ゼロの使い魔~果て無き道しるべ~   作:カタクリ

3 / 4
三話「鈴木悟として」

晴れやかな陽射しに照らされて清々しい朝を迎えられなかった。柔らかい布団の中に、美味しいご飯を食べた後に体を預けた。ここまでは、良かったのだ。だが、何故かルイズが着替えを始めたのである。しかし悲しいかな、使い魔に肌を晒すのは別に恥ずかしい事ではないらしい。既に人間扱いされていない事に怒りよりも呆れが大きく、着替えが終わるまで後ろを向いていることにした。衣服の擦れる音が妙に生々しく聞こえる。無心になるために羊を一匹ずつ数え出す。

 

着替えが終わったのかルイズが近付いてくる足音が聞こえる。

 

「今日は休ませてあげてるけど、明日からは、あんたが着替えを手伝うのよ?」

 

それが使い魔の役目だと言ってくるルイズ。羞恥心というものは、ないのだろうか?まあ、元いた世界でも貴族は、着替え方すら分からない人いるようだったし、と納得させてルイズを見ると、本日何度目になるのか、驚愕させられた。

 

薄ピンク色のネグジュアリーを着ていた。驚愕というか、衝撃的が正しいか。ネグジュアリーなんて大人の女の人が着るイメージだったし、そもそも着ている姿なんて、ペペロンチーノに教えてもらったエロゲーでしか見たことがない。声優がぶくぶく茶釜さんだったのが印象的だったけど...。あの後、ぶくぶく茶釜さんと話すとき、ゲーム内のキャラと被って大変だったなぁ....。

 

そんな殆ど裸みたいな格好で来られれば目を伏せてしまうのも仕方なかった。容姿的にも未だ未発達だったから良かったものの、これが色々ともて余す豊満な体だったら恐らく、鈴木悟は血で部屋を真っ赤に染めたことだろう。

 

「どうして目をそらすのよ?それに今日は、特別にベッドを使わせてあげるけど明日から、あんたの寝床は、そこよ?」

 

なるべく肢体を見ないように指を向けている場所に目を向けると上質な家具が揃っている中で異彩を放っている物が置かれていた。

 

「....藁?」

 

思わず呟いてしまった。まさか、あの上で寝なければいけないと言うことだろうか?どんな罰ゲームだ?と冗談だと期待を込めて主であるルイズを見る。

 

「使い魔は、皆それが寝床なのよ。嫌なの?」

 

高圧的に聞いてくる。嫌か嫌じゃないかで言えば、嫌だ。誰が好き好んで藁の上でなんて寝たがるのか...。

 

《ユグドラシル》の硬貨なら沢山持っているが使えないだろう。だが《ユグドラシル》の硬貨は、金で出来ている。もしかしたら買い取って貰うことが出来るのかもしれない。使い魔として召喚されたが、住居や食事などは、自分で賄えるようになった方が良さそうだな。ルイズの性格から考えれば、機嫌を損ねればご飯抜きとか、普通に言いそうである。

 

「...分かりました。明日自由な時間をいただけませんか?」

 

「どうしてよ?」

 

「お金が無いのは、落ち着かないので物を売りに町に行きたいのです」

 

少し考えるそぶりを見せるルイズ。怪しんでいるのだろうか?逃げるつもりはないが、逃げてもおかしくはない境遇だと言える。

 

「...明日は駄目よ。でも明後日なら虚無の曜日で休みだから良いわよ。それより売りたいって何か売るものでもあるの?見たところ、さっきの杖とローブ、それに指輪も結構高値で売れると思うけど」

 

「因みに先程見せた杖では、どの程度の値段になりますか?」

 

「え?売るつもりなの?」

 

「値段によりますが。この世界の通貨がなければ何かと不便ですから」

 

せめて衣食住困らない生活がしたいと付け加えるとルイズが難しい顔をして何かをブツブツと呟き始めた。その後何かに納得したように顔をあげた。

 

「あの杖の装飾具合から言って金貨200はくだらないと思うわ」

 

