二曲目の英雄 作:不思議稲荷
ああ、それから(むくり)
アニメ化してもネタバレはご注意をば。民度は高く、敷居は低く。
予告通り本日更新です。11/1はすまない、無理
今回は珍しく日常回……ん、熱いバトルが欲しい? グローリアを読んでグローリア(ダイマ)
栄光の選別者ってサブタイがもう格好いい……サブタイいります?
高校入試から数日。中学生活が残りわずかな事に気づき始め、名残惜しくなる頃。
──奏指宛てに手紙よ
学校から帰り、ドアを開けると待っていたかのように母からの声が届く。
この母は本当に個性を使い熟している。もっとも本人曰く、使い慣れ過ぎて大声は張れなくなっているらしい。いくら音を広域に飛ばせても、クラリネットの音を出す時点で結構な肺活量は必要だと私は思うのだが、問うてもいつも通りの笑顔で流された。
何しろ私もそうだが、吹奏楽部は準運動部扱いだ。生まれ変わったとしても好きな事は変わらないし、野球だの何だのと新しい事に手を染める気にもならなかったから望んだ事なのだが、あの苦行を味わったからこそ断言できる。絶対に現役の母が衰えているはずもない。まあ実際に口に出せば折檻されそうなので父と共に黙っている。家庭内ピラミッドに精神年齢はあまり作用しないらしい。
靴を脱いでリビングまで登る。毎回ここを通るときミノタウロスの幻影がちらつくのはどうにかならないものか。我が家にアリアドネはいないんだ、克服できたトラウマだからまだマシだが一般なら後遺症が酷いぞ。
もちろん現実には廊下を抜けて、一家の仕事上関係者が集まってもゆとりがあるくらいには広々と設計されたリビングに出れば、怪我など負っていない母親がいた。その姿を見て、じめじめと湿っぽくなった掌を服の裾で拭く。
母の手には小さな封筒。送り主は雄英高校。ああ、合否通知か。
「合否通知にしてはやけに小さいな」
「触った感じ、中身は紙じゃないわね」
紙じゃない? 確かに渡されるとサイズに合わない重さと硬質な感触がある。
「まあ開けてみれば分かるか」
ペリペリと封を切れば、何やら円形の機械が送付されている。おいまさか新手のテロとかじゃないよな?
『Helloリスナー! 雄英からお待ちかねの合否発表だぜYeah!!』
「おっと」
前触れもなく怪しげな機械から、入試で解説役を務めていた金髪
「あら、プレゼントマイクじゃない」
「知っているのか?」
「ええ。お父さんと一緒に彼のラジオ番組に何度か呼ばれたもの」
そういえば何年か前に共演しているのをラジオで聴いたことがある。親がどこどこに出た~とか把握していたらきりが無い。私の家は基本的にビジネスとプライベートでは
『ヘイヘイヘイ心の準備はいいか?! 受験番号61485、天山奏指。お前は………』
ゴクリと固唾を飲む。1秒でも早く五月蠅くなってほしいと願う日が来るなんてな。心拍が八拍子よりも速く刻まれる。
『
中途半端に膨らんだ風船が
『本当は来年度から教師になったオールマイトが顔見せも兼ねて通知役をやるはずだったんだがな。なんか急用とかで俺が代理だ! 不満か?! 不満だろうな!』
「オールマイト……No,1のヒーローか」
来年度から雄英で教師に就任するのか。スポーツでもそうだが、選手として優れていてもコーチとして優れているかは不明。テレビの取材でも『努力して今の地位に登り詰めた』等と語っていたが、残念。努力できるのも才能だ。しかしどんな教育を施すか興味深い。
『まあオールマイトの話は新学期がスタートすりゃ嫌でも聞くだろうから置いといて、だ。点数の内訳発表! 筆記試験が……7割越え!? お前インテリか!?』
他者より自我の目覚めた時期が早い上、国語数学英語理科社会のすべてが前世と然程変わりないのだがら当然だろう。それでも7割程度しか取れないのだから倍率300倍は伊達じゃない。
『実技試験は敵ポイントが53P。敵ポイントだけでもそこそこだが、ここに
映像のプレゼントマイクが横にずれれば、背後に点数の表示されたボード。ああ、ちゃんと私の点数も書いてある。救助Pが31Pか。おそらくあの0ポイント敵が実験台。困難に直面したとき英雄的選択をできるかどうかを見極めるための、な。そこでしっかり行動できた奴にはボーナスだ。杜撰な設定だと思っていたが、あれで中々考えてはいたらしい。まだ粗い穴は見つかるがね。
『他の受験者に抜かれちまったが、お前は助けようとした! それに最後のありゃなんだ!? 最ッ高に痺れたぜ!!』
