二曲目の英雄   作:不思議稲荷

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メリークリスマス!!(収監)(予約投稿)





第九声 嵐の前の

「じゃあ後で迎えに来るから、ガイダンスが終わったら校門で待っていてくれ」

「ありがとう」

 

 入学式当日。父親の車に揺られて雄英へ。助手席に座っていた私が降りると、後部座席からはブレーメンが器用に追いかけてくる。紋章の中に収納することも考えたが、常日頃のコミュニケーションをとっておかねばいつ何時齟齬が生まれるか分からないからな。

 普段の登校は電車の予定だが、今日は入学式。父が同伴での登校ということで車を出してもらった。残念ながら母はいつもよりワングレード上の依頼が入ってしまったらしくて来れないがな。本人はどうにかして依頼をキャンセルしようとしていたが、それは私が食い止めた。さすがに某国大使の歓迎会のオファーを土壇場でキャンセルは不味い。具体的に言うと、各チャンネルの昼のワイドショーの内容が数日固定されるくらいには不味い。テレビで悪目立ちするのは昔の事件だけで十分だ。

 

 入試の時には竜の顎のような威圧感を感じたこの巨大な校門も、入学した今となっては誇らしさの象徴だ。

 

「しかし改めて眺めると巨大だな」

 

 学校の敷地面積は一体どれだけあるんだ? 校舎だけでも相当なのに、入試の時のような関連施設はまだあるのだろう。雄英区に改名してもいい規模ではないか?

 田舎から上京したてのように、キョロキョロと校内案内図片手に入口を探す。

 

「ああ、あったあった……本当にこれだけの広さが必要なのか?」

 

 校門を抜けてもすぐ登校できないのはどうなのか。異形系の個性もそれなりの率がいるから設備が巨大になるのは分かる、分かるが疲れる。これもまた基礎トレーニングの一環とか言ってくれるなよ?

 ようやく辿り着いた教室の扉もやはり巨大で。開けるのに苦労しそうだ、などと考えて引き戸に手を掛ければ意外な軽さに設計者の優しさを感じる。「使用者の事考えられる設計者は神」とは〈叡智の三角(ふるす)〉のパイロットの談。「アイツら内部慣性力とか計算しないで出力上げんの本当やめろ……」と死んだ眼でクレームを入れられても私は知らん。というかそのパイロットも設計団の一員だったので自業自得だろう。

 

「おお、君は!」

「えっと、誰?」

 

 スライドしたドアによって曝け出された、これまた規格外のサイズを誇る教室でまず目に入ったのが緑髪の少年。よかったな。君の右腕の犠牲は無駄ではなかったようだ。

 数少ない同類の存在に年甲斐もなく周りが見えなくなり、少年に引かれてしまう。惹かれたのは私の側なのにな。

 

「いや済まない。憶えていなくて当然か。私は天山、宜しく頼むよ」

「僕は緑谷 出久、あっ、デクって呼んでください!」

 

 差し出された手を握る。ふむ、微妙に皮が強張っている。結構結構、鍛錬を怠る軟弱者に英雄は務まらん。

 それにしてもデクか。もしも木偶の坊と掛けているなら、卑下しすぎだ。単純な愛称ならばいいが……。

 

「俺は飯田 天哉だ。よろしく、天山君」

 

 私の不穏な懸念をそっちのけに、緑谷の隣にいた奴も友好を求めて手を差し伸べてくる。安心しろ、貴様も憶えているぞ?

 

「ああ、()()()()()()()

 

 開いた手は空を掴み、軽く俯きながらも悔しそうに下唇を噛む表情が窺える。場は冷や水を掛けたように静まり返るが、そこまで後悔するなら最初から立ち向かっておけ。後悔が先に立つことなど滅多にないぞ。

 

「……確かに俺は試験の本質を見抜けなかった。だがしかし、あの時はあれが俺のできることを見極めた上での解答だった! もし俺が立ち向かってもあの敵には勝てなかった」

 

 ほうほう。だから自分に責められる謂われはないと。まあ私はもとより責めてなどおらぬよ。慢心して被害を拡大させる馬鹿よりも、実力を把握してくれる賢い馬鹿の方が好ましい。それが被害を被るだけの庇護すべき民衆ならな。

 

