二曲目の英雄 作:不思議稲荷
(未だ収監)(これも予約投稿)
「今から君たちには個性把握テストを行ってもらう」
「「「個性把握テストォ?!」」」
あの後学校支給のジャージを配布された私たちは、言われるがままにグラウンドへと連れ出された。そこで担任から唐突にテストの宣言だ、戸惑うかパニックを起こすか抗議するかは各々お好みで。
「ガイダンスは?! 入学式は?!」
「プロのヒーロー目指すなら、そんな悠長な行事に出てる余裕はない」
見覚えのある女生徒の抗議に、予定外の行動を悪びれもせずに宣う不精な担任。言うに事欠いて悠長な行事とは……。一応彼も規則に縛られる教師兼ヒーローのはずなのだがな。
要約すると、中学以前の体力テストに個性を解禁するだけ。それ以外は変更点なし。趣旨は理解できるが、今でなければ駄目か?
「実技試験の成績トップは爆豪だったな。中学のソフトボール投げは何mだった?」
「……67m」
ぼさぼさに生い茂る頭髪の隙間から、眠そうな眼が反骨精神を剥き出しにした閣下モドキの少年を捉える。
「じゃあ個性使ってやってみろ。円から出なけりゃ何をやってもいい」
「んじゃ、まあ」
唾でも吐きそうなくらい乗り気ではない顔ながらもソフトボールを受け取る爆豪。ああ見えて従順なのか、いや権力に逆らう気概もない利口な餓鬼か。
予め白線でくっきりと描かれた美しい円の、後ろ半分に立って思い切り踏み込んで振りかぶる。
「死ねェ!!」
爆音では隠せないほど荒々しく、到底品性が感じられない鬨の声を上げて投げられたボールは、放物線ではなく直線で遙か彼方に飛翔する。まさしくその様は弾丸。
相澤教諭の手元から電子音が鳴り、晒されたのは『705.2m』とデジタル表示する小型の電子板。そんなに飛んだのか、人間カタパルトだな。
「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を作る合理的手段」
合理的、合理的か……。言動から察するに、必要最低限すら削ぎ落とす過剰ミニマリストといった人種か? もしくは『合理的』を免罪符にした怠惰なスパルタ教師か。どちらも尊師として仰ぎたいかは疑問が残るものだ。
「なんだこれ! すげー面白そう!」
「個性思いっ切り使えるのか、流石ヒーロー科!」
そんな私の不安を余所に、目を見張るような記録に浮き足立つ生徒たち。それを冷たく観察していた相澤教諭の口が、薄い三日月に歪む。
「面白そう……か。ヒーローになる為の三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」
ああ、その笑い方は止めてくれ。散々オーナーの顔で同じ物を見た。あれは他人をオモチャ代わりに掌中で転がして弄ぶときの笑いだ。「それ」の最後なんて知ったことではない。“最弱最悪”と同じだぞ? 断言してもいい。絶対
「いいだろう、トータル成績最下位の者は見込み無しとし、除籍処分としよう」
おそらく、世界樹の根にせっせと水やりをしている運命の女神も笑いを浮かべているのだろう。それが憐れみの乾いたものか愉悦に綻んだものかは関係なく、悪い予想は見事に中ってしまった。突然の不条理な試練に、立ち向かう生徒たちは次は別の意味で落ち着きを失う。
「最下位は除籍って、今日は入学初日ですよ!? いや、初日じゃなくたって理不尽過ぎる!」
「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り。ようこそ、これがヒーロー科だ」
教え子の悲痛な叫びに耳も貸さず、淡々と処する様は機械のようだ。決められたルールにも従わない所を見るに、機械としても暴走してるがね。式典に出席しているであろう
そんなか細い願いもむなしく、我らが
「質問よろしいか」
「……抗議なら受け付けないぞ」
面倒臭い奴を見る目。多分私に限らず、何に対してもこんな体を崩さないのだろう。
「抗議などとんでもない。ところで一つお聞きしたいのだが、
「何故そんなことを尋ねる」
