元無職、二度目の転生   作:メッサーシュミット

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web版の原作と書き方が同じですがこちらの方が見やすいと思いこうしました。
前回のぎっしりと埋めた地の文よりかなり読みやすくなったと思います。


二度目の転生

 

 目が覚めると美女が俺を覗きこんでいた。

 金髪で目が赤く、胸が豊かな女性だ。

 それ以前にここは何処なのだろうか?

 一見野戦病院かと思ったが違うだろう、

 天井は白く塗装されており、何より俺以外の兵士のうめき声が聞こえない。

 俺はあの時、致命的な傷を負ったはずだ。それに師団は完全に孤立無援の状態、助けが来る訳がない。

 

(誰だ?)

 

 ふと隣に目を向けると金髪の男性が俺を見ながら、少しはにかんで笑っていた。

 筋肉の発達が良く、それなりに鍛えてらしくかなり効率的に出来上がった筋肉だ。

 見た目は完全ににDQNだ、だが不思議と拒否反応は無い。

 あの戦争でメンタル面はかなり鍛えられたが精神面は前世のまま、成長はしていない。

 

「━━━━━・・・━━━・・━━━」

 

 美女はこちらを微笑みながら何かを言った。

 ぼんやりして何を言っているのか分からない、もしかしたら日本語ではないだろうか?

 俺が知っているのは英語はもちろん、欧州各国の言語なのだ。

 

 多数の言語を習得しているのだが二人が話している言葉が分からない。

 

「━━・・━━・・・」

 

 男の方も何か返事をしたが相変わらず何を言っているのか分からない。

 

「━━━━・・・━━・・」

 

 どこか三人目の声が聞こえたが姿は見えない。

 

「あー、うあー」

 

 ここは何処か、そしてあなた達は一体誰なんだと言おうとしたがあえぎ声でもうめき声でもない声が出た。

 あの戦闘で脳もやられたのだろうか?

 指は動かず、指や足も動かない。

 そういえば下半身は既に無くなってたっけ?

 

(これは、めんどくさい状況だなぁ)

 

 これからのリハビリ生活が非常に憂鬱と感じた。

 こうなるのだったら、死んでいた方がマシだと思うほどに。

 

 今の容態はかなり酷い状況になっているのだろう。

 脊髄損傷、下半身欠損、内臓破裂というところか。

 ある程度回復したら自らの手でこの世を去ろうか、我ながらかなり良いアイディアである。

 

 これ以上生きていても何も見いだせない。

 何もかも失った俺には、現状が生き恥と思えてきた。

 

「━━━━・・・━━━━・・━━」

 

 男が心配そうな顔を向け、何かを言う。

 

「・・・━━・・━━━」

 

 彼らから見た俺はどの様に映っているのだろうか?

 死んだような目をして未来も希望ない目をしているだろう。

 下半身を失い、まともに声も出せない。絶望しかない。

 俺より先に死んでいった部下達は俺を憎んでいるのだろうか?

 

 ふと昔のことを思い出した。

 昔と言ってもたかだか数年前の話ではあるが。

 当時久々に休暇貰った俺は、戦争初期からの付き合いをしている男と酒場でどんちゃん騒ぎをしたのを思い出した。

 

 あの頃は嫌なことを忘れようと休暇のときは毎日酒を飲んでたっけ。

 

「・・・━━・・━━━」

 

 昔のことを思い出していると、男に抱き上げられた。

 マジか、下半身を失ったが少なくとも男に抱き上げられる重さではない、なおかつ抱き上げられる大きさではない。

 もしくは相手が俺よりかなりでかい場合は例外であるが。

 

 この感覚はなんとなく覚えている。

 俺が生まれ変わった時と非常に似ていた。

 

(あぁそうか、俺はあのとき死んだのか。そしてまた転生した)

 

 二度目の転生、これは偶然なのか必然なのかは分からない。

 だがこの二人を見ているとなんだか俺も全力で生きようと思えてくる。

 

(今回も全力で生きて、後悔が無いような人生を送ろう)

 

俺は三度目の人生で悔いが残らないよう、生きようと決意した。

 

 

ーーー

 

 

 生まれ変わってからはや1ヶ月が経過した。

 

 

 十年以上殺し合いに明け暮れた俺が急に平和な世界に飛ばされたことだからなかなか現状に慣れない。

 例えば寝ているときに、何か音がするとすぐ目が覚めてしまう。

 1ヶ月経った今では頻度が落ちているが、なかなか治らない。

 

 まず最初にやるべきなのは今後の人生設計だろう。

 と言っても現状やれることは三人が使っている言語の習得、言葉が通じなければ何もできないだろう。

 

 ここ1ヶ月のあいだ言語の習得に励んでいて少しばかり収穫があった。

 家族構成は両親とメイドの三人で、俺の兄弟はいないらしい。

 そして俺の名前はルーデウスというのが分かった。

 両親は「ルディ、ルディ」と言っていたのでてっきり名前がルディと思ったが、どうやら愛称らしく。

 メイドがルーデウスと言っていたのでこっちが本当なのだろう。

 

 さて、ここで疑問に思ったが、ここは本当に地球なのだろうか?

