二曲目の英雄   作:不思議稲荷

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アニメ化したから書かなきゃいけない(義務)
まあ今年は受験なんで、更新は頑張りますけどいつになるかはさっぱりです。
受かったら安定させるつもりですがね。


第一声 英雄の胎動

「───天山さん!おめでとうございます。元気な男の子ですよ」

 

 うっすらと、(もや)が晴れるように視界が開ける。真っ先に目に映るのは若い女性、服装から察するに看護婦か? それにしても、天井が高すぎて縮尺が合わないな。

 

ぃあ(いや)ぁあいぉうあいうぁ(私の方が縮んでいるのか)

 

 道理で呂律も回らぬ。確認に手の甲を眩しいライトに透かして仰ぎ見れば、古い新聞紙のような(ひな)びた死人のそれではなく、生命力に溢れた若々しい肌色があった。

 

「赤ちゃんって思ったよりも泣かないのね。初めてだから判らないけど、これが普通なのかしら?」

「……そうかもしれないな」

 

 疑いたくなるような自分の体の変貌から目を離し、聞き慣れない声の元に首を回した先には頬に手を当て柔らかく微笑む母親(じょせい)と厳めしく顔筋を強張らせた父親(だんせい)の姿。

 ああ、あれは憤怒や憎悪よりも恐怖や警戒の眼だ。どちらにせよ、産まれて数分の者に持つ感情じゃない。有りがちな「女の子の方が良かった」なんて簡単な話では無さそうだが。

 まあこの際、()()()()()は些事だ。

 

「こんにちは、私の愛しい子。あなたの名前は奏指。天山 奏指よ。よろしくね」

 

 私がもう一度産まれた、という方が余程大事だ。

 まったく、管理AI(チェシャ)共よ。この私に『運命』を感じさせるとは、中々粋なことをしてくれるじゃないか。

 

 かつては作曲家オットー・ヘンゼルバーグにして、【奏楽王(キング・オブ・オルケストラ)】ベルドルベルを名乗ったこの私だが、どうやら次は『天山 奏指』という名前を賜ったらしい。

 

 神の気紛れで創られたような常軌を逸する話だが、信じるか信じないかはさておいて。折角だ。いつか胡蝶の夢に消えようと、せめて次こそは私の夢を叶えよう。

 

 

 願わくば、物語のような英雄に出逢えるように──

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 あれから一体どれほどの時が経っただろうか。

 気が付けば人類らしい二足歩行を始め、流暢なコミュニケーションも可能になっていた。

 ああ、そうだ。私の新たな保護者を紹介しよう。

 

 天山 輝笛(きてき)。私の母親だ。世界的にも著名なクラリネット奏者らしく、時々海外のオーケストラにも参加している。前世から引き継いだ私の耳もそれなりには肥えていると自負するが、かつての世界の奏者と比べても遜色ない腕前だ。『個性』のお陰で野外コンサートも──。

 

 言い忘れていたな。どうやら私が連れて来られたこの世界にも〈Infinite Dendrogram(あのゲーム)〉のような千差万別、文字通りオンリーワンな能力が備わるらしく、それを『個性』と呼ぶ……というのを生後三日目でテレビから学んだ。人間離れした怪力や炎を操る者もいたが、〈超級〉クラスはいないようだった。もっとも隕石を殴り飛ばし、山脈を埋葬し、海一面を爆破するようなバケモノ連中にありふれられても困るがね。

 

 話が逸れたな。母の個性は『風の便り』。1km以内の人間に音を届けられるそうだ。その恩恵で、野外ライブは毎回埋め尽くすような立ち見が現れるらしい。狭苦しいコンサートホールが当たり前だった過去の私からすれば、まったく羨ましい話だ。家庭内では内通電話の扱いだがな。人格面でも穏やかで、尊敬できる慈母の鑑と言える女性だ。産まれてこの方、母が本気で怒ったのを私は見たことが無い。

 