「貴様に一つ教えてやろう」

「何だ」

「己の限界を見極めて留まっている内は、到底英雄には届かんよ」

 

 plus ultra、この高校の校訓だ。ここにいるようなヒーロー志望の若人には特別効く侮蔑だろうが、敢えて言わせてもらおう。きっとこういう輩を井の中の蛙と呼ぶのだろうな。まったく、貴様が井の中の蛙と言うのなら、せめて足掻いてみせろ。進化して成長して克己して適応して、大海という苦境で生き残って初めて一人前。穢れ無き清水の安穏を是とするならば、貴様は一生を賭しても英雄に至る資格など勝ち取れないだろうさ。

 きっとこの話は彼に限った話ではない。むしろ緑谷のような方が少数派、ほとほと悲しくなってくる。厭世家の気持ちをこんな形でなど理解したくはないのにな。

 

「君はッ、君はあの試験で限界を超えたのか?!」

「私の限界はあんな所にも無ければ、私自身が届いてもいない。所詮試験は越えられる為のハードルだったというわけだな。喜べよ、貴様も無事超えれただろう?」

 

 そうカッカするな。語気が荒いぞ。

 私が望む頂にはかの背中。霞むほどに遙か遠くだが、見えてはいる。ならば辿り着くまで駆けてやるのみ。あの程度の試練に立ち止まる余裕などない。

 

「ハッ、ザマァねぇな!」

 

 机に足を掛け、尊大にふんぞり返る悪人面の彼と面識は無いはずだが猛烈な既視感に襲われる。横からいきなり入ってきて、一体誰だ? 記憶の引き出しをひっくり返す………ああ、閣下(笑)か。きっと彼も強大な能力を()()()()()()()()()()のだろう。その力に酔いしれて他を見下す様はまさしく【魔将軍】の餓鬼にそっくりだ。ゆっくりと絡まれないように視線をそらし、この手の人間は相手にしないに限る。

 

「それにしても雰囲気を悪くしてしまったようだな。詫びとして一曲披露しよう。リクエストは?」

 

 私がにこやかに外面を取り繕えど、人っ子一人として口を開かない。だろうな。ここで能天気を振りまけば、後の学校生活はそれを貫かざるをえない。チャレンジャー精神が欠如している象徴でもあるがね。しかし意図せずして、プレゼントマイクの気分を味わってしまったが苦々しいものだよ。

 

「無しか……。まあいい。よほど性急に生きる者でなければ聴いていけ。損はさせんよ」

 

 落ちかけた肩を引き上げて、懐からタクトを取り出す。さあ自己紹介だ。慣れた手つきでブレーメンが楽器を構え、やがて流れる軽やかな音色が耳朶を打つ。

 

「あれ、どっかで聞いたかも……」

「やっぱり? 名前知らないけどな」

「……ああ。これ、ヴィヴァルディですわ」

 

 ヴィヴァルディ作『Le quattro stagioni』、日本語にすれば『四季』か。その第一曲の『春』。入学式なんて日にはもってこいの穏やかな曲だ。有名だから一度は耳にしたこともあろう。

 少し経てば、そこそこ広い教室は再び静寂に飲まれる。あー、わざわざ清聴してもらっていた所悪いが、慌ただしい式典前に10分も長々と演奏する訳にはいかないのでな。適当な小節線で切り上げる。ブレーメン共々下げた頭には静聴の感謝と、満足に終われない謝罪を添えて。

 

「如何かね?」

 

 空漠とした余韻の後は万雷の喝采。いつになってもこの快感は素晴らしい。相手は歓び、私も喜ぶ。一種の共存共栄だ。にしても「才能マン」や「ロックじゃん」とはこれいかに? 首を傾げてしまうが、語感からして罵倒ではないのだろう。

 たった数分の調整された波長だけで疎外感も消える。人心とは摩訶不思議な物だよ。バベルの塔の崩壊も、今は意味を成さなそうだ。私のリクエストに遠慮していたのがー転、次はあれ、その次はこれと一挙に姦しくなる。

 今さら需要過多になったところで時間も無いだろうに。そう暗にチラリと扉に視線を投げれば、寝袋に包まれた不精者と目が合う。懐かしいな、三徹ほどした者の常識的末路だ。全身に手入れが為されていない。いや、それ以前にあの不審者は誰だ?

 

「演奏会をするなら余所へ行け。ここはヒーロー科だ、音楽学校じゃない」

 

 衆人環視の中で、そう言った不精者はのろのろと寝袋から這いだし教壇に立……うん? 

 

「娯楽を否定はしないが合理的な範囲でやれ。担任の相沢 消太だ、よろしく。それじゃあさっさと体操着に着替えてグラウンドに出ろ」

 

 これまた厄介そうな人間だ。高校生活を平凡に、退屈に過ごすことだけは無さそうで何よりと思うべきかね。

 

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