 近代文明の利器が無いためてっきり貧乏なのかと思ったのだがメイドがいるためその可能性は消えた。

 1900年代より前の時代かと思ったが、昔の時代と言えどある程度の言語が分かる。

 だが急ぐ事はない、こういうのはゆっくり時間をかけて調べれば良い。

 

「・・━━━・・・━━━━」

 

 おっと、どうやらお乳の時間のようだ。

 合法かつただで美女の母乳を吸えるのはかなり嬉しい。

 だが体が成長しきってないのか、はたまた相手が母親だからか全く興奮できなかった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 生まれ変わってから半年という月日が経過した。

 半年も必死に三人の会話を聞いてきたおかげである程度理解できるようになった。

 体のできが良いのか努力のおかげかは分からないが駆け出しはとても順調だ。

 

 半年も経つとハイハイが出来るようになり、ようやく身動きが取れない生活から解放された。

 ハイハイが出来るようになり、家中を見て回れるようになった。

 

 ただまぁ、両親がこの行動について話し合っていたのだが元気で良いじゃないかで締められていた。

 体の年齢は赤ん坊だが精神年齢は70代だ、ビービー泣くような歳じゃない。

 だが用はまだ一人で済ませられないので遠慮なくやっている。

 

 ハイハイが出来るようになり、だいぶ家の事が分かってきた。

 

 家はかなり裕福だ。

 だが電気は通ってなく、時計や新聞も見当たらない。

 ここは田舎なのだろう、外を見ても畑が多くこの辺りは農作物が主流のようだ。

 

(ん?)

 

 一通り調べたのでやることが無くなり、

 暇潰しに外を見ようと椅子をよじ登り窓の外を見る。

 ふと視線を庭へ向けると驚くことに父親が庭で剣を振り回していたのだ。

 

(ちょ、良い歳して中二病を拗らせていたのかよ)

 

 中二病な父親なんて俺からしたら恥でしかないぞパパン。

 

(あ、手ぇ滑らした……)

 

 驚きのあまり手を滑らしてしまった。

 まだ幼い手は椅子を掴んでも力が無くつるりと後頭部から落ちて行く。

 

「キャァ!」

 

 後頭部に強い衝撃を感じたとともに悲鳴が聞こえた。

 見ると母親が選択カゴを落とし口に手を当て、

 顔を青くさせながら見下ろしていた。

 

「ルディ!大丈夫なの!?」

 

 母親は慌てて駆け寄り、俺を抱き上げる。

 視線を合わせると彼女はほっと胸を撫で下ろした。

 

「良かった、大丈夫そうね…」

 

(頭を打ったらあまり動かさない方が良いですぜ奥さん)

 

 この様子を見る限りかなり危ない落ちかただったのだろう。

 頭から行ったからいくつか今までの記憶が逝ってしまったかもしれん、

 まぁ録な記憶は無いのだが。

 椅子に捕まったからある程度勢いは抑えたし、そこまで酷くないだろうな。

 母親の素振りからして血は出ていないらしい。

 

 母親が頭の中を透視できると思うくらい注意深く俺の頭を見ていた。

 そして最後に俺の頭に手をあてて、

 

「念のため……

 神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん

         『ヒーリング』」

 

 一瞬笑いだしそうになった。

 もしかしてこの国におけるおまじないなのだろうか?

 

 その瞬間母親の手が淡く光った瞬間、頭の痛みが一瞬で吹き飛んでしまった。

 

(……え?)

 

「さ、これで大丈夫よ。

 母さん、これでも昔はちょっとは名の知れた冒険者だったんだから」

 

 何が起きたのか分からなくなった。

 剣、冒険者、詠唱……。

 もしかして……、

 

(魔法?)

 

 そういうことはここは地球ではなく異世界……、

 それも剣と魔法の世界、か……。

 

 冒険者という言葉が出てきたからもしかしたら魔物や亜人もいるかも知れない、

 悪くないな。

 

 思わず口元が緩くなり少し笑った。

 なんせ一度目の人生において憧れていた時期があった。

 まさかここに来てそれが叶うとは……、感慨深いものだ。

 

 前世はただ考えずに戦った。

 生まれ変わったときに本気で生きようと思ったのだがあの戦争が起きて以来本当も糞も無かった。

 今度こそ、今度こそ本気で生きよう。

 どんな最後になっても、悔いが残らないよう本気で生きよう。

 


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