 翻って私の父親、天山 声次(せいじ)は厳格な人間だ。母親とは対照的に、笑った所を見たことが無い。何故この二人が結ばれたのかと何度不思議に思ったことか。もちろん、ただ厳しいだけではなく私の世話をしたりと愛情が微塵も無い訳ではないのだろうが、毎度私に向ける視線は鋭いものばかりだった。

 未だその意図を推し量ることはできないが、こちらも音楽家として大成しているのは間違いない。彼が歌い上げる歌は声量や技巧もさることながら、観客の様子を十全に理解した曲をチョイスしている。失恋した聴衆には慰めの歌を。歓喜に舞い上がる聴衆には喜びの歌を。思うに彼は、人の心を読むことに長けているのではないだろう。

 

 そして二人から産まれたのが私、奏指である。とはいえこの体は未成熟。数え年で4つやそこらではなかったか? 今はまだ(さなぎ)の期間。情報の少ないこの世界について学ばなくてはならぬ。個性について知っていたのも学習の賜物だ。

 そしてテレビの中や最近通い始めた幼稚園で、個性を仕事道具として活動する人々の話を聞いた。エネルギー革命のように便利な超常を得たのだから、当然のことだろう。だが、彼らの呼称は私にとって非常に興味深いものだった。

 

 『ヒーロー』。世間では職業を示すらしい、私が求めてやまないその称号を彼らは欲しいままにしていた。

 

 けれど彼らの姿を見た瞬間、果てしなく後悔した。聞かなければよかった、見なければよかった、知らなければよかった。そう、思ってしまった。

 私が期待を込めて開いた箱の中にあった姿は、間違いなく勇姿だった。

 

 勇姿、()()()()()

 憤怒も、悲壮も、愁嘆も、挫折も、苦悩も、何一つとして足りていなかった。勇姿ただ一つしか足りなかった。

 勿論、見えないところには隠されているのかもしれないが覗えなければ意味が無い。テレビから世間に流れるのは、正義(ヒーロー)(ヴィラン)を予定調和のように華麗に倒す光景のみ。映画のワンシーンが如く、どうしようもないくらいに完成されてしまっていた。

 

 私が描きたかった物語は、こんな物じゃないッ!!もっと壮絶な人の生きる意味を、一連の歌劇でもって表現する。それが私の理想にして生涯(ぜんせ)を賭けた夢。

 

 だからこの時から私は決心した。

 

 『他人が当てにならないなら、私自身が英雄(ヒーロー)になればいい』と。

 

 私が理想の体現者となる。考えてしまえば限りなく最適解に近いに違いなかった。老いぼれた矮躯は前世に置いてきた。無限の可能性に溢れた若齢のこの身なら理想の境地に、あの日垣間見た真の英雄(レイ・スターリング)の背中に追いつけるやもしれぬ。

 発想が湧いたとき、その可能性に全身が震えた。

 

 ならばどうすれば私はヒーローになれるのか。4歳児の持つネットワークをフルに活用して必死に探した。

 結論は、簡単にして必然。元の世界とそう変わらず、脳に皺を刻み込むような勉学に励み、体を鍛え、最後は運命に頼る。それが全て。

 真逆、再び学び舎を訪ねることになろうとは誰が予想しただろうか。私が誰よりも驚愕しているよ。

 

 なにも焦ることはない。死に急かされていた老体と異なり、時間の余裕はたっぷりとある。だから今は、子供らしい毎日を謳歌させてほしい。

 私は確かにヒーローになりたいが、別に親子の触れ合いや人間性を捨ててまではなりたくないのでな。

 ほら、噂をすれば母親が迎えにきた。どうやら幼稚園までのバスが来たらしい。大器が晩成するまでの雌伏の時くらい、楽しまなければ損だと思う。

 

 

 バスの中から届く子供の容赦ない笑い声が、止まっていた鼓膜にひどく響いた。

 




妄想の中でのエンドが結構アレ……
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