「近所迷惑にならないよな……」
「演技してるわけじゃなくていつもこれなのよ……防音室に移動する?」
「いや、すぐに終わるはずだから大丈夫だ」
無駄に機械が高性能なのか、鼓膜を
あまりの騒音に親子揃って耳を塞ぐ。プレゼントマイク本人と面識のある母は申し訳なさそうに防音室を勧めるが、一般家庭に防音室なんてないだろう。どこに防音室がある前提で合否通知を送る高校があるんだ。
『カモンリスナー! ここがお前のヒーローアカデミアだ!!』
全身全霊を込めて喉が張り裂けんばかりに叫んでいるが、「ラストもハイテンション」と私たちの予想は一致、備え付けの耳栓を装着済みだったために快適な音量で聞くことができた。耳栓して普通に聞こえるとかどんな声量を……いやいい、別に聴きたくもない。とりあえず対抗策を用意できなかった同級生諸君には弔辞を送ろう。
「何はともあれ無事に合格か……」
「おめでとう奏指。ああ、お父さんは最初から受かると思っていたらしいけど」
「父さんが?」
「じゃなかったら先回りして入学祝いなんて買わないでしょう?」
がさごそと母が棚から持ってきたのは洒落た包装の細長い箱。子供の入学祝いにしてもベルベット地の箱は奮発しすぎだろう。俗に言う親馬鹿だ。何を入れているのか、先ほどとは別の意味で戦々恐々としながら蓋を開ける。
「これは」
中身は、鈍い銀色に輝く
「軽くて丈夫で使いやすい。あの人も伝手を頼りまくったらしいわ。最初なんて大変だったんだから。まず提示された選択肢にワインの銘柄とかあったのよ?」
贈答品にワインは定番といっては定番だが、子供に渡すか? 精神年齢的にはセーフ、しかし肝心の肉体年齢がアウト。よくそこからタクトまで落ち着いたな。
試しに振ってみたが、驚くほど手に馴染む。偶然にも前世の愛用とほぼ同じ規格らしい。
「不思議な素材だな」
カーボンほど
「さあ? 知り合いのヒーローから『武器にしたらどうだー』とかアドバイスを受けて、色々注文は出したらしいけど」
「子供の入学祝いに武器を贈るか……?」
「いいじゃない。ヒーロー科だし」
確かに、タクトで血を流した指揮者は結構な数いる。指揮が過激になって自分で額を刺したやら折れて刺さったやらの逸話があるくらい、攻撃力の高い仕事道具であるのは否めないが、開き直って武器にするのは何か違うだろう。メジャーリーガーが釘バットをフルスイングしていたら誰だって
『安全面には配慮しました』とささやかなアピールをする丸まった切っ先を指で撫でる。これではそう簡単に肌は貫けまい。
「心配しなくても、流石に危ないから刺せるような構造にはなってないわよ。もし刺さったらナイフを振り回してるようなものでしょ?」
しみじみと切っ先を眺める私に、快活に笑いながら母がそう言うが、それもそうだよな。
「ピストルなら耐えるくらい頑丈だけど」
刺突武器としてではなく殴打武器として運用するんじゃない。意外にタクトは折れる事が多いから頑丈なのはありがたいが、頑丈すぎるのもどうかと思うぞ。もはや特殊警棒じゃないか。
クスクスと笑う母にはもう溜め息しか出ない。ちょうど良い笑いのタネなのだろう。どうせ途中で可笑しいとは察しながらも止めなかった口だ。
「そんなに呆れないで。迷走してても、あの人なりに頭絞って考えた結果だから」
「考えた結果だろうから嘆いているんだが?」
「奏指ってお父さんにはずけずけ言うわね……」
「そうか?」
しみじみと父が可哀想と言うが、特大の秘密を打ち明けたからな。もう恐いものなんてない。むしろ心は此方の方が年老いている分、下手に気を遣うのも悪かろう。
ちなみに私の秘密について、父は母には告げないことにしたらしい。いや、告げることもないくらいしょうもない話だと本当に思っているのかもしれないが。
どちらにせよ、良親をもった私は幸せだよ。悲劇から産まれた英雄の選択肢は諦めるとしよう。
やっぱり日常回は慣れないねぇ……ラブコメとか書いてる人の脳内回線率直に凄い。人間心理のスペシャリストよ
え、この作品のヒロイン? 精神年齢:故人ですが?(書けない)
実はこの時点で年内1回、年明け1回の予約投稿が完了しています。と、言うのもこれから出てこれる日が尋常じゃなく減りますので
予約2回が終わった後? 事によっては事による
既読勢は感想書くなら今にして
未読勢は感想要らないから本編読んでくだされ