二曲目の英雄 作:不思議稲荷
あっ、道理で評価とお気に入り人数が爆増したのね
まあ一日で消滅してましたけど
何あの最大瞬間風速ハリケーン……
ただ、一瞬でもこの作品があんなブロードウェイを歩けたのも、
アニメ化の続報はよ
「終わったか」
その一声でブレーメンも楽器を下ろす。眼前に脅威は無く、恍惚とした顔でピクピクと痙攣するビーフが処理を待って横たわるのみ。
それを再確認すると、雨後のダムが崩壊するようにドッと疲れが全身を駆け巡る。腕などもう挙げるのもままならない。ゲームでもなんでもないリアルな命の遣り取りの中で演奏するなど、正気の沙汰ではないな。まだ数万の観衆に囲まれてソロコンサートする方が緊張しないくらいだ。
『もしもし事故ですか事件ですか』
「事件だ。怪我人二人、重傷だ。早く救急車を寄越してくれ。住所は──」
昂ぶったテンションと疲労のせいで小刻みに震える声で警察に通報する。ヴィランを斃したからといって、そこで終わってはまだ足りない。私が確実に救ってこそのハッピーエンドだ。あくまでヴィランと闘うのは過程に過ぎん。戦わずに満足し得る結末があるのなら、そちらを選ぶのもまた英断。英雄とは
「もう少し、もう少しだけ保ってくれ……」
ブレーメンに支えられて覚束ない足取りながら両親の安否を確かめに
「奏指か?」
「……ッ、そうだよ」
「それはなんだ?」
壁にもたれ掛かる父親の瞼が不意に開き、意識が回復する。そして力無くブレーメンを顎でしゃくった。嘘を吐いたその日のうちに嘘が露呈するとはな……。御天道様にはこんなちっぽけな悪事ではなく、もっと世に
真に無垢な幼子なら下手な隠し立てはしないだろうが、私はそうはいかない。さて、どうしたものか。
「
「は?」
「ああ、そう言えばまだ奏指には教えていなかったな。私の個性を」
顔には出さないようにしていたのに、秘めていた心中を脈絡もなく看破され焦る。
「私の個性は『読心』。とは言え正確な中身までは読めないし、精々が喜怒哀楽を理解できるくらいだ。ハハッ、実に下らない個性だろ?」
声次は己を卑下するように痛みに顔を顰めながら空笑いをするが、私は合点がいった。前に言っただろう?
──彼が歌い上げる歌は声量や技巧もさることながら、
心が直接分かるのだから、間違える訳があるまい。だから彼は私の個性に嫉妬したのか。自分よりも音楽に愛されたとでも感じたのだろう。しかし残念だが私には慰められない、むしろ傷口に塩を塗る。妬む相手から
「で、お前はまた何を考えている? 昔からお前はずっとそうだった。誰にも語らず、誰にも悟られず、生まれた時から何かを考えていた。判るか? あの日病院でお前を見た時の恐怖が。生まれたての赤子、しかも自分と愛妻の間にできた子供が無邪気に泣きも笑いもせず、ずっと思考に耽っているんだ。私だって伊達に何十年も生きてない。お前が異常だなんてすぐに分かった。『あの子は本当に私の子か』と何回病院に問い合わせたか。この世の全てを疑ったよ。病院もグルで、どこぞの凶悪なヴィランの計画とでも言われた方がまだ納得できた。外部の研究室にDNA鑑定も依頼したが、結果は100%自分の子供だった。なあ、教えてくれ。お前は一体なんなんだ? お前は今何を考えているんだ?」
非日常的なショックで日頃の枷が外れたのか、口から本音が溢れ出てくる。その顔は悲痛に歪んでいた。
ずっと今まで苦しんでいたのだろう。自分の息子が逸脱したイレギュラーであり、それを愛する母には何も言えず不信を胸中に押し隠し、肝心の息子は何も打ち明けない。そんな奴が家庭の団欒に紛れ込んでいるんだ、睨みたくもなる。
「…………今から言うことは嘘一つない真実だ」
もう、限界だな。これ以上肉親の情と疑惑の間で苦しむ父親は見ていられない。
「聞いてくれるか?」
