二曲目の英雄 作:不思議稲荷
「ねえてんざん、ピアノきかせてー」
「勿論だとも。リクエストはあるかね?」
「まえにてんざんがひいてたやつ」
「選択肢が多すぎて絞れんな……」
「きのうの」
「ああ、承知した」
私が個性を誤認されてから早数日。今までが嘘だったかのように懐かれてしまった。今までは中身が中身なだけに中々付き合いに苦労していたというのに、一曲披露しただけでこれか。まあ苦労していたのは私だけであって、あちらは苦手意識も無かったそうだが。
「本当に天山君の個性は良いよね」
「おれのこせいは?」
私だけ特例で弾く事を許された備え付けのグランドピアノの蓋を開ける隣でリクエストした少年と、またもやいつの間にかいた保育士がこんな会話をしていた。
椅子のせいでいつもより高い目線から見下せば、猛禽類を思わせる鋭い爪と嘴をカチカチと鳴らす少年が。
元の世界を基準にすればおぞましいホラーだが、この世界にはありふれている。異形型の個性という奴だな。初めは驚いたが、さすがにもう慣れてしまったよ。
「素敵だとは思うけど、君のは危ないから扱いには注意してね?」
「あぶなくないぞー?」
「君の意志は関係ないの。誰かに利用されたり、利用せざるを得ない状況に置かれるかもしれないでしょ?君は正直者だし、現に異形型がヴィランになる例は結構あるんだから」
使わなければわからない発動型や変形型と違って、異形型はもろに個性の影響が表出する。ヴィランの率が他と比べて微妙に高く感じられるのは、本人の意図しない文字通りの異形がコンプレックスになりかねないからではないだろうか。
「『
「え?」
「いや、なんでもない」
随分と
各々が持つ固有能力のジャンルによる性格の差異。かつてのクランオーナー、【
武器として装備できるTYPE:アームズ。
護衛として召喚されるTYPE:ガードナー。
搭乗する乗り物型のTYPE:チャリオッツ。
居住できる建物型のTYPE:キャッスル。
展開する結界型のTYPE:テリトリー。
まあ細かい派生や複合も含めればもっと増えるが、基本形はこの程度だ。
さて、先程私は『プレイヤーのパーソナルを参考に発現するのがエンブリオ』だと述べたが、逆を言えば『エンブリオからパーソナルを推測できるのではないか』。そう考えたのが我らがクランオーナー。私が聞いた限りの診断では当たらずとも遠からず、と言った感じか。
ここまでステージが進めば、この世界にエンブリオは存在せずとも極めて似たような物があることに思い当たるだろう?
『個性』だ。
発動型、異形型、変形型、複合型。更に細分化すれば拘束系、増強系と。どこかエンブリオに共通性を覚える。しかも誰が呼び始めたか、呼び名が『個性』だ。大いにパーソナルと関係しそうじゃあないか。例外的な無個性というのにも何らかの特徴がありそうだがね。
「いつか研究してみるのも面白そうだな……」
取り繕うように、これ以上の言及より前に鍵盤を叩きはじめる。演奏を中断するほど空気の読めない人間、もしくは読まない人間はここにいるまい。
ちなみにオーナーは平然と割り込んでテロ計画の相談をしてきたな。あの時は怒りを通り越して心底呆れた。
脳の中では旧い記憶を眺めつつも、実際の体は懸命に動かす。あっという間に曲の一番が終わり、拍手にまみれたアンコールによって二番も追加演奏が決定。いや容赦がないな。
どれだけ慣れていようと疲れるものは疲れる。二番も終え、指がつり始めた辺りで高い椅子から降りた。まだ通して全力で何曲もやるには筋肉が足りていないな。幼年の体で無理をしているのだから当然か。
それからしばらくは普通の遊戯だった。小学校等とは異なり、決まり切ったカリキュラムも存在しない自由な時間。私にとっては重要な情報収集の時間でもある。大抵は聞き相手に回っているだけだがな。
