターに怒られたんだよね?」

 

 可奈美に尋ねられ、イグナイトは苦笑し、ジェットはため息をつく。

 ツトムの家に行った後、守護聖地のマスターにキツく叱られたが、その優しさを忘れるなという言葉を貰ったらしい。

 

「仲直りになって絆が深まったばかりなのに受け取るのはちょっとアレなんだよ。それに、ツトム君の約束を破る訳にはいかなかったからな」

「無料でやる代わりに約束を守って欲しいって言ってたしな」

 

 ジェットの言葉でそうだったな~と笑いながらディープからツトムからの手紙を受け取り、封筒を開けて便箋を取り出す。

 あの日以来、家族と過ごす時間が増え、授業参観や運動会に来てくれたり、テストで高得点を取ったら誉めてくれたという事。更にラジコンヘリの大会で初めて出場し、優勝したという。そして、イグナイト達に対しての感謝の言葉が書かれた内容である。

 

「ん? もう一枚、何かあるな」

 

 封筒からもう一枚の紙を出すと、ラジコンヘリと優勝トロフィーを抱えた笑顔のツトムが写った写真だった。




イグナイト「さ~て次回からはぁ~」

ジェット「タギツヒメに再会してから一カ月後に俺達が可奈美達と出会うストーリーだ」

エイティ「どんな出会いかは……」

ジャンボ「次回のお楽しみでゴス!」

エア「ぜってぇ読めよナァ!」
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