生まれてから装い続けた仮面を引き剥がす。とても幼年には思えない口調に声次が面食らっているが、前世を含めれば私の方が年長なので許してほしい。
「……ああ」
「私は────」
それから私は全てを語った。記憶にある前世のこと、私に現れた『個性』のこと、〈Infinite Dendrogram〉のこと。声次はその間黙りこくって瞑目しながら静聴していた。
数分間の私の告白が終わってもまだなお声次は目も口も開かない。車内の時よりも質の悪い沈黙が降りる。
「…………それで」
永遠にも感じられる寸毫の後、声次によってじめじめに湿った口火が
「
「正気を疑ったりはしないのか?! こんな常識外れな話を真に受けるのか?!」
「父親の説教くらいは真面目に聞いておけ。私は心が読めるんだぞ? 真偽くらいは判定できるし、お前が本気でそんな妄想を信じるほど馬鹿な奴に育てあげた訳でも無い。不思議な話だとは感じても嘘とは思わないさ。ああ、私は別に変な宗教とかに入信していたりするわけでもないからな? 実の息子がやっと打ち明けてくれたんだ、信じない親がどこにいる」
「それにしたって………」
「もしもお前が抱える前世とやらのせいで私たちを親だと思えないなら別に気にするな。私たちはお前を縛ろうともしないし、一方通行の愛情で構わない。ただ一言助言するとすれば、私たちの子供に産まれたという
瀕死の重体の筈なのに、その瞳は生半可ではない覚悟に満ちる。しかし覚悟の中にも一抹の温もりが、私の為に用意されていた。
心の底から、
「泣くな泣くな。お前はこれからどうしたい?」
「私は………ヒーローになりたい」
「そうか。痛ッ、情けないな……」
私の涙を手で拭おうとするも、折れている痛みに耐えかねてあえなく逆の掌を笑いながら私の頬に添える。
今生の中で、やっと初めて素直な笑みを見られた。
「お前は、自由だ。望むままに自分の夢を果たせ。こんな頼りない私たちでも、出来る限りの応援はしてやる。だから目指せ。理想のヒーローを」
「…………父さん」
「ハハッ、初めて親として認められた気がするよ」
そう言って父は、長い
何秒経っても動きはない。
「父さ」
頬に添えられていた手が、ずり落ちる。触れても先までの温かい血潮は無く、無機物のように冷たかった。
「……あ、ああ、あああああああああッッ!!」
嘘だ。嘘だと言ってくれ。もう一度笑ってくれ、話してくれ、歌ってくれ、愛してくれ!!
このままでは三文芝居のようなお涙頂戴の武勇伝で終わってしまう。何のために私は奮迅したのか? 救うためだろう! こんな所で終幕なんて認めんぞ!
心臓マッサージ? 子供の腕力では足りない。
誰か大人を連れてくる? 駄目だ手遅れになる。
何か、何かないのか。あと少しと言うのに!
振り返れば心なしか不安げなブレーメンの音楽隊。コボルトの尻尾なんて丸まって……コボルト?
「危篤の体に余計なダメージを与えず心臓のみに衝撃を与える。そんな神業ができるのか……?」
いけないな、思考がネガティブに偏っている。
事象はシンプルだ。やるかやらないか。そしてやらないならば待つのは確定で肉親の死だ。気紛れな乱数の挟まる余地なんてどこにもない。だったらやるしかないだろう。
自分を信じろ。【神】には届かずとも【王】に至るその技巧。ここで
「絶対に【
ああ、可能性は何時だって───
次回は番外編的な小話を挟んで、それから入学試験ですねはい。悪いですが小中学校はカットで。いや書いてたらそれだけで1年かかるので。
前書きでも書きましたが、今の作者は受験期を予約更新で乗り切ろうと、必死で書き貯めに躍起しております。更新の遅れはご容赦ください。
今も二、三話分の貯蓄はあるので、遅れることはあってもエタることはありません。そこはご安心を。
というかこの作品エタったら同じベルドルベルファンに顔向けできない……
(=?ω?=)<次回お楽しみにー