無関心のパラメータが若干関心に傾いた。合わない、というより合わせていなかった気怠げな焦点が私にかち合う。
「私にしてみれば、火力至高のあの試験はナンセンス極まりない。それとも、ヒーローとは腕力で全てが解決するほど甘い業務なのかね?」
例えば、雄英に勤務しているミッドナイトやプレゼントマイク。彼らはあの試験を受けて、合格できると思うか? 私はできない方に賭ける。両者共に対人では強くとも、無機物には弱い。私と少し似たようなタイプだな。他にも、リカバリーガールのような治療系だってそうだ。一応はレスキューポイントなる暗黙の救済措置があったらしいが、倒せる一ポイントを無視して利益のない他人を助ける聖人君子がどれほどいる? ましてやそれが今後一生を左右する場だ。絶滅一歩手前の天然記念物クラスだろう。まあ、だからこそその一握には英雄の資格があるのだがな。とはいえ大半は腕力でのし上がった連中だ。否定したいなら、プロの皆様方には即刻歩合制を廃止してボランティアに励んでもらおうか。
そもそも、あんな単一性のテストで推し量るのが間違いだ。もし“魔法最強”なら市街地ごと土葬するなりして根こそぎポイントを独り占め。1位通過確定だが、彼が唯一絶対の強者かと問われれば首を縦には振れない。他にも“物理最強”や“技巧最強”、数多の怪物による大混戦だ。要するに方向性の違いが必ず生まれる。
「……そうだな。お前の言い分には一理あるし、俺も合理的ではないと思っていた」
「ならばなぜ」
こめかみに青筋を錯覚してしまいそうな、ガリガリと頭皮を削る合理主義者相手に食い下がる。ははは、血も涙もない外道かと思いきや、不快そうな顔をする程度には頭に上る血があるらしい。
「成績最下位を見込み無しとして除籍など、非合理な事をおっしゃられるのか。私にはとんと理解できない」
彼がやっているのは、一度
見込み無しで除籍? 常識人の言語で頼む。あの入試の賛同者で、大艦巨砲主義万歳な教師なら納得せずとも理解はできようが、彼は違う。根っからの合理主義者だ。
「それとも、その程度の非合理を押し退けるナニカがあるのだろうか? 是非教えていただきたい」
「……いい加減黙れ、天山。除籍にするぞ」
「構いますまい。私の最終的な願いは雄英に入る事では無いので」
おお、怖い怖い。素面で懇願する私に苛ついたトーンで露骨に脅迫してくる。しかし護るべき物がある者は強いが、何も護らずに済む者もまた強いぞ? 生徒の如何は先生の自由。だがそれは閉鎖した学園内のみの話だ。抜け出した鳥籠など、
「チッ」
「おーい、次はお前だぞー」
懲りない私に疲れた舌打ちが、他の生徒からの遠い呼び声に埋もれる。ああ、テストは五十音順で行われるのか。しかし何とも間の悪いことだ。
「さっさと行ってこい。集団行動を妨げるのは合理的じゃない」
これ幸いとばかりに小蝿を払うような仕草で、不気味に微笑んで追い払われる。惜しいな、もう少しで問い詰められたものを。かといって皆に迷惑をかけるのも本意ではない。しぶしぶ五十メートル走のスタートラインに立つ。
「相澤先生と何話してたんだ?」
「……ホンの軽い世間話だ」
私を呼んだ生徒が興味津々に寄ってくるが、柳に風と受け流す。それよりも今はテストだ。やるとなれば手は抜けん。並んだ生徒がスタートダッシュを成功させようと地に手足をつける中、私は一人座して号砲を待つ。
「馬車馬の如く、とは言わないが頼むぞ」
『ki』
バイオリンを抱えたケンタウロスの硬質な背を撫でれば、承る合図に一度弦が擦られる。《騎乗》のスキルは無いが、振り落とされなければそれでいい。ロデオでもあるまいし、五十メートル程度耐えてやろう。
微力ながらに創意工夫を凝らした賢い戦いってものを見せてやる。
さて、ここから先は本当に申し訳ないのですが、全く予定が読めません。一応次(と最終回)はあるのですが、リアルの展望がつかない以上、一度ここで長期休暇を頂きます。
どうか待っていて下さい、必ず戻ってきます。
それでは