金貨200と言われてもどれ程の価値があるのかまるで分からないのが辛いところだ。そんな雰囲気を察したのかルイズが補足を入れてくる。

 

「一般的に平民が月稼ごうと思っても金貨6枚から10枚が良いところじゃないかしら。殆ど金貨なんて貰えないで新金貨だと思うけど...。ねえ、ベッドも食事も服も、私が買ってあげる。だから杖は、持っててくれないかしら?」

 

予想していなかった提案に驚くのと、先程までとは違った真剣さがルイズの瞳から感じられる。

 

「メイジにとって杖って、そんなに簡単に手離せる物じゃ無いのよ...あんたは、どうか知らないけど。それに...あんたは、私の使い魔なんだから、護ってくれる力があるなら護って欲しいわ....私じゃ護ってあげられないから..」

 

ルイズの事を少し誤解していたと、鈴木悟は考えを改めた。貴族で傲慢。そして、自分の言うことこそが真実という典型的な我儘娘だと認識していた。だが違っていた。気丈に振る舞っていたのは、貴族としてのプライド。だけどルイズは、魔法が苦手なのだろう。言葉の端から伝わってくる。ルイズ本人もそれを認めている。しかも使い魔である鈴木悟に護って欲しいと言った。これは、確かな強さだ。

 

弱さを認められない物ほど弱者であり、弱さを認めることが出来るものこそが強者だ。《ユグドラシル》でかつて1500人を倒したギルドのギルドマスターであるモモンガにさえ弱いところはあった。彼は魔法職であり前衛である自分を護ってくれる物がいなければ、半分も力を発揮できずに負けてしまうだろう。だからこそ、モモンガは仲間に頼ったのだ。自分の弱い部分を助けてもらうために。

 

「この事に気付くまで結構時間かかったんだけどな...」

 

「え?」

 

言葉に出してしまったみたいでルイズが反応する。

 

「自分の弱さを知っているなら、きっと強くなれる思いますよ」

 

「そ、そう...ありがとう」

 

小声でお礼を言われ顔を背けられてしまう。何か失言でもしてしまったか?と思ったが思い当たる節はない。だがぶくぶく茶釜によく、モモンガさんは、乙女心を全然理解できてません!って言われたことがあり、その際に静かに見守ることも重要です!ときつく言われた事があるので何も言わずにルイズが喋るのを待つことにした。

 

「あ、そうだわ」

 

動き始めたブリキの人形のように急に雰囲気が代わるルイズに、やはり女の子は、分からないですよぶくぶく茶釜さん...。かつての仲間に嘆いてみるが答えは返ってこない。

 

「あなたの名前を聞いていなかったわ!」

 

確かに、と思った。今まで使い魔と呼ばれてたから考えてなかったが。鈴木悟は、考えていた。《ユグドラシル》で慣れ親しんだ名前。モモンガを名乗るか、鈴木悟という名前を名乗るか。世界は変わったが《ユグドラシル》の魔法は使えるのだ。

 

名前...名前かぁ。

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

 

 

「さあ、行くわよ!サトル!」

 

「分かりました。ミス、ヴァリエール」

 

日本という世界で生きてきた鈴木悟という人間の人生は、《ユグドラシル》を抜きにして考えれば何が楽しかったと聞かれても分からない、と答える人生だった。一人で過ごす学園生活。親とも話さなくなり、友達もいない。勉学に励み、それなりの場所に就職出来たが、人間関係は良好とは言えなかった。

 

やり直す機会だと思った。

 

鈴木悟は一度死んだのだ。もう一度新しく人生を歩んでいく為に。今度こそ、永遠と呼べる仲間を見付けるために。それにモモンガでは、かつての仲間達以外認められる気がしなかった。

 

 

 

ルイズについていくと、学園内で最も大きな本塔の中に入っていった。塔の中は、トリステイン魔法学院の食堂になっており、長いテーブルが3つ程置かれており、テーブルには豪華な飾り付けが施されている。貴族が食べるものは、朝からこんなにも良いものなんだなと、鈴木悟は一人食事を見ながら思う。