「──さいきんはヴィランもふえてぶっそうだってママがいってた」
「ヒーローもいるしだいじょうぶだろ」
「おとなってしんぶんみながらそれいうよな」
「おれは四コママンガがすきだな」
「あ、いとこのはっちゃんがオールマイトからサインもらえたって」
「「「いーなー」」」
……フリーダム過ぎやしないか、子供の会話。話のバイパスも理解できない上、たまに戻るランダム性。正直話に付いていくのが厳しい。
和気あいあい(?)と談笑していると、申し訳なさげな表情の保育士が私たちを呼んだ。
「ごめんねー。今日は送りのバスの運転手さんがケガしちゃって来れないから、おうちの人に迎えに来て貰うけど大丈夫?」
なんと。昨日はあれだけ元気そうだったのにな。不慮の事故というならば仕方あるまい。早めに現場復帰してもらうことを願うばかりだ。
大方迎えに来るのは母親だろう──
──などと考えていたら、父親だった。
毎回私を理不尽にも睨みつけてくる父親だ。当然私の中での好感度は母親よりも低い。なのに。
「あっ、声次さん! どうもお久しぶりです、握手してください!」
この保育士はファンらしく、好感度がカンストしている。しかもこの時すら父親が笑わないのも腹立たしい。どうやら相手からの好意の有無に関わらず、あの態度で固定らしい。
「そう言えばお子さん、個性が発現したんですよ」
「……ほう」
声次の黒目がぐるりと私を向く。今まではバス送迎で保育士と親との接触がなかったために知られていなかったのに、引き合わせたのは失敗だった……。二年以内に個性が発現しなければ保育士からは逃げ切れたが、家族となればそうはいかない。厄介になるのがわかっていたから話さなかったのだが、保育士め。
「詳しく、聞かせてもらいましょうか」
「はい! あれは数日前のことですね──」
ペラペラとよく喋る保育士を上目遣いに睨む。そんな私を時々声次が咎めるように睨む。三竦みっぽいが、無神経な保育士のせいで成立していない。ここまで鈍感だとわざとではないかと疑いたくなるな。
「なるほど、早く帰って妻にも教えてやらなくてはなりませんね。それでは」
「さようならぁ!」
真夏の扇風機が控え目に思える勢いで手を振り回す保育士を置いて、私たちは帰路につく。声次は紺の車の助手席に私が乗ったのを確認すると、自分も運転席に座った。
車体が小刻みに揺れ、走り出す。
数分経っても二人とも口を開かない。気まずい空気が流れずにひたすら溜まっていく。
「なんで話さなかった」
「話さなかった訳じゃない」
「音楽向きの個性なんだろ? 素晴らしいじゃないか」
字面だけなら祝福しているが、その声には隠せない憎憎しさがあった。鋭い視線すら向けられないのは、運転中というだけでもないだろう。
「私の個性なんて……いや、子供にぐちぐちと漏らしてもしょうがないな。何より格好が悪すぎる」
不自然に口澱んだのはスルーしてやろう。きっと人には誰しも触れられたくないものがある。
「だが、お前の個性については母さんと私にしっかりと話してもらおうか」
やがて車が家のガレージに入る。バタンと荒々しく閉められたドアとは対照的に私は、反対側のドアから恐る恐る足を地面につける。経験上、不条理な暴力等はないと理解しているがそれでも人の怒りにはそわそわとする恐怖を感じるものだ。
声次が家の扉を開錠しようとすると既に開いていたようで、不審に感じて扉を細く開いた刹那。
─────────逃げて
一陣の『風の便り』が、囁いた。
ごめんなさい、個性はまた次で
あー結末はどこに持ってこうかなあ……。シナリオ的にはワンフォーオールまでが最適だけど、テンション保つかなあ……というわけで感想ください&デンドロ読んでください。なお優先順位は感想より先にデンドロ(ウェブ版)