 

「随分と豪華な食堂なんですね」

 

「当たり前じゃない。私達は、魔法だけを学んでいるわけじゃないのよ。ここアルヴィーズの食堂は、貴族の食卓に相応しい物になっているの。外装だって当然だわ。それにここには、本来貴族しか入れないのよ。見学がてら見せたけど、特別に許可をもらってね。ただ、流石に食事までは、許可が下りなかったけど」

 

食事が無いと聞いて焦る鈴木悟。昨日の夜にご飯を食べたと言え、現在は翌日の朝だ。当然、お腹が空いている。そんな鈴木悟の心中を察したのかルイズが続きを話す。

 

「でも安心しなさい。昨日交わした約束は守るわ。衣食住で不憫な思いはさせない。アルヴィーズの食堂を出て丁度裏側に、厨房があるわ。そこで賄いを貰って食べなさい。メイドかコックに、私の名前を言えばいいから」

 

「分かりました、ミス、ヴァリエール」

 

当たり障りなく、馴れない姿勢で頭を下げてアルヴィーズの食堂を出ていく。ルイズと離れた事で、自分に対する視線は増えていく。あまり良い視線ではなく、嘲笑うかのような視線に逃げるように速足になる。

 

 

一際大きな建物の後ろにこじんまりと建っている建物が見えた。もしかしなくても、ここが厨房なのだろう。先程からメイド服姿の女性が忙しなく料理を運んでいる。肉のジューシーな香りにフルーツの爽やかな香りにお腹の虫が鳴き始める。だが、あまりに忙しなく動いているものだから声をかける暇すらない。

 

「どうしたものか」

 

このままご飯を食べられずに終わるのは、避けたかった、鈴木悟は運び終えて手が空いているときに声をかけようと思い、メイド達の後をついていくことにした。

 

暫くすると学内の中庭だろうか。広々とした場所に机や椅子が設けられ紅茶やクッキー等をルイズと同じような格好をした生徒が食べたり談笑したりしながら楽しんでいる。その光景を見ているだけでお腹が空き、いっそのことポーションでも飲んでしまおうかと思ってしまう。《ユグドラシル》内のモモンガは、アンデッドであり、ポーションを飲んでしまうとダメージを負ってしまうので、ポーションは必要無いのだが、コレクターでもあるモモンガは、大量に所持している。その数は、かつての仲間である。女性メンバーに口を揃えてドMなの?と言われた程である。

 

「あの、どうかなさいましたか?」

 

少しの間、現実逃避をしているとメイド服に身を包んだ一人の女性に話しかけられた。この世界に来てからは、珍しい黒髪に日本人のような顔立ちに少し親近感を覚えつつ、ルイズには無い二つの大きな膨らみから目をそらしつつ、ようやく話が出来ると安堵する。

 

「すいません、お仕事中に。お腹が空いていて、ミス、ヴァリエールから厨房の方で賄いをもらうようにと、言われたので出来れば食べ物を頂きたいのですが...」

 

「あ、貴方が、ミス、ヴァリエールが召喚したと噂の使い魔さんですね!」

 

食いぎみに発せられたその言葉に、少し後退りながら、結構有名になってしまったことに頭を痛くする。そこまで目立たずに暫くは過ごしたかったが既にその希望は断たれたらしい。

 

「有名なんですね...」

 

「ええ。平民の使い魔を召喚したって厨房の方でも噂になっていますから。貴族様の残り物しかありませんが、こちらです」

 

平民の使い魔かあ、もう目立たずには無理だろうなぁ。鈴木悟は、ため息を溢しながら厨房に向かっていった。

 

 

厨房に着き、賄いを貰って食べると嬉しい誤算もあった。余り物で作られたと言っていたがどの料理も美味しかったのだ。

 

「凄く美味しいですね、これで余り物なんですか?」

 

あまりに美味しかったので、つい聞いてしまう。

 

「ふふふ、それは良かったです。きっと料理長も喜ぶと思いますよ。今は、忙しくて来れませんが、また空いた時間に、宜しければ来てください」

 

「ありがとうございます。そうさせていただきますね」

 

料理を食べながら、少し話してみたがとても良い子だった。名前は、シエスタというらしい平民の女性だ。気配りが出来、話をするのがとても上手く、話しやすかった。顔立ちが日本人に似ているという理由もあるだろうが。

 

厨房では、未だに忙しなくメイドやコック達が動いている。恐らくシエスタは、ミス、ヴァリエールの使い魔である、俺に失礼が無いように給事をしてくれているのだろう。水がなくなれば水を足してくれる。話が途切れれば、食べる邪魔にならない程度に会話をしてくれる。仕事の邪魔をしているようで申し訳なくなった俺は、早々に厨房から出ていくことにした。

 

「ありがとうございました。とても美味しかったです」

 

「それは良かったです。またいらしてくださいね?」

 

簡単に返事を返し、ルイズを探して歩いているとルイズも食事が終わったようで本塔から丁度出てくるところだった。

 

「ご飯、食べれたみたいね」

 

「はい、美味しくいただきました。それで、この後はどうすれば良いですか?」

 

この学園での日常を知らないため聞いてみる。普通の学校なら授業だと思うがと考えてもここは、異世界だ。現実の当たり前は、当たり前ではない。それなら、聞いた方が早いだろう。

 

「今から授業だから、貴方も来なさい。使い魔は、一緒に受けて良い事になってるから」

 

貴方も聞いておきたいでしょ?とルイズが言い、頷きを返して教室に向かった。

 

ルイズの身長から中学生くらいを予想していたが、教室は、大学生が使うような広々とした空間になっていた。一人一人に机や椅子がある、中学や高校とは、異なり。長い机に長い椅子。席も決められていないようだ。

 

「おい、ゼロのルイズが平民の使い魔を連れてきてるぞー」

 

お腹が大きく膨らんだ男の子が言葉を発すると周りにいた生徒が一斉に笑い出す。

 

「うるさいわよ、マリコルム!それにサトルは、魔法が使えるわ!」

 

苛立った為か、隠しておきたかった事を言ってしまうルイズ。貴族と言っても、まだ心は子供だなと、頭を抱える。

 

「平民が魔法を使えるわけないだろ?嘘つきルイズ!」

 

クラス中で、ルイズが嘘つきだと叫び始めた。若干二名は、言っていないみたいだが...。それよりも、涙目で、嘘じゃないもんと弱々しく言っているルイズを見ていると正直、周りが腹立たしく感じてしまう。衣食住の恩もあることだし、助けるのも良いかもしれない。恩には、相応な恩を返すのが礼儀だと思うしな。

 

「ゴホン、失礼。貴族の方々、騒がしくさせて申し訳ありません」

 

「サトル....?」

 

謝ったことで、ルイズは、裏切られたような表情を周りは、当然だ。と言わんばかりな表情を作る。

 

「ふふ、ふふふ、はははは」

 

「何がおかしいんだい?」

 

頭を下げながら笑い始めた俺に違和感をもったのか貴族の一人が話しかけてくる。 

 

「いやなに、すいませんね。誰も、ミス、ヴァリエールが真実を言っていると気付くことが出来ないようなので、つい」

 

笑いを堪えながら、少し馬鹿にするように言う俺の態度に痺れを切らしたのか、一人の男子生徒が立ち上がる。

 

「君、無礼じゃないか?ルイズの使い魔だから温情をかけるが、あまり貴族を馬鹿にするものではないよ?」

 

「では、そうですね。ミス、ヴァリエールが正しいと証明しましょうか?」

 

「....どうやってだい?」

 

男の口調に苛立ちが混じる。ここまで言えば乗ってくるだろう。

 

「私と勝負してみませんか?」

 

その一言は、この場にいる生徒全員を静かにさせるのに充分すぎる言葉だった。




お気に入り、感想、評価ありがとうございます!とても